八雲家の白い吸血鬼 作:tex
「ごめんね、────」
──その悔恨は、もう二度と届かないと思っていた。
始まりは、吸血鬼の弱体化だった。
外の世界、人間は科学の発展と共に「未知」を解明し、共に恐怖を克服していった。妖怪は恐怖されなくなり、外の世界から少しずつ「幻想」として消えていく中で──吸血鬼もその流れから逃れることは叶わなく滅びの危機に瀕していたのである。
これはプライドの高い吸血鬼には到底認められないものだったが、時代の流れは最早どうしようもない。同族が消え続け遂に全盛期の三分の一をきった時、彼らは現実を認識せざるを得なかった。──もう吸血鬼の時代ではないのだと。彼らが優雅に人間を捕まえて血を吸い、我が物顔で月夜の空を飛べたあの輝かしい時はもう戻ってこないのだと──そんな中だった。幻想を受け入れる秘境の話がどこからか流れてきたのは。
そこでは多数の妖怪が消滅の危機に侵されず自由に暮らしているという。吸血鬼達は沸き立った。──そこなら自分達がまた頂点に立てるのではないか、と野望を抱いた。
──その様子を、冷めた風に一人の少女が見つめていた。
「八雲白」の名を持つ、奇妙な片翼を持った幼い吸血鬼の少女だ。両端に白いリボンの結ばれたスキマに座って黒い日傘を差したゴシックドレスの少女はつまらなさそうに欠伸をする。紫の命令で観察しにやってきたはいいものの、やっぱり嫌いだ。
彼らを見ていると、忌々しい過去が思い出されてしまう。
あの頃の少女は無知蒙昧で、愚かで。自身のことながら怖気がするほど純粋だった。
真下の吸血鬼の男性は興奮したように吸血鬼の女性に「幻想郷」の事を話している。……この様子なら、近いうちに吸血鬼達が幻想郷に侵攻してくるだろう。
(……愚かだ。かつての栄光を忘れられないなんて。──他の妖怪が自分たちより弱いものだと信じて疑っていない)
紫が吸血鬼の侵攻についてあまり心配していなかったことから予想はついていたが、これはひどい。スペルカードルールの浸透の為に利用するという話だが、この様子なら簡単に乗ってくるだろう。我が同族ながら、呆れたことだ。
ため息をついた白は日傘を閉じてから、ふわりとスキマに飛び込んで姿を消す。
──白の様子を、遠くから見ていた一人の吸血鬼の少女には気付くことなく。
「……どうしたの、レミィ」
「──幻想郷。貴方はそこにいるのね──エアフィール」
運命を見つめる青がかった水色の髪をした吸血鬼の少女は──窓際に立ち、その手を夜空の遠くに伸ばした。