八雲家の白い吸血鬼 作:tex
──その日は白が楽しみにしていた人里の甘味屋に向かう日であった。
こう見えて案外白は忙しい。普段白は博麗神社で霊夢と同居しているが食事の準備等は全て白が担当しており、加えて怠惰な霊夢の代わりに神社の掃除といった家事雑事全般を片付けることも多い。これだけでかなり時間を食うが、八雲紫の次期後継者候補としての訓練も行われる時がある。
白の能力「あらゆるものを操る程度の能力」の制御訓練とスペルカードの考案、弾幕ごっこの練習と課題は山積みだ。八雲家で夕食をご馳走になることもあるが、霊夢の機嫌が悪くなることと白がいないとまともな食事をしないこともあって、基本は神社で夕食を作ることになる。魔理沙が来れば3人分だ。
大抵上記のやる事をこなしていれば一日が終わってしまうので、白が自由に動ける時間は割と貴重だった。
空から雪がちらついており、白は日傘をさしてふわふわと飛びながら人里へと向かう。
既に雪は積もっており、神社などあらゆる建物は白く化粧されていた。白は能力であまり寒さを感じないが、郷に倣えということで黒いドレスの上に同色のあたたかそうなケープを羽織ってブーツを履いていた。これらは全て紫が用意したもので、ちゃんと片翼用に穴も空いている。
真冬の冷たい、澄んだ空気が心地良い。途中で氷の妖精──チルノだったか――と緑の妖精が楽しそうに雪遊びをしているのを見つつ、人里へ向かい文から聞いた甘味屋へと向かう。まずは鯛焼きだ。
文から聞いた場所へと向かえば、小さな屋台があり上から湯気が出ている。中にいた壮年の男性に話しかけて、つぶあんとこしあんの鯛焼きを3つずつ購入。霊夢へのおみやげだ。温かいできたての鯛焼きをかじりほかほかのあんこの甘さで暖まりながら次に向かうのはお汁粉屋。
ここは屋台ではなく小さいながらも甘味屋をやっているお店だ。中に入って椅子に座って渡されたお品書きに目を通していれば、後ろから声がかかった。少女の声だ。
振り向けば、後ろの席に人間の少女が座っていた。紫色のセミロングに花飾りをつけた可愛らしい少女で、上に着ている黄色の中振り袖が華やかだった。全体的に良いところのお嬢様、といった様子の少女の容姿を、白は紫や霊夢から聞いたことがあった。──人里の有力者。その名を──。
「……稗田阿求さん、だったっけ。「幻想郷縁起」の編纂をしていると聞いてるよ」
「……もう既にお知りでしたか。そうですね。私は稗田阿求といいます。貴方のおっしゃった通り、幻想郷縁起という書物の編纂を生業としている者です」
そう言って阿求は白に向かって頭を下げた。
「これはどうもご丁寧に。私は八雲白。君の事は霊夢や紫から聞いてるよ。大変だねぇ」
「貴方が白さんでしたか。……幻想郷縁起のことですか? 確かに大変ですが、とてもやりがいのある仕事ですよ。私達御阿礼の子に課せられた使命でもありますし」
お品書きを見て注文する品を考えながら、白はゆっくりと阿求と談笑する。阿求の前には既にお汁粉と緑茶があり、どちらも湯気が出て温かそうだ。
「……やっぱり無難にお汁粉かな。あんみつはまたの機会にしよう」
一旦話をストップさせ、店員を呼んでお汁粉と抹茶を頼めば、阿求は物珍しそうに白を眺めていた。
「……なにか?」
「いえ。……貴方妖怪ですよね。なんだか手慣れているなぁと」
「人里にはよく来るからね。ここのお汁粉の事は文から聞いて、興味があったから来てみたんだよ。まさか阿礼乙女に会えるとは思ってなかったけどね」
「文……あぁ、文々。新聞の射命丸文さんですよね、鴉天狗の。お知り合いでしたか」
どうやら阿求も文の事は知っていたらしく、スムーズに話が進む。話が進む中で、白自身について興味を持ったのか少しずつ内容が白の個人的なものになっていく。
この辺りは流石「幻想郷縁起」の編纂者であるというべきか。幻想郷の妖怪の1体でもある白について興味をもつのは実に彼女らしいといえた。白も適当に誤魔化しながら、注文したお汁粉が来るまでの時間、話に付き合うことにした。
「──白さんは霊夢さんと同居しているんですよね、霊夢さんのことはどう思っていますか?」
「手のかかる友人って所かな。巫女としての実力や才能は最高だと思うけどね」
「白さんはいつ頃幻想郷に来られたんですか?」
「それなりに前かな。母様……八雲紫につれてきてもらって……詳しい年月は数えてないからわからないや」
「家族などはいますか?」
「……八雲紫を始めとする八雲の妖怪たちが家族かな。血の繋がった家族もいたけど、もう捨てた名だから関係ないね」
息を付く間もなく浴びせかけられる質問に、白はさらさらと止まること無く答えていく。……それにしては面白い人間だ。人間の癖に妖怪に近づく度胸と意思。自身の運命を悲観せず、唯使命の為に生き急ぐ人間。
更に阿求が質問しようとした時に、丁度白の元にお汁粉と抹茶が運ばれてくる。質問に答えるのは甘味が来るまでの間だけ。白はさっさと椅子の向きを戻し机に向かって、紫からならった食事の挨拶をしてから箸を持つ。文から聞いてずっと楽しみに待っていたのだ。目をキラキラさせながらお汁粉のお椀と箸を持った。
完食し、抹茶を飲んで一息。
背中に阿求のものらしき視線がびんびんに突き刺さるが無視して会計に向かい支払いを終えて甘味屋を出れば、もう夕方だ。甘味屋のお汁粉の味を思い出してほうっと息を吐く。
(……君とはまた違う場所でゆっくりと話をしてみたい所だね、稗田阿求)
今日出会った好奇心旺盛で意思のつよい人間の少女を思い浮かべて、白はくすりと微笑み──夕飯の買い出しの為に人里のお店、八百屋の方へと向かっていった。