魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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10.遺跡調査

 翌日。

 ギルドから外出をせずに英気を養ったレフとノエルは、朝食を酒場で済ませて、ギルドのホールに並ぶテーブルの一つにいた。

 ホールの時計は九時を示している。

 ギルドの窓口には、昨日の迎撃戦に参加したらしき賞金稼ぎたちが何組か並んでいる。

「おはよう、レフ。ノエル」

 ディーンが声をかけてくる。

「おはよう」

「おはようございます、ディーン」

 ディーンは空いている椅子に座ると、昨日の襲撃のことを話しだした。

「昨日は大変だったな。襲撃なんぞ久しぶりだったから、驚いたぜ」

「襲撃は滅多にないんですか?」

ノエルが訊く。

「定期的に、遺跡の魔物を減らしてるからな。今回はそれとは別の、レフが見つけた遺跡から来た魔物らしいが、それも驚きだよ」

 肩をすくめるディーンに、レフも頷く。

「粗方斬ったと思っていたから、それについては同感だ」

「だろうな。お前は一人で見つけた遺跡の魔物を、ついでに一人で間引きして帰ってくる奴だ」

「誰が言うんだ、そんなこと」

「“剣聖”の愚痴を誰かが聞いたらしいぞ?ろくに魔物が残ってないから修行にならない、って」

「その誰かとやらは、随分なお喋りのようだな」

「ここまで伝わってくるくらいだからなあ。そんで、お前さんらはこんな時間から何をするんだ?」

「クラナッハに同行して、遺跡調査だ」

「ありゃ、“剣聖”と組むのか。レフの戦いぶりは昨日に限らず見てるから納得だな。そうだ、戦いぶりといえば。ノエルも強いなあ。昨日は助けられたぜ」

「いえいえ」

「あの大物へのトドメなんか、すごいインパクトだったな。一発目はぶっとい魔力光線、二発目は虹色の光線ときた。大群への対処もばっちりのようだしな。レフが羨ましいよ」

 レフはフッ、と笑いを漏らしてから言った。

「やらんぞ」

「貰わんさ。レフに懐いてそうだしな」

「動物ではなかろうに」

「えへへ。でも、レフのことは信頼してますよ」

 ノエルが笑いながら言う。それに対してディーンは茶化すようにレフに言った。

「だとさ」

「ああ、俺もノエルは信頼できると思うぞ。でなきゃ賞金稼ぎなんて危ない仕事はさせん」

「あーあー。独り者のレフが絆されちゃってからに」

 ディーンはまた肩をすくめた。

「グリエット、ノエルさん」

「む」

「あ、おはようございます」

「お?“剣聖”じゃねえか」

 レフの後ろからイーリスの声。ノエルは気づいて挨拶し、ディーンは有名人の登場に感心した声を上げる。

「あなたは?」

「俺はディーン。このレンフェストで活動してる賞金稼ぎさ」

「ああ、昨日ノエルさんに助けられていた方ですね」

「ひでえや。ま、死角に回り込まれちまったからなあ」

「そのようでしたね。でも、けっこう腕は立つ方だとお見受けします」

 イーリスの言う通り、ディーンは賞金稼ぎになって長い故に経験が多く、腕も立つ方である。

「褒め言葉は光栄なんだが………。ま、クラナッハさんやレフには及ばんなぁ」

「そう卑下することもなかろうに。俺から見て、お前との依頼はやりやすいぞ」

「嫌味………じゃないな、レフの場合。まあ、俺は俺で地道に頑張ってるさ」

「ベテランさんなんですねえ。そういう人って、安心感がありますよ」

「へへっ」

 ノエルに褒められて、ディーンは笑って頭を掻いた。

私って親しみづらいのかしら………。あ、それよりも。そろそろ出発の準備をしましょう」

 その言葉に、レフは時計を見る。時計は九時半を指していた。

「了解だ。ディーン、またな」

「おう」

 レフとノエルは立ち上がり、イーリスに付いてギルドの奥に入っていく。宿泊区画や酒場とは別の場所だ。着いたのはギルドの打ち合わせ室。ここで同行して記録をするギルド職員や、護衛の賞金稼ぎと共に打ち合わせをする。

 レフたちが椅子に座ると、職員の一人が立ち上がって話しだした。

「昨日の迎撃戦の後に、改めて偵察のパーティが遺跡の位置特定を行いました。ですので、私達は馬車で直接向かえます」

 詳しい地図がテーブルに置かれている。レフも一昨日に大まかな位置を報告したが、この地図ではより詳細な位置が記されていた。

「“剣聖”のイーリス・クラナッハさんに加えて、今回は遺跡発見者の“発掘士”レフ・グリエットさんも同行して頂けることになりました。それと、賞金稼ぎとしては新人ですが、ノエル・トラントゥールさんも同行者の一人になります。今挙げたお三方は、昨日の迎撃戦でも大きな活躍をされているので、戦力としては充分と判断しました」

 他の賞金稼ぎのうち、ハンスと名乗っている一人がため息を吐いて言った。

「俺たちが霞むなあ」

「いいえ。私たちがたとえ強くとも、貴方がたがいる方が安心できますよ。それに今回探索するのは、昨日のあの魔物が来た遺跡ですし」

 イーリスが賞金稼ぎの言葉に答える。レフやノエルとしても同感だった。人一人に出来ることには限界がある。

「そうですね。前衛と後衛がいてこそ、安心して調査が出来ますから」

 ギルド職員の言葉に、ハンスは軽く笑って頷いた。

「フ、それもそうだな。俺は俺の仕事をするだけだ」

「それでは、出発致しましょう」

 ギルド職員が先導して、一行は通りに出て馬車へ乗り込んだ。

 

 

 幌付きの馬車には、装備を身に着けた賞金稼ぎとギルド職員が合わせて九人乗っている。少々狭く感じるが、徒歩で遺跡へ向かうよりは余程楽だった。

 レフは目を閉じて腕を組み、黙っている。

 ノエルは遺跡のことを考えていた。と言っても、ノエルが覚えているのは起きてから脱出するまでのこと。

 レンフェスト中心部の城のことは覚えていたのだが、どういう経緯で遺跡に入り、眠っていたのかを考えようとすると、自分のことなのに反発を感じるのだった。

「遺跡に、魔物はいるのでしょうか」

 イーリスが言った。レフが目を開けて答える。

「分からんな。俺が探索した時減らした上に、襲撃でかなり減っているから、少ないと見るのが普通だが」

「そうですよね」

 あの魔物のようなボス級がまだ居たとしたら、レンフェスト自体の対処能力を超えるかもしれない。

「ギルドにも報告したように、俺は五階層分を探索した。だが、それより下がないとも限らん」

 賞金稼ぎなら誰でも、遺跡探索で油断が禁物であることはよく知っている。

 レフの言葉にはハンスが答えた。

「ま、遺跡調査はそういうもんだろう。俺とアンリ、マルタだってベテランだ。後衛は任せておきな」

 ハンスとアンリは男性の賞金稼ぎだ。一方でマルタは女性である。ハンスとアンリが剣士、マルタは接近戦に備え、刃のついた短杖を携えた魔術士である。

 三人はレンフェストでは名の知れたベテランのパーティなので、今回の遺跡調査に抜擢された。

 後衛はギルドの調査員の護衛でもある。調査員の三人も戦闘の心得がある者たちだが、調査中に襲われれば対応できないこともあるので、護衛をつけている。

「ああ。頼むぞ」

 レフはそう言って、再び目を閉じた。馬車はゴトゴトと音を立てて進んで行く。

 

 

 

 馬車が森へ到着したのはちょうど、太陽が真上に見える頃だった。

 レフたちが乗ってきた馬車の他に、補給物資とその護衛を積んだ馬車もいる。彼らがキャンプ地を設営し、長時間の調査にも備える。

 レフたちはそのまま森の奥、遺跡に徒歩で向かう。

 やがて、木々に隠れるように存在する入口が見えてきた。ここまでは先行偵察のパーティによって正確に記録されている。

 レフたちはこの入口の中を記録する調査班だ。

 レフたち剣士は剣を抜き、ノエルは射法具を、マルタは短杖を持つ。

「時刻は………十二時十五分。これより、レンフェスト北北西の遺跡調査を開始します」

 調査員の一人が、懐から取り出した小型の時計を見て言った。あのタイプは動力に魔力を使ったものだが、制作に時間がかかるので限られた者くらいしか持っていない。

 各々が了解の声を出し、レフとイーリスを先頭に、遺跡への階段を下っていく。

 第一層の時点で地下にあるため、視界は暗い。レフたちは魔力灯やランタンをそれぞれに点灯させ、進んでいく。枝分かれした道や部屋などを隅々まで踏破し、調査員が紙にそれを記録していく。

「………魔物、いませんね」

 ノエルが言った。

 彼は腕を伸ばさず、抱え込むような形で射法具を構えている。これは閉所で戦闘する際の構えだ。

「とはいえ、ま一層目です。しかし、この遺跡は通路が広い」

 イーリスが答える。彼女は最初、迎撃戦で使っていた大振りの業物を背負ったままにレフと同じような短い剣を構えていたが、今は大振りの剣を構えている。

「ギルドにもそのことは報告しておいたが、やはり広いな」

 レフが魔力灯で遠くを警戒しつつ言った。遺跡の通路の幅は、ゆうにレフの身長三人分を超える。激しく動かないなら、余裕を持って剣を振り回せる。

「よし、この階層の地図はこれで良いでしょう。次の階層へ向かいます」

記録員がそう告げ、九人は二層目へ続く階段へ向かった。

 

 

 

「………静かすぎるな」

 レフが呟く。

 現在一行がいるのは四階層目。ここまで、一回層目同様に地図を作成しつつ降りてきたが、魔物の一体にも遭遇していない。

「拍子抜け、と言いたくなりますね」

 とイーリス。レフたち賞金稼ぎは皆警戒を解いていないが、同感だった。

 暇に耐えかねたか、アンリが軽口を叩く。

「しかし、レンフェスト北北西の遺跡、ってのは味気ないな。発見者のグリエットが命名でもしたらどうだ」

「遠慮しておく」

「そうかい。しかし、こうも魔物が来ないと暇だな」

「空っぽの遺跡なら、これからちょくちょく間引くあたしたちには助かるわ」

「そりゃそうだが………」

 アンリとマルタの会話を聞きながら、ノエルは遺跡の壁や地面を見渡していた。魔力盾を光だけ放つように展開し、レフの魔力灯と同じように使っている。

 だがどれだけ見てもやはり、ノエルの記憶に浮かんでくるのはレフに起こされてからのことだった。

 

 

 

「………結局、何もなしか?」

 五階層の最深部、ノエルが眠っていた部屋に一行はたどり着いた。

 レフの言葉通り、五階層目にも魔物はおらず、また更に下層への階段や穴もなかった。

ノエルが眠っていた部屋も、レフが最初に訪れた時と何も変わらないように見えた。

「まあまあ。レンフェストの人たちにとってはこの方がいいんじゃないですか」

「それはそうだがな」

 レフからすれば徒労感がある。何かがあるかもしれない、と考えて調査に同行したと言うのに。

「………あるかもしれない、はないかもしれないと同義か」

 そんなことは当たり前のことだろうに、とレフは自嘲した。

「………あら?」

 イーリスが声を上げた。

「どうした」

 すわ新発見か、とレフはイーリスを見る。

「陣があります」

「陣?」

「ええ。円形の紋様です。まるで、魔法陣のような」

 レフはイーリスの言った場所を見る。そこはノエルが横たわっていた場所だった。

「………こんなもの、一昨日探索したときにはなかったと思うが」

「僕も同感です」

 あれば気づいている筈である。その陣を囲む円の直径は、だいたい大人の身長ほどだ。

 現在主流の魔術において重要なのは、一にも二にもイメージである。自身の体内の魔素や、取り込んだ魔素を基に、イメージによって魔力を熱や電気として、或いは魔力の刃や盾として発現させる。

「魔法陣、か」

 調査員がその陣を書き取っているのを見つつ、レフは呟いた。

 魔術の行使に魔法陣を使うことも、ないわけではない。人間のイメージを補助するのに、文字や紋様を利用することがある。それを魔法陣と言うのだが、紙などの筆記具が必要なため実戦使用には難がある。だから、魔法陣は使われにくい。

 あるいは魔物が、魔法陣を描いたのだろうか?だが、そのような知性を持つ魔物は概して大きい。この遺跡の通路は広いが、かと言って大きな魔物が通れるかと言えば………。

「………他に特筆すべきことはないようですね。これでこの遺跡の調査は完了です」

 調査員の宣言でレフは思考を中断する。これまで出会さなかったからと言って、遺跡からの脱出で魔物が来ないとも限らない。

「ノエル、何か思い出したことはあるか」

 念の為、ノエルに小声で訊いておく。だが、ノエルはただ首を横に振った。

「そうか」

 レフはそれを見て、今度こそ脱出に集中することにした。

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