なかなか行くことがない狙撃練習場をキョロキョロと見渡しつつ犬飼はチームメイトの鳩原を探す。
犬飼と別れた奈帆は近くにいた奈良坂と何か話している。
赤いショートヘアと同じくらい顔を赤くして何か訴えている奈帆を見て笑う奈良坂、どうやら揶揄っているらしい。奈良坂が珍しいなと思いながら見ていると視線に気がついたのかこちらを見た奈帆に手を振ると赤い顔のまま小さく手を振りかえしてくれた。可愛い。
奈良坂に何か言い返しながらイーグレットを換装して構えた奈帆ちゃんは切り替えが早いらしく射撃姿勢を整えると直ぐに的の中央を撃ち抜いた。
流石はスカウト入隊。A級隊員の親族ということでコネ入隊と揶揄する声もあるが一瞬で切り替えが効く集中力に東さんの弟子らしく高い狙撃技術、さらにトップ攻撃手並の機動力もある。
あの技術をこの期間でと考えると長時間の練習とそれをこなせるだけのトリオンもあるだろうからぱっと見ではほぼ穴がない。
「んだよ犬飼、ナンパか?」
「んー、そんな感じ」
「犬飼くん何しに来たの…」
「へえ奈帆か、あーいうのタイプだっけ?」
「割とタイプだよ、可愛いじゃん」
ナンパではないが、まあ特別に用事は無かった。
訓練に行くというから送っていくついでに鳩原にミーティングは無くなったことを直接伝えようかなと思っただけだ。
隊室の訓練室は辻ちゃんに取られたからこの後は個人戦でもするつもりと当真に言うと「二宮さんがミーティング中止とは珍しいな」と少し驚いていた。
たしかに、スケジューリングがしっかりしている二宮さんには珍しい。
電話でよかったじゃんと、鳩原に呆れられつつも華奢な背中に視線を移す、実のところ好みからは若干外れているが奈帆ちゃんは可愛い、というか犬飼じゃなくても垂れ目の子犬のような純粋そうな顔立ちに人懐っこい性格は老若男女問わず可愛いと感じるだろう。
まあ、もうちょっと太った方が良さそうだ。あげるのはお菓子じゃなくてお弁当の方が良かったかもな。今度はご飯でも奢ろう。
「よりによって櫻葉隊入っちゃうとは可哀想に」
「降格しちまったけど櫻葉さんだろ?悪くはないだろ」
奈帆もいるし復活昇格もあるだろ、と言う当真に犬飼は曖昧な笑みで返した。
櫻葉隊は元A級とはいえ昨季は全敗。実質A級レベルなのは櫻葉さんだけ、奈帆ちゃんの実力に疑いはないが他が頼りなさすぎる上に櫻葉さんも少しヤバそうだ。
「お前は他人の面倒を見ている場合か?」
太刀川のレポートを丁寧に添削する櫻葉を見て二宮は眉間に皺を寄せた。
太刀川は論外として、櫻葉に呑気に太刀川のレポートとしての体裁が全く整っていないレポートを添削する余裕はないはずだ。
降格して瀬戸際にいるはずの部隊の隊長が準備期間に隊として何もせず他人のレポートの添削とは何事だ?言外に問いかけた二宮に「よその心配までしてくれるなんてA級の隊長さんは親切ね」と櫻葉は不貞腐れたように言い放つとレポート用紙を乱暴に太刀川に投げつけた。
降格決定から1ヶ月。
日に日に逆立つ感情を抑える術を櫻葉は見つけられずにいた。
昨季直前、岬と宮部が脱退して以降崖から転がり落ちていくように何もかも上手くいかない。
「ご親切にどうも!!うちにはうちのやり方があるのよ放っておいてもらえる!?」
苛立ちのまま二宮に怒鳴り散らした櫻葉は荷物を纏めてラウンジから逃げ出すように立ち去った。そのまま帰宅するつもりだろう。
「気が立ってる櫻葉は刺激するなってのは攻撃手だと常識なんだが?」
知らないのかよ、と腹立つ顔で抜かした太刀川を手近にあったレポート用紙で殴って沈めた二宮は不安げな奈帆を思い返す。あの才能が潰れたらどうするつもりだ。
奈良坂先輩は後輩が珍しく重役出勤だったので思わず話しかけました。