ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース 作:ゲオルギーJr
長野県、中立高校―――。
険しい日本アルプス山脈の中にポツンと存在するこの学校の本部は、校名の通り絶対的中立を宣言した学校である。
そのため、対立関係にある学園艦同士が会議や交渉を行う際には、この中立高校が会場となることが多い。実際、先の継続高校とプラウダ高校の会談が開催されたのも、ここである。
学校自体の規模はさほど大きくないものの、日本の高校の中では重要な意味を持つ場所なのだ。
そして今日、この学校で聖グロリアーナ女学院と黒森峰女学園による捕虜交換が行われることとなった。
基本的に捕虜交換が行われる際は、最初に両校の生徒会による交渉会議から始まる。ただ、今回は事前に生徒会長同士、英山幸子と西住普美による電話会談で話し合いは済んでいるため、今日は人員の引き渡しのみである。
「よくこんな山奥に学校を建てようと思ったわね……」
聖グロリアーナ所属の輸送機ヘイスティングス*1から降りたサザーランド。会場には聖グロ及び黒森峰の生徒たちが集まって慌ただしくなっていた。
「おや?あなたも聖グロの生徒会の方ですか?」
「いいえ、違います。私は空戦道のパイロットです」
黒森峰の生徒会メンバーから、こんな質問をされたサザーランド。
なぜなら捕虜交換の場に赴く生徒は、捕虜を除けば普通は生徒会の人間しか参加しないからである。
ただ、今日の彼女はいち早くメイヨーと再会したいという思いから、自分から頼み込んで出席した。それほどまでに心配していたのだろう。
「おっと失礼、パイロットの方でしたか。そういえば、
「黒森峰のパイロット?」
サザーランドの脳裏に予感が走る。わざわざ捕虜交換の場に参加するパイロットはそうそういない。だが今回、自分と同じように後輩が捕虜となっている人物が一人存在する。それは―――。
「ウェーイ!おっ、アンタもしかしてサザーランド?」
その声は、かつてサザーランドが電話越しに聞いた声と一致していた。一度聞いたら耳から離れない、ウザったいギャルの声。
「そう。あなたが、あのレッドバロンなのね」
黒森峰のエース、レッドバロンの登場だ。彼女もまた、ハルトマンといち早く再会したいという思いと、サザーランドと対面したい企みで出席したようだ。
「ちーっす!こんなところで会えるなんて、やっぱウチら運命の宿敵って感じ?」
「おあいにくさま、あなたみたいなギャルっぽい人間、私が一番嫌いなタイプよ」
相対する聖グロと黒森峰のエース。同程度の身長である両者の間には、言葉では言い表せない謎の緊迫感が流れている。それがさながらオーラのように見えるのか、周りには近寄りがたい雰囲気が形成されていく。ゴゴゴゴゴ
「こわー。何あの二人……」「危険な気がする。近寄らないでおこう……」
若干引き気味の周りを気にすることなく、二人は会話を続ける。
「あなたの後輩のハルトマンから、既に話は聞いてるわ。全てのエースパイロットを撃破し、自分が最強であることを証明したい……だったかしら?」
「そーそー。んで、そのためにアンタには犠牲になってもらいたいワケ。けど……」
「けど?」
「……なんかもう、メンドくなってきたんだよね~」
「は?めんどいってあなた、それはどういう―――」
レッドバロンの予想外のコメントに、サザーランドは困惑した。一体、何が面倒くさくなってきたのだろうか?
「あのね、正確に言うと、ウチが最強になりたいって言う意味は、誰しもがウチより強いパイロットはいないってことを認めさせたいってコト。つまりさぁ、もしアンタが今ここで、[あなたは私より強いです。だから勘弁してください]って土下座すれば、見逃してあげてもいいよって寸法。ってか、そっちの方が手っ取り早くて楽なんだわ」
「……あなた、それ本気で言ってるの?」
サザーランドの怒りのボルテージが上がっていく。誰だって土下座をしろと言われて心地よくなることは無いだろう。ましてや、自分から敗北を認めるという、エースとしての尊厳を踏みにじるような行為を要求されては、彼女が怒るのも当然のことだ。
「え?土下座してくれないの?ウチながら良心的な提案だと思ったんだけどねー」
「ふざけないで!言っておくけど、私は誰が相手であれ、戦う前から降参するような真似は絶対にしないわ!」
こう見えて、サザーランドはプライドが高い人間だ。あくまでジェノバみたいに表に出さないだけであって、エースとしての誇りは一丁前に持っている。
「でもさぁ、理論的に考えて、ウチよりアンタの方が強いなんてこと有り得なくね?」
「どういう意味よ?」
「だってさぁ、ウチはあらゆるエースを落としてきて、しかも聖グロのナンバー2のウォレントン*2も返り討ちにしてやった。それに対してアンタはどうよ?エースどころか、ウチより格下のガーランドの奴すら取り逃がす始末じゃん。これじゃあ、どっちが強いかなんて明白じゃね?」
この理論は一理あるものだ。単純に鑑みて、レッドバロンは以前にサザーランドを打ち負かした大洗のエース、ムサシすらも撃墜している。加えてお互いのナンバー2との戦いの結果も踏まえれば、レッドバロンの戦績の方が優れているのは明らかだ。だがサザーランドは、それでも屈する様子を見せない。
「そんなこと、やってみなければ分からないわ!」
不屈の闘志を見せるサザーランドに、レッドバロンは微笑みを見せた。
彼女は、もとよりサザーランドが自分から土下座をするような人間ではないことを察していた。それをあえて提言することで、向こうのやる気を確認したのである。
「アッハハ!そうこなくっちゃ面白くない!いいよ。この際だし、白黒ハッキリつけちゃおっか!」
「上等よ!天才がなんだか知らないけど、パイロットとして挑まれた以上、本気で相手してあげるわ!」
戦う意思を完全に固めた二人。
だが、二人の直接対決を阻む大きな障害が存在していた。
「……でも、会長からスクランブル以外での出撃を禁じられてんだよね、ウチ」
「あら?奇遇だわ。私も同じ命令を受けているのよ」
そう。生徒会長から下された出撃禁止令である。サザーランドは戦力温存のため。レッドバロンは謹慎処分のためと、理由はそれぞれ異なるが、お互いに行動を制限されている状態なので、今のままでは聖グロと黒森峰のエースが対決することは不可能だ。
「マジで?アンタも何かやらかした感じ?」
「あなたと一緒にしないで。というか、あなたが聖グロの飛行隊を滅茶苦茶に荒らしたせいで、私がその分のフォローをしなきゃいけない状況なのよ?」
「あー、それはゴメン。でもさー、アンタが留守にしてたのも一因だよ?」
「はい?まさかここにきて被害者ヅラするつもり?悪いのはあなたでしょ!」
水と油のように仲が悪い二人。だが会長からの命令のせいで、お互いにもどかしい思いをしている点では、二人は一致していた。
「もうさ、良くね?会長命令ガン無視で」
「うーん……」
エースという最強の存在を縛り付ける生徒会長に、二人の不満は溜まっていた。
とりわけサザーランドの場合、これまでの戦いの殆どは、幸子からの命令が起因したものだった。よくよく考えれば、なぜサンダース付属高校まで行って、知波単学園と戦ったのだろうか?なぜ継続高校という赤の他人を守るために、プラウダ高校との壮大な争いに参加したのだろうか?全ては、幸子の聖グロを再び偉大にしたいという野望が元凶である。
一方のレッドバロンの側も、生真面目な性格の普美は、目の上のたんこぶであった。もし会長から謹慎処分を受けなければ、とっくにサザーランドとの対決は実現していただろう。
だがそれでも、生徒会長に逆らうのは容易ではない。何せ、全ての生徒を自在に操れるほどの莫大な権力を有しているのだ。その気になれば、生徒一人など強制退学することも可能だ。それはエースといえど同じである。だからこそ、サザーランドもレッドバロンも、会長には頭を下げ続けるしかなかった。反抗しても、ろくな結果にならないのは目に見えているからだ。
「ほら、赤信号は皆で渡れば怖くないってやつ。会長命令なんてクソ喰らえ!って感じでさ」
「あなた本気?生徒会長に逆らった人間が、どういった末路を辿るか知らないのかしら?」
「いや、分かるよ?けど、お互い決着をつけたい気持ちは一緒じゃん?」
「まあ、それはそうだけど……」
部外者如きに、自分たちの戦いに水を差して欲しくない。エース同士、好きにやらせてくれ。そんな本音を隠していることを、二人は理解していた。
「ま、いいや。アンタはどうであれ、ウチは会長命令なんか踏み倒すつもりだし。エースなんだから好きに生きて、好きに空を飛ばせろっての」
レッドバロンはそう言って、サザーランドと別れようとする。
そこに、たった今捕虜交換のを終えて解放されたメイヨーとハルトマンが駆けつけてきた。
「先輩!」
「センパイ、お待たせしました」
久しぶりの再会を果たした三年生の二人が、一年生の二人を出迎える。
「ごめんね、メイヨー。心配かけさせて」
「わーハルトマン~!大丈夫だった?聖グロでマズイ料理食わされなかった?」
後輩の二人が、安堵した表情になる。やはり先輩と離れ離れになるのは嫌だったようだ。
「はあー、やっぱり先輩と一緒にいると安心しますねぇ」
「うーん、思ったよりはマシでしたよ。でもウナギのゼリ寄せだけは二度と食べたくないですね」
中立高校へ来た最大の目的を達成したエース二人。
そのまま帰ろうとしたレッドバロンを、サザーランドが引き留めた。
「待って。一つ聞きたいことがあるの」
「お?何?ウチのスリーサイズ?えーっと、バストが91で……」
「違うわよ。お互いの本名を知りたいの。TACネームじゃない、本当の名前よ」
基本的にTACネームで呼び合うことが多い空戦道で、本名を聞くことは稀だ。サザーランドは、それだけレッドバロンの素性が気になっていた。レッドバロンとしても、お互いの本名を明かすことは満更でもないようだ。
「私の名前は東雲エリス。あなたは?」
レッドバロンは口角を上げて、自らの本名を口にした。
「ウチはね、モニカ。
「逸見モニカ……。覚えておくわよ、その名前」
「ウチも忘れないよ、東雲エリス。必ず、アンタを倒すから」
そう言って二人は、学園艦への帰路につく。
別れ際、ハルトマンがメイヨーにこう言い残した。
「メイヨーさん、でしたか。同じ一年生。だけど、私と貴方では実力が違いすぎる。貴方のような凡人に、生まれ持っての天才である私は倒せない」
その言葉に、メイヨーはこう反論した。
「そんなこと、やってみなくちゃ分かりませんよ!」
偶然だろうか、このやり取りはサザーランドとレッドバロンのそれと同じ流れだった。
「ふふっ。まあいいでしょう。そのうち自ずと理解できますよ。天才と凡才の差ってやつをね」
「……」
捕虜交換を終えた生徒たちが、お互いの輸送機に乗り込んでいく。
聖グロと黒森峰のパイロット四人は確執を残して、中立高校を後にした。
中立高校ってスイスがモチーフなので、複数の学園艦が絡む話では便利な学校なんです。
実際、スイスのジュネーブとかってリアルな国々でも会議の場として選ばれやすいですし。<ジュネーブ条約>とか幾つあるんだよって感じです。
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