魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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2.巨大な獣

「やるぞ」

「はい」

 地面を割って現れた巨大な獣。あれだけの四足獣ともなれば、逃げるには速度が足りないし、隠れたところで魔物は強いほど知能も高い。そうなれば、レフが選ぶ選択肢はたった一つ。叩き斬るのみだ。

「僕が牽制してみます」

「頼んだ」

レフの左にいるノエルが射法具を構えて、トリガーを引く。

 魔力灯とは違う、剣呑な赤い輝きの光線が一直線に、巨大獣の頭へ突き刺さる。

 巨大獣は僅かに怯むが、すぐに突進して来た。

 レフは魔力で脚力を強化して、右へ跳んで回避。ノエルも同じように左へ跳んだ。

「通常射法では駄目ですね!」

「殺れればいい!好きにやれ!」

 互いに叫び合う。突進を躱された巨大獣は、急停止してすでにこちらへ向き直っている。

「俺が突っ込む!」

 すぐに巨大獣へ向けて走り出す。ノエルの射撃を活かすなら、レフが引き付けるべきだろう。

「なら強化射法で援護します!」

 巨大獣は近づくレフに顔を向けている。走り出す様子はない。迎撃の構えか。

「行きます!」

 ノエルの声の直後に、やや太い光線がレフの右を走る。

 再び巨大獣の顔、向かって右に当たり、今度は明確に怯んだ。

「スゥーーーッ………!」

 レフは息を吸いつつ、魔力を剣に送り込む。刀身が魔力を纏って光る。

「タァッ!」

 狙うは足。近い左前足だ。

 左から勢いを乗せて振り抜く。手応えあり。油断せずにそのまま走り抜けて距離を取る。

 巨大獣は出てきてから初めて、大きく吠えた。足を失った痛みか。それを聞きつつ向き直り、観察する。

「まだまだ、か」

 三本足になっても巨大獣は立っている。だが、前足が片方では行動に制限が出るはずだ。

「このまま押し切るぞ!」

「わかりました!」

 レフと巨大獣を挟んだ反対側にいるノエルは、射法具から光線を連射する。レフは巨大獣が光線に気を取られている間に近づき、今度は首を狙い、斬りかかった。

「避けて!」

「ッ!」

 ノエルの声。レフは自身の目の前に迫る触手を斬って、後退。

「………なかなか気味が悪い姿じゃないか」

 背中と、左前足の切り口から触手が生えている。触手が斬り飛ばした左前足の代わりをしているので、あまり戦闘能力の低下は期待できないだろう。一筋縄でいかない相手だ。

「収束射法のために魔力を溜めます!時間を稼いでください!」

「任せろ!」

だが、レフのやることは変わらない。ノエルに目を向けさせないようにすることだ。

「行くぞ!」

 レフは再び巨大獣に斬りかかる。

 伸びてくる触手を躱して横から切り落とし、そのまま頭へ向けて横薙ぎ。右前足の爪で受け止められたので、後退。短くなった触手の振り回しを避ける。ノエルの方を確認すると、射法具が眩い光を発している。それを察知してか、巨大獣の背の触手はノエルの方を向いている。

 咄嗟にレフは、自身を見ている巨大獣の顔に、ガントレットの魔力灯を最大限に明るくして向けた。強い光を受けて巨大獣が怯んでいるうちに、と跳躍。背に着地し、触手を横薙ぎにする。

「レフ!」

「よし!」

 ノエルの声を聞いて、レフはすぐに大きく跳んだ。

 眼下で、一際太く眩しい光線が巨大獣に命中したのを確認する。

 着地して確認すると、巨大獣は胴体や四肢を失って虫の息に見えた。しかし、首の切り口に触手が蠢いて、すぐにレフへ伸びてくる。

「しぶとい奴だな!」

 レフはもう一度跳び、残る頭へ魔力剣を振り下ろした。

「セェヤッ!」

 頭が真っ二つになり、ようやく巨大獣は動かなくなった。

「………」

 剣を構えつつ、ノエルの方へ移動する。

 ノエルも注意深く巨大獣の亡骸を見ていたが、やがて呟いた。

「死んだ、かな?」

「恐らくな」

 答えて、レフは剣を鞘に収めた。

「………疲れましたね」

「やたらとしぶとい奴だった。何十年喰らい続けたのやら」

 同業者の間でボスと呼ばれるような魔物でも、そうはいないしぶとさだった。

 巨大獣の亡骸から、淡く光る粒子が舞い散っている。魔素だ。こうなれば、間違いなく死んだと言える。

「気を取り直して、行くぞ。早く行かないと、野宿する羽目になる」

「それは嫌ですね。急ぎましょうか」

 一息ついてから、レフはコンパスを取り出す。方角を確かめてから、レフは南南西へとノエルを先導して、歩き出した。

 

 

 レフとノエルが歩くうちに、木の密度は低くなっていき、やがて平原へ出た。

「ところで、行くべき方向はわかっているんですか?」

 ノエルがレフに訊く。

 レフはそれを聞いて立ち止まり、腰に付けた小鞄から1枚の紙を取り出した。

「地図、ですか?」

「ああ。俺たちは今、大体このあたりにいる」

 その地図は、この地域一帯を描いたものだ。レフが指差しているのは森を示す大まかな楕円形の、南側。

「俺はこの森から見て西にある都市から出発してきた」

 レフの指が滑り、“ヤンカ”の文字が添えられた、都市を示す印を指す。

「通常なら、森には入らない。街道は森の南西を通るからな」

 レフは都市から街道をなぞって見せる。

「俺たちの目指す都市はここだ」

 指がたどり着いた先、森の印の南側、やや東寄りにある都市の印。“レンフェスト”と添えられている。

「そして俺たちは今、だいたい南南西の方角に歩いている」

「そうすれば、何処かで街道に?」

「ああ。街道に入れれば、あとは問題ない。通りがかった馬車に頼んで、時間を短縮できる可能性もある」

「なるほど、安心しました」

「よし」

 レフは地図を鞄に仕舞って、コンパスを確認する。南南西。方向はぶれていない。

「行こうか」

「はい」

 二人はまた歩き出した。

「もう一つ聞きたいんですけど」

「何だ?」

「どうして森に?」

「遺跡があるかもしれない、と思ったからな」

 首を傾げるノエルに、レフは説明を続ける。

「ヤンカで、噂を聞いた。あの森に魔物が出るという話だ。このあたりは何度が来ているが、そんなことを聞くのは今回が初めてだったな」

「魔物が、ですか」

「そうだ。調査隊が送られる程の状況ではなかったがな。なにせ、噂だ。そもそもあの森に好んで入る人間が少ない」

「ちょっと都市からは遠いようでしたね」

「ああ。だが、仮に魔物が出るほどの魔素濃度があるか、あるいは遺跡があるのなら。それを確かめて報告すれば報酬が出るんだよ。特に、未発見の遺跡ともなれば相応になる」

「どこからです?」

「賞金稼ぎのギルドからだ」

「ということは、レフさんは賞金稼ぎ?」

「ああ。流れの独り者だよ」

 へえー、と感心したようにノエルはレフを見る。

 レフはその様子を見て、そういえば服が埃だらけのままだな、と思った。

「話は変わるが、ノエル。レンフェストに着いたら、ノエルの着替えを買ったほうがいいな」

「あ、そうですね。だいぶボロですし。でも僕、たぶんお金が………」

「構わない。払ってやる」

「いいんですか?」

「ノエルを起こしたのは俺だ。何年あそこにいたかは知らないが、金がないことは想像が着く。面倒くらいは見るのが道理ってもんだろう」

 ノエルはレフの言葉を聞いて、再び関心したような目線を向けた。レフはくすぐったい気持ちになる。

「まぁ、女物の服はよく分からんがな。手頃に買える店もあるだろう」

「あー………」

 レフの照れ隠しを聞いて、今度のノエルは気まずそうな声を出す。

「どうした」

「あのー、僕、こう見えても男なんですよ」

「何?」

 レフは驚いた。思わずノエルの顔をまじまじと見る。

 洗えばさらりとして美しくなるであろう黒髪。顔立ちは幼くて、愛らしいという印象。遺跡で眠っていた時に閉じられていた目は、大きくて丸みを帯びている。こうしてみると、赤く綺麗な瞳が印象的だ。

「見えないな。驚いた」

「よく言われます」

「………まぁ、だとしても俺が面倒を見ることは変わりない。さぁ、先を急ごう」

「はい、レフさん」

ノエルはレフに微笑みつつ返事を返した。

 

 

「あれは………?」

 それから1時間も歩かないうちに、ノエルは石の柱が見えるのに気がついた。

 上部に水晶のような石がついていて、見渡してみると一定の間隔で並んでいるようだ。

「街道だな」

「ということは、あの柱に沿って歩けばいいんてすね」

「そういうことだ」

 一番近い柱に近づいてみると、道自体も均されていて、轍がある。所々に石畳があるのも、街道整備の一環かな、とノエルは想像する。

 一方でレフは、もう一度コンパスで方角を確かめる。

「よし。この街道を南に行こう」

「はい」

 それから二人は、しばらくレンフェストへ向けて歩いていた。

「ん、馬車か」

 レフは、後ろの方からガラガラと音がしたのでふり返った。

「商人さんですかね?」

「らしいな」

 レフは立ち止まり、馬車が近づくのを待った。ノエルは、仮に乗せてもらえるなら、と考えて体や服などについた埃を落とせるだけ落としておく。

 馬車の方も気づいたらしく、レフたち横に止まる。

「お二人さん、レンフェストへ向かうんですかな」

 御者を兼ねているらしい商人が、レフたちに呼びかける。

「そうだ。そちらもレンフェストへ向かうようだな」

「この街道を南に行くなら、他にないですな。お二人さんも乗りますかい?」

 レフは交渉しようと思っていたが、どうも乗せてくれる気らしい。

「是非。対価も払う用意はある」

「いえいえ。荷台に乗せることになりますからな、料金まではいただきません」

 親切だなぁ、と会話を聞いているノエルは思う。

「本当か?それはありがたい。では、乗せてもらおう」

「ええ。荷台を開けるんで、お待ちくださいな」

 商人は馬車をおりた。荷台の荷物をずらしてスペースを空けてくれるらしいので、レフとノエルも手伝う。

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 もう一度礼を言ってから、レフとノエルは荷台の空いたスペースに乗り込んだ。

「一安心ですね」

「そうだな」

 レフはノエルに同意し、ふう、と息を吐いた。

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