八雲家の白い吸血鬼 作:tex
八雲白の名は、実はあまり幻想郷内では知られていない。
幻想郷の賢者達の中では八雲紫──スキマ妖怪の後継者として注目されているが、まあその程度の知名度だ。幻想郷の有力者には知られた名だが、霊夢や魔理沙ほど知られてはいない。だが彼女は普段博麗神社に居候し霊夢と共にいるために妖怪たちは手出し出来ず、結果的に白視点では平和な毎日を送っていた。
そうしてある日のこと。神社の裏──住居部分で自身と霊夢の洗濯物を干していた彼女の元に、金髪ととんがり帽子が特徴的な魔女見習いがやってくる。──霧雨魔理沙。白の数少ない人間の友人だ。
箒に乗って飛んできた魔女っ子がふわりと神社の敷地に降り立てば、白よりも先に霊夢のじとっとした声が浴びせられる。
「──賽銭箱はそこよ」
「妖怪神社の癖に人間から賽銭を集るのか?」
「神社に着たら賽銭して祈るのが普通でしょ」
「何を祀ってるのかもわからんのに。……今日此処に来たのは白を誘いに来たってだけだ。それ以外に用はないぜ」
霊夢とのやり取りが面倒になったのだろう。ひらひらと手を振った魔理沙が神社に来た要件を告げる。
「香霖堂に白を連れて行くって話になっててな。それで来たんだよ」
「はぁ香霖堂? 白あんたまだ行ったことなかったの?」
「母様から話だけは聞いてたけどね。まだ行ったことはないなぁ」
霊夢の質問に、洗濯物を干し終わった白が返答した。
「行く理由も無かったし。そしたら魔理沙が連れてってくれるって事になってね。今回魔理沙が来てくれたのはそういう理由だよ」
「そういうことだぜ」
「……ふーん。まぁいいけど。夕飯までには帰ってきなさいよ」
楽しそうに笑う魔理沙に気分を害したのか。霊夢はどこかトゲトゲした声──だけど優しさが垣間見える声を白にかけ、いつものように急須でお茶を注いで飲み始める。
「夕飯は期待しててね。良さそうなものがあったら買ってくるよ。……あ、お茶の飲み過ぎもだめだよ! じゃ、行ってくるね」
白のかけた言葉に面倒臭そうに手を上げた霊夢に苦笑して、白は神社の外に出た。
「──じゃええっと魔理沙、箒の後ろに乗せてくれるってことで良いんだよね?」
「問題ないぜ。……ちゃんとしがみついてろよ」
魔理沙が箒にまたがって、そのすぐ後ろで密着してしがみつく体制。箒に乗るのが初めての白はビクビクしながら魔理沙にぎゅっとしがみついた。
「……大丈夫だって、ほら行くぞ」
──そうして魔理沙と白の乗った箒が空に浮かぶ。
何かものに乗って飛ぶことのない──その身一つで空に浮ける白にとって初めての感覚だ。
魔理沙にしがみついたまま、そっと視界を周囲に動かす。もうすでに神社は遠くの点のようになっており、魔法の森がすぐ近くに見える。慣れてしまえば白が普通に空を飛ぶ感覚と大差なく、白はリラックスした状態で魔理沙の駆る箒に乗っていた。
「……珠には箒ってのもいいねぇ。自分で飛ぶより楽だ」
「そうかい。妖怪に言ってもらえるなんて、そりゃ光栄だ」
くだらない会話をしつつ、始終穏やかな雰囲気で魔理沙と白は二人だけの箒に乗った空の旅を楽しんでいた。