みかんが名産なだけあって温暖な気候の三門市は冬には雪で陸の孤島となる地元よりも随分と暖かい。
「ありゃりゃ、沢村さん渋滞で遅れるって」
「微妙な時間だな…」
店に入るかどうかを議論し始めた従姉妹たちを尻目に奈帆は改めて長閑な郊外の街には違和感のある巨大な建造物を見上げた。トリオンという奈帆には未知の物質で構成されたボーダー、界境防衛組織の本拠地は巨大さ故に距離感が分かりにくいがここから車で20分ほど大体10km離れた警戒区域に建っているらしい。
10km、奈帆には日常的な距離だ。
「柚宇ちゃん荷物お願いしていい?」
「はいはーい、連絡入れとくね」
「え、奈帆ちゃん?」
靴の調整を数秒で終えると奈帆は巨大な建造物に向かって駆け出した。
困惑した出水の声を尻目に走り去っていった奈帆の荷物を太刀川に上手いこと押し付けた柚宇は今日の防衛任務はどこの担当だったか、とシフト表を思い返しながらアプリのトーク画面をタップする、警戒区域の近くで起きた事故の影響で起きた渋滞はまだまだ解消されそうにない。
恐らく奈帆の脚なら柚宇たちより先に本部まで辿り着く、交代の時間も近い本部の案内も頼んでしまおう。
「あんなとこから走ってきたのかよ!?」
「よく走れたな…」
「走るのが好きなの」
ニコニコと人好きする朗らかな笑みを浮かべた少女は10kmちかい距離を走ってきたとは思えない。トリオン体ならともかく生身でなら女子中学生には過酷な距離だと思うが少し暑そうに赤くなった顔を仰いでいるくらいで息も切らさず同い年なこともあってかすぐに打ち解けた小荒井、奥寺と会話している。
陸上部ということは聞いていたが連絡が来た時間から考えられるペースと今の様子を見ると全国区レベルの選手だったと思われる。よくスカウトできたな、と東は思考を巡らせた。
10km近い距離をわざわざ走破してるということは怪我をしたわけでも無さそうだし競技への熱が冷めたという感じでも無さそうだ。年齢と実力を考慮すれば万一本人が競技への情熱を失っていたとしても周りが引き留めるだろう。
鈴鳴の村上のように人間関係あたりか、はたまた他に厄介な事情でもあるのか少女は異世界からくる敵と日常的に戦うことを選び雪深い故郷から遠く離れた三門市に来た。
国近奈帆
A級1位太刀川隊オペレーター国近柚宇の従姉妹。
走ることが好きな元陸上部、専門は長距離。太刀川隊からスカウトという名のコネ入隊で三門市にやってきた道民。
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