魔法世界の賞金稼ぎ   作:人生脇役

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8.生きていた獣

 なぜ、生きている?

 距離をとって構えつつも、レフは動揺していた。

 この襲撃で魔物の指揮を執っていたらしき魔物は、確かに両断し、魔素が遺骸から抜けていくことを確認したはずの魔物だったからだ。

 魔物は魔素濃度が高い場所で、通常の動物が変異して誕生する。そのため研究者の間などでは“魔動物”とも呼ばれている。魔素を取り込んで本能的に自己の能力を高めているから、通常の獣より強いのである。

 今レフたちの前にいるような巨大な魔物は、他の魔物を喰らうことや、長い期間をかけて空間の魔素を吸収することで強大になったものだ。魔物といえど、元の動物と同程度の知能が多く、ただ喰らうことで強くなっていくものが多いと聞く。

 そのような大物でも、首だけになれば、死ぬ。ましてや、頭部を両断されたのなら………。生物として、殺されれば魔素も制御されなくなり、抜け出ていく。だから、魔物が死んだか確認するには魔素が抜けているかを見れば良いのだ。

 ところが、どうも目の前の魔物は違ったらしい。

 魔物が、動く。

「グリエット!」

 イーリスの呼びかけが聞こえるや否や、魔物はレフに飛びかかってきた。

 レフは既に反応しており、攻撃を斜め後ろに大きく跳躍して回避している。

「チッ、触手は健在か!」

 すれ違いざまに伸びてきた触手を斬り落としながら着地し、レフは悪態をつく。

「クラナッハ!こいつはただの魔物じゃないぞ!」

「わかっています!」

 明らかに知能があるのは、先程の群れを相手した時に、レフとイーリスに向かってくる魔物がすぐに減ったことでわかっている。

 魔物の方へ向き直る。イーリスとノエルはそれぞれレフの左と右に少し離れて立っている。

「あの時は四足だったのに………」

 ノエルが言うように、あの魔物は今、後ろ足二本で立っている。

「ということは、まさか貴方たちが遺跡で倒した個体ですか」

「ああ。さっさと倒してしまいたいところだが、そうもいかなそうだな」

 ノエルは射法具へ魔力のチャージを始めている。

「牽制しますよ!」

「頼みます!」

 イーリスが返答しつつ、剣に魔力を纏わせる。

 レフも同じく魔力を纏わせつつ、ノエルの右側に移動する。

「よし、ノエルが射ったらすぐに仕掛ける」

「気をつけて。………チャージ、ディフュージョン!」

 ノエルの射法具から魔物へと、一際強い光を放つ光線が発射され、途中で円錐状に無数の光線へと分かれる。光線は魔物の首に当たり、その周辺の皮膚を焼き、それに乗じてレフとイーリスが斬りかかった。

 レフが右足を、イーリスは左足を切り落とそうとする。

「ッ、身軽ですね!」

 魔物は反射的に跳び上がってそれを避ける。それを背中や前足から伸びる触手が束になって補助し、支えている。

「クソ、足を潰しても意味はないか!」

 再び四本足で着地した魔物が背中の触手で、後退するレフとイーリスを狙おうとするが、再び顔面に飛んできたノエルからの射撃に反応して防御した。肉が焼ける匂いが漂う。

 ある程度距離を取ったイーリスは、レフに叫ぶ。

「遺跡ではどう倒したんです!?」

「ノエルが収束射で首から下を焼いた!」

「今回もそうすべきです!」

「ああ!」

 となれば、やはりノエルを守ることになる。

「ノエル!収束射はどのくらいあれば射てるか!?」

「二分もあれば射てます!」

「よし、時間を稼ぐぞクラナッハ!」

「ええ!」

 イーリスは返事をすると、剣の柄を強く握る。樋の魔石が発光し、刃が纏う魔力光が赤くなる。

「斬るだけではいかんな」

 レフも呟き、同じように赤い魔力を纏わせる。熱で焼くのだ。レフが最初に切り落とした触手はおそらく既に治っているが、ノエルの光線で焼けた首元や触手は比較的、再生に時間がかかるようだ。

「ヒートブレード!」

「焼けろ!」

 イーリスが横、レフは逆袈裟に剣を振り、刃の軌跡に発生した、三日月形の熱を纏った魔力の刃が魔物へ飛んだ。

「チッ!」

 しかし魔物はあえて触手で防がなかったのか、皮膚を焼かれて唸りながらレフへ触手を振り下ろした。横っ飛びに避けながら、レフは違和感を感じる。

 明らかに、狙われている。

 牙を露わにした魔物はレフに顔を向けている。目玉つきの触手がイーリスやノエルも見ているが、先程本体を焼かれるのも半ば無視して、レフに触手を差し向けたのは何故か。

 止めを刺したレフを、恨んでいる?

「クラナッハ!俺が気を引くから、ノエルを守りつつ隙を見て大技を使え!」

「それでは貴方が!」

「奴はおそらく、俺に恨みがある!俺が攻撃し続ければ隙ができるかもしれん!」

「っ、承知しました!」

 レフは剣の刃に赤の光を纏わせて、魔物に接近する。

 立ち上がった魔物は両方の前足の触手をレフに向け、鞭のごとく振り回す。

 レフはそれを見切って斬りつつ、周囲をまわるように位置を変えながら果敢に斬りかかり続ける。

 高熱をまとう刃で斬られた触手が焼けるが、しかし魔物本体にはさしたる傷を与えられない。それだけ防御が厚い。

 しかしそれは同時に、イーリスやノエルの方への注意が散漫になっていることの証明でもある。

「収束射、射てます!」

 ノエルが叫ぶ。

「こちらも!」

 イーリスはレフに攻撃が集中するのを見つつ、魔力を剣に注ぎ込んで本体以上の長さの魔力刃を形成していた。

「よし!」

 レフが魔力刃を三つ飛ばしながら魔物から距離を取り、叫んだ。

「行っ───けぇッ!!!!」

「お逝きなさいッ!」

 ノエルの収束射は銃口のすぐ先で膨れ上がり、野太い光線となる。

 イーリスは長大な魔力刃を、大上段に振りかぶってから、一気に振り下ろす。

 二つもの、膨大な魔力がこもった攻撃なら奴も死ぬだろう。

 そう考えていたレフはしかし、光線が消えたところに残ったものを見て声を上げた。

「魔素が!?」

 魔物の体は蒸発している。しかしその蒸発した体にあったらしい魔素が霧状になっているが、散らずに一つの球体を形成していた。

 そしてその球体が、レフに近づく動きを見せる。

 あれに包まれたらタダでは済まない。

 そう直感してレフは足を魔力で強化し、走る。

「グリエット!この、させませんよ!」

 イーリスは咄嗟に剣を振って魔力刃を放ったが、ただ魔素の球体を突き抜けるだけだ。

 レフを追う魔素の球体はやがてレフに追いつきかけて───止まった。

 レフは球体を見て、それから眩い光に気づく。

「虹色………?」

 ノエルの射法具が、虹色の光を発していた。

 

 

 

 ノエルは魔素が球体を形成するのを見て、呟いた。

「あいつは、倒したのに………っ」

 そして射法具を握る手に力を込めて、唱える。

「アルカンシェル」

 射法具の魔石が光を発した。赤から橙、黄………色を変えつつ、その光は強まっていく。

「………レフは、やらせない」

 光は収束し、眩い白の光となる。

「イーリスさんだって………っ」

 ノエルはしっかりと、両手で射法具を構える。すると、レフを追っていた魔素の球体が動きを止めた。

「止まった。それなら………」

 それは、魔力の球体が自身への脅威を察知したということだった。球体はノエルへと進む方向を変える。

「そのまま………逝ってっ!!」

 ノエルが叫ぶと共に放たれた白の光線が、魔素の球体に突き刺さる。そして貫通せずに、魔素の球体の全体に虹色の光が広がって───消えた。

 

 

 

「ノエル」

 レフはノエルのもとへ駆け寄って声をかける。

 ノエルは虹色の光線を放って魔素の球体を消し去った後に、その場にへたり込んでいた。

「………レフ」

「ノエルさん、大丈夫ですか」

 イーリスも駆け寄ってきて声をかける。

「イーリスさん。えっと、大丈夫です」

 そう言ってノエルは立ち上がって見せる。足取りが怪しいわけでもない。レフは問題はなさそうだと見てから、周囲を見る。

 魔物の群れはすでにいなくなっている。他の賞金稼ぎや兵士たちが倒したか、それとも奴が、ボスが死んだことで逃げ去ったか。

 とにかく、迎撃依頼は成功のようだった。

「グリエット」

「む?」

 イーリスがレフを呼ぶ。向き直ると、イーリスは真剣な表情で言った。

「………ノエルさんのことについて、話があります」

「あの、虹色の光線のことか」

「はい。私はあれについて心当たりがあります」

 ノエルはそれを聞いて、声を漏らす。

「………え?」

「グリエット。ノエルさん。ギルドに戻ってから、三人で話をさせてください」

「ああ、わかった」

「………わかりました」

 そこで会話を止め、三人は迎撃拠点へと向かう。

 迎撃拠点の設備をそのままに、人々は撤収を始めていた。

 

 

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