魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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今回の投稿に先立って、全話にサブタイトルを付けてみました。


11.移動手段

「帰ってきてしまった………」

 ギルドの宿泊区画、16号室。

 扉を開けて部屋に入ったレフは、落胆しながら口走った。調査を終えた調査班がキャンプ地を撤収し、馬車でレンフェストまで戻ってきて、現在は夜である。

「魔法陣だけでしたね、それっぽいの」

「それとて正体がわからないと言うだけだからな………」

 身軽になってから椅子に座って、レフとノエルは会話を続ける。

 一応、魔法陣はレフもノエルも、ギルドブックにメモを取っておいてある。

 だが、遺跡調査に同行した成果はこれだけである。

「報酬が出るからいいがな」

 レフはテーブルに頬杖をつき、不機嫌そうに言う。

 ノエルはギルドブックの魔法陣を書いたページを見ながら、レフに訊く。

「魔法陣を使う魔術士って、居るんですかね」

「今じゃ、イメージの具現化に必要な想像力さえあれば使えるからな………。いるとしたら古代魔法の研究者くらいだろう」

「中心部の方には、そういう人もいるでしょうか?」

「そうだな………。確かに中心部なら、一人くらいはいるだろう。会えれば何かわかるかもな」

 そう考えると、徒労感も多少は薄れると言うものだった。腐っても仕方ない、とレフはリラックスした姿勢になり、目を閉じて深く呼吸する。

「それにしても、レフって意外とものぐさ?」

 からかうようなノエルの声色。レフが目を開けてノエルを見ると、優しげに笑っている。

「ものぐさは無いだろう。賞金稼ぎをしていれば、実入りのない行動はしたくなくなる物だ」

 するとノエルは、首を傾げて訊き返す。

「そんなに余裕がないんですか?」

「無い訳ではないが………昔の苦労を考えるとな。一人で仕事を探す所から始めたんだ、俺は」

「昔から一人なんですか?」

 レフは賞金稼ぎになった頃を思い出す。

「ちょっとしたトラブルのせいで、組んでくれるような賞金稼ぎが居なくてな。剣には自信があったから、一人で問題ない依頼から始めた。昨日のような迎撃戦に参加したりな」

 本来ならベテランなどとパーティを組んで経験を積んでいくはずが、レフは一人で経験を積むことを強いられたのだった。

 ノエルはレフの話を聞いて、寂しげな顔をする。

「なるほど………一人は、嫌ですね」

「ああ。ここ数年はさっぱり困らずに来られたが、やはり相棒の一人でもいれば心強い」

「僕は、レフの相棒として相応しいのでしょうか………」

 ノエルは不安そうに言うが、レフからすればはじめから、ノエルの戦闘力を信頼したからこそ組むことにしたのである。

「ああ。お前なら、俺の足を引っ張るようなことは無いと思うぞ」

 そうでなければ、ディーンに言ったように賞金稼ぎなどさせない。信用できそうな相手を探して託すことになっただろう。

「それなら、いいんですけど………」

 ノエルはまだ、どこか不安げな表情のままだ。しかしレフは、時間が解決するだろうと考え、先の話をすることにした。

「なあ、ノエル。俺はいつも、都市から都市へとどうやって移動していると思う?」

「え?うーん………。駅馬車とかですか?」

「まあ、駅馬車を使うときもあるな。他によく使うのは、目的地へ向かう商人とか、そういう馬車の片道へ護衛として便乗させてもらう方法だ」

「護衛ですか」

「ああ。乗車料を減らしてもらえることが多いが、タダどころか報酬が出る場合もあるな」

「ということは、明日はその依頼を探すんですね」

「そういうことだ。俺は次に、このレンフェストの南にあるノルトフェスタンという都市へ向かうつもりだ」

「ノルトフェスタン、ですね。どんなところなんです?」

 どうやら興味を惹かれたらしい。レフは話を続ける。

「レンフェストよりは規模が大きいな。だが、地方都市の範疇だろう」

「なるほど。大きい都市なら、そこへ向かう商人さんも居そうですね」

「それに加えて襲撃のあった直後だからな。護衛の依頼は多いだろう」

「そうですね」

「場合によっては、追ってくる魔物を攻撃しつつ逃げるようなこともあるな。俺もある程度は魔力刃を飛ばして対処できるが、ノエルの方がアテになるだろう」

 するとノエルは真剣な表情になり、両手を上げて胸の前でぐっと握りながら言った。

「………頑張ります」

「ま、緊張することもないさ。奴らも元は野生動物、ある程度数を減らせば追ってこなくなるものだ」

 レフの経験上、そういうものだった。魔物たちは割に合わない相手だと見ると逃げていくことが多い。実は掃討の依頼の場合、そういう逃げた魔物を探して討伐するのに手間がかかることが多かった。

 逃げる魔物を後ろから射ってもらうこともできるな、と考えたレフは、ノエルという仲間を大事にすべきだろうな、と改めて思うのだった。

「さて。食事と入浴を済ませようか」

 頷いたノエルと共に、レフは椅子を立つ。

 

 食事を済ませてノエルと別れ、入浴して汗を流したレフは、ギルドから出て夜の通りを歩いていた。部屋の鍵は自分の分とノエルの分を借りているので、ノエルはレフが戻らずとも部屋に戻れるだろう。

 ひんやりとした心地よい空気を感じながら、レフは歩を進める。人通りは少なく、虫の声や生活音が微かに聞こえる他は静かなものだ。

 星空を見上げながら考える。これからの賞金稼ぎとしての生活を。ノエルと組んだことで、出来ることは大幅に増えた。レフ自身、剣士として一定の腕はあると自負しているが、遠距離攻撃にはそれほど長けていない。だから、遠距離で戦う必要がある依頼はしばしば苦労する。その点、ノエルは近距離から遠距離まで対処できる上、大群の処理すらできる。ノエルが賞金稼ぎとして成長していけば………いつかは、レフが足を引っ張る側になるかもしれない。

 レフは嘆息しつつ、心に刻む。その時が来た時は、ノエルの邪魔だけはしない、と。

 しばらく散歩を楽しんでから部屋に戻ると、ノエルは既に寝入っていた。レフも寝ることにする。

 さて………ノルトフェスタンへ行ける護衛依頼はあるだろうか。そう考えつつ、レフは目を閉じた。

 

 魔物たちが迫る。夥しい数の獣や、鳥、そしてヒトの形をした者たち。その波を消して、消して、消し続ける。

 攻撃が間に合わずに喰らいつかれても、そのまま吹き飛ばす。戦い続けて、やがて魔物を退けた自分を迎えてくれる者は………ただの一人も、いなかった。

 寝苦しくなって、目が覚めた。部屋はまだ暗い。ノエルは枕元の水差しからグラスに水を注いで、飲む。

「んく、ふぅ………」

 寝転びなおして、毛布に包まる。

 ………さっきの夢のように魔物たちと戦っていた時、ノエルには仲間がいた。ノエルが奮起すれば、仲間たちも奮起して………そんな風に、戦っていたことを覚えている。今も、レフという恵まれた仲間がいる。それなら、なぜあのような夢を見たのだろう?

 ぼんやりと考えながら息をしていると、やがて眠気が襲ってくる。ノエルはそのまま、眠気に身を任せた。 

 

 

 

 翌朝。食事を済ませたレフとノエルは、ギルドのホールにある掲示板を見に来た。

 ちらりと時計を見てみると、九時半を指している。

「あ、農作業の手伝い。本当にあるんですね」

「ああ。それに、城壁の外へ行く人間の護衛依頼も多いな」

 レフは都市間移動の護衛依頼がまとめられている掲示板を見て、紙の中にノルトフェスタンという文字を探す。

「む?」

 一つ、気になる依頼を見つけた。今日中にノルトフェスタンに向かうと書いてある。報酬は相場より高めな上、遠距離攻撃が可能な賞金稼ぎには報酬を割増するらしい。受注の締切は………ギルドの時計で、十三時。

 横で掲示板を見ていたノエルが、レフを見る。

「ありましたか?」

「あったが………どうも、夜を越しながらノルトフェスタンへ向かうらしいな」

「それって………」

 ノエルの言葉を引き継いで、レフは言う。

「ああ、危険だ。馬車に山ほど魔力灯を付けておかなければ、奇襲されかねん」

 早期警戒という点では魔力灯を付けておけばいいが、逆に魔物を引き寄せもするだろう。

「危なそうですけど………どうします?」

「………会ってみるか」

 どのような計画なのか、なぜ夜を越しながら移動するのか………。レフは確かめてみることにした。

 依頼人の“クロード・グラニエ”はこのギルドにほど近い宿である“レンフェスト・ホテル”で待っているらしい。レンフェスト・ホテルはレンフェストの名を冠しているだけあって高価な宿だ。依頼人も裕福だと見ていいだろう。

「レンフェスト・ホテルのクロードさん、ですか」

「ああ。行くぞ」

「はい」

 二人で通りに出る。

 レンフェスト・ホテルはギルドと同じ一番街道の南、中心の方に少し歩くとある。歴史を感じさせる荘厳な外観が特徴的だ。

 重厚な扉を開けて入り、ギルドブックを見せながらフロント係に質問する。

「賞金稼ぎのレフ・グリエットだ。クロード・グラニエという男は泊まっていないか」

「賞金稼ぎのグリエット様ですね。グラニエ氏は部屋でお待ちですので、ご案内致します」

「助かる」

 フロント係はノエルの名も訊いてから、コンシェルジュを呼ぶ。彼の後をついていき、レフとノエルはホテルの二階奥の部屋まで案内された。

 コンシェルジュがドアをノックする。すると、身なりの良い紳士風の男が扉を開けた。

「何かな」

「グラニエ様。賞金稼ぎのグリエット様とトラントゥール様がお越しです」

 紳士風の男はレフとノエルを見てから言う。

「なんと。これほど早く来るとは思わなかった。私がクロード・グラニエだ。グリエット君とトラントゥール君、入ってくれたまえ」

 グラニエに招き入れられて、部屋に入る。ベッド等は悪くないが質実剛健の感が強いギルドの宿とは違って、この部屋は贅沢な内装が目立つ。かけたまえ、と言われて座った椅子にしても、足まで装飾が施されている高級なものだ。

「お招き頂き、感謝する。自分は賞金稼ぎのレフ・グリエットだ」

「同じく、賞金稼ぎのノエル・トラントゥールです」

 自己紹介を済ませると、グラニエはノエルの顔を見て言った。

「失礼だが………トラントゥール君が賞金稼ぎというのは、信じがたいな」

「あ、そうですよね。まず申しておくと、僕は男性です。少し見た目は幼く見えるかもしれませんが、成人もしていますよ」

 少しどころでなく幼く見えるノエルが成人している上、男であることにグラニエは少なからず衝撃を受けた様子だったが、咳払いを一つ挟むと依頼の話をし始めた。

「君たちは、夜を越しながらノルトフェスタンへ向かうことを危険と思うかな」

「そう思っている。そのうえで、詳しい計画を訊きに来た」

「ふむ、当然の反応だな。では理由から話そう。ノルトフェスタンに、私の取引相手がいる。彼は既にノルトフェスタンに居るはずなのだが、数日前から連絡がつかない」

「音信不通、ですか」

「そうだ。私は出来るだけ早くノルトフェスタンへ向かいたいのだよ」

「理由はわかった。だが、明日の明るい時間に出発しないのは何故だ」

「夜間の移動に踏み切る理由があってね。私の移動手段は、魔力自動車だ」

「………なるほど。馬車より余程速いな」

 魔力自動車は魔力を回転運動に変換する機関によって走行する。馬車のように馬は要らず、また速いスピードを維持できる。その反面、維持には金と専門的な知識を持った技師が必要だ。中心部から離れている地域では滅多に見ない。

「という事は、魔物に襲われた場合は速度で振り切るんですか」

「そうなる。ところで君たち、遠距離攻撃は出来るかね?」

「遠距離なら、自分は魔力刃を飛ばすのが主になる」

「僕は射法具使いなので、遠距離戦は得意ですよ」

 ノエルが右足の射法具を持ち、机に置いて見せる。それを見てグラニエは頷く。

「おや、射法具とは。………ああ、君たちは一昨日の迎撃戦で活躍した賞金稼ぎなのだね」

「そうだな。率いていた大物はノエルと自分、そしてイーリス・クラナッハの三人で協力して倒した」

「なるほど、なるほど。腕利きらしいと分かって安心した。君たちに依頼することにしたいのだが、可能かね」

「問題ない。締切は時計で十三時とのことだが、出発は何時だ?」

「君たち以上に優れた護衛もあるまい。すぐに締め切って出発を十三時にすれば、結果的に危険も減るだろう」

「確かにそうですね。十三時というと、昼食を済ませてからの出発ですか」

「ああ、遅くとも十二時頃には来てもらえないかね?前払い分の代わりに、このホテルで食事と行きたいのだが」

「ふむ」

 おそらく食事しながら確認も済ませるのだろう。

「了解した。では、十一時半に伺わせていただく」

「うむ。待っているぞ」

「それでは、失礼」

 そう言ってレフは席を立つ。ノエルもグラニエに挨拶し、二人は部屋を出た。

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