北の超特急、三門市行き   作:あきた百瀬

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「奈帆ちゃん櫻葉隊行くんだって?」

 

「あー」

 

「A級入ると思ってたわ、加古さんのとことか」

 

「ランク戦勝って自力で上がるってさ」

 

 

なんだそれカッコいいな、俺も使うわと言う米谷に出水はお前のとこは今季からA級だろと突っ込んだ。

今季からA級に昇格した三輪隊と入れ替わりでB級に降格したのが櫻葉隊だった。昨季のランク戦シーズン隊長以外のメンバー総入れ替えで臨んだ櫻葉隊はA級5位から瞬く間に順位を落としB級入れ替わり戦でも敗北し降格が決定した。

ボーダーに就職し現在鈴鳴支部で職員を務めている宮部、戦術を担当していた指揮能力も高いオペレーター岬の穴は大きかった。

万能手2人体制での変速攻撃から櫻葉をエースに固定する大幅な戦術の変更、新メンバーの経験不足が重なったことによる不調が響いて降格した櫻葉隊だが実力に問題はない。

隊長の櫻葉はスコーピオンでの個人ポイント1万超えの万能手、銃手の福井もマスタークラス、オペレーターの風早も処理が早く支援能力が高い。そこに櫻葉隊の得意とする電撃戦に合わせられる機動力を持ち、課題の火力不足を補えるであろう高火力の奈帆ちゃんが入る。

絶望的だった昨季の前半戦はともかく、後半戦は戦術も動きも内容ほどは悪くなかったので人数差による不利もなくなると考えれば奈帆ちゃんの宣言通りA級への復帰もありえるかもしれない。

 

 

「にしてもなんで櫻葉隊?」

 

「風早が元陸部で奈帆ちゃんと知り合いだった」

 

 

その前に櫻葉さんのゴリ押しに太刀川さんが押し負けてたので、うちに唯我の入隊が決定したのと以上、奈帆ちゃんに櫻葉隊を紹介するの決まっていたらしい。

知り合いもいる上に太刀川さんの紹介となれば素直な奈帆ちゃんはあっさりと他のA級部隊からの誘いを断り櫻葉隊への入隊を決めた。

あまりの太刀川さんへの信頼ぶりに俺と居合わせた二宮さんが動揺したくらいだ。

二宮さんの「太刀川の紹介だぞ!?もっと検討しろ!!!」は流石に酷い気がする、というか加古隊にいくと言い始めても二宮さんなら再検討を勧めそうだが…。

まあ、ともかく奈帆ちゃんは今季B級上位スタートでランク戦への参戦が決まった。

 

 

「あ、書類の山みたいなの見つけました!!」

 

 

進学が決定済みということで午前授業だった奈帆は謎のぬいぐるみや土産物が散乱し、恐らく従姉妹のものと思われるゲームや出水と太刀川の私物であろう香水やヘアワックスなどが所狭しと押し込められた太刀川隊の隊室を掻き分けていた。

太刀川が無くしたレポート併せて提出するレジュメを捜索していた二宮に付き合う形だ。この部屋を1人で捜索するのは無理だろうと手伝いを申し出た、太刀川本人は自室を、加古や来馬は大学内を探しているらしい。

 

 

「…お前六頴館だよな、平気か?」

 

「い、一応模試ではA判定でした」

 

 

書類の山に紛れ込んでいた従姉妹のテスト用紙から奈帆は静かに目を逸らした。進学する六頴館のOBである二宮は大真面目に奈帆の成績を心配しているようだが奈帆は兄ほど成績が良いとは言えないが赤点に縁はなかったし模試の偏差値にも問題はなかったので平気だろう。というか無理と言われても困るしどうしようもない。

大らかな叔父と叔母はそんなに怒らないと思うが見なかったことにしよう、と奈帆は二宮が放り出した従姉妹テスト用紙丸めてゴミ袋に詰め込んだ。

それにしてもA級は大変なんだな、従姉妹といい太刀川さんといい…。頭の良い時枝くんも三門第一に行くって言ってたし時間がなくて忙しいんだろう。A級上位なのに六頴館だった二宮さんはすごいなぁと奈帆は尊敬の念を抱いた。

 

 

「なんでこんなものがあるんだ…」

 

「まりも…可哀想なんで日向に置いておきましょうか」

 

「ああ」

 

 

何故か埋もれていた瓶詰めのまりもを奈帆は棚に飾った。生態に詳しくはないが植物だし日に当たったほうが育つだろう。

ついでに文字盤が見づらい蟹を模した時計も横に置いておく。

肝心なレジュメは見つからないのに恐らく祖父母が従姉妹に贈ったと思われる北海道土産が次々と発見される。

櫻葉隊の整然とした隊室にも、奈帆の小さなワンルームにも飾る場所はないのであとで断りの電話を入れようと決意しつつ物に埋もれている書類を掘り返していく、時計が一周した頃ようやく二宮さんの携帯にレジュメが見つかったと連絡が入った。

 

 

「あんたなんで進学したわけ?宮部みたいに就職すれば良かったじゃない!!」

 

「就職したらランク戦が出来ねえじゃねえか」

 

 

ボーダーに就職すると隊員から職員にジョブチェンジする為、ランク戦には出られなくなるらしい。

実業団のように職員でいながら隊員として活動するというのは設立されて数年のボーダーの人員数では厳しいようだ。たしかに転校や引っ越し手続きは沢村だったが他の書類手続きは奈帆と同い年時枝がしてくれたあたり職員数は足りてなさそうだ。

緊急離脱システムがあるので戦闘員である奈帆は三門市内にいる限り命の危険は無いと聞いている。それでもリスクはゼロじゃない。

奈帆がボーダーに入ると言った時に母は泣きながら反対した。田舎町で進学どころか生計も立てられるかも不透明な中でも子供を戦わせるのは嫌だと。侵攻を目の前で見た三門市民であれば尚更前線に立つ戦闘員でなくても反対するかもしれない。

奈帆は実質コネ採用なのでスムーズに入隊したが、スカウトされても断られることが多いと沢村が話していた。まあ、奈帆も両親の離婚で父から家を追い出されるという事態に見舞われなければ入隊したかは分からない。(この場合そもそもスカウトされるかも分からないが)

 

 

「悪かったなこんなことに付き合わせて」

 

「いえ、見つかって良かったですね」

 

「ああ、推薦で入った以上は卒業させないとボーダーの沽券に関わる」

 

 

眉間に皺を寄せた二宮は奈帆に手間賃代わりなのか貰い物だという菓子と紅茶を渡すと訓練に行ってきていいぞしばらくお前の隊長はあいつに付きっきりだ。とわざわざ二宮隊の隊室から菓子を持ってきてくれたらしい犬飼に奈帆を射撃訓練場に送るように伝えると櫻葉に加勢するのか騒ぎの中心へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

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