八雲家の白い吸血鬼 作:tex
──この世のどこかにある、マヨヒガと呼ばれる和風の屋敷にて。一人の女性の前に白はいた。──美しい女性だ。腰ほどまで伸びる綺麗な金髪に、紫のドレス。髪と同じ金の瞳は吸い込まれそうな雰囲気を放っている。
──八雲紫。妖怪の賢者にして、境界を操るスキマ妖怪。白が「母様」と呼び慕う妖怪で、かつて白を地獄からすくい上げ名まで与えてくれた恩人。
「……白。能力の調子はどう?」
「すごく使いやすいし頭がはっきりしていい感じだよ、母様」
紫に渡された紫の宝石のペンダントをつけた白は、ふわふわと宙に浮かびながら笑みを浮かべた。
幻想郷の住民──妖怪たちは大抵「程度の能力」と呼ばれる強大な力を持っている。
勿論白にもあり、名を「あらゆるものを操る能力」という、ちょっとどころじゃない強力な能力を彼女は持て余していた。「姉」程ではないし狂気にも侵されていないが、唯の吸血鬼の少女である白には到底制御しきれる能力ではなく。紫や藍の指導と霊夢の作った御札──封印具で今までなんとかしてきたのだが──ずっとこのままでは埒が明かない。紫くらい白の頭が良ければ完璧に制御し得たのかもしれないが──白にはどうしようもない話だ。今まで曲りなりには暴発はしない程度に操れていたので可能性はあるかもしれないが──今はまだ先の話。
白の付けている紫の宝石のペンダントは、紫の作成したアイテムで白の能力制御の補助道具だ。ペンダントを渡された白はその力に驚いた。──これまでずっと重かった頭と身体が軽くなり、更になんだかよく頭が回るのである。いつもは手間取る能力の制御も苦にならず、空に浮くことだって朝飯前だ。
「……良さそうね。では境界を開いてみて頂戴」
「はい母様」
紫の指示通り、白は紫がいつも開いているように境界を操る。──あらゆるものを操る能力。有機物に限らず、無機物も概念でさえも操ることが出来る、妖怪としてはありえない力。この世の深淵に飛び込むような力である故に、白の吸血鬼たる身体でさえも影響を受けている。──血を飲まなくて良くなったり、流水を克服したのはその副産物だ。彼女が八雲紫に目を付けられたのはこの能力が大きかった。
白の開いた境界は基本的には紫と一緒だが、境界の端に結ばれたリボンが白色だったり、境界の向こうが目玉ではなく星が瞬いていたりと変化点も多い。紫は自身のスキマよりファンタジー感を感じるスキマを開いた白に満足気に微笑んだ。
「完璧よ、では弾幕ごっこの練習も始めましょうか」
「よろしくお願いします、母様」
紫の言葉に頭を下げた白はどこからともなく黒い日傘を取り出して差してから空に浮かび上がる。白と対面するように浮かんだ紫もピンクの日傘を差しており、両者の雰囲気はどこかゆったりとしたものだった。
互いの足元と背に妖力陣が浮かぶ。──紫と白の陣。
マヨヒガの屋敷の庭で、母と娘の弾幕ごっこが始まった。