有里兄妹の従姉妹。
本編に出てくる予定はないが、名前は出てくるかもしれない。
10年前の事故に遭うまでは同年代でよく遊んでおり、奏も懐いている。
当時は湊と公子の背にくっつきよくおぶってもらっていた。
7/13 月
昨晩もファルロスが部屋を訪ねてきて意味深なセリフを吐いて帰った。
ペルソナは使う人物の鏡らしい。だから自分自身から逃げられない。私、逃げてたのかなぁ。
寮に戻り、食事の準備をする。何も考えないでいいから冷やし中華だ。
クーラーが効いて涼しいはずの寮はくっそ重たい雰囲気で埋め尽くされていた。向こう戻りたくないな、と思っていたがちらりと見ると風花が困って変な顔になっている。私も助け舟を出すべく、中華麺をゆでる準備だけしてキッチンから離れた。
「もうすぐ夏休みですね。皆さん、何しようとか考えてますか?」
「そらまあ、夏と言えば海っしょ。ビーチに、水着に、ひと夏の思い出。ああーっ、気晴らしにどっか海とか行きてぇー!」
「海、いいね。奏は?」
「プールじゃなくて?」
私、海は苦手なんだよな。ビーチでBBQならどんとこい!
テントを立ててくれれば私ずっとその中に居るから。肉なら焼いとくから好きに食べて欲しい。
椎茸は自分でやってくれ。食べ頃が分からん。後、とうもろこしは必須だろ。海鮮系は何がいいかな?
「つか、明日から期末だよ・・・あー、マジだりぃぃ・・・」
「まあまあ。けど、綺麗な海っていうと、沖縄とか、一度行ってみたいな」
「沖縄じゃあないけど、屋久島って選択肢ならアリかもね」
まさかのおっさん登場である。
屋久島とは??まさか、私たち旅行できちゃう?今世初の旅行?
「桐条君、お父上は今年の休暇を、屋久島で取られるつもりらしい」
「え、お父様が?」
「試験が明ければ君らは休みだろ?どうだい、ここらで気分転換でも」
この前のことからのあからさまな御機嫌取りだが、中高生には効果抜群だ!
伊織先輩も大はしゃぎ。
湊も表情は変わっていないが嬉しそうにしている。ってか、喜んでるぞ、これ。珍しい。
旅行に否定的な桐条先輩を理事長は諭すように反論。
彼女は私らの様子を確認し、こちらは行きたいオーラを出しまくった。
すっごく楽しみだぞオーラよ、私の全身から醸し出ろ!
うおお、行きたい行きたい行きたい!!
屋久杉見たい!!!
「気分転換は必須事項のようだ。行こうじゃないか」
「おっしゃー!」
「湊!旅行だって!屋久杉みたい!行こう!」
「海か、特別メニューが組めそうだな」
「やっべ楽しみ~」
「あ、私水着とか買わないと」
「なんだよ。俺の貸してやるって!」
「バカだろ」
「幾月さんも泳がれるんですか?」
「私は泳ぐのはちょっと」
「奏ちゃんは?」
「泳げるけど、海なら水遊びくらいでいいです。湊も水着買いに行く?」
「うん。選んで」
自分で選べ。
桐条先輩と岳羽先輩はこの場を離れていたので、後で冷やし中華食べるか聞いておこう。
さっき暗い雰囲気のままだったからみんなでご飯でも食べたらちょっとは変わるかな、とか思って用意してたけど、要らなかったかもしれない。
岳羽先輩は戻ってきたけど、桐条先輩はいらないって。
湊が人の倍食べたからなくなったけど、ほんと、あの細見のどこに入ってるの。
今日はグルメキングと海牛に行ってきたって言ってなかったけ?
伊織先輩と真田先輩には明日からもよろしくって言われたけど、試験中だし断った。
頼むなら風花みたいに金払え。
払われても真田先輩は断る!冷やし中華にプロテイン入れるとかまじふざけんな!プロテインバーだけ食ってろ!
私、あんたには頼まれても料理しない!!!
ちゃんとこの前の事は謝罪した。けど、それとこれとは話が別だもの。
高等部と同様に中等部も明日から試験なので勉強した。
流石に走りに行っている余裕はない。
煩悩よ、去れ。
7/15 水
「有里、山岸に用事か?」
「ええ、技術でちょっと聞きたくて」
「あー、・・・私が代わりに見よう」
「え?」
「彼女も今忙しいみたいだからな」
「有難いですが、いいんですか?だって、聞きたいのって技術家庭科の技術ですよ」
風花の部屋の方から来られたけども居なかったのか?それか忙しいとかで断られた?
風花はPC自作まで出来るらしい情報系女子だから、勉強の片手間でも聞けるかなて思ったんだけど、桐条先輩も出来るの?
ちな湊は出来ない。
でもこの学校に来てから追加された総合学習という名の魔術なんていう科目が出来るんだよ。
意味が分からん。中等部には魔術がないので助かっている。
高等部は違う学校に行くことを検討してるの。魔術なんて前世でやった事ないからアドバンテージがない。
「構わない。私の部屋でいいか?」
「あ、はい」
桐条先輩の部屋って初めてだな。でもこの寮で行ってことあるのって、湊か風花くらいだったな。
桐条先輩の部屋は他の部屋よりも大きい。向かい側が三部屋、桐条先輩の側が一部屋となっているので、必然的に桐条先輩の部屋が大きい判断だ。
地味にちょっとわくわくする。ご令嬢の部屋ってどんなだろう。
・・・部屋にシャワー室がある。
なるほど、寮のシャワールームで彼女を見たことが無いわけだ。
豪華、めっちゃ豪華。天蓋付ベッドとか実物は初めて見るし、テレビでっか。
あー、そっか。地デジになるからって薄型テレビが出始めてるんだっけ?
逆に懐かしいって気持ちになってたけど、今ではこれが最新型だもんね。
しかし、こんなデカいソファが三つ。
彼女を訪ねてくる友人なんて見た事ないけど、使用することはあるのかな?桐条先輩がこのソファに寝転がるとか?
やれそうな大きさだけど、本人はやらなそう。
箪笥もデカい。どんな服入ってんだろう。
やっぱお嬢様らしく全部買いみたいな暴挙をやったことがあるのかな?
「そんなに珍しいか?」
「あ、不躾ですみません。お金持ちの部屋って初めて見たのでつい」
「お金持ち・・・?」
「家はたらいまわしでしたし、いや、育ててもらえるだけ有難かったので文句を言いたいわけではないんですが」
「そうだったな。君らは」
この手の会話をするのは久々だった。まあ、お世話になっている家の方々に対してこんなこと言ってしまってはアレだが、裕福とは言えなかったのでこういうのは珍しい。
いや、ほんと、親戚ってだけで順番に面倒を見て貰えただけ有難かった。
「あ、観葉植物とかドライフラワー・・・ドライじゃない?あ、取り替えるの面倒じゃないのですか?」
「ん?そうでもないぞ。生け花も習い事の一つだったからな」
目を輝かせ過ぎたか、桐条先輩からは笑いが零れた。
「さ、そろそろ勉強だ」
「すみません」
「今回も成績が良ければ褒美を用意しよう」
「いや、今回は勉強が身に入っていないので好成績っていうのは・・・」
待て、勉強に集中出来ない原因が目の前に居た!!
試験に集中できてたのに忘れてた!
うん、桐条先輩も忘れているみたいだし、私が意識しなければいいだろ、うん。
・・・無理ッ!!!聞きたいとこだけ聞いてすぐに撤退しよう!!
―ちなみに前回のご褒美は枕。とてもいい枕。実用品を頂けるようだ―
「聞きたいのはパソコンの関連でして。私持ってないし、先輩詳しいです?」
「ある程度といったところか」
「後は――」
副教科以外も確認してもらえて本当に勉強にはなったが、身にはなってない。
「こうやってゆっくり話すのは山岸が来て以来か」
「そりゃ先輩の訓練も無くなりましたしね。自由時間が増えたのでは?」
「そうでもない。それにあの訓練を楽しみにしている自分が居たのも事実でな、存外楽しんでいたさ」
これは、・・・誘われているのだろうか?いやいや、普通の会話が楽しかったと感想をくれているだけだ。
落ち着け落ち着け。
7/19 日
「小学生が新たな戦力?人材不足過ぎない?」
「大人の覚醒者が居ないんじゃ仕方ないよ。資料はもらったの?」
「屋久島から戻ったら詳しい資料貰うことになってる」
「遅くない?」
試験前でもあったし理事長も忙しくてちゃんと資料をまとめられなかったので、旅行が終わってから頂くことになったのだ。
昨日タルタロスにも久々―満月以降それどころではなかったのだ―に行って、72階―100なんてものじゃないだろうが、いつまでこの塔を登ることが出来るのか―の中ボス―ガチムチ野郎だった・・・。物理が強く一撃で瀕死状態に陥るため、一度撤退し作戦を練り直した―も撃破できた。
あれらが何かは分からないけど倒すべき相手ではあるだろうし、大型シャドウと相対するために強くなることに越したことはない。
「買い物は忘れ物ない?」
「湊の水着は買ったし、日焼け止めとかも大丈夫」
明日からの屋久島旅行のお買い物も終了。
本当は風花も誘ったんだけど、岳羽先輩の様子がまだ回復してないから一緒に行ってくると振られた。
「奏は本当に水着はいいの?」
「だって、泳ぐ気ないから。浅瀬に入るなら濡れていいTシャツと短パンにサンダル、これで十分だよ。帰ろっか」
「そう。なら散歩しながら帰ろうよ」
「いいよー」
「神社寄ってこ」
お参りをして帰りたいそうだ。あそこで占うとコミュニティが進めやすくなるらしい。もう私のコミュニティは諦めている。
到着すると、ボーダー服のやせた青年がベンチに座って休んでいた。
「君か・・・。君たちの目は澄んでいるな」
「どうも。・・・知り合い?」
「この前ここで会った人」
「内なる光がそっと、息づいているんだろうね・・・」
詩人なのかな?独特な表現をされるなぁ。
これもファンタジー要素?小さいなファンタジー。不健康そうではあるけど、
「その眼に映る僕と、本当の僕。そんなものがあるならば・・・その距離はどのぐらいだろうね?」
「0に近い」
「目と鼻の先」
「ふうん、それも、いいね」
なんだか嬉しそうな青年は兄妹かい?と尋ねてきたので首肯した。殊更嬉しそうにしたと思ったら残念そうな表情になる。感情豊かな方なんだな。
「君らの言葉はなんだか美しいな。書くものがあれば記しておくのに・・・。赤い・・・血のような色をした万年筆。僕の支え、代弁者、友。どこかへ行ってしまったんだ。彼がいないと、僕は叫ぶこともできやしない。こういうの、潮時、っていうのかな」
他のやつ買ったらいいやん、なんてツッコミはしちゃいけないんだろう。そういう雰囲気だ。
赤い万年筆?あれ、この前寮の前に居た犬が持ってなかったっけ?
とりあえずそれがないと話が進まなそうだったので、挨拶だけしてお参りして帰った。
「たぶん、あの人もコミュニティ」
「はぁ~、ああいう思わせぶりなのがコミュニティの始まりなのね」
「・・・まあ、そう。一定のステータスなのか前話した時はあんな風に会話してくれなかった」
「で、特定のアイテムでコミュニティスタート」
ゲームかよ!!ファンタジーならなんでも許されるの!?
赤い万年筆については、犬が持っていたことを湊に伝えておいた。
幼女―
7/20 月
朝早くに寮から出発し、屋久島へと向かった。今世初めての船旅は気持ち悪くてダメだった。
皆に気を遣わせて申し訳なかったので、ここからは盛り上げるのも一緒に頑張る所存。
岳羽先輩がまだ引きずってるせいか桐条先輩も暗い。
切り替えていこう!
「大豪邸・・・」
「すごい・・・」
「リアルに世界の豪邸訪問だな・・・」
桐条先輩の別荘はとても大きかった。
なんでこの人、あの寮に住んでんの?
だって、これが別荘なんだよ?
毎日暮らしている家じゃないんだよ?
お金持ち・・・。
「お帰りなさいませ、お嬢様。そちらはご学友の皆様ですね。ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
「ごがくゆうって・・・」
「メイドって、実在してんだな」
「やっぱり先輩、スゴイ人なんだ・・・改めて実感・・・」
「桐条グループだもんな」
メイド・・・。本物・・・。秋葉とかにいらっしゃる偽物ではない。
私たちの荷物も彼女らは持って行ってくださった。先に行く彼女らと私たちを案内してくれる人、一体何人のメイドが居るんだろうか。
少し歩くと、眼帯をした男性が前から歩いてきた。
あ、ゼッタイに桐条先輩の父親でしょ!説明責任を果たさない大人!!
恐らく考えは正解で、メイドの人たちは立ち止まって頭を下げていた。私たちの横を通り過ぎようとした際に、桐条先輩が声を掛ける。
のにも関わらず何も返答せず行ってしまった。・・・父親としても最悪じゃない!?
ふっつー挨拶されたら返すでしょうが!
社会人として当たり前のことが家庭で出来ないやつはクソ!!
「い、今の人って、もしかして」
「先輩のお父さん?」
「怖ッ!南の島だけに海賊ルック?」
「そんなわけがあるか」
「フフ、短い休暇だが、まあ存分にくつろいでくれ」
楽しませてもらうと意気込む伊織先輩から海に行こうと誘われたので、全員水着に着替える。
私は持ってきてないので、濡れていいTシャツと短パンになった。
「あれ、奏ちゃん水着は?」
「持ってきてませんよ、泳ぐ気ないし」
「え、嘘でしょ?だって折角の海だよ」
「海ですね」
「うちだと、君のサイズのものは置いてないな。昔の水着も処分しているだろうし」
「貸そうとしなくていいですよ。伊織先輩待たせてもうるさそうだし、湊も居るから私は先に行ってますね」
私は日焼け止めやタオルなどの手荷物を鞄に入れてそそくさと立ち去った。・・・流石に桐条先輩の着替えは見れない。
また思い出しそうになる。あー、あっつ!私ってこんなに欲求不満だったのだろうか?
「そりゃあ、夏で海と言ったら、お楽しみは決まりっしょ!」
「湊、日焼け止め」
「ありがと。奏は塗った?」
「うん」
「じゃあ背中は頼む」
「はーい」
「いちゃついてんな、有里兄妹!奏はなんで水着じゃねえんだよ!」
「あのですね、私の成長期は少しばかり反抗期でこれからに期待なわけですよ?」
「いや、お前はそろそろ諦めた方がいいだろ」
「なんか言いました?」
「・・・」
湊の背中と首元に日焼け止めを塗って、ついでに頭皮マッサージ。そこまで凝ってはないな。
ジト目を向けたら真田先輩は黙ったし、伊織先輩はこちらに向かってきた岳羽先輩の方へ。
湊はマッサージが気持ちいいのか眠たげにしている。
「おーっ、ゆかり選手、想像よりけっこう強気のデザインですな」
批評を始める。やると思ってた。
水着じゃなくて本当に良かった。後から来た風花もやはり出るところが出ている。
そして最後に来た桐条先輩。清楚な白でパレオの水着だった。
この人達に水着で並んで立つの?無理でしょ?笑いものでしょ?
女子二人が褒め称えると、桐条先輩は照れたようで焦っていた。
「あ、奏日焼け止め持ってたよね?」
「ええ、使います?」
「塗ってあげたら?奏のマッサージ気持ちいいし」
「・・・まあ、いいけど」
「マッサージは私も後でお願いねー」
私が湊のそばを離れると、伊織先輩が湊と内緒話のように小声で話してた。まあ、平均的な男子高校生だし、さっき批評もしてたし、たぶん誰がいいとかそんな話だろう。
ちゃんと離れて小声で話しているのは好感が持てる。残念ながらそこら辺のデリカシーがない人達も年齢問わず世の中には多いからなぁ。
「えっとじゃあ、背中いいです?」
「ああ、頼む」
「この白い肌を守るためなんだかきっちり塗ってあげてね!」
「はいはい」
「桐条先輩はよくこちらに来られるんですか?」
「いや、久々、ひゃ!」
「あ、冷たかったです?」
「いや、少し驚いただけだ」
そうなの?さっきまで湊の塗ってたから体温的にはそこまで差が無いと思ってたんだけどな。まあいいか。ついでに簡易的なマッサージも、っと。肩こりは・・・。
「桐条先輩、肩こり酷いですね。本当に女子高生です?」
「ん、普通だろう。肩は普段からこんな感じだ」
「あー、慢性的なのね。はいはい」
「慣れているな」
マッサージくらいはね。
元々、何か手伝い出来る事ってのも少なかったからこういう親孝行的な事を磨いたわけだ。肩回りと首のリンパを揉んでおく。後は腕の動きを確認して軽く叩いてあげればハイ終了。
先輩の体温も上がっているし海に入ってきてどうぞ。
「うわ、ツメテー!!」
「あ、抜け駆けしてる!風花も行くよ!」
「待ってゆかりちゃん!」
「ほら、先輩もどうぞ?」
「君は本当にいいのか?」
「パラソルの下で休んでますよ。こういうのって初めてですし」
「ふむ、なら私も」
「え?」
「ああやってはしゃぐのは性に合っていないだけさ」
目を向ける先にいるのは浅瀬で水の掛け合いをしている二年生組。
湊も混じってさあ大変。伊織先輩が女性陣に掛けていた水を倍返しと言わんばかりに湊が私の持ってきていたカバンを使って水をぶちまけていた。
え、私のカバン?!
かなり焦ったが中身はこっちに置いてあったので良しとする。しかし、二度目はないぞ・・・。
リクライニングチェアに腰かけてその光景を眺めていた。
「・・・いいところだろう?昔はよく来ていたものだが・・・高校生にもなると、さすがにな」
「じゃあ、ここら辺は勝手知ったってところです?」
「そうなるな」
「じゃあ明日にでも屋久杉見に行きません?」
「君は自然が好きなのか。いいぞ」
案内役ゲット。明日の予定も決まったところで、寝転がる。
こういうの憧れだよね!ぐぐっと伸びをしてもこの椅子の全体を使うことが無いのに泣きたくなったが、私の成長期はもうすぐ来るはずなので気長に待つとしよう。
うとうとし始めたらじっと見られている気がして起き上った。桐条先輩は真田先輩と話しているし、二年生組は相変わらず水の掛け合い(一方的)をしていた。
・・・気のせいかな?ゆっくり休むつもりで今度はタオルを顔に掛けて本格的に寝た。気のせい気のせい。
起きたらもう夕方でみんなも帰るところだった。
まじか。海の記憶、寝て終わったよ。
夜、桐条先輩から招集がかかり、全員で大きな部屋に集まった。天井には金持ちの家にある代表格のプロペラの・・・名前が分かんない―シーリングファンというらしい―ので、割愛するが、観葉植物も多くあり、格式が高い事だけわかった。
そこにはあの海賊ルックな常識のない父親もいたので、きっと何かしらお話を聞かせてもらえるらしい。
こちらが挨拶とこの旅の感謝をするも、うむと頷くだけの大人になってたまるか。口にも態度にも出さないがイライラポイント溜まりました。
たばこを吸っているのもマイナス。喫煙者の自由はいいんだけど私たち未成年だしさ、この話の間は止めない?止めない?そっか。
イライラポイント追加しました!!
「美鶴から、大体は聞いているな。左様、全ては大人の、我々の罪だ。私の命ひとつであがなえるのなら、とうにそうしていたところだが・・・今や、君らを頼る他はない」
イライラポイントさらに追加ぁ!!!
死んで終わりとか本当に止めて!!ファンタジーでもそんなのいらんのよ!!生きろや!
父親が言うには、お爺さんはシャドウの力を利用して時を操る神器を作ろうとしていたそうで、それを利用して障害も例外も起こる前に退け未来を意のままにしたかったようだ。
桐条先輩も知らなかったらしい。ちゃんと教えて差し上げろ。
しかし話が壮大すぎて、ピンと来ない。
シャドウが実際にあったから進められた研究だろう。じゃあどうやってお爺さんはシャドウを知ったんだろうか?
知らない状態で出会ったら、私みたいに超絶運が良くないとその瞬間死だろう?
当時は影時間もなかったはずだから通常の時間帯に出たってこと?
お爺さんもペルソナ使いか?
「だが研究は父の指示によっておかしな方向へ進んで行った。晩年の父は、何かとても深い虚無感を胸の奥に持っていたようだ。今にして思えば、父の乱心は、それを打ち破るために始まったのかもしれん。君らがすべてを知りたいと望むのは当然の事だ。私にも伝える義務がある」
明かりが落ち、プロジェクターが動き出す。現場にいた科学者の人が残した事故の様子を伝える映像らしい。
事故現場っていうと、10年前の?え?大丈夫?悲惨な現場だったんでしょ?ちゃんとモザイクとかある?画面の端に死体とか・・・。
想像して真っ青になった。死傷者も多く出たとニュースでやっていた。両親も湊も私もあの日、事故に遭ったのだ。
ムーンライトブリッジの事故もかなり悲惨だった。
始まった映像は瓦礫などは多くあったが、人や血は見られなかった。一安心。音声に反応した岳羽先輩に嫌な予感がする。
というか、このファンタジー、えげつないな。
―未曾有の被害は止められないが、世界の滅亡は阻止したと。
―集めたシャドウは大半が爆発と共に近隣へ飛び散った。悪夢を終わらせるにはそれらをすべて消し去るしかない。
これは恐らく大型シャドウのことを指している。この前おっさんが持ってきた情報と一致している。
じゃあ、なんであの人はこの情報を最初に持ってこなかった?
私の隣にいる岳羽先輩をちらりと見る。
・・・そういうこと?
すべて自身の責任だと語った研究員は岳羽先輩の父親。
責任から逃れたがる人が多い中、きっちりと責任を果たそうとするのはとても素晴らしい人物なんだと思わせてくれるが、これは・・・。
桐条先輩も知らなかったようで動揺している。
「彼は
「まさかっ」
「つまり、私のお父さんがやったってコト?」
同情するのは止めろと部屋から出ていってしまった。空気が地獄だ。
湊をつついて追い掛けさせる。
気になってんでしょ。好感度稼いでおいで。こっちはどうにかしておくから。
目配せで礼を受け取ると、この死んだ空気を断ち切る。
「何点か質問良いですか?」
「ああ」
では早速。この映像隠していた理由って本当に岳羽先輩の事を思ってなんです?
違いますよね?貴方の娘さんが初見な訳ですし。何で今のタイミングで見せてきたんですか?
次にこの映像はどこから出てきたんですか?誰が発見したものです?
凄惨な事故現場でカメラやディスクだけ無事でしたってワケではなでしょう?
どういう経路でアナタの手元まで届いたのか。それらは信用のできるものなんですか?
「私たちは命を懸けています。その情報は信用していいものですか?」
「詠一郎が最後に残したものが間違っていると?」
「・・・」
この人の怒りは当然で、そして心底安心した。岳羽先輩のお父さんは信用していいんだと、思わせてもらえた。なら考えるべきはなんでこのタイミングだったか、かな。
この活動には一人脱落者が出ている。
逆を言えば子供組が感知できているのはその一人とここにいる面子だけがこの世界滅亡の危機を回避すべく動いていることになる。
これ以上脱落者が出ても困るから?情報が足りないなぁ。
この前の話し合いの過程を経たのだからその心配はありそうだけど。
「とりあえず連絡先ください。聞きたいことが出来たら連絡します。桐条の仕事より優先してもらえますよね?世界の危機なんですし」
あくまで強気で。不遜な態度で。こちらの立場が下だと思われないように。面倒なタイプだと思われるように。
この人が黒幕の可能性だって完全に消えた訳じゃないし、この人だって騙されている可能性もある。すべてを疑い出したらキリがないからまず貰ったこの情報は信じよう。その為に頑張ろう。
・・・桐条先輩の視線がとても痛いです。
小難しい情報に、伊織先輩が混乱していたので、影時間になる前に二人を連れ戻して欲しいとお願いしたら意気揚々と出ていった。
うん、適材適所。
なお、戻ってきた湊には睨まれた。いや、ごめんて。岳羽先輩の顔が赤かったから予想は付いた。
~幕間~
「奏ちゃんは最近走ってるけど鍛えてるの?」
「そうともいう」
「ふーん、奏は部活もしてないから普段タルタロス探索だけだもんね」
「私も走ろうかなぁ。ダイエットにもなるし・・・」
「私も部活だけだと体力なかなかつかないしやろっか!」
「えっ」
「ダメだった?」
「いや、気が向いた時と言うか、気分で走ってたのであんまりちゃんと考えてなかったというか」
「ならこれからはやろうよ」
気まずい中でも三人のトレーニングは続くようになった。