ここはホロライブ。
今世界的に注目を浴びているタレント事務所である。
この事務所では、多くのアイドルVtuberが輝かしい活躍を見せ、多くのファンを獲得している。
俺こと『
しかし俺にはあまり人には言えないことを隠している。
それは特撮が大好きということ。
小さい頃から仮面ライダーやスーパー戦隊に熱中し、その情熱20代になった今でも衰えることはなく、むしろさらに燃え盛っている。
しかしそれを同僚やホロメンのみなさんに話したことなんてない。だっていい年下大人がいまだにヒーロー離れできてないとか、正直言って恥ずかしい。
だから今日まで誰にも自分の趣味を話したことはなかった。
「空っぽの星〜時代をゼロから始めよう〜っと」
今日も平成ライダーシリーズ第1作目『仮面ライダークウガ』のOPを口ずさみながら、次の企画書の作成を進めていた。
「ふぅ……こんなものかな」
「章二さーん!」
「ひゃい!?し、白上さん、なんですか?」
ホロライブに所属するアイドルの1人である猫?の獣人『白上フブキ』さんが、突然ドアを蹴って入ってきた。
というか白上さん、こっちはノミの心臓なんだからその入り方勘弁してください。
「狐じゃい!そんなことより、見てくださいよこれ!!」
そう言って白上さんが見せてきたのはなんと、『仮面ライダーオーズ』のブルーレイコレクションだった。
「えーっと…白上さんこれは一体?」
「いやぁ〜前から買おうと思っていたんですよ。それでようやく手に入ったから章二さんと見ようと思って!」
いや、いやいやいや。おかしい。
白上さんがオーズファンなのは知っていた。以前特撮好きで有名な吸血鬼Vtuberのルル=ルチカ様とコラボしていたのは記憶に新しい。というかその配信俺も見てた。
それはまあいい。でも問題はその次だ。
「いや、なんで俺と?1人で見ればいいじゃないですか」
「?だって章二さん特撮大好きじゃないですか。オーズも当然履修済みですよね?」
「ちょっと待ってください!え?なんで俺の趣味知ってるんですか!?」
「だって結構前に章二さんが休憩中にリバイスを見ていたのを、シオンちゃんが見つけてそのままTwitterに拡散してたんですよ」
「ウソダドンドコドーン!!!!」
衝撃の事実に思わずオンドゥル語になってしまった。
何してくれてんだあのクソガキ!!!あいつにはプライバシーってものがないのか!!!
「それに普段から特撮ソングを口ずさんでたら流石にバレますよ」
あーーーっ言われてみればそうだぁー!!!
お……終わった……これから俺は幼稚なオタク野郎として軽蔑の眼差しを向けられ続けるんだ……
「まあいいじゃないですか。章二さんが特撮大好きでも、白上たちは別にバカにしたりなんてしませんよ」
「え?でも女の子にとって特撮好きの大人なんて、いつまで経ってもヒーローから卒業できない幼稚な奴でしかないはずでしょ?」
「それは流石に偏見が酷すぎませんか!?白上もオーズが好きなんですからそんなに怖がらなくていいですよ!」
「そ、そうなんだ……よかったぁ……」
「というわけで!早速第一話を見ましょう!」
いろんなことが杞憂に終わり、と参ってる俺の心情を知ってか知らずかは不明だが、事務所の一室をお借りして、白上さんとのオーズ鑑賞会が始まってしまった。
そして……
『お前が掴む腕は……もう俺じゃないってことだ』
「「アンクぅぅぅぅぅ!!!!」」
最後には2人揃って号泣した。
やっぱオーズの最終回は泣いちまうって。
ヒビの入った自分のコアを渡して変身なんて最初の頃じゃ絶対に考えられなかったもの……
平ジェネFINALで映司とアンクの2人が揃った時なんて、もう興奮しすぎでわけわかんなくなったんだから…。
「うぅ……もう何回も見たのに……なんで涙が……」
「続編絶対観に行かないと……」
いつかの明日をこの目に焼き付けなければ特撮ファンの名折れだ。公開当日の朝イチで駆け込んでやる。
「あのー…実はもう一つ見せたいものがあるんですよ」
「えっ、見せたいもの?オーズドライバーのDXとかですか?」
「違いますよ!これです!」
「そ、それは!」
白上さんの手に握られているのは、オーズの続編の完成披露舞台挨拶のチケットだった。
「えへへ……実はBlu-rayと一緒に買っちゃったんですよ。よかったら一緒に観に行きませんか?」
舞台……挨拶……?
ちょっと待て落ち着け、舞台挨拶ってことはつまり……生の渡部さんや三浦さんをこの目で拝むことができるということ!?マジか!!!そんなことがあっていいのか!?
「白上さん!!!!本当にありがとう!!!!」
「ふぇ!?ちょ、近いですよぉ!」
「よっしゃぁ!こうなったら来週までに劇場版や平ジェネFINALも全部見返すしかねぇ!!!」
もう俺の心火は誰にも止められねぇぇぇぇ!!!!!
「やったぁ…章二さんと映画デートだぁ……」
白上さんと映画の約束をした翌日。俺は昨日の己の言動を恥じいていた。
よくよく考えれば一スタッフが、今をときめく人気アイドルと一緒に映画に行くなんて、側から見れば完全にデート……あかーーーーーん!!!!
「ダメだぁ!!!アイドルが男とお出かけなんて!万が一ファンに知られたらいろんなとこからはちゃめちゃが押し寄せてきやがる!!!」
最悪の事態を予想すると体の震えが止まらなくなるが、せっかく誘ってくれたのに今更断るなんてことはできるはずもなく、まるで死刑執行を待つかのような気持ちで日々を過ごしている。
「へへへぇ……章二と映画デートぉ…」
「いいなぁ…フブキばっかり」
「こうなったらウチもオーズを見るしかない!」
そんな俺の不安をよそに、今回のことがきっかけでホロメン内で特撮ブームが広がりつつあるのを、この時はまだ知る由もなかった。
石谷章二
ホロライブのスタッフの1人。
20代にして特撮を愛し続ける日本男性の模範のような存在。
ウルトラ、ライダー、戦隊の日本3大特撮はもちろん、超星神シリーズやトミカヒーローシリーズなどのマイナーな特撮も好んで見ている。
本当は某楽しい時を作る企業に入社するつもりだったが、なんの因果かホロライブに入社することになった哀れな男。
コミュ障というわけではないが、興味のあることじゃないと会話が長続きしないタイプで、日々アイドルたちとの会話に苦労している。
大した特技などがないからか、自己評価が低い豆腐メンタルで、ちょっとしたことで自分を卑下し泣き出す。そのくせ承認欲求が割と強く、好きなものを誰かと共有したいと思ってる面倒臭い性格。
実は特撮好きVtuberとしてデビューし、あらゆる特撮を布教しようかと考えていた時期があるが、ルチカ様をはじめとしたVtuberが既にいた為あえなく断念した。
名前の由来は石ノ森章太郎と円谷英二。