ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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vs黒森峰編エピローグ(最終話)

サザーランドとレッドバロンの対決から一週間―――。

黒森峰のエースが倒されたという情報は、既に全国各地の学園艦に知れ渡っていた。

かつてサザーランドが出会い、ときに戦火を交えたパイロット達やその関係者は、今どう過ごしているのか? 

それを順に追っていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院の生徒会長、英山幸子はアイスティーを飲みながらとある雑誌を読んでいた。

その雑誌の空戦道を特集したページには、聖グロのエースであるサザーランドの活躍が大々的に記事になっていた。

 

「…………」

 

彼女はそんな記事に複雑な心境を抱いていた。自分の学校の生徒が活躍したことは喜ばしい事だが、幸子にとっては素直に受け取れない面もあった。

 

「皮肉なものだ。私の意向に逆らった生徒が、結局は一番聖グロの地位向上に貢献したとはな……」

 

元々生徒会長としての幸子の最大の目的は、母校聖グロリアーナ女学院の栄光を取り戻すことだった。彼女はそれを第一に、あらゆる権力を行使して生徒たちを操ってきた。ときにはそれが、なりふり構わぬ態度に繋がったことは言うまでもないだろう。

だがサザーランドは、そんな強権的な彼女に真正面から立ち向かい、自らの正義を押し通した。

さらには黒森峰のエースまで打倒し、聖グロリアーナの名を全国に知らしめてみせたのだ。

学校のために忠義を尽くしたと思い込んでいた彼女にとって、これ以上に皮肉なことはないだろう。

 

「飛ぶために生き、生きるために飛ぶ……。奴はそれを貫いたというわけか」

 

かつては馬鹿にしていたサザーランドの流儀も、今となっては立派な生き方として幸子も認めざるを得ない。

 

「……どうやら私は間違っていたようだ。学園艦の発展とは、一人一人の生徒が輝いて初めて達成しうるものだった。だがそれを私は圧倒的な権力で押さえつけ、阻害してしまった。生徒会長とは本来、生徒を操るのではなく、代表として牽引していくのが役目だ。サザーランドはその事実を、私に気づかせてくれたのか」

 

幸子は自らの過ちを戒め、改心した。

彼女はこれからも生徒会長であり続けるが、かつてのような強権的な会長ではなく、聖グロリアーナ女学院の生徒たちを引っ張ってゆくリーダーとして生まれ変ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

同じく聖グロリアーナの学園艦の格納庫にて。

整備班の班長を担当する工藤清美は、一週間前の激戦で損傷した機体の修理作業を進めていた。

 

「ふー、ようやく一段落つきそうだねぇ」

 

ボロボロだったスピットファイアMk.24もテンペストMk.Vも、今では新品のような綺麗な状態まで修復されていた。メカニックに長けている彼女だからこそ可能なスゴ技だ。

 

「いやー、それにしてもスピットファイアの壊れっぷりには驚いたよ。燃料も弾薬もすっからかん。機体は銃弾で穴だらけで、Gメーターは12Gを振り切ったとこで故障して動かなくなってたっけ。こんなオンボロ機体ほんとに直せんのかって思ったけど、案外何とかなるもんだねぇ」

 

ヘルメットを外してタオルで汗を拭く清美。

油にまみれながらも整備を行う彼女がいたからこそ、サザーランドやメイヨー、そして聖グロのパイロット達は存分に戦えたのだ。

 

「キツくないのかって聞かれたら、否定はできないさ。でもこれが私の得意分野だし、何より空戦道のパイロットさん方が気持ち良く飛べるなら、こっちとしても嬉しいからねぇ。空を優雅に舞う戦闘機の姿は、いつ見ても壮観なもんさね」

 

そう言うと彼女は再びヘルメットを被り、作業に戻っていく。

 

「うっし! あのお二人さんが戻ってくる前に仕上げるとするかね!」

 

金属が打ち付けられる高い音が、格納庫の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

聖グロのナンバー2パイロット、ウェリントンはフライトシミュレーターによる訓練に励んでいた。

 

「ウフフ、我ながら上達してきましたわね。これならサザーランドを超えてエースになる日も、そう遠くはありませんわ!」

 

黒森峰との戦いが終わって以降も、彼女にとってサザーランドが超えるべき壁であるのは変わらない。

そんなウェリントンだが、エースに対する態度が少しずつ変化してきていた。

 

「正直、一年生の頃からサザーランドは気に食わない人でしたわ。パイロットとしての腕は確かですけれど、愛想は悪いし他人ともあまり付き合おうとはしない。……でも、あの一年生。メイヨーさんに出会ってからは段々人間らしくなってきましたわね。感情も豊かになって、挙句の果てにはキスまでしてしまうなんて、昔からは想像できませんでしたわ」

 

ウェリントンから見たサザーランドという人物は、孤高を気取るキザな女性、というイメージだった。

だがメイヨーと組んでからはそんなイメージも消え去り、親しみやすい人間になったと言う。

 

「……けれど、エースの座に関しては話が別ですわ。いずれ必ず追い越して、わたくしが聖グロリアーナのエースとして君臨して見せわすわよ!」

 

ウェリントンはヘッドセットを被り、シミュレーター訓練を続行する。

彼女がサザーランドを超え、二番手から脱却する日は果たして来るのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって、アンツィオ高校の学園艦―――。

エースパイロットのジェノバは、以前と同じようにカフェテラスでくつろいでいた。

 

「へえ、そうかい。黒森峰のエースを聖グロのエースが返り討ちにしたって?」

 

「そのようです、ジェノバ様」

 

ジェノバは自らに忠誠を誓うパイロット、シラクサから一週間前に起きた激戦の結果を知らされた。

 

「ふーん? ま、僕は興味ないね、そんなニュース。だって誰が誰に勝とうったって、僕が世界で一番美しいパイロットであるという事実は揺るがないからね」

 

「おっしゃる通りです、ジェノバ様!」

 

サザーランドにもレッドバロンにも無惨に敗北した人間とは思えないほど堂々たるコメント。

この揺るぎなさは、ある意味でジェノバの才能とも言えるかもしれない。

 

「そうだ、シラクサちゃん。カプチーノを一杯頼むよ。今日はココアパウダー入りの気分かな」

 

「かしこまりました、ジェノバ様」

 

バカは死ななきゃ治らない三つ子の魂百までと言うが、ジェノバのナルシストな性格は永遠に変わることはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

静岡県、富士演習場―――。

そこで開催された、第63回戦車道全国大会の観客席に大洗のエース、ムサシの姿があった。

 

<黒森峰フラッグ車、走行不能。よって、大洗女子学園の勝利!>

 

堂々と会場にアナウンスされたその放送は、絶対に有り得ないはずだった大洗女子学園の廃校回避が達成された瞬間だった。

そんな奇跡を目の当たりにしたムサシは、沸き立つ観客たちの中で冷静に、しかし確かな歓喜を含んでつぶやいた。

 

「……何てことだ。まさか本当に優勝してしまうとは」

 

大洗女子学園の廃校とは、かつてムサシ自身も避けられないと覚悟していたものだった。実際、大洗が廃校したら自分もパイロットを止める魂胆であった。

だがそんな予想を裏切り、大洗女子学園は転校生の力を借りつつ戦車道を復活させ、さらには全国大会で優勝したことで、その危機を退けたのだ。

ここでムサシは、ふと前に誰かから言われた言葉を思い出した。

 

「わずかでも可能性がある限り諦めてはいけない、か……。サザーランド、お前の言う通りだったな」

 

聖グロリアーナのエースであるサザーランドと、大洗戦車道を優勝に導いた転校生。その二人がいたからこそ、ムサシはパイロットを辞めずに済んだのだ。彼女はそんな二人に心の中で感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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サンダース大学付属高校の学園艦―――。

その艦内でやけにハイテンションな生徒が一人いた。

 

Yeeessss(よっしゃー)! 信じてたさ、my best friend(我が最高の友よ)!」

 

それはサンダースのエース、ミニットマンの叫び声だった。彼女はサザーランドがレッドバロンを倒し、自分の仇を討ってくれたことに狂喜乱舞していたのだ。

 

Amazing(アメイジング)だよね! サザーランドはまるで映画のヒーロー。そう、マーヴェリック*1みたいな英雄さ!」

 

喜びのあまり、一人でダンスを踊るミニットマン。

 

「最高にHappy(ハッピー)だよ! やっぱアイツこそが、世界で一番イカしたパイロットさ!」

 

ノリノリでダンスミュージックを流しながら、彼女は踊り続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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同じく、サンダース付属の学園艦。

生徒会長……、もといプレジデントの寺野久米子は、会長専用の豪華なイスに座って仕事をしていた。

 

「いやー、最近は戦闘機ビジネスが好調だねー」

 

今、日本の空戦道界隈では全国的に戦闘機の需要が高まっていた。というのもレッドバロンが各校の空を荒らしまわったり、継続とプラウダ間で大規模な空戦が勃発したりした影響で、どの学校も多数の航空戦力を消耗したからだ。

一応サンダース付属も多少なりとも損害を被ったが、それ以上にサンダースが抱え込んでいた中古の機体の需要が高まっていたことで、それらの販売で多くの利益を出していた。

 

「F4Fワイルドキャットもそろそろ売り切れそうだし、まだまだ稼げそうな気配がするよー」

 

久米子は満面の笑みで電卓で計算しながら、今後のビジネスチャンスを模索していた。

 

「それもこれもサザーランドちゃんのおかげだよー。私のビジネスのためにも、あの子には引き続き頑張ってもらいたいなー」

 

彼女のお金への執着心は、そうそう消えることはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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知波単学園の学園艦―――。

そこでとある二人の生徒が、何やら怪しい行為をしていた。

 

「うむ。定刻通りじゃな、アラハバキ殿。して、例の物は?」

 

「心配御無用ですぞ、カグツチ殿。そなたの注文通り、此処に……」

 

それはエースのカグツチと、彼女を補佐するアラハバキの二人だった。

アラハバキは懐から何か箱のような物を取り出すと、それをカグツチの前で開けてみせた。

 

「おお~。此れじゃ! これぞわっちが欲してゐた物じゃ! 良ゐ働きじゃったな、アラハバキ殿」

 

その箱の中身は、特に変哲もないハンバーガーだった。普通に考えればこんな食べ物、どこでも買えるだろうと思うかもしれないが、この知波単学園では訳が違う。

 

「ゐやはや、中々の難儀でしたぞ。風紀委員の者共の目を掻ゐ潜るのは」

 

そう。この学園艦は古き日本の文化を尊重するあまり、外国(特に欧米)の異文化が徹底的に排除された学校なのだ。なので仮に外部からそういった西洋の文化や食べ物を持ち込もうとすると、校内を取り締まる風紀委員たちに捕まってしまうおそれがある。たかがハンバーガーといえど、知波単で食べるには命懸けである。

 

「もぐもぐ……。う~む、この()()()()()()()()()()()()()()(素直にパティって言えよ)が絶妙に良き風味を醸し出しておる」

 

だがそれでも、カグツチにはどうしてもハンバーガーを食べたい理由があった。

彼女は以前サンダース付属学園艦の上空に侵入し、そこでサザーランドとミニットマンのダブルエースと対決した。惜しくもカグツチは敗れてしまったものの、そこで捕虜となった際に食べたハンバーガーの味が忘れられずにいた。なのでこうしてアラハバキに依頼して、ハンバーガーなどの西洋料理を()()していたのである。

 

「カグツチ殿、どうやら外の学園艦には多くの未知なる食物がありまするぞ」

 

「本当かゑ? なれば、其れら全てを食べ尽くして行こうぞ!」

 

世間知らずの箱入り娘だったカグツチも、徐々に外界へと馴染んでいくのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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継続高校の学園艦の艦橋に位置する会長室。

生徒会長の小峰芬は、生徒会メンバーからサザーランドの勝利の報を聞いた。

 

「サザーランドさんが? そうですか、それは良かった……。あのお方には感謝してもし切れません」

 

かつて継続高校が開校以来の存亡の危機に陥ったとき、助太刀に来たサザーランドと聖グロのパイロット達は、彼女にとってまさしく英雄だった。

 

「あのとき、サザーランドさんがいなかったら、我が校はとっくにプラウダ高校の支配下に置かれていたでしょう。もし降伏していたら……。思い返すだけでゾッとします」

 

あのプラウダとの大規模な空戦が終わってから、継続高校では比較的平穏な日々が続いている。

ただ、それでも会長たる芬は執務に追われ、忙しい毎日を送っているという。

 

「生徒会長ってとにかく仕事が多いんです。でも私は弱音を吐くつもりはありません。だってあのとき、サザーランドさんや他のパイロット達は、もっと辛い思いをしていたハズですから。それに比べれば、今の私の仕事なんて大したことありませんよ」

 

彼女の元、継続高校は少しずつ、だが確実に発展への歩みを進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

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同じく継続高校の片隅で、エースであるモルテンは一人佇んでいた。

 

「…………」

 

彼女はひと言も喋ることなく、ただひたすら海と空を眺めていた。

 

「……静か……」

 

静寂に包まれる空―――。

つい数ヶ月前、ここで数百機もの戦闘機が入り乱れる大空戦が起きた。だが今は、まるでそれが忘れ去られたかのように穏やかな光景が広がっている。

 

「……サザーランド……」

 

そんな空を見て、モルテンはふと戦友のことを思い出す。彼女は自分の学園艦の危機を救うために協力してくれたサザーランドに、いつか恩返しをしたいと考えていた。

 

「……また会えますように……」

 

継続の守護神は、いつかサザーランドと再会できることを信じて空に祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一方、プラウダ高校の学園艦―――。

同校のエース、コサックは相変わらずのヤンキー座りで戦車の上に陣取っていた。

 

「レッドバロンの奴、とうとう負けちまったか……」

 

彼女は他のパイロット達から、一週間前の対決の結果を聞いた。コサックにとってレッドバロンは、昔からつるんでいた付き合いの長い友人でもある。そんな友人の敗北を知った彼女の反応は、少し意外なものだった。

 

「まあでも、俺は良かったと思うぜ。レッドバロン(あいつ)は強さを追い求めるあまり、狂って暴走し始めてた。正直心配してたぜ、いつかもっとヤバい行為に走るんじゃねえかってな。けど、杞憂で済んで良かったな」

 

古くからの友人であるコサックにさえ、エース狩りに没頭するレッドバロンからは狂気を感じていたようだ。

 

「そうか、またあいつと会って遊びたいぜ。エース狩りとやらが終わったんなら暇を持て余してんだろ、どうせ」

 

サザーランドとミニットマンに友情があったのと同じように、レッドバロンとコサックの間にも友情はある。

エース同士にしか分かり合えない世界が、そこにはあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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そのプラウダ高校の生徒会長だった入一露音は、ここ最近姿を消した。

あの継続と聖グロに敗北した日から、彼女はずっと体調不良で休みがちだったのだが、先週辺りからとうとう音信不通になってしまったのだ。

生徒たちの間では、暗殺されただの他校に亡命したなどの噂が広がっているが、真相は不明である。

 

だがいずれにせよ、もう彼女が生徒会長の席に座ることは二度とない。

先日の露音による独断で勃発した大空戦を受けて、なんと日本の学園艦を管理する文部科学省が自ら腰を上げる異例の事態となったのである。

文科省はプラウダ高校の腐敗した生徒会を問題視し、制度に直接介入して、これまでの現会長が後継者を指名する仕組みから、他校と同じように公正な選挙を行うように改正したのだ。

 

近日、プラウダ高校で開校百年目にして初めての生徒会選挙が開催される。

そこで生徒たちに選ばれた人物が、プラウダの新しい生徒会長に就任する見通しだ。

 

言論統制が敷かれ、息苦しい雰囲気だったプラウダ高校も、次第に過ごしやすくなっていくのだろうか。第一回生徒会選挙の行方に世間の注目が集まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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黒森峰女学園、学園艦―――。

序列二位のパイロット、ガーランドはコーヒータイムを取っていた。

 

「……ふう。苦いな……」

 

彼女はサザーランドに敗北した日から、ずっと悩んでいることがあった。

 

「聖グロリアーナのエース、アイツの何が、私を惹きつけたのだろうか?」

 

ガーランドは、ずっとサザーランドに興味を持ち、結果的に二度も対決することとなった。

だが奇妙な事に、彼女は一度もサザーランド本人と直接会ったことはない。

なのに何故、サザーランドという人物は彼女の頭に残り続けるのだろうか?

しばし考えた末、彼女は自分なりの答えを導いた。

 

「……そうか。スピットファイアだ。私はあの華麗に舞うスピットファイアに魅せられたのか」

 

スピットファイア―――。

その戦闘機と、それを美しく操るパイロットに、彼女はいつの間にか夢中になっていた。

 

「この私が冷静さを失い、虜になってしまう……。それほどスピットファイアという機体は甘美なものだ」

 

そう言うと彼女は、珍しくコーヒーにミルクとシロップを混ぜて一飲みしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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同じく、黒森峰女学園にて。

一年生パイロットで、レッドバロンの僚機を担当していたハルトマンは、ずっとモヤモヤした気分だった。

 

「はあ……。未だに納得できませんよ。どうして私が、同世代のあんな平凡なパイロットに敗れたんでしょうか?」

 

同世代の平凡パイロットとは、言わずもがなメイヨーのことだ。彼女は天才である自分より遥かに格下のはずのメイヨーに撃墜されたという事実を受け入れられずにいた。

 

「天才と凡人との絶対的な差……。あの人はそれを努力だけで埋めたとか? ……いや、まさか……」

 

生まれ持った才能が全ての能力を決めると考える彼女にとって、メイヨーに負けたということは不条理以外の何ものでもなかった。

 

「まあいいでしょう。まだお互い一年生ですし、今後もメイヨーさんと対決する機会は必ず訪れるハズ。そこで私が勝てば良いだけ。簡単な話です」

 

メイヨーとハルトマン。それぞれ聖グロと黒森峰の次世代を担うホープの二人。彼女達もまた、先輩たちと同じように熾烈な争いを繰り広げるライバル関係になっていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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黒森峰女学園の生徒会長、西住普美。

彼女は会長室にて、生徒会メンバーと話をしていた。

 

「会長、もう許してあげても良いのでは?」

 

「いいえ。まだレッドバロン……いや、逸見モニカさんを許す訳にはいきません。彼女の悪行は度が過ぎていましたから」

 

二人が協議しているのは、聖グロリアーナ女学院で捕虜となったレッドバロンの扱いについてだった。

 

「ですが会長。もう一週間も経ちましたし、解放してあげて良い気もするのですが……」

 

「あのエースが犯した愚行は、我が黒森峰女学園の評判を確実に下げました。その罪は一週間ではとうてい償うことはできません。よって彼女には、もう少し聖グロの檻の中で反省してもらうことにします」

 

レッドバロンの暴走は、会長である普美が空戦道パイロットを十分制御できなかった結果でもあった。

なので彼女は、ここでレッドバロンを徹底的に罰することによって、会長の権威を知らしめたい思惑があったのだ。

エースを縛り付け過ぎた幸子と、エースを自由に泳がせすぎた普美。生徒会長の権力のさじ加減は、想像以上に難しいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普美からの指示で、未だ聖グロリアーナ女学院の捕虜収容所にいるレッドバロン。

 

「あ~、早く黒森峰に帰りたいんですけど~」

 

サザーランドに撃墜され、この収容所に入れられてはや一週間。さすがに彼女も、暗い牢の中で過ごすことにウンザリしていた。

 

「ハァ~……。こりゃ西住んとこの会長、相当ご立腹って感じかな~」

 

普通、パイロットが他校の捕虜となった場合は、所属していた学校側が交渉して元の学園艦に帰る仕組みになっている。その期間は長くても3~4日間であることが多い。一週間経っても解放されない今の彼女は、かなり珍しいケースと言える。

 

「ウチは十分に反省したって~。サザーランドに敗けて、もう同じような真似は二度とやらないって心に誓ったから~、マジで」

 

あの対決でサザーランドに撃ち落とされた後、彼女から湧き出た感情は、悔しさよりも嬉しさの方が大きかった。コサックが語っていた通り、増長していく強さへの欲求は満たされなくなり、どれだけ他校のエースを倒しても快感が得られないという悪循環に陥っていた。

そんな強敵との闘いに飢えていた彼女にとって、サザーランドは理想の対戦相手だった。お互いに死力を尽くしあえる関係、レッドバロンが久しく味わえなかったスリルを味合わせるパイロットだった。

そんな相手に全力を発揮できたのならば、負けても悔いはない。むしろスッキリした、というのが彼女の本音であった。

 

「あの空戦、マジで楽しかったな~。ウチと対等に渡り合える高校生パイロットがいるとは思わなかったし~」

 

ここでふと、彼女は疑問を抱く。

 

「……そういやあいつの本名、東雲エリスだっけ? 東雲……、ん~、聞いたことないな~。サザーランドの家系ってどうなってんだろ?」

 

どちらも空の世界で生きる両親の間に生まれたレッドバロンは、まさしく天才だった。だが、そんな自分と同い年ながら対等の実力を持つサザーランドはどういった親の元で生まれ、育ったのだろうか?

彼女はサザーランドも何かしら空戦道と縁のある家系に生まれたのでは、と推測するも、それを検証する術は無かった。

 

「な~んか裏がありそうな気すっけど、ウチの考えすぎかな? ハルトマンから聞いたら母親が離婚する前には"島田"って苗字だったらしいけど、それもピンと来ないし……。マジで気になる~、サザーランドの血筋」

 

彼女は捕虜用の古びたベッドに横たわりながら、黒森峰に帰れる日を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――。

 

 

「先輩、おはようございます!」

 

「ん。おはよう、メイヨー」

 

聖グロリアーナ女学院にて、サザーランドとメイヨーは身支度を整えていた。

 

「このフライトジャケットを着るのも一週間ぶりね」

 

「あー、先輩はそうなりますか。もう体調の方は大丈夫なんですか?」

 

この一週間、サザーランドは戦闘機に乗れずにいた。

その理由は、医者から戦闘機に乗らないよう指示を受けたからだ。彼女はレッドバロンとの激戦に勝利したものの、肉体的に負荷をかけすぎてしまった。なのでしばらくは激しい運動(空戦道含む)を避け、ゆっくり休養を取って体を休めるよう命令されたのだ。医者からは、”今の健康状態で空戦などで体に負担を与え続けると、最悪の場合後遺症が残るかもしれない”と警告されたようだ。

これまで生徒会長にすら歯向かったサザーランドも、さすがに医者の言葉には逆らえない。彼女は命令通り休息を取り、空戦道に関しても座学だけで済ませた。

 

「ええ。もうお医者さんからもオッケー貰ったから、気兼ねなくスピットファイアに乗れるわ」

 

「良かった~。でも先輩、あまり無茶しないでくださいね」

 

今日から正式にパイロットとして復帰したサザーランド。これからは通常通りの空戦道プログラムに戻る予定だ。幸子も改心したので、二度と会長から呼び出されることはない……、はずだ。

 

 

 

ところで今、二人には悩み事があった。

 

「そういえば先輩、この前のキスと告白についてなんですが……」

 

「あー、アレは……。なんていうか勢いだったっていうか、あのときは疲れて理性が吹き飛んでたのよ」

 

一週間前、サザーランドは聖グロに着艦した後、多くの生徒が集まるど真ん中で、メイヨーにキスと告白をした。これは彼女の偽りの無い好意を、メイヨーに伝えたものだった。

が、問題なのはそのキスシーンが報道陣に激写されてしまい、瞬く間に聖グロ全体に知れ渡ってしまったという点だ。

おかげで二人は校内で良くも悪くも有名人になり、いささか出歩きづらくなってしまった。

 

「ごめんなさい、メイヨー。あんな群衆の視線が集まる中で恥ずかしい事をしてしまったのは謝るわ。けど信じて、私のあなたに対する愛は本物よ」

 

「いや、もちろん私も嬉しかったですよ! でもやっぱりこう……、時と場所をわきまえて欲しかったって言うか……。まあもう手遅れですけど……」

 

サザーランド本人も認める通り、あのときの彼女は疲弊しきって頭が回らない状態だった。メイヨーとしても嬉しさと恥ずかしさで何も考えられない有様だったので、甘んじて先輩からの愛を受け止めるしかなかったのだ。

あのキスは二人にとって一生の思い出だが、同時に一生の黒歴史にもなってしまった。

 

「何だったら、今ここでやり直しましょうか? この前のキス」

 

「ええっ!? いや……。ま、まあ先輩がしたいのなら私は構いませんけど……」

 

メイヨーがまんざらでもない素振りを見せると、サザーランドは顔を近づけて接吻の態勢に入る。

 

「い、いくわよ……?」

 

それに応じて、メイヨーも目を閉じて受け入れる態勢を作った。

 

「ど、どうぞ……」

 

 

 

……がその時、それを妨害するかのように緊急発進を告げるサイレンが鳴り響いた。

 

「あら? スクランブル発進の要請だわ。急ぐわよ、メイヨー!」

 

サザーランドは目の色を変えて自身の搭乗機へと走っていった。

 

「ちょっ、このタイミングで!? 待ってくださいよ~先輩!」

 

すっかりその気だったメイヨーも困惑しながら、格納庫へと急いだ。

 

 

 

 

 

「よっ、新婚夫婦のお二人さん!」

 

格納庫では二人の機体の整備を担当する清美が待っていた。

 

「からかわないでよ、きよみん」

 

「あー悪い悪い、つい口が先走っちゃったよ。ほら、スピットファイアとテンペスト。さっき修理を終えたばっかりさね!」

 

「あのボロボロだった機体が! やっぱり凄いですね、清美さん!」

 

二人は各自の機体に乗り込み、エンジンを始動させる。

 

「メーターよし、ラダーよし、補助翼よし……」

 

「燃料もよし! 確認オッケーです!」

 

手際よく各種手動点検を済まし、滑走路へと入る。

 

「こちら33番サザーランド、及び85番メイヨー。発艦許可を要請します」

 

「こちら管制塔、発艦を許可。幸運を祈ります!」

 

管制官より許可を受け、二機は滑走路を走り抜けて空へと飛び立つ。

 

 

「さてと、敵機は何者かしらね?」

 

サザーランドが無線で質問すると、メイヨーはこう答えた。

 

「誰が相手でも大丈夫ですよ、先輩。だって私がついてますから!」

 

「そうね。あなたと一緒なら、どんな相手だろうと負ける気がしないわ」

 

しばらく飛行していると、侵入機の機影が見えてきた。

 

「こちらサザーランド、敵機を目視したわ」

 

「こちらメイヨー、私も視認しました!」

 

二機は旋回し、戦闘態勢に入る。

サザーランドはスピットファイアの上昇力を活かし、敵編隊の頭上を取る。

メイヨーはテンペストの低空での速度性能を活かし、下方から仕掛けていく。

 

『運が悪かったわね。あなた達の相手は、聖グロリアーナのエースであるこの私よ!』

 

「先輩、援護します!」

 

航空機による空中戦で勝敗を決める空戦道―――。

聖グロリアーナのエースとその後輩は、もう立ち止まることはない。

たとえこの先どんな困難が待ち受けようとも、今まで二人が培ってきた技能、経験、そして絆があれば必ず乗り越えていけるだろう。

 

「サザーランド、交戦開始(エンゲージ)!」

「メイヨー、交戦開始(エンゲージ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&ファイター

聖グロリアーナのエース

 

―――THE END―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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聖グロリアーナ女学院、学園艦にて

 

ある金髪の生徒が、もう一人の生徒に対してこんな質問をした。

 

「こんな格言を知ってる? ”理性を有する動物は、すべて退屈するものだ”」

 

「ロシアの詩人、アレクサンドル・プーシキンの言葉ですね」

 

金髪の生徒は紅茶を飲むと、空を見上げてこう言った。

 

「退屈を無くすためには、画期的な舞台が必要。そしてその画期的な舞台には、同じように画期的な人物が必要なの」

 

「は、はぁ……」

 

「その人物には……。そうね、あの方達をご招待しましょうか」

 

聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長、ダージリン。

彼女の視線の先には、二機の戦闘機が飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……?

*1
映画【トップガン】で登場する主人公。続編でも大活躍でした(ステマ)




というわけで完結です!
ここまで読んでくださった方、本当に感謝しています!
この小説は自分にとって人生初の長編小説でしたが、無事に完結できホッとしています。
正直、書き直したい部分は山ほどあるのですが、とりあえず現段階では完成ということで終わりにしようと思います。今作での反省を生かし、次回作ではもっとクオリティの高い小説を目指していきたいです。

さて、ここからは作者による本作の振り返りを書いていきます。
非常に長くなるので、興味がない方はスルーしてもらって結構です。




*



Q.どうしてガルパン二次創作で戦闘機モノを書いたの?
A.理由はいくつかあるのですが、一番は”戦車と戦闘機が入り乱れたカオスな戦いを書きたい”でした。それで最初はガルパンと他の戦闘機系作品のクロスオーバーにしようかと思ったんですが……。残念ながら既存の作品の中にマッチするものが無かったんです。具体的な作品名は伏せますが、時代が合わなかったり、登場する機体のバリエーションが少なすぎたりでピンと来る作品がありませんでした。
てなわけで自分が求めていた、”各国の第二次世界大戦で使用された航空機がまんべんなく登場し、かつキャラもいて魔法とかのファンタジー要素もない、ミリタリー要素の強い作品”、言い換えれば”戦闘機版のガルパン”が無い! って事態に陥ったんです。
じゃあ自分で書こうぜ! という心意気で、今作の執筆を始めた次第です。

Q.どうして聖グロリアーナ女学院をメインに据えたの?
A.これもまた複数の理由があるのですが、一つは本作の主人公を決めるにあたって、主役機は本家ガルパンのIV号戦車みたいに物語が進むにつれて強化させたいと考えました。
となると、なるべく派生型の豊富な戦闘機が望ましいのですが、IV号戦車みたいな”開戦から終戦まで改良を重ねて運用され続けた機体”となると、おのずと選択肢は限られてきます。
具体的には、日本の零戦と一式戦闘機隼、ドイツのBf-109とFw-190、そしてイギリスのスピットファイア辺りでしょうか。
そこから更に検討した結果、日本機を主役にするのはありきたりで面白くない、ドイツ機を主役にするのも同じガルパンの戦闘機系二次創作で先駆者がいる、などの理由から結果的にはイギリス機のスピットファイア、ひいてはイギリスがモチーフの聖グロをメインにしようと決めました。

Q.エースという設定を作ったのは何故?
A.一言でいうと、物語を書く上で都合が良かったからです。
基本的に空中戦って一対一が最も書きやすくて面白いんです。複数対複数になると、状況がごっちゃになって分かりづらくなってくるので、なるべく一騎討ちを重点的に書きたい。そこで違和感なく一対一の状況を作るために、各校にはエースという並のパイロットでは太刀打ちできない強敵がいるという設定にしました。

Q.どうして戦車道みたいに空戦道も試合形式にしなかったの?
A.そっちの方がガルパンの”学園艦”というユニークな設定を活かしやすいと思ったからです。
もちろん最初は、普通に空戦道にも全国大会があって、主人公はそこで優勝を目指すといったストーリーも考えました。だけどそれじゃ普通過ぎて面白くない。
そこで思い出したのがガルパン特有の学園艦という設定です。学園艦は多くの場合、航空母艦のような形状をしているので、滑走路とかの設定も馴染みやすい。更に学園艦同士の戦いは、さながら太平洋戦争の空母同士の戦いみたいなシチュエーションになって面白そう、となり、結果的にはスポーツとミリタリーが混じった奇妙な形式になりました。
ちなみに学園艦以外にも、ガルパンの世界観に助けられた部分も多いです。
とくに特殊カーボンという搭乗員を絶対に死なせない万能設定のおかげで、戦闘機はバンバン落ちるけど敵も味方も死亡キャラが出ない。戦闘シーンに緊張感は出るけど、かといってシリアスすぎる展開にもならないという奇跡的なバランスに落ち着きました。

Q.これでストーリーは完結?
A.空戦道を書いた物語はここで完結ですが、これから続編を執筆する予定です。以前第一章番外編のあとがきでも触れましたが、各校の戦車道と空戦道がタッグを組んで試合をするストーリーです。そこで今作で回収できなかった伏線なんかも補足しようと思います。
なお、続編は別作品として投稿します。理由としてはタグ管理の観点のほか、原作キャラの描写をやり直したいから、などです。



◇ストーリーを振り返る
ここからは今作の大雑把なあらすじを追いつつ、各章の展開の理由などを解説します。

・第一章 vsアンツィオ編
最初の章。この章の役割は、空戦道がある世界を説明すること。そして聖グロのエース、サザーランドがいかに強いパイロットであるかを見せることでした。
そこでまず、冒頭に聖グロ学園艦上空にスピットファイアが飛行するシーン、次に降りてから整備班などの他の生徒たちと会話してから、生徒会長に呼び出されるという流れを書きました。
その次にメインヒロイン(メイヨー)を出し、直後に戦闘シーンに入るのですが、ここで登場するのがアンツィオ高校のエース、ジェノバです。彼女はメイヨーを手玉に取るようにあっさり撃墜して、その恐ろしさを知らしめました。
そんなジェノバを主人公であるサザーランドが撃墜することで、聖グロのエースの強さを表した……。といのが第一章の流れです。

・第二章 vs大洗編
実を言うと、プロットを練る段階で、主人公のサザーランドにはどこかで敗北を味わってもらいたいという願望がありました。(エース対決に緊張感を持たせるためです)その役割を担ったのが、この第二章です。
ここで敵対した零戦を操る大洗のエース、ムサシに敗れることになるのですが、なぜこの相手に負けさせたかと言うと、それには二つの理由があります。
一つ目はあとがきでも触れましたが、本家ガルパンの西住みほとダージリンとの対比です。大洗戦車道の隊長で主人公でもある西住みほは、アニメ第四話で聖グロ戦車道隊長のダージリンに敗れました。本作のサザーランドとムサシも同じ関係ですが、学校は逆転しています。
二つ目は、史実におけるスピットファイアと零戦の関係です。ヨーロッパでの戦争において、スピットファイアは旋回性能の劣るドイツ機に格闘戦で優位に立ちました。ですがその後、大日本帝国との戦争によりアジア方面で零戦と相対したとき、スピットファイアはドイツ機を相手にするときと同じ感覚で零戦にドッグファイトを挑んだ結果、見事にコテンパンにされました。同じ連合国で一足先に零戦と交戦経験のあったアメリカのパイロット達からはこぞって「ゼロに格闘戦挑むのは止めろ、自殺行為だ」と警告されていたのですが、慢心していたイギリスのパイロット達はそれを聞き入れようとしませんでした。
サザーランドもジェノバとの対決による勝利で調子に乗った結果、僚機であるメイヨーのアドバイスを聞き入れずに零戦使いのムサシと交戦し、返り討ちにされました。

・第三章 withサンダース編
この章はストーリー全体のど真ん中で、まだ展開的に余裕があるとのことで一番ネタに走った章です。
サンダース付属高校はアメリカがモチーフなので、ヤードポンド法を皮肉ったり、食べ物のサイズが無駄に大きいことなどを題材にしました。
どうせなら劇場版に出た8校全てを登場させたかったので、知波単学園もこの章で出しました。

・第四章 vsプラウダ編
個人的に一番書き直したい部分が多い章です。
もとから複数の学園艦の思惑が絡む壮大なストーリーにしたかったのですが、いささかスケールを大きくしすぎて書ききれなかった感があります。
おそらく最も分かりづらかったであろう、”なぜ聖グロとサンダースの連携が上手く取れなかったのか?”について、今更ながら説明しようと思います。
最大の理由としては、聖グロとサンダースの間でプラウダ高校に対する考え方にギャップがあった、という点があります。聖グロの幸子は継続高校に魔の手を伸ばすプラウダ高校を脅威と捉えましたが、一方のサンダース付属の久米子にそのような危機感はありませんでした。
久米子にとって最も重要だったのは、自校の中古戦闘機F2Aバッファローの売却先でした。そこであえて継続高校の機体を消耗させることで、相手が買わざるを得ない状況を作りたかったのです。(下手にサンダース側が増援の機体を送ると、自校が被害を被るばかりか継続側の損失が少なくなってしまう)
かといって、流石に継続側に全く手を差し伸べないのも悪いので、人道支援くらいはやってあげるよ、というのがサンダース付属とプレジデント久米子の行動でした。
ちなみにこの章で起きたプラウダと聖グロの対立は、19世紀辺りの大英帝国とロシア帝国の覇権争いをモチーフにしています。自陣の外側に領地を伸ばしたいロシア(プラウダ)と、それを阻止したいイギリス(聖グロ)といった感じです。

・第五章 vs黒森峰編
前章は複雑でしたが、最後を締め括るこの章は比較的綺麗にまとまったと思います。目的もシンプルに、聖グロと黒森峰の空戦道による対決でした。
主人公をイギリスモチーフの聖グロに決めた段階で、ラストはドイツモチーフの黒森峰との戦いにしようと決めました。史実でもイギリス空軍の最大のライバルはドイツ空軍だったからです。
黒森峰をラスボスにするにあたり、キャラクターは聖グロとの対比を意識しました。レッドバロンとハルトマンの二人組は、サザーランドとメイヨーの二人組とあらゆる点で一致しています。(エースと一年生、搭乗機がストーリーの進行に合わせて強化されるなど)
それ以外にも二番手同士のウェリントンとガーランド、生徒会長の幸子と普美、どれも対比を意識したキャラになっています。
終盤まで名前こそ出ませんでしたが、黒森峰の二人組は各章のエピローグにチラッと登場させて、主人公サイドとの関係を匂わせました。



◇キャラクターを振り返る
登場したオリキャラ達の裏話なんかを語ります

・サザーランド(東雲エリス)
聖グロのエースにして主人公。
今でこそ随分と感情豊かなキャラになりましたが、最初は割とクールな性格にするつもりでした。
本名の苗字である東雲には特に深い意味はなく、単純にガルパンの主人公が”西”住みほだから、じゃあこっちは東が付く苗字にしようってなっただけです。
TACネームは英国貴族からカッコイイ名前を選びました。(他の候補としてギャロウェイ、アーガイルなどがありました)
なお、彼女の母親などの謎については続編で書こうと思っています。

・メイヨー
ヒロイン、後輩、僚機、成長系主人公、解説役と様々な役割を果たしたキャラです。
サザーランドとメイヨーの関係をエースコンバット風に例えると、サイファーとピクシー(あるいはPJ)、もしくはタリズマンとシャムロックといったところでしょうか。
今作ではサザーランドの後ろを追い続けるキャラでしたが、続編では少し違った任務をこなしてもらいます。

・ウェリントン
典型的なお嬢様キャラ。初登場時は何とも嫌らしい性格でしたが、終盤にはツンデレになりました。
なお、彼女がレッドバロン戦で見せた、通常の戦闘機を囮にさせステルス機で奇襲を狙う戦法は、エースコンバットZEROのウィザード隊が元ネタになっています。

・英山幸子
聖グロの生徒会長にして、ある意味サザーランドにとって一番の難敵だった人物。良くも悪くも彼女の指示でサザーランドが動き、物語は進んでいきました。
幸子がやった数々の暴挙は許し難いですが、逆に言えば彼女がいたからこそ今作のストーリーが出来たので一概には悪人とは言えません。
さっちゃんの愛称で察した人もいるでしょうが、モチーフはイギリスの首相マーガレット・サッチャーです。
ちなみに彼女の洋楽趣味は、全てイギリスのロックバンド、アイアンメイデンが作曲した"Aces high"の歌詞を引用するためでした。この曲は1940年のバトルオブブリテンと、そこで活躍した戦闘機スピットファイアについての歌で、その歌詞が今作のストーリーにも関わっています。

・工藤清美
おそらく最も万能なキャラ。もともと戦闘機の物語を作るうえで、整備を行う人間は必須になるのですが、今作では面倒なので、班長ということで全てこの清美に役割を集約しました。
その結果、どんな状態の機体も完璧に修理し、さらにはパイロット達のメンタルヘルスまで行うというハイスペックなキャラクターになりました。
清美という名前は単純に”整備”の読み方をいじっただけです。


・ジェノバ
アンツィオのエース。最初に戦うエースにして噛ませキャラ。
ナルシストな性格はイタリア人のステレオタイプでもあります。
アンツィオのイメージも相まって、序盤に主人公に倒される存在としてピッタリなキャラクターに仕上がりました。

・シラクサ
ジェノバの取り巻き。特にコメントすることもないです。


・ムサシ
大洗女子学園のエースにして零戦のパイロットという、字面だけなら主人公っぽいキャラクターです。
物語ではサザーランドとメイヨーに敗北を教え、試練を与える存在でした。
出番は少なかったですが、ストーリーに与えた影響は大きかったと感じます。


・ミニットマン
このキャラのコンセプトはズバリ、面白黒人でした。映画に出てきてやけにハイテンションな話し方で、独特のムードを創り出す存在です。
サンダース付属特有のアメリカネタや映画ネタと合わせ、ユーモラスなキャラとなりました。

・寺野久米子
たぶん一番賢いキャラクターです。
彼女は継続高校とプラウダ高校の対立でも、上手く立ち回って一人勝ちしました。
車椅子に乗っているのは、彼女の元ネタが戦時中のアメリカ大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトだからです。(ルーズベルトは足腰が弱く、メディアの前などを除いて執務中は車椅子に乗っていました)


・カグツチ
実は知波単エースについては執筆直前までキャラが定まっていませんでした。ただ、あまり出番がないのは確定していたので、どうせなら変なキャラ付けにしようとした結果、のじゃロリで旧仮名遣いで喋るヘンテコなパイロットが爆誕しました。

・アラハバキ
知波単パイロットのTACネームが日本の神々の名前から引用されているのは設定集でも述べましたが、その中でなぜカグツチ神とアラハバキ神という奇妙なチョイスになったかというと、自分が女神転生の影響を受けただけです。


・モルテン
継続のぼっちエース。第四章ではサザーランドに次ぐ第二の主人公ポジションだった気がします。
継続高校はフィンランドがモチーフなのですが、そのフィンランドには国産の戦闘機が皆無(一応ピョレミルスキなどの例外あり)で、機体選びに困っていました。
そこでスウェーデン戦闘機J21に乗らせることになりました。同じ北欧の国なので違和感なくできたと思います。

・小峰芬
継続の会長ですが、想定以上に出番の多くなったキャラでした。
あまり良いイメージがない生徒会長キャラの中では、一番まともな人物かと思われます。
苗字はス”オミネ”イトから抽出しました。


・コサック
プラウダのガラの悪いヤンキー的エース。
いわゆるロシアの”ゴプニク”が元ネタです。日本ではマイナーですが、海外ではHARDBASSという音楽ジャンルと共にネタ人気があります。

・入一露音
最大の問題児。彼女の私利私欲は継続高校のみならず、プラウダのパイロット達にも迷惑でした。
独裁体制を敷いてプラウダを支配していた彼女ですが、最後は文部科学省の役人が鉄槌を下しました。その役人とはもちろん、あの大洗を廃校にしようと目論んだあのメガネの人です。
太眉毛の彼女の元ネタは、ソ連書記長を努めたレオニード・イリイチ・ブレジネフです。


・レッドバロン(逸見モニカ)
ラスボスです。
彼女の本名モニカは、東ドイツ軍歌の”モニカ”が元ネタです。この歌は、戦後に分割された東ドイツの兵士が、ドイツ軍歌の”エリカ”を歌おうとした際、支配者のソ連がファシズム的だと文句をつけてきたので代わりに作曲された、という誕生経緯です。
ちなみにTACネームの元ネタであるマンフレート・リヒトホーフェンには弟がいて、その弟も撃墜王だったようです。

・ハルトマン
レッドバロンの後輩。
Bf-109の機種に黒いチューリップという塗装は、TACネームの元ネタであるエーリッヒ・ハルトマンに似せた設定です。
リヒトホーフェンは第一次、エーリッヒ・ハルトマンは第二次世界大戦でそれぞれ世界最高の撃墜数を出した組み合わせだったりします。

・ガーランド
今作で唯一サザーランドと二度戦ったキャラです。
TACネームの元ネタのアドルフ・ガーランドは、イギリス空軍のスピットファイアに惚れ込んだ結果、ドイツ空軍の上司に”我々に必要な戦闘機とは何か?”と質問された際に、”それはスピットファイアだ”と答えたエピソードがあります。
ジェット機Me-262の飛行隊指揮官を務めた点も、元ネタをリスペクトした要素です。

・西住普美
西住姉妹の従姉妹という凄い設定の彼女ですが、いかんせん今作では出番が控えめでした。
西住家を題材にした小説ならともかく、今作や続編はそれとは無関係のキャラが主役なのでイマイチ影が薄いです。
ちなみに生徒会長の名前には全てモチーフとなった国の漢字が使われているのですが、ドイツモチーフの黒森峰の会長が「独」ではなく、あえて古いほうのプロイセンの「普」なのは、単純に独という漢字が入った名前が思い浮かばなかったからです。
それ以外にも生徒会長は各校の首脳を皮肉ったネタが多いですが、流石にナチスのネタはアレなので、普美は割と正統派の委員長キャラにしてあります。



◇参考サイト
今作の執筆にあたり、お世話になったサイトをいくつか紹介します。(全てリンクフリーです)

☆航空軍事用語辞典

http://mmsdf.sakura.ne.jp/public/glossary/pukiwiki.php

航空関連の専門用語を解説したサイト。

☆World of Warplanes Wiki 空戦機動

https://wikiwiki.jp/wowp/%E7%A9%BA%E6%88%A6%E6%A9%9F%E5%8B%95

戦闘機の各種マニューバについて分かりやすく解説しているページ。

☆スピットファイア完全目録(自称) 夕撃旅団様より

http://majo44.sakura.ne.jp/planes/spit/top.html

今作の主役機スピットファイアについて非常に詳しい情報があるサイト。
スピットファイアの誕生経緯のほか、各種派生型の特徴なども掲載されている。



◇使用楽曲
今作で歌詞を使用した楽曲を紹介します。

☆<Aces high> Iron maiden
以前も書きましたが、スピットファイアをテーマにしたロックミュージックです。今作を読破された全ての読者様に聞いてもらいたい名曲です。歌詞に注目してもらうと、より楽しめると思います。

☆<Danger zone> Kenny Loggins
☆<Mighty wings> CHEAP TRICK 
サンダース付属のミニットマンが歌っていた曲です。
映画<トップガン>の挿入歌です。




◇最後に
改めまして、ここまで読んでくださった方には感謝申し上げます。
作者の趣味全開な小説となってしまいましたが、それでも多くの感想を頂き、励みになりました。
続編はいつ頃になるか不明ですが、地道に執筆して参ります。

長かったあとがきも以上です。
最後に評価や感想を残してもらえると嬉しいです。
では、さようなら!

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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