ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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飛ぶ理由、生きる理由

生徒会長―――。

それは学園艦において、全校生徒の頂点に立つ存在である。その権限は恐ろしく強く、気に入らない生徒を理由なく停学あるいは退学させることも可能な程である。ゆえに、学園艦で生徒会長に逆らおうとする場合は、相当な覚悟が必要となる。例え自分の首が吹き飛んでも構わないという程の、強い覚悟と度胸がなければ、到底できない行為である。

だが今、この聖グロリアーナ女学院にて、その無謀な行為を実行しようとしている者がいた―――。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「この科の予算は少し多すぎるな。来年度は削減し、代わりに戦車道と空戦道に回せ」

 

会長室で、生徒会メンバーに一方的に指示を送っているのは、言わずもがな会長の英山幸子である。どうやら来年度の学園艦の予算分配について議論しているらしい。

 

「いえしかし会長、既に切り詰めた状態での予算を更に減らせというのは、少々無理があるのでは……

「黙れ!私の命令だ!つべこべ言わずに、さっさと会計係に回してこい!」

 

自分の意見に対する反論を、強引にねじ伏せる幸子。こうなると生徒会メンバーとしても泣き寝入りするしかない。

 

「ひいっ。で、では失礼しますっ!」

 

威圧感に気圧され、逃げるように退室してしまった。

 

「無駄なことを。生徒会長の権力の強さを知っていれば、素直に従えば済むだろう」

 

グッと紅茶を飲む幸子。

基本的に学園艦の規模が大きいほど、生徒会長の権力も比例して増大する。とりわけ聖グロは日本でも屈指の規模を誇る巨大校なので、その権限は果てしなく膨大だ。

 

「この学校が再び栄光を取り戻す日まで、生徒会長の戦いは終わらんのだ」

 

窓から学園全体を見渡す幸子。

彼女の厄介なところは、あくまで自分は()()()()()()()()()行動しているという点だ。その目的を達成するためならば、多少の権力濫用は許されるというのが、彼女の根本的な考えだった。そこに罪悪感など全くない、ある意味で一番タチの悪い思想である。(完全に自分の出世しか考えていなかったプラウダの露音に比べれば少しマシかもしれないが、やっていることは似たようなものである)

 

 

 

 

そんな暴君が居座る部屋の扉を叩く音がした。

 

「……誰だ」

 

重厚な木製の扉が開き、現れたのは……。

 

「失礼します、会長」

 

「サザーランドとその後輩か。何の用だ?」

 

そう。サザーランドとメイヨーの二人だった。なぜ、自分たちから会長室まで来たのか? その理由はただ一つ。

 

「会長、お願いがあります。私たちに課された出撃禁止令を、今すぐ解いて下さい」

 

それを聞いた幸子は専用の豪華なイスに座り込み、二人を睨み付ける。

 

「詳しく聞かせて貰おうか?」

 

幸子からの鋭い眼光に怯えることなく、サザーランドは冷静に話を進める。

 

「私たちは、黒森峰のエースと戦わなければならないのです」

 

サザーランドは、中立高校でレッドバロンと交わした約束を話した。

レッドバロンが各校のエースを狙う理由や、最後に残ったのが聖グロのエースの自分であること。何より当事者同士が決着をつけたいという旨を、幸子に伝えた。

 

「……お前、自分が言ってることの意味を理解しているのか?」

 

堂々と足を組み、机の上に乗せる幸子。

これは彼女にとって受け入れ難い要求だった。言うなれば、会長から出された命令を取り下げろというのである。

 

「サザーランド。お前は自分が、生徒会長の私に逆らえる立場の人間だと思っているのか? 以前言ったはずだ。お前は私とこの学校のために働いてもらう、と。*1まさか忘れた訳でもあるまい?」

 

幸子にとって、会長である自分に反抗するというのは、何よりも許されざる行為だった。自分が学校のために動いていると自覚している彼女は、自らに歯向かうのは聖グロの敵だと解釈しているのだ。あまりに傲慢な考えだが、今までの彼女は絶大な権力をバックに、それを押し通してきた。

これが聖グロリアーナ女学院の生徒会長、英山幸子の生き様だった。

 

「お言葉ですが会長。私たちパイロットは、あなたの操り人形ではないのです」

 

勇敢にも、堂々とそれを否定するサザーランド。

その一言が、幸子の怒りに火をつけた。

 

「貴様ァ! たかがエースパイロットの分際で、生徒会長である私に逆らうと言うのか!?」

 

だが負けじと、サザーランドも対抗する。

 

「どういう理由で生きて、どういう理由で空を飛ぶのか? それを決めるのは自分自身です。決して生徒会長が独断で決めるべきものではありません」

 

先程も説明したが、生徒会長に歯向かえば何をされるか分かったものではない。退学で済めばマシなレベルであり、時によっては謎の失踪を起こして行方不明になることもある。

しかし、それだけの危険を背負ってでも、サザーランドには通したい正義があった。すなわち、空戦道とはパイロットが自由に飛ぶべきであり、会長が指図するものではないという主張だった。これは()()()()()()()()()と真っ向から対立する思考である。

 

「ならば問おう。お前は何のために生きて、何のために空を飛ぶというのだ? それだけ大口を叩くのなら、さぞ立派な理由があるんだろうな!」

 

何のために生き、何のために空を飛ぶのか? この問いはかつて大洗のエース、ムサシから投げかけられた問いであった。当時はまだ、サザーランドは答えを出すことは出来なかった。

しかし今は違う。数々の苦難と闘いを乗り越え、ついに彼女は自分なりの結論を導いたのだ。

サザーランドは深呼吸して、その結論を答えた。

 

 

生きるために飛び(Fly to live)飛ぶために生きる(Live to fly)。これが私の空戦道です」

 

 

それを聞いた幸子は、勢いよく机を叩いて激怒した。

 

「何だそのふざけた理論は!? それがお前の辿り着いた境地とかいうやつか? 言っておくが、私にはお前を強制退学させる手段も持っているぞ。これ以上口答えするようなら、相応の罰を受けてもらおうか!」

 

強烈にまくしたてられてもなお、サザーランドは動じることはない。

 

「ふざけてなどいません。これが私の答えです。会長、私はたとえあなたが何をしようと、己の哲学を曲げるつもりは一切ありません」

 

「な、何だと……。私の言うことが聞けないのか?」

 

自らの脅迫にも近い警告をされても態度を変えないサザーランドを見て、幸子は動揺した。

今まで彼女は、生徒会長としての圧倒的権力を振りかざして周りの生徒を、ひいては聖グロの全校生徒を従えてきた。もし逆らおうとする輩がいても、退学させるなどの脅し文句を使えば、すぐに黙らせることができた。

だが今、目の前にいる一人の生徒は違う。その生徒はどんなに揺さぶりをかけても、どんなに脅しをかけても引いてこない。むしろ己の正義を貫き通そうとしてくる。こんな特異な生徒は、幸子が生徒会長に就任して以降、初めての人物だった。これまでの権力濫用ですっかり()()()()、自信をつけた彼女にとって、それは不気味かつ恐怖の存在として認識されていたのだ。

 

「退学させるとおっしゃるのなら、どうぞ実行してください。私は中高と六年間、この学校に捧げてきましたが、もし自分の哲学が認められないと言うのであれば、もう在学する意味もありません」

 

「ぐっ……」

 

強制退学させるものならやってみろ、という強烈なメッセージを示され、幸子は完全に怯んでしまった。

これはある種の矛盾の結果でもあった。確かに理論上は、生徒会長である幸子は一介の生徒でしかないサザーランドを強制退学させることは可能である。しかし、実際には今のサザーランドを辞めさせてしまえば、幸子はおろか聖グロリアーナ女学院にとっても致命的となってしまう。なぜならエースパイロットを無理やり退学させれば、空戦道の戦力的にも痛手だし、何より会長に対する批判の声も避けられないだろう。

これは幸子の弱点を見事についた、サザーランドの戦略でもあった。

 

 

 

 

「……そうだ! さっきから横に突っ立っている一年生のお前! メイヨーだったか? お前はどうなんだ? サザーランドに同調するつもりか?」

 

サザーランドに脅しが通用しないと見るや、幸子は次にメイヨーに矛先を向けた。以前から、メイヨーは幸子に対して弱気な態度を取っていた。ならば今回も同様の結果を期待できると踏んだのだろう。

 

「はい。私も先輩と同じ意見です。生徒会長がどんなに偉くても、パイロットを必要以上に縛り付けるのはダメだと思います」

 

「ほう?一年生のくせにずいぶんと御立派な回答だ。だがお前の今後の学校における命運も、握っているのわ私だ。下手に逆らえばどうなるか……」

 

幸子は鋭い眼光で、メイヨーを睨みつける。並の人間なら恐怖を感じるほどの強面だが……。

 

「会長の英山さん。私は決心したんです。自分はいかなる状況でも、先輩の傍にいてサポートするって。だからもう、あなたの脅しには屈しません!」

 

「馬鹿な!?」

 

驚くことに、メイヨーも動じることなく反抗してきた。つい数ヶ月前、彼女は幸子と会うことすら怯えていた生徒だった。それが今や、幸子と口論できるほどにまで成長したのである。これは幸子にとって完全に予想外だった。サザーランドは無理でも、メイヨーには脅しが通用すると考えていたからだ。

 

「おのれ……!だがいいのかメイヨー? お前が退学すれば、一生聖グロには戻ってこれないぞ!」

 

「……承知の上です!」

 

そこに、サザーランドが割って入ってくる。

 

「失礼ですが会長。メイヨーを強制退学させると言うのなら、私も退学します」

 

「な!? どういうつもりだサザーランド!?」

 

「私も同じように決心したのです。自分はいかなる状況でも、メイヨーの傍にいて先導する存在となることを。だから私は、卒業するまでメイヨーと苦楽と命運を共にする覚悟です」

 

「ちぃっ! どいつもこいつもっ……!」

 

二人の結束を前にとうとう万策尽きた幸子。

 

「私は生徒会長! この聖グロで頂点に立つ人間! 誰も私に歯向かえる奴など……!」

 

怒りに震え、自己暗示をし始める幸子を、サザーランドは問いただした。

 

「もうお分かりでしょう会長……いや、()()()()。あなたは今まで、あまりにも会長として横暴な振る舞いをし過ぎた。でも、それは今日で終わりです。少なくとも、もうあなたに私とメイヨーを操る権利はありません」

 

「………………」

 

頭に血が上り赤くなっていた幸子の顔から、徐々に熱が冷めていく。

 

 

 

 

「……そうだな。認めようサザーランド。私の負けだ。もう今後、お前たちにとやかく言うのは止める」

 

「ありがとうございます、会長」

 

ついに、ついにサザーランドは、あの強権的な生徒会長、英山幸子に打ち勝った。これまで散々振り回され続けてきただけに、彼女は肩の荷が降りた感覚だった。

 

「メイヨー。お前も短い間に、見違えるほど逞しくなったな」

 

「えへへ……。先輩のおかげですよ!」

 

心なしか、幸子からも緊張感が消えているようだった。あまりにも強大な権力は、彼女にとっても重荷だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「さて、お前たちの要求は出撃禁止令の即時解除だったな?」

 

「はい。それともう一つ……」

 

サザーランドは幸子に、新しい戦闘機の使用許可も求めた。

 

「なるほど。確かに今の機体では、黒森峰と戦うにはやや性能不足か」

 

「きよm…整備班の班長は、より良い機体があるって言ってましたけど、実際のところどうなんですか?」

 

幸子は難しそうに目をつぶった後、それに答えた。

 

「……ある。一機ずつだけだがな。試験用に以前、二種類の新型戦闘機を極秘で購入しておいた」

 

「本当ですか!?」

 

「じゃあ、それに乗れば……!」

 

歓喜する二人に対し、幸子はこう釘を刺した。

 

 

「ただし、条件が一つ。……絶対に勝て。いいな?

 

 

幸子から脅しではない、真剣な眼差しを向けられたサザーランドは、しっかりとうなずき言った。

 

「負けるつもりなら、こんな無茶な要求通しませんよ」

 

「フッ。その負けず嫌いの精神が、お前の強さの源泉という訳か、サザーランド」

 

これでもう、幸子に頼み込むことは済んだ。

これまでの従属関係から解放され、サザーランドとメイヨーは真の意味で、自由に空を飛べるようになったのだ。

 

「さあ、もう私から言うことは何もない。これからの<道>は、お前たち自身で決めることだ!」

 

「了解しました、会長。では私たちは失礼します」

 

「行きましょう先輩! 新しい機体が待ってますから!」

 

二人は新型機を受領するため、再び格納庫へと戻っていく。

その足取りはとても軽快であった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

格納庫に戻ってきた二人を出迎えたのは、やはり清美だった。

 

「お疲れさん。さっき生徒会から伝言が来たよ。極秘戦闘機の使用を許可する、ってさ。まったく大したもんだね。本当に生徒会長サマを説き伏せるなんて!」

 

「正直なところ、恐怖なんて感じなかったわ。私の率直な考えを述べただけで」

 

「私も、先輩と一緒なら怖くなかったです!」

 

清美は頭に被った黄色のヘルメットを外して、二人を奥へと案内した。

 

「お二人さんには敵わないねぇ。さ、ついてきなよ。新しい戦闘機を紹介するからさ」

 

三人が進んだ先には、ピカピカに磨き上げられた真新しい二機の戦闘機があった。

この二機こそ、聖グロリアーナ女学院の最終兵器だ。

 

 

「まずは一機目! こいつはサザーランド向けだろうね。スピットファイアMk.24さ!」

 

「これって、最終生産型のスピットファイアじゃない! こんな強い機体が、聖グロにはあったのね!」

 

スピットファイアMk.24―――。

これまでのマーリンエンジンを更に上回る馬力を持つグリフォンエンジンを搭載した、最後にして最強のスピットファイアだ。

非公式ながら、スーパースピットファイアの異名で呼ばれることもある。

 

「わあ! グリフォンスピットですね! 先輩!」

 

「こいつは中々のじゃじゃ馬でね、並のパイロットじゃ扱いきれない曲者だけど、サザーランドなら存分に使いこなせるハズさ!」

 

グリフォンエンジンを搭載したタイプのスピットファイアは、強力だがトルクの回転方向と当て舵が反転するなど操縦面では難易度が上がっている。ゆえにイギリス空軍での評判は決して良いものばかりではなかった。いわば玄人向けの機体だろう。

 

「ありがとう、きよみん。これこそ私が望んでいた機体だわ」

 

 

「さあ、お次は後輩さんの機体だよ。コイツはテンペストMk.V! タイフーンを更に改良化した、イギリス屈指の名機さね!」

 

「テンペスト……! これが私の搭乗機になるんですね!」

 

テンペストMk.V―――。

大戦後半に実戦投入された機体で、イギリス機では最速クラスの速度性能を持つ戦闘機だ。タイフーンの強みである火力はそのままに、欠点だった格闘性能は大幅に改善されている。

 

「そうさ。このテンペストなら、先輩方のスピットファイアにも追いつけると思うよ」

 

「先輩に、追いつける……」

 

今までメイヨーが乗ってきたハリケーンやタイフーンといった機体は、お世辞にも優秀な戦闘機とは言えなかった。どちらもスピットファイアに比べると低速で、空戦でも追いつくだけでやっとだった。

だがこのテンペストは別格だ。洗練されたフォルムにより、スピットファイアに劣らないどころか、低高度ではむしろ追い越してしまう程のスピードを得た。ようやくメイヨーは、サザーランドに追いつく一流の機体を手にしたのだ。

 

「これでもう、編隊飛行のときも遠慮なくフルスロットルを出せるわね、メイヨー」

 

実はこれまで二人が並んで飛行するときは、サザーランドは搭乗機のエンジン出力を控えめにしていた。なぜならスピットファイアが全速力を出すと、メイヨーは置いてけぼりになってしまうからだ。

 

「もう大丈夫です、先輩。このテンペストだったら、いつでも先輩の隣に駆けつけられますから!」

 

 

 

 

これで全ての準備は整った。最後の機体を手に入れて、二人の連帯感もコンディションも過去最高に達した。あとは黒森峰のエース、レッドバロンの到来を待つだけだ。

 

「さあ来なさい、レッドバロン。聖グロで最高の機体とパイロットを持って、あなたを倒してみせるわ」

 

遥か遠くの地平線を眺めながら、サザーランドはそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

同じころ、黒森峰女学園の学園艦にて―――。

 

「ふっふーん♪ これこそウチが求めてた機体って感じ~?」

 

レッドバロンは、自分の新しい搭乗機を前に自撮りをしていた。相変わらず真っ赤に塗装してある。

 

「同感ですセンパイ。この戦闘機があれば負ける気がしませんよ」

 

一方のハルトマンも、同じように新型機を受領していた。

 

「待ってなよ、サザーランド。黒森峰で最強の機体とパイロットを持って、アンタを沈めてあげっから」

 

遥か遠くの地平線を眺めながら、レッドバロンはそうつぶやいた。

 

 

*1
第一章第一話にて




本音を言えば、黒森峰側の事情なども書きたかったのですが、そうなると話が長引く上に、どっちが主人公だか分からなくなってきそうなので自重しました。

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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