魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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7.襲撃

 二番街道にある魔道具店から、最外周の通りを歩いて一番街道に戻ってきたちょうどその時、城壁の門から都市の中心方面に向かって、走る馬に乗った人間が横切った。

「ずいぶん急いでますね」

「ああ」

 返事をしながらレフは門の兵士の様子を見る。やや慌ただしい雰囲気だ。襲撃だろうか、とレフは考える。

「ギルドに戻ってみよう」

 そう言ってレフは早足に歩きだす。

 レンフェストの周辺にはいくつかの地下遺跡がある。空気の流れが少ない故に魔素濃度が高まりやすい地下遺跡では魔物が生まれやすく、故に地下遺跡が周辺に多い都市ほど、賞金稼ぎの仕事も多い。レンフェストにはそこそこの数の賞金稼ぎが拠点を構えており、彼らが魔物を定期的に討伐していれば襲撃は起こらないはずだ。

「襲撃、ですかね」

「さあな。だが、仕事をすることになりそうだ」

 先程の人物は、馬をギルドの前で止まらせて、駆け込んでいった。

レフとノエルもギルドに着き、入る。

 ギルドの職員たちがレフが来たのを見るや否や、すぐに一人の男性職員が駆け寄ってきて、こう言った。

「レフさん、あなたに迎撃依頼です」

「俺に?まさか、昨日報告したあの遺跡からか」

「そのようです。まだギルドの正式な調査も始まっていませんので、脅威度は高めと見て良いでしょう」

「情報は誰からだ。数は」

「先行して位置の特定と地図作成に向かったパーティからです。数は少なくとも100を超えると」

「異常だな。わかった、引き受けよう」

「感謝します」

「イーリス・クラナッハも参加するのか」

 レフがそう男性職員に訊く。返事は別の方向から返ってきた。

「勿論です、グリエット」

 声のした方を見れば、イーリスが立っている。

「今回の襲撃の異常性を鑑みて、私は貴方と組むために待っていたのです」

「頼もしい限りだ」

 ついている、とレフは思った。イーリスの戦闘能力が高いのは周知の事実。恐らく、他の賞金稼ぎの戦意にもいい影響が出るだろう。

「僕も同行します」

「ええ。お手並みを拝見します」

「よし。迎撃戦はいつ始まるんだ」

「現在、移動と補給用の馬車を用意しています。準備が済み次第、依頼に応じた他の賞金稼ぎと共に第一波としてレンフェスト北部へと向かっていただきます」

「了解した」

 男性職員は離れていき、他の賞金稼ぎにも声をかけていく。

 レフとノエル、イーリスはギルドの外に出る。

「ノエル。武器の調子を確かめておけよ」

「はい」

 ノエルは射法具をホルダーから抜き、点検する。射法具は昨日の内にきれいに掃除してあり、握りの木材と魔石や、魔導機構の金属部も問題はない。

 レフは剣を抜いて、刃こぼれなどがないか点検する。ないことはわかっているが、それでも戦闘を控えているときにはするようにしている。

「まだそのような剣を使っているのですか、グリエット」

 背負っていた大振りの剣を手に持ったイーリスが言う。

 イーリスの剣は業物だ。特徴として、青みがかった金属の刀身と、鍔から刀身の中ほどまで伸びる樋に嵌め込まれた赤の魔石がある。このような剣は単純な切断力と魔導性の高さを両立している。

「その剣のような業物は高価過ぎるし、手間もかかる。俺のような流れ者には贅沢品だ」

「だからと言って、そのような量産品では貴方の実力を出し切れないでしょう」

 量産品、と聞いてノエルは、レフの剣とイーリスの剣を見比べてみる。確かに、業物とすぐ分かるイーリスの剣と比べて、レフの剣はシンプルで質が劣るようだ。

「そう言うクラナッハも、最初からその剣で強くなったわけではあるまい」

「それは………そうですが」

 イーリスは不服そうだ。

「安物って、そういうことなんですね」

「………あの時のことを言ったのですか、グリエット」

「ああ。お前の強さを説明するのにちょうどよかったからな」

「………そう。では、私があの時から進歩しているという事を、見せて差し上げます」

「ああ」

「頼もしいです」

 イーリスはレフの淡白な返事と、ノエルの期待が籠もった目線を見て、随分対象的なお二人ですね、と言いかけてやめた。

 一通り点検を終えた所で、ギルドの前に馬車が走ってきて止まった。ギルドの男性職員が降りてきたが、その職員はギルドの制服でなく、剣士が着るような軽装鎧と剣を持っている。職員とわかるのは、ギルドの紋章が鎧に刻まれているからだ。

「レフさん、イーリスさん、ノエルさん。見ての通り、馬車の準備が完了しました。準備が出来ましたら、すぐに乗ってください」

「よし」

「了解です」

「いつでも行けますよ」

 既に装備の点検を済ませていた三人は、職員に返事をしてすぐに馬車へ乗り込んだ。

 

 

 馬車にはレフたちの他に五人の賞金稼ぎと、武装したギルド職員二人が乗り込んでいる。また、後ろにもう一台、食料や薬などの物資を積んだ馬車が続いている。

「皆さん。この馬車はレンフェスト北部の平原へ向かっています」

 職員が説明する。

「そこを迎撃拠点とし、後から到着する他の賞金稼ぎやレンフェストの兵団と共に魔物を迎撃します」

「魔物は固まっているのですか」

 イーリスが質問した。

「はい。先程、遺跡の位置特定のために向かっていたパーティが帰還しましたが、彼らによると、森へとほぼ直線のルートを取っていて多数の魔物と遭遇したそうです」

「既にレンフェストへ向かっていたということか」

「はい。ですので、群れを率いる知能の高い個体がいると見て良いでしょう」

 知能の高い個体。レフは遺跡から出たときに出現したあの巨大な魔獣を思い浮かべる。

「ボス級がもう一体いたか」

「そのようですが、詳しいことはわかりません。今回の襲撃を退けた後に、遺跡の大がかりな調査を計画していますので、それも依頼することになるかと」 

 賞金稼ぎの一人がふむぅ、と唸り、レフに話しかけた。

「厄介なものを見つけたな、“発掘士”?」

 レフは肩をすくめて言った。

「まったくだな。………それと、発掘士はやめてくれ」

「二つ名がつけられるなんて、俺達にとっては羨ましいことなんだがなあ?」

「名が売れるのも良いことばかりじゃない」

 その会話を聞いて、“剣聖”のイーリスは渋い顔をする。それから、隣に座るノエルの肩を叩いた。

「?」

「すみません、少し耳を貸してください。………あの、ノエルさんは私の“剣聖”って二つ名をどう思います?」

 ノエルは声を抑えて答える。

「かっこ良くていいんじゃないですか?レフの“発掘士”は僕も正直どうかと思います」

「そうですね。でも、私は“剣聖”も好きではないのです。まだまだ私は剣を究められていません」

 レフから聞いたのと同じだな、とノエルは思った。イーリスが求道者であるのも間違いなさそうだ。

「いつか、剣聖と呼ばれるのに相応しい剣士になれるといいですね」

「………ええ。そうなれるように日々努力していますから」

 イーリスはそう言うと背筋を伸ばし、馬車の進む方に顔を向けた。

 彼女に話しかけようとする賞金稼ぎはいない。イーリスは美人だが、同時に名が知れている故に、一般的な賞金稼ぎにとっては高嶺の花である。

 また、ノエルは目に見えて幼い見た目をしているが、登録を見ていた賞金稼ぎが当然いたので、レフと組んだことが既にある程度知られている。レフのような流れ者と特定の都市に拠点を構える賞金稼ぎたちにはどこか意識の違いがあるのだった。

 

 

 馬車が止まった。迎撃拠点となる平原へ到着したのだ。

 レフたちは馬車を降りる。

 賞金稼ぎ二人と、ギルド職員二人は補給馬車の守りに付き、レフたち三人と他の賞金稼ぎ三人は前衛についた。

 少しするとレンフェストの兵団が乗った馬車が何台も来て、柵などの簡易的な防衛設備が設営されていく。

「先走って襲ってくる奴らがいるかと思ったが、来ないな」

「ええ。相当に統率が取れているようです」

「やっぱり、普通じゃないですよね」

 設営されていく拠点を背後に、レフたちはそれぞれ周辺を警戒している。先制攻撃をすることになる、遠距離攻撃可能な賞金稼ぎの中で射法具使いはノエルだけだ。他は金属製や木製の杖を携えた魔術士である。

 彼らは近接戦闘能力が劣る者が多く、そのため普段は剣士と組み、その援護をしている。特に回復魔法を習得している者は貴重だ。

 イーリスはその魔導性も高い剣を活かして、ある程度の魔術を行使できるが、やはり近接戦闘のための魔術が殆どだ。

 北を見ていたレフは、馬で遠距離を警戒していた兵士が、拠点に走ってくるのを捉えた。

「………来たか」

レフは剣を鞘から抜き、構える。

 イーリスや他の剣士たちも倣い、ノエルや魔術士たちが前に出て、並んだ。

 四足の魔物たちが歩いているのが見える。報告のとおり、100は下らない数だ。

 近づくにつれてその足取りは早まり、駆け足になる。

 ギルドの職員がホイッスルを吹く。攻撃の合図だ。

「………チャージ、スプレッド」

 ノエルは射法具を斜め上に構えて、呟いた。既に射法具の魔石は赤の光を発している。

 ノエルが引き金を引くと、射法具から赤の光線が放たれて、上空で向きを変えると共に無数に分かれて、雨のように魔物の群れに降り注いだ。

 魔術士たちは炎や雷など、各々が得意とする広範囲の攻撃魔術を行使する。

 光線の雨と多数の属性魔術によって魔物の群れは乱れる。そして攻撃が止んだところに、レフたちが駆け込んだ。

 ノエルも前進する。杖による魔術と違って射法具は即応性が高い。ノエルの射法具は小型のもので取り回しがよく、近接戦闘にも向いている。向かうはレフとイーリスの近くだ。

「シッ!」

 レフは飛びかかってくる魔物を最小の動きで斬り捨て、すぐさまその後ろに構える複数の魔物たちへ距離を詰めてまとめて両断する。

「喰らいなさい!」

 一方でイーリスは横薙ぎに剣を振る。すると剣の軌跡が残像のように白い光を発して出現し、前方に飛んで5体ほどの魔物を薙ぎ払った。

 ノエルが見たところ、レフとイーリスの周辺にいる魔物は明らかに少ない。というより、近づく側から斬られて魔素となっている。

 他の援護に行くべきか、と周囲を見渡すと、見覚えのある剣士が見えた。ディーンだ。彼も他の賞金稼ぎと共に魔物を倒している。ところが、彼らの死角をついてやや大型の魔物が跳び込もうとしている。ノエルはすぐに構えて、跳び上がった魔物の頭部を横から狙い撃った。

 魔物は頭部を無くし、勢いのままディーンの方へ跳んだが、気づいたディーンの拳で叩き落された。

「サンキュー、ノエル!」

 ディーンの礼に左手を上げて答えつつ、ノエルは見回す。

 他に危機に陥っていたり、苦戦していそうな賞金稼ぎたちはいない。

 もう一度レフとイーリスの方を見てみると、魔物がまったくいなくなっていた。

「クラナッハ!ノエル!奴らは他の場所に戦力を集中する気かもしれん!」

 レフが叫ぶ。

 レフとイーリス、ノエルはすぐに集まって警戒する

「私たちに魔物を差し向けても無駄と理解している。やはり指揮している者がいます」

「どこだ………?む、ノエル!奴らは倒しておいた方が良さそうだぞ!」

 レフが拠点の右前方、北東から回り込んでいる魔物の群れを見つけ、ノエルに伝える。

「あれですね!?了解!………チャージ」

 ノエルはすぐさま射法具を構えた。周辺に漂う魔素が射法具の魔石へ向けて霧状になって吸い込まれていく。

「スプレッド!」

 射法具から放たれた光線は先程の初撃のように上空で分かれて降り注ぎ、群れの数を大きく減らす。

「やりますね!あそこまで減れば問題ないはずです!」

 魔物の群れは一点集中に作戦を変えたようだった。

 賞金稼ぎや兵士たちはまだ前線を襲撃する魔物に対応しているが、指揮を執っているギルド職員たちは気づいたらしく、魔術士たちに対応させている。

 伝令の軽騎兵がレフたちの方に走ってきた。

「ギルドから伝達です!貴方達三人は遊撃として指揮を執っている魔物を探してください!」

「了解した!」

「わかりました!」

「承知しました!」

騎兵が走り去っていくのを見つつ、三人は顔を見合わせた。

「どうやら戦況には余裕があるようですね。ボスはどこかで見ているはずですが」

「俺とノエルが倒した奴のように、地面に潜っているかもしれん」

「ひょっとすると、どこかから触手を生やして見ていたりするのかもしれません」

「だがここは平原だぞ。そんなものが伸びていたら誰かが気づくはずだ」

「となると………あのような樹木が怪しいかと」

「木に巻き付いていたりする?」

「あり得るな。………しかし木と言っても少なからずある」

「高い木から見てみましょう」

「それがいいだろうな」

 方針が決まり、まずレフたちは周辺で一番高く目立つ木を見に行くことにした。そこまで距離はなく、道中の魔物を倒しつつ二分ほどで着いた。

「散りなさい!」

「邪魔だ!」

「ショートチャージ、ビーム!」

 イーリスとノエルが魔物をなぎ払い、レフが掻い潜って近づいた魔物を始末する。

 そうして周辺の魔物を片付けてから、三人は木を観察する。

「巻き付いてはいませんね」

「内部を通っているか、それとも別の木か………」

 ノエルは少し離れて上の方を見てみる。

 目玉と目が合った。

「うひゃあっ、上にいますよ!」

 触手が木の上から突き出していて、その先端に目玉がついているのだった。

 潜んでいる魔物は気づいたらしく、目玉の触手が引っ込んで地面が揺れだした。

「離れるぞ!」

 三人は木から走って距離を取り、向き直る。木の周辺の地面がひび割れて持ち上がり、大きな獣が顔を出す。

「さすがに大きい!」

 土煙でシルエットしか見えないが、かなり大きな獣であることをイーリスは見て取る。

 完全に地面から体を出すと、その獣は大きく吠えた。

 土煙が晴れ、姿がはっきり見えるようになる。

「何だと?」

レフはその獣の頭を見て驚愕する。

 その首にはノエルが収束射で焼いた跡があり、顔には レフが縦に両断した跡が、はっきりと残っていたのだった。

 

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