八雲家の白い吸血鬼 作:tex
「──はい、文々。新聞の定期購読ありがとうございますー」
「此方こそ助かるよ、文の新聞は楽しみにしてるんだ。またよろしくね」
博麗神社の裏庭、住居部分にやってきた射命丸文から白は新聞を受け取っていた。まだ紫のように能力で自由自在に幻想郷の情報を得ることの出来ない白にとって、文の新聞は情報を得るためのツールとしても、娯楽としても大切なものだった。
白が文の新聞を好んでいることを霊夢は嫌そうにしていたが、何だかんだで文の新聞は読んでいるためそこまで険悪ではない。八雲の後継者候補である白と妖怪の山を縄張りとする天狗の文はその立場故に関わることが非常に多く、同じく鴉天狗で同僚の姫海棠はたてと一緒に何だかんだで仲良くしていた。妖怪の山も本来は部外者である白だが文達のお陰で普通に入ったりすることができている。文やはたて様様だ。
因みに霊夢は人里に出かけている。なんでも人里の有力者、稗田阿求と会う約束をしたそうだ。そのため、今の神社には白と文しかいなかった。
白の感想に、嬉しそうに微笑む文。
「白さんは本当に記者にとって嬉しい言葉をかけてくれますね、そういえばこの前の山菜はどうだった?」
「美味しかったよ。やっぱり新鮮な山菜は天ぷらにするのが一番だね。妖怪の山の山菜を食べると外の世界のじゃ物足りなくなっちゃうのが難点だなぁ」
「やっぱり外の世界の山菜とは違うのかしら?」
「そうだね、母様が外の世界で買ってきて下さったんだけど、全然みずみずしくなくて。時間がたってたからかもしれないけど。外の世界の人間は可哀想だなって思ったよ」
神社の住居部分、縁側に座って白の淹れた緑茶を飲む文に山菜について話しながら、さらっと新聞に目を通す。
「……平和だねぇ。人里もなんもないし。雪が降り始めたらまたなんかあるかもしれないけど。冬支度くらいかぁ」
「そうね、まぁ平和なのは良いことでしょ。かの妖怪の賢者だってそう思ってるわ、きっと」
──今日も幻想郷は平和なり。それを体現するかのように新聞記事の内容も平和そのもので。唯一気にかかるのが風見幽香の移動くらいだが、これはいつものことだ。彼女は季節によっている場所を変える。移動する場所は基本的に花畑なので、予想が付きやすいからいいのだが、風見幽香自体が幻想郷でも最強クラスの古い妖怪である。人里がざわつくのが目に見えるようだった。
「……人間にとって妖怪は恐怖するものだからね。特に幽香は戦闘狂だし。今回の場所は人里に近いし、またざわつきそうだ。後は人里の甘味屋かぁ。これは藍様と一緒に行ってみようかな」
「彼女はどうしようもないものね。……鯛焼きっていうらしいんだけど、美味しかったわよ。つぶあんが最高ね。お汁粉のお店もオススメよ」
双方甘味好きなためか、人里の甘味屋について話が弾む。ふたりとも妖怪の癖に人里によく遊びに行く為、話が合うのだ。それぞれの人里に行く目的としては白は買い出しと暇つぶし、紫に連れられての後継者候補として将来の幻想郷の管理の仕事の体験で人里の有力者との顔合わせ、で文は新聞の為の取材、甘味屋である。日本古来の妖怪であり、強大な力を持つ天狗でありながらそれなりにフレンドリーな文は人里の人間とも友好な関係を築き、白は白でその幼女のような姿が人間に受けて仲良くしていた。
「今度時間があったら一緒に行かない? 紹介してあげるわよ」
「ほんと? 嬉しいなぁ。その時は奢るよ。いつなら空いてる?」
「じゃあ──」
──鴉天狗と八雲の名を持つ吸血鬼は、甘味について年頃の少女のように騒ぎながら話し続けていた。