ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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最終決戦(後編1)

高度10000メートル、雲よりも遥かに高く、成層圏に近い場所―――。

ここでの戦いのルールはただ一つ。

敵を撃ち落とせば勝利、撃ち落とされれば敗北。

そこに審判や観客が入り込む余地など無い。

空戦道とは、そういう競技なのだ。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「ひゅーっ、ひゅーっ……」

 

酸素マスクを装着しているサザーランドが、スピットファイアの操縦席に複数ある計器類の内のFUEL(燃料計)のメーターを確認する。その針はとっくに左端のE(empty(からっぽ))に傾きつつある。残燃料が残りわずかである証拠だ。

 

「5分ね……。それ以上はもたないわ」

 

彼女が導き出した5分という時間は、機体に残った燃料で飛べる時間であると同時に、サザーランド本人の体力と気力、そして集中力が保てる限界の残り時間でもあった。

 

「メイヨー、援護してくれる?」

 

「了解。メイヨー、援護位置につきます!」

 

指示を受けて、メイヨーは搭乗機であるテンペストをサザーランドの機体の斜め後ろにつかせる。理想的な二機編隊の配置だ。

 

「時間がないわ。ここは思い切って、レッドバロンを真っ先に倒す作戦でいきましょう」

 

「分かりました、先輩!」

 

本来であれば、取り巻きの僚機を一掃してから敵エースに専念したいところだが、一気に決着をつけたいサザーランドは速攻で本命を倒す作戦で仕掛ける。

 

「あの赤いTa-152さえ落とせれば、私たちの勝ち……。いくわよ!」

 

サザーランドはラダーペダルを踏み込んで、スピットファイアを一気にレッドバロンのTa-152目掛けて飛行させていく。それをメイヨーの乗るテンペストが追従した。

 

 

 

 

『ふーん。そういう風に来るんだ?』

 

聖グロ側の二機の動きを見たレッドバロンが、迎撃態勢に入る。

 

『レッドバロン。あなたには悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!』

 

サザーランドは機体を右旋回させて、Ta-152の背後に回り込もうとする。

 

「サポートしますよ、先輩!」

 

それと同時に、メイヨーは反対に左旋回を開始する。これによって二人でレッドバロンを挟み撃ちにしようという寸法だ。

 

「これで左右から同時に攻めれば……」

 

しかし、ここでメイヨーの機体下方から邪魔が入る。

 

『おっと、センパイには近づけさせませんよ。メイヨーさん、貴方の相手はこの私です』

 

横槍を入れたのは、Bf-109を操る黒森峰の一年生パイロット、ハルトマンだ。流石に味方の一番機を狙う機体は見過ごせないようだ。

 

「うわっ、避けなきゃ!」

 

メイヨーは咄嗟に旋回を中断し、ハルトマンの機体から降り注ぐ弾丸を回避する。

 

「ハルトマン~、そっちのテンペストは任せっからよろしく~」

 

「メイヨー? 仕方ないわね……。そっちのメッサーシュミットの対処は任せたわよ」

 

入れ乱れる聖グロと黒森峰の戦闘機、合わせて四機は、ここで二機ずつの対決に別れていく。

片方はエース対決、サザーランドvsレッドバロン。

もう片方は僚機の一年生対決、メイヨーvsハルトマンの構図だ。

 

 

 

*

 

 

『先輩のウイングマンとして、絶対に負けられません!』

 

『貴方のような凡人が、私のような天才に勝てるとでも?』

 

少し高度が下がった上空9000m付近。そこで二機の戦闘機による空戦が始まる。聖グロリアーナ女学院一年生のメイヨーが操るテンペストMk.Vと、黒森峰女学園一年生のハルトマンが操るBf-109k-4の対決。

 

「尾輪が収納されたK型メッサーシュミット……! 最強のBf-109が相手ですか!」

 

「うーん、テンペストですか。良い戦闘機に乗ってきましたね」

 

それぞれイギリスとドイツで最高クラスの性能を誇るレシプロ機に搭乗している。お互いにとって不足はないだろう。

 

「先輩の援護をするためにも、あまりモタモタしてられない……。早いところ撃墜しないと……」

 

現在のサザーランドの状態を知っているメイヨーにとって、この対決は長引かせるわけにはいかない。それぞれの技量を考慮した場合、この一年生対決の勝敗は、そのままエース対決の勝敗に直結しかねないだろう。

 

 

「いきます!」

 

先に仕掛けたのはメイヨー。タイフーンより劇的に改善された格闘性能を活かし、ドッグファイトに持ち込もうとする。

 

「その手には乗りませんよ」

 

しかしその動きをハルトマンは拒否。素早い降下と上昇で、テンペストの旋回を振り切っていく。

 

「なんて速さ! 同じ一年生とは思えないです……」

 

敵のBf-109の素早い機動に翻弄されるメイヨー。機体性能もあいまって、ハルトマンの動きは並の三年生パイロットよりも洗練されていた。天才の呼び名は伊達では無い。

 

「テンペストは素晴らしい機体ですが、所詮は低高度用の戦闘機。高高度ではこちらに分がありますよ」

 

加えてハルトマンにはメイヨーにも劣らない程の戦闘機に関する知識を持っていた。その知識を使って、レッドバロンに助言することも多いようだ。

 

「それにしても、ガーランドさんは結局、聖グロの機体に傷一つ付けることすら出来ませんでしたか。最新鋭のジェット機まで引っ張り出したというのに、無様なもんですね」

 

こっそりガーランドを見下す発言をしたあと、ハルトマンは機体をロールさせながら上昇し、メイヨーの頭上を取る。

 

「さて、今度は私の番ですよ」

 

 

 

「うぅっ。不利な位置を取られちゃった……」

 

頭上から降下攻撃で攻め立てるハルトマンのBf-109に対し、何とか横方向の旋回で凌いでいくメイヨー。だがこの動きはあまり良い動きではない。旋回のときに減速してしまうせいで、一撃離脱を繰り返す敵機に有効的な反撃ができないためだ。

 

『ふふっ。やっぱり貴方ではどう頑張っても凡人の域は超えられない。天才だけが生き残るこの空では、いずれ淘汰される運命……。違いますか?』

 

防戦一方な状態のメイヨーに、ハルトマンは無線でこう伝えた。

 

『でも、私は努力してここまで来たんです! これからも努力し続ければ、いずれ先輩みたいなエースパイロットにだって……』

 

『努力? 何を言うかと思えば、未だにそんな理想を抱いてるんですか? 凡人がいくら努力したところで、天才との差は埋まらない。そしてエースパイロットとは、天才だけがなり得る至高の存在。それを凡人が目指すなど思い上がりであることを、この私が教えてあげますよ!』

 

するとハルトマンは機体を斜めに滑らせるように上昇してから降下させ、メイヨーの乗るテンペストとの距離を縮める。これは目標の敵機が自機より遅い場合に、いったん上昇を挟んで高度を稼ぐことで相手を追い詰める、ハイ・ヨーヨーという空戦テクニックだ。

 

「っ!? 追いつかれる!?」

 

メイヨーは接近するBf-109から逃げようと模索するも、あらゆる手段でも不可能であることを察する。

旋回してもヨーヨーで追いつかれるし、かと言って急降下はメッサーシュミットを始めとするドイツ機の十八番だ。

 

『この状況、貴方では突破できない。これが天才と凡才の絶対的な差です。さあ、今すぐその翼をへし折って差し上げますよ!』

 

逃げ惑うメイヨーの機体を完全に射程圏内に捉えたハルトマンは、即座に二門の13mm機銃と30mmモーターカノンによる一斉掃射を開始する。

 

「くうぅっ!!」

 

Bf-109が形成する弾丸の嵐を、何とか回避しようと足掻くメイヨー。だがハルトマンの射撃は正確無比に、テンペストの翼と胴体にダメージを与えていく。

 

「はあっ、はあっ……」

 

だがメイヨーは意地を見せた。13mm機銃には被弾したものの、大口径の30mmモーターカノンによる砲弾は全て避けきった。おかげでテンペストは黒煙を上げつつも、辛うじて飛行可能な状態にとどまった。

 

『おや? 随分と粘り強いですね。 しかし既に満身創痍なご様子。墜落するのは時間の問題でしょう』

 

ボロボロになったメイヨーの機体を見たハルトマンは、既に戦闘能力を喪失させたと判断したのだろうか。トドメを刺すこともなく、離脱してレッドバロンの元へと向かおうとする。

 

 

 

 

被弾し、黒煙を上げるテンペストの機内で、メイヨーは必死に機体の立て直しを図る。

 

「……ダメ、方向舵(ラダー)が損壊しちゃってる。オイル漏れも起きてるし……」

 

だがテンペストの状態は極めて悪く、文字通り真っ直ぐ飛ぶだけで精一杯な状態だった。これでは空戦を行うのは厳しいだろう。

 

「……やっぱり、ハルトマンさんの言う通りなのかな? 私みたいな凡人じゃ、エースが飛び交う空で生き残れないって……」

 

損傷し、戦うことすら難しい機体。そして相手は同学年だが天賦の才を与えられたパイロット。普通に考えれば、今すぐ撤退するべき状況である。

 

「撤退……。でもここで私が撤退したら、先輩は……」

 

だが仮に撤退した場合、サザーランドはレッドバロンのみならずハルトマンとも同時に戦わざるを得ない状況となる。そうなればまず勝ち目は無いだろう。

とは言っても、半壊したテンペストでは満足に戦えないのは重々理解している。

メイヨーは究極の二択に迫られた。

自身の機体の状態を鑑みて、素直に撤退するか。

あるいは無茶であることを承知で、戦闘を継続させるか。

 

「……嫌だ。先輩を見捨てたくなんかない。私は最後まで先輩の傍に居続けたい。これが私のありのままの気持ち……!」

 

メイヨーは思い出した。サザーランドが求めているのは、ありのままの自分。だったら他人からどう言われたって構わない。自分が思うことをそのまま行動に移すことが、今の彼女にとっての正解なのだ。

 

 

 

 

 

覚悟を決めたメイヨーは、機体を何とか水平状態に戻してから、離脱するハルトマンの機体を追いかける。方向舵が故障したせいで機体制御が困難だが、それでも気合いで操作し続けた。

 

「さてと、聖グロのエースを始末して……ん?」

 

Bf-109に乗るハルトマンは、コックピットの上にあるバックミラーを見て目を疑った。

 

『ハルトマンさん! まだ決着はついていませんよ!』

 

そこにはさっき無力化したはずのテンペストが、黒煙を上げながらも向かってきているのだ。

 

『残念ですよ、メイヨーさん。私は情けをかけて見逃したのに、貴方はそれを断った。そんなに諦めが悪いのなら、今度こそ決定的な一撃を喰らわせてあげますよ!』

 

往生際の悪いメイヨーに堪忍袋の緒が切れたハルトマンは、素早くバレルロールをして背後を取ろうとする。

 

「お願い、動いてよ! 私のテンペスト!」

 

一方のメイヨーは操縦レバーを握り限界まで傾けるも、方向舵の故障で上手く機動できない。

 

『おやおや、そんな虫の息で私に挑むとは舐められたものですね! すぐに楽にして差し上げましょう!』

 

出力が落ち、よろよろとした飛行しかできないテンペストを見て勝利を確信したハルトマンは、トドメを刺すべく照準を合わせる。

 

『さあ、最後はせめて華々しく散らせてあげますよ!』

 

ハルトマンは一度目の攻撃で仕留め損ねたことを踏まえ、今度は30mmモーターカノンが確実に命中する位置まで接近する。

 

「勝った……! これで終わりです!」

 

遂に絶好の間合いに詰めたハルトマンが、全ての機銃とモーターカノンの発射ボタンを押し込んだ。

30mmの砲弾は尾翼に命中し、テンペストの胴体の半分を消し飛ばした。大きな着弾音が、確かな手ごたえを感じさせる。

 

 

 

が、その直後だった。

 

「てえりゃあああっ!」

 

尾翼全体が吹き飛ばされ撃墜されたはずのメイヨーが、操縦席で機関砲の発射ボタンを押し続けていた。

そして無造作に発砲される20mm機関砲の砲弾の内の一発が、()()ハルトマンのBf-109の翼に直撃したのだ。

 

「は!? 一体なにが起こって……!?」

 

メイヨーが決死の覚悟で放った一発によって片翼を折られたハルトマンのBf-109がコントロールを失い、錐揉み回転しながら落下していく。

 

『こんな偶然、私は認めませんよ!』

 

『ハルトマンさん、確かにあなたは天才的パイロットでした。でも今回は私がそれを上回った。ただそれだけのことです』

 

突然の出来事に理解が追いつかず怒り狂うハルトマンに、メイヨーは勝利を宣言した。

 

『有り得ない……! 例え偶然でも凡人が天才を上回るなど……!』

 

ハルトマンは最後まで己の敗北を認めることなく、落下したまま無線は途切れた。

 

 

 

 

「何とか勝てた。けど……」

 

ハルトマンを撃墜し、一年生対決に勝利したメイヨー。だが戦いは終わっていない。黒森峰のエース、レッドバロンを倒さない限り、勝利したとは言えないからだ。

まだサザーランドは戦い続けている。メイヨーは急いで、上にいる先輩の元に助太刀したいところだが……

 

「機体が上がらない……。そっか、尾翼が全部なくなったから……」

 

さっきハルトマンのBf-109によって機体制御の要である尾翼が消失したことで、メイヨーのテンペストは機首を上げて上昇することすら出来なくなってしまった。これでは一緒に戦うことができない。

となると、彼女はこのまま撤退という事になるのだが、それでは本人の気が済まない。

 

「何か、私に出来ることは……。そうだ」

 

メイヨーはあることを思いついたのか、おもむろにマイクを取り出し、無線を送り始めた。

 

「こちらメイヨー。先輩、聞こえますか?―――

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

お互いの後輩がしのぎを削っている間も、エース同士の死闘は続いていた。

 

『アハハッ! 結構楽しませてくれんじゃん!』

 

「ひゅーっ、ひゅーっ……」

 

戦闘開始から2分が経過。サザーランドもレッドバロンも色々な空戦機動を試すが、実力は拮抗。両者共に決め手に欠けていた。

一見互角に思える状況だが、時間が経てば経つほど、機体の燃料とパイロット本人の体力が削られているサザーランドは不利になっていく。

 

「ひゅーっ、ゴホッゴホッ!……ひゅーっ……」

 

サザーランドの呼吸が乱れ、咳き込むようになっていく。

窮地に立たされている彼女だが、その目は敵機の、レッドバロンのTa-152を視野に捉え続けている。

 

そんな中、メイヨーから無線が入ってきた。

 

「こちらメイヨー。先輩、聞こえますか?」

 

「ひゅーっ、ひゅーっ……」

 

その無線にサザーランドは気が付いているものの、呼吸だけで精一杯で、もはや返答すら出来ない有様だった。

 

「先輩、私はさっき、ハルトマンさんのBf-109を撃墜しました。でもその戦いで尾翼を喪失して、もう真っ直ぐ飛べない状態なんです」

 

「ひゅーっ……」

 

「だからせめて、最後に先輩へ伝えたいことがあるんです! 今、先輩が戦っているTa-152は高高度に特化した戦闘機です。このまま高度10000mで交戦しても、勝つのは厳しいと思います。なの…て、…度を落と…、もっと低い……、速度を……

 

メイヨーから送られる無線の音声が、徐々に弱くなっていく。おそらくテンペストの高度が下がって、サザーランドの機体まで電波が届かなくなったためだろう。

 

 

 

それと同じタイミングで、レッドバロンは墜落するハルトマンが発した無線によって、僚機を失ったことを知る。

 

「……マジか。メイヨーちゃん、意外と強い子なんだね」

 

相討ちとは言え天才と呼ばれた一年生のハルトマンが、同学年のパイロットに撃墜されたことに、さすがのレッドバロンも驚いたようだ。

 

 

 

 

聖グロ、黒森峰共に一機ずつを損失し、空に残るはエースが乗る二機の戦闘機のみとなった。

 

『ウチとアンタの一騎打ちかぁ、燃えるシチュエーションって感じじゃね?』

 

「ひゅーっ、ひゅーっ……。メイ…ヨー…」

 

お互い、助けも無ければ邪魔する者もいない。純粋な一騎打ちだ。

サザーランドに残された時間は、およそ3分。

それで全てが決まる。

 

 

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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