八雲家の白い吸血鬼 作:tex
──汚いな、と思った。
自身の髪の色のような真っ白のドレスだったものは既に原型はなく。ボロボロで真っ赤に染まっている。
本来はフリルや優美な装飾のついていたであろうドレスだったものを身体に貼り付けて、少女は同じく血まみれのベッドに唯座り込んでいた。
──あらゆるものが真っ赤な部屋だ。窓もなく、唯一存在する外の世界へ通じるドアは外側から鍵が閉まっている。
背中から揺れる片翼──左にだけある透明な宝石をぶら下げたような翼だけが血に汚れていない。足には鎖のついた足枷がついており、これが少女をベッドの上に縛り付けていた。天蓋のある、ゆうに3人や4人は眠れる程に大きな立派なベッド。
少女を閉じ込めていた鳥籠──地下室のドアが軋む音を響かせながら開く。
現れたのは金髪に紅のドレスを着た少女だ。部屋の中にいる少女の片翼によく似た──けれども違う翼を持った少女。透明な宝石ではなく水色を始めとしたカラフルなプリズムのようなものをぶら下げた両翼。瞳の色だけは少女と一緒だ。
「──相変わらず再生が早いね。流石不死。私の能力でもほぼ意味を成さないとか、どうなってるの?」
知的で落ち着いた少女の発言に、ベッドの上にいる少女は何も答えない。ただガラスのような瞳を向けているだけだ。金髪の少女はベッドに上がり、少女の頬を両手で包み込む。笑顔を浮かべたまま、少女を安心させるかのように。毒を注ぎ込む。
「……ねぇエア。私はエアの味方だよ。だってエアはお父様をも操ってしまった悪い子だものね。私がいるからエアはここにいられるんだから、分かってるよね?」
──「あらゆるものを操る程度の能力」。エアと呼ばれた少女の父親は少女の力に恐怖し、「あらゆるものを破壊する程度の能力」を持つ姉を利用して屋敷の地下に幽閉して。不死であるエアに興味を持った少女──姉であるフランドールの「ペット」として過ごす日々にエアの心は摩耗して、いつしかエアが外に出ようとすることはなくなった。
──ごめんなさい、お父様。お母様、レミリアお姉さま、フランドールお姉さま。
フランドールに抱きしめられた少女は己の力を恐れ、嘆き、全てを諦めていた。フランドールに破壊されることさえ、エアにとっては嫌なことではなかった。罪を犯した自分にはふさわしいとさえ思っていた。
──今でも思い出す、お父様がエアを見た時の恐怖と畏怖の表情を。感情のない、冷えた言葉を。
今の私はお姉さま達の慈悲で生かされているのだと、光の差さない暗い地下室のベッドの上で思い知らされながら。吸血鬼でありながらアルビノの少女は、無表情でフランドールのぬくもりに身を任せる。閉じられた世界で少女はゆっくりと、その紅の瞳を閉じた。