北の超特急、三門市行き   作:あきた百瀬

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2.

綺麗な射撃姿勢だ。

 

 

スコープを覗き込む頭部は顎が僅かに引かれた状態で真っ直ぐに保たれ、スッと伸ばされた背筋に胸から開かれた肘、狙撃後も安定して水平を維持された肩と実直なまでに基本に忠実な教科書に載せたくなるような美しい射撃姿勢。

それに筋もいい。

下がっていく的に惑わされず体勢も重心も崩さない集中力と冷静さ、まだ入隊から1週間も経っていないはずだが既に動きは洗練されつつある。

いくつかの着弾がズレてしまっているのは単純に引き金を引くタイミングが早すぎて呼吸が合っていないからだろう、しかし普通なら力んで肩に余計な力が入ったり前のめりになって重心がズレたりするが射撃姿勢は全く崩れず肩は水平に保たれ、重心も理想的な位置を維持したまま狙撃している。恐らく身体のコントロールが抜群に良いんだろう。戦闘体の身体能力には大きな差はないがそのコントロールは素の身体能力が反映される。

近距離で素早い身のこなしが要求される攻撃手が基本的に運動神経が良いのが良い例で基本的に素の身体能力が高ければトリオン体の操作も上手いとされる。自身の病弱な従姉妹のように単純に身体能力が高ければ良いという話でもないが戦闘体のコントロール技術は基本的に持ち前のセンスに由来する。

スカウトで入隊しただけあってやはり素質はずば抜けているようだ。

 

 

遥か遠くまで離れた的を追うように放たれた弾丸は中心から僅かに逸れた場所に着弾した。

奈帆は大きく息を吐くと構えていたイーグレットを下ろして力を抜いた。トリオンという未知の物質で構成されているらしい戦闘体は不思議なことに疲労を感じないらしいがずっと同じ姿勢でいた為か肩が凝ってるような気がする。

肩を回しながら撃ち抜いた的を観察してみる、中心から大きく逸れた弾は無いが外れ弾がいくつか見受けられる。

 

 

入隊から1週間、奈帆のポジションは紆余曲折というほどでもないがそれなりの過程の上で狙撃手に落ち着いた。

 

 

女子中学生としては長身かつ運動部のエースということもあって初日に仲良くなった小荒井達や太刀川からは攻撃手を勧められたがレース中に他の選手と接触したのがトラウマとなっている奈帆に接近した上で斬り合いは理解不可能な恐怖があった。

なら、射手か銃手だな!トリオンも充分だし!と意気込む出水と烏丸を前に「長距離選手なら忍耐力はあるだろうし狙撃手はどうだ?」と東の鶴の一声がかかり奈帆は当面狙撃手として正規隊員を目指すことになった。

綿密なレースプランを組み勝つというより勝負所から身体能力とスタミナで押し切って勝つレーススタイルの奈帆にとってアシストから得点まで器用にこなす必要のある射手や銃手はどうにも敷居が高かったので東の一声はとても助かった。

奈帆には知る由もないが太刀川隊のスカウトという面目で入隊したので既にトップクラスの射手と銃手を要する太刀川隊に入れるなら狙撃手の方がバランスが取れるという体面的な理由もあった。

そんな流れでちゃっかりと今や珍しい東の弟子となった奈帆は冬休みという学生特権と本部住みというスカウト特権を活かして朝一で射撃場で練習に励んでいた。

 

 

「おはよう、早いな」

 

「おはようございます!えーと」

 

「奈良坂だ、古寺と同じ三輪隊に所属してる」

 

「古寺くんと!」

 

 

人懐こいのかボーダー内だからなのか警戒心が薄いらしい、面識のない異性に声をかけられたにも関わらず愛想良く挨拶を返す姿は歳の近い弟子を持つ身として奈良坂は後輩の少女が若干心配になった。

まあ、ボーダーに変な人間はいないが。

先日、奈良坂より先に顔を合わせたオペレーターの月見が「最初苗字も一緒だし似てるから姉妹かと思ったわ」と言っていたが確かに柔らかなタレ目に赤みがかった髪、丸い頬が国近先輩によく似ている。月見の発言がなければ奈良坂も迷わず姉妹だと思っていただろう。

背は国近先輩より高い、章平と同じくらいか少し低いくらいだろうか?

体格は細身というより絞られてると表現したほうが良さそうだな、とC級の制服であるハーフパンツから露出された華奢な骨格とは不釣り合いな脹脛の筋肉を見て奈良坂は心の中で訂正した。狙撃姿勢を見る限り体幹も強そうなので元々スポーツしてたんだろう。

 

 

「朝から熱心だな」

 

「早く昇格しないといけませんから」

 

 

打ち抜かれた的を見る限り昇格に時間はかからないと思われるが太刀川隊の期待を背負っているせいか焦っているらしい。

だから時間を使って呼吸を整えてから狙撃すればいいところをまるでランク戦で狙っていた相手を取り逃す寸前のような勢いで撃つのか、と奈良坂は練習を再開した奈帆を見て納得した。

焦って突っ掛かるような勢いで狙撃しつつも体勢は崩れないあたり器用である、通常なら突っ掛かった勢いで体勢も前のめりになりそうなんだが…。

いや、体勢が崩れて狙いが大きく外れれば上手く間違いに気がつけたところを変に体勢は崩れなかったせいで大きく外れることが無かったのでいまいち原因が掴めなかったのか?

 

 

「国近さん、早撃ちじゃないから落ち着いて撃った方がいい」

 

「へ?」

 

「引き金を引くのが早すぎる、呼吸を整えてから撃ってもこの銃の弾速なら間に合う」

 

「はい」

 

 

奈良坂の言う通り奈帆が一呼吸してから撃っても的は動かないままだった。

なるほど、呼吸のような些細な動きでも距離が開けば開くほどズレは大きくなってしまうらしい。

呼吸を整えてから撃てばちゃんと奈帆の狙い通りの位置に着弾した。

 

 

「ありがとうございます!!」

 

「いや、大したことじゃない」

 

 

ペコリと綺麗な直角に曲げられた背中に奈良坂は居心地が悪くなった。本当に大した指導ではない。

入隊から1週間でワンホールでの狙撃が出来るのは指導の良し悪しより本人が生まれ持ったセンス大きい。

動かない的とはいえここまで精密に撃てるなら動く"的"にもかなりの精度で当てられるだろう。B級昇格どころかA級も見えてくる腕前だ。

 

 

「早く昇格出来るといいな」

 

「はい!頑張ります!」

 

 

近くのブースに入ると奈良坂も訓練を始める。

彼女はあと一月もすればスカウトしてきた太刀川隊に配属されるだろう。そうなれば同じくA級の三輪隊とランク戦で合間見ることになる。

彼女はどんな戦い方をするんだろうか?

出水と同じくサポートに回って太刀川さんや烏丸の援護するのか、体育会系のようだから当真さんのように自分から点を取りに来るかもしれない。

いつも通り的の中央を正確に撃ち抜きながら奈良坂はまだ来ないランク戦に思いを馳せる。

久しぶりに、ランク戦が楽しみになってきた。

優秀な後輩を前に珍しく奈良坂の気分は高揚していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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