魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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4.ギルドにて

 汚れを落として着替えてきたノエルに、レフは目を見張った。

 埃をはたいてもどこかくすんだ印象のあった黒髪は艶を取り戻している。肌もきめ細やかで、とても男性とは思えない。軽装鎧からシャツとズボンに変わった服装によって、華奢な体格が強調されている。

「見違えたな。汚れは落とせただろう」

「はい。すっきりできました」

 ノエルの手には、射法具とそのホルダーと、ボロの軽装鎧を入れた籠がある。

「着ていた鎧はどうするか、考えてあるか?」

「そうですねえ。とりあえず洗って来たので干しておきますけど、処分することになるのかな?」

「装備屋の店主がいるだろう。彼は古い鎧に興味がある。引き取って貰えるかもしれない」

 レフがそう言うのは、以前に、あの店主はコレクター気質なところがある、と同業者から聞いたことがあるからだ。

「そうなんですか?」

「ああ。明日に鎧を取りに行く時、向こうから言い出すんじゃないか」

「なら、そう考えておきます」

 ノエルは、部屋の窓にある物干し竿に鎧のインナーを干してから、ベッドに座った。

「わあ、いいベッドですねえ」

「ここのギルドはそこそこ儲かっている方らしいからな」

 都市間が離れていることもあって、各ギルドは採算的には独立している。ギルドの設備を見るとその町のギルドの経済状況もわかる。

 ギルドの経済状況がいいと言うことは、賞金稼ぎ(レフたち)の仕事も多いということになるので、無視できない要素だ。

「さて、ノエル」

 ノエルが一息ついたのを見計らって、レフは声をかける。

「何ですか?」

 ノエルはベッドに腰掛けた態勢から、横に寝てくつろいでいたが、起き上がってレフに返事を返す。

「ノエルは、これからどうするつもりだ?」

「これから?そうですね………」

 ノエルは少し考える仕草を見せたが、すぐに答えを返してきた。

「僕は、戦闘ならそこそこ自信があります。なので、賞金稼ぎになれないかな、と」

「ふむ。戦えるなら、兵士になるという道もあるだろう。なぜ賞金稼ぎに?」

「世界を、見て回りたいんです。つまり、レフさんと同じ流れの賞金稼ぎをしたいんですよ」

「成程な」

 レフの予想通りだ。それどころか、流れ者になりたいとすら言う。

「となれば、俺と組むのがいいだろうな」

「僕もそう思います。………と言っても、他に選択肢もないですけど、ね」

 ノエルは苦笑する。

「他人は信用できないか?」

「まぁ…そうですね。でも、レフさんなら別です」

「随分信用されたものだな。まぁ、俺も見捨てるつもりはないさ」

「………ありがとうございます、レフさん」

「いいさ」

 レフとしても、ノエルほど腕の立つ人間と組むことができるのはありがたい。射法具による遠距離攻撃は便利だが、昨日の戦いを見る限り、ノエルは射ち方自体も上手い。

「賞金稼ぎになるなら、明日にでもギルドに登録に行こう」

「登録………。ギルドブック、というのを貰うんですか?」

「ああ」

 レフは頷く。そして、ノエルに向けてギルドブックのことを説明する。

「各地の賞金稼ぎギルドが、賞金稼ぎに対して正式に発行しているのが、ギルドブックだ。賞金稼ぎの情報が書かれていて、これがないと流れの賞金稼ぎはできない」

「流れ者じゃないなら、なくていいんですか?」

「ギルドブックはギルド間で賞金稼ぎの情報を共有するためのものだ。一つの街に留まる賞金稼ぎなら、その街のギルドが記録している情報で事足りる。そういう賞金稼ぎには簡易版のギルドカードが発行されるんだ」

「なるほど。泊まるときにはギルドブックかギルドカードが要るんですね?」

「そういうことだ。まあ、ギルドカードを持ってるような賞金稼ぎは、ギルドに泊まらずに住居を持ってる奴が多いがな」

「僕はさっき、どっちも持ってませんでしたけど………」

「ギルドブックがあれば、何人かの同行者は泊まれる。道案内とかな」

「なるほど、そういうことですか」

ノエルは納得した様子だ。

「わかったか?」

「はい」

 ノエルが頷くのを見て、レフは問題なさそうだと思う。そこでふと、窓に視線を向けて言う。

「暗くなってきた。そろそろ夕食時だな」

「あ、そうですね」

「この町のギルドには酒場も併設されている。そこで食べよう」

「そうなんですね。なら、行きましょう」

「ああ」

 ノエルは射法具のホルダーを腰のベルトから吊るして、ベルトを右の腿に巻きつけて固定してから立ち上がった。

 武器は持っておけと言う必要はなかったらしい。そう思いつつ立ったレフは、剣を左腰に下げる。

 部屋を出て鍵を閉め、ギルドのホールに出る。

 ホールの一角に別の部屋へ通じる出入口があり、酒場を示す看板もある。

 酒場へ二人が入ると、そこは賞金稼ぎたちで賑わっている。どの賞金稼ぎも武器は携帯しているが、雰囲気は和やかだ。

「よっ、レフ」

 声をかけてくるのは、先ほどもレフに声をかけてきた賞金稼ぎ、ディーンだ。

「席ならここに二人分あるぜ」

「ありがとよ、ディーン」

 レフとノエルは、ディーンが座るテーブルの空いている椅子にそれぞれ座る。

「風呂に入ったんだな?ただでさえ可愛かったのに、磨きがかかってるぜ」

「あはは………」

 ディーンの軽口に、壁のメニュー表を見ていたノエルが苦笑する。

「同意せんこともないが、ほどほどにしておいてくれ。まずは腹を満たしたいからな」

「だろうな。注文したら、話を聞かせてくれや」

「ああ、話せるだけはな。ノエル、決まったか」

「はい」

 レフは女給を呼び止めて、パンとシチューを注文する。ノエルはパンと具沢山のトマトスープを注文し、ディーンも水を頼んだ。

「それで、レフ。その、ノエル………くん?はどうしてお前と居るんだ?」

「遺跡で拾った」

 レフの答え方に、ディーンは呆れる。

「拾った、ってお前………。詳しくは、聞かせてくれないのか」

「少々変な話でな。ここでは話しにくい」

「なるほどな。で、ノエルくん」

「呼び捨てでいいですよ、ディーンさん」

「おう。ノエルはこれからどうするんだ」

「レフさんと一緒に賞金稼ぎをするつもりです」

「ほう?」

 ディーンはレフを比較的知っている。何度か同じ仕事をしたことがあり、レフが流れ者であること、一人で活動しているがそれを問題としない程度には強いことも知っている。

 意外そうな様子のディーンを見て、レフは言う。

「意外か」

「そりゃな。レフが組む気になったってことは、ノエルも腕利きなんだろ?」

「ああ。射法具を使いこなしているし、魔力盾も出せる」

「そりゃすげえや」

「魔力盾、珍しいんですか?」

 ディーンが感心する様子を見て、ノエルが訊く。

「珍しいさ。射法具も珍しいが、そっちは買えるし、練習すりゃ使いこなせる。だが魔力盾はそうそうできる奴はいない」

「そうなんですか」

 話していると、レフやノエルの注文したものが届いたので、一旦二人は食べることに集中することにした。

 

「ここの料理、美味しかったですね」

 食べ終えて、水を飲みながらノエルが言う。レフも口を拭きながら頷き、ナプキンを置いてから答える。

「ここの酒場は悪くない味だ。他で食べるよりも得だしな」

 ディーンが水を飲みながら言う。

「俺たちとしてはありがたいことだぜ、ホント。安定した仕事じゃないからな、賞金稼ぎは」

「やっぱりそうなんですね」

「ああ。特に流れ者は、稼ぎ時をしっかり見極めて貯蓄を作っておかないと、仕事がないときに困る」

「貯蓄はどうするんです?お金は嵩張りますよね」

「価値のある品にして持ち歩くか、ギルドの銀行に預けるか、だな」

 銀行と聞いて、ノエルが首を傾げた。

「なんだ、銀行を知らないのか?」

「いえ、知ってはいますけど………ギルドは、採算的には独立してるんですよね?」

 疑問に思うのも当然か、と思いながらレフは答える。

「そうだな。だが、銀行関連は例外だ」

「連携をしてるとは言ってましたね。でも、連絡はどうやって………」

「魔光通信、というものがあってな」

「通信?」

「ああ。専門的な部分が多いからあまり詳しくはないんだが………。俺が知っている限りだと、情報を魔力光の強さと特性で表現する別の言語にして、送受信するものらしい。街道に、石柱があっただろう」

「ありましたね」

 石柱のことはノエルも覚えている。街道を歩く目印に最適だと思っていたのだが、よく思い出してみると、どの石柱も、最上部に宝石のようなものがついていた。

「あの石柱には、魔光通信の中継点となる魔光誘導石がついていて、あれを通して他の都市と通信するそうだ」

 ノエルが説明を聞いて目を丸くしている一方、ディーンは感心するようなため息をついて、言う。

「いつも思うが、とんでもない発明だよなぁ。おかげで町どうしの交流や連携もスムーズだって言うぜ」

「整備されていないような町や村も多いがな。とにかく、魔光通信が整備されていて、ギルドのある場所なら金にはあまり困らんということだ」

「すごいですねえ」

「まったくだ」

 ノエルに同意をしたレフは、ふと、ギルドに遺跡のことについて報告していないことを思い出した。

「貯蓄を増やしてくるよ」

「ああ、遺跡について報告してなかったのか」

「そういうことだ。すぐ戻る」

 そう言ってレフは席を立った。

「さーて、ノエル。レフがいない今のうちに、聞きたいことがあるんだがな」

 ディーンは言いながらグラスを置いて、腕を組んだ。

「なんでレフと組むんだ?」

「え、どういうことです?」

 ノエルは聞き返す。

「レフは、悪いやつじゃねえ。それは確かだ。けど、どうにも正体が分からないんだな」

「正体が、分からない?」

「ああ。賞金稼ぎになるような奴は、そんなに上等な身分じゃないことが多いのさ。それはわかるだろ」

「そうですね。安定してたり、お金持ちだったりしたらなりませんよね」

「だな。まぁ、たまに例外もいるんだが、そういう奴は大抵、自分の家やら身分やらは隠さないもんだ。そのほうが信用しやすいからな」

「レフさんは隠してるんですか?」

「前に同じ仕事をしたときにな、聞いてみたんだよ。なんて帰ってきたと思う?」

「聞くな、とか?」

「『普通の、流れ者さ』だってよ」

「うわあ、怪しい」

「だろ?あいつ、どう見ても一般人じゃないんだよ。顔がいいのは別にいいけどな。あんな剣術を身に着けてるにしちゃ若いってのがな。魔力の扱いも上手いし」

「そ、そうですね」

 ノエルは困惑する。それ、自分にも当てはまるのでは?と思ってしまったのだ。

「ああ、アンタのことは聞かないから安心しな。明らかに訳ありだからな」

「それは、ありがとうございます?」

 ノエルの疑問形の感謝に、ディーンは笑いを漏らした。

「ま、さっき聞いたことは答えなくてもいいさ。重要なのは、レフはどこか謎があるってことだからな。だがやっぱり、悪いやつじゃないのは間違いない。組むのは別に問題ないだろうさ」

「そうですね。実は、この服はレフさんが買ってくれたんですよ」

「お?そうなのか」

「鎧まで買ってくれたんです。だから、恩返ししたくて」

「なるほどな」

 ディーンはノエルの答えを聞いて、ニヤリと口角を上げた。

「………何の話だ?」

レフが戻ってきた。

「あ、お帰り。レフさん」

「………さんはつけなくていいんじゃないか」

「それもそうですね、レフ」

 座ったレフは、ふう、とため息をついた。

「お前の正体のことさ」

「え」

 軽い調子で言うディーン。ノエルは言っちゃうの?と戸惑う。

「そのことか。そのうち言うつもりだったんだがな」

「正体をか?」

「さすがにな。なにせ相方だ」

「フッ、違いねえや!」

「遺跡のことについて報告してきたんですよね。どれくらいのお金になったんですか」

「どうも魔物が出ることどころか、遺跡自体が未発見だったらしくてな。あのデカいののこともあってか、ノエルに買ったものくらいは軽く払える額が出た」

 ディーンは関心を惹かれたようだ。

「デカいのがいたのか」

「獣型のしぶといやつだった。随分と他の奴を喰ったらしい」

「そんだけ魔物が発生してたのか。こりゃ俺もそのうち行くことになりそうだぜ」

「見かけたやつは全部斬った。たまに間引きしておけば大物は出ないと思うぞ」

「軽く言うなあ。んで、その遺跡にいたのがノエルか?」

「そんなとこだ。随分消耗してたようだがな」

「へえ?まぁ、そういうことにしておくぜ」

「そういうことだ。さて、そろそろ俺は部屋に戻るぞ」

「なら僕も」

「あいよ。またな」

 レフとノエルは椅子から立って、酒場から部屋に戻る。

 




現時点で書きあがっているのが次までなので、そろそろ投稿ペースが落ちるかもしれません。
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