北の超特急、三門市行き   作:あきた百瀬

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まさかここまでとは…。

愛弟子の成長に東驚いた。ランク戦に防衛任務、新入隊員へのカリキュラム作成やら大学院のレポートと予定が立て込んでた所為で新たな弟子に付きっ切りというわけにもいかず結果的に基礎を教えるのみに留まっていたが奈帆は入隊から1週間で正規隊員も含めた訓練でも上位15%以内の成績を超えて5%に入る好成績を叩き出した。

今日行われた隠蔽・捕捉訓練でも10位に入る好成績を収め、今週の合同訓練はもう明後日行われるレーダーサーチのみなので昇格条件である上位15%の成績の維持はもう確定と言っていいだろう。

隠蔽・捕捉訓練では読み合いでの詰めの甘さが目立ったが狙撃手離れした機動力と呆れるほどの練習量による正確な狙撃は経験の差を考えれば及第点だろう。ひと月前まではボーダーに入ることすら考えていなかったことを考慮すれば脅威的な成長だ。このままいけば三門市の短い冬休みが終わる前、年明けには正規隊員に昇格するだろう。

 

問題は昇格した"後"だ。

 

順当にいけばスカウトした太刀川隊へ行くだろう。

太刀川隊は現在太刀川、出水、烏丸の戦闘員3人と奈帆の従姉妹である柚宇の4人部隊。太刀川隊は戦闘員が1人増えてもルール上もオペレーションも戦闘も問題はない妥当な進路だ。

しかし、奈帆ははっきり言うと戦闘員には向いていない。穏やかでおっとりした性格、個人競技だからか運動部の割に闘争心も薄い。

それに素直で真面目な恐らく美点となる性格が戦闘員としての不向きさに拍車をかける。腹の読み合いと戦術は完全にダメだ。

何の訓練もしていない女子中学生ということを差し引いても動きが素直すぎる上に表情と視線に考えが出てしまっている。

果たしてこれで昇格してすぐにA級に行ってやっていけるんだろうか?

少なくとも同じく弟子の二宮なら問答無用で落第を告げそうな正直者ぶりだ。

とにかく昇格までに戦術と狙撃手としての動きを叩き込まなければならならない。幸いなことに今季のランク戦はもう終盤に入っているし、レポートの締め切りは余裕がある。

このままだと、A級の手酷い洗礼を受けるのは目に見えている。

 

 

「フォームが綺麗ですね、体幹が良い」

 

 

レイジは東が持つ端末を覗き込むと力強く頷いた。

大きくがっしりとした作りのイーグレットを操作するには不向きに思えるほど余分なものが削ぎ落とされた細い手足に対して四肢を素早く動かして前に進むために臀部や大腿部は鍛え上げられC級の制服越しにもハリのあるトモが見て取れる。制服に隠れているが動きを制御するための体幹も同じく鍛えられているだろう。

動きながらでも教科書通り上半身はまるでギプスで固めているようにブレずに狙撃している。生身の体幹も相当強くないと難しい芸当だ、線が細く華奢な身体は一見頼りないが長い道のりを早く効率よく駆け抜ける為にこれ以上なく仕上げられた長距離選手の身体だ。

 

 

「動き自体はあれだが足が早いな腕も悪くねえ、太刀川も良いの連れてきたな」

 

「本当よく連れてこれたな、部活とかやってそうな鍛え方だが」

 

「家庭の事情らしい」

 

「へえ、そりゃまた」

 

 

苦労してんな。とレイジに釣られて覗き込んだ諏訪はもう一度画面に視線を向けた。

背が高いせいか大人びて見えたが顔は年相応、いや、初めて訓練でテンパっているのか子犬のような瞳を潤ませた顔は歳より幼く見える。

他所様の家庭に首を突っ込むつもりはないが可愛がられて育った性格の良さが良くわかる表情と動きの甘さだ、ボーダーに入隊せざるを得ないような重苦しい家庭で育った感じはない。スカウトしてきたのが戦闘以外での信用が無い太刀川なのもあって、一体なにがどうなってボーダーにきたのか全く想像がつかない。

 

 

「昇格後は太刀川隊にですか?」

 

「予定ではな、俺としてはB級で少し経験を積ませたいが…」

 

「まあ、太刀川はあんまそういうの考えねえな」

 

 

太刀川隊にそのまま放り込んでも経験分は面倒見てくれるだろう、出水が。(スカウト元である太刀川の面倒見は大してよくない)

腕と勘は悪くない、動きは経験と知識で改善出来るレベルだ。A級に放り込んでも即戦力とはいかないだろうが足手纏いになるほどではない。

 

 

「たしかに経験積ませた方が良さそうな動き方ですね」

 

「そうか?入隊2週間ならこんなもんだろ」

 

 

ポジションが違うので参考にしていいかは微妙だが少なくとも諏訪は入隊当初戦術などさっぱり分からなかったし、今でも得意かと聞かれたら微妙だ。

そもそも一部の例外を除き誰でも大なり小なり入隊当初の動きは甘い。この平和な国で戦術的行動を最初から理解して動ける奴はいない。生まれ持ったセンスや知能の差が多少はあれど大半は入隊当初ボコボコにやられるのが常だ。

今でこそ絶対に有り得ないがあの二宮が太刀川の策略に引っかかり、あの風間が狙撃手の射線で姿を晒したりと誰でも信じられないようなミスを積み重ねて現在の強さがある。

誰でも最初はそんなもんだし、太刀川のスカウトという点が若干の不穏さを漂わせているがある程度頭があるだろうし、狙撃手連中は面倒見がいい。

それなりの苦労はしそうだがそれでへこたれるような奴なら奈良坂にしつこくマークされた時点でとっくの昔に諦めるだろう。

動画内では弾痕から軌道を逆算して奈良坂に突っ込んでいく奈帆が映し出されている。

狙撃手としては完全にアウトな姿を晒して猛然と突っ込んでいく姿に東さんは呆れ顔だが諏訪としては自分の読みと脚に戸惑いなく全部賭ける度胸、奈良坂相手に勝ちに行く負けん気を評価した。

諏訪が思うボーダー隊員に必要な要素はこの2つだ。度胸がなきゃ土壇場で動けねえし、負けん気がなければ前に進めない。

どれほど戦闘センスがあってもトリオンがあってもこの2つがなけりゃ成長しない、逆にこの2つがあればペースはともあれ成長する。

 

 

まだ、どうなるかは分からないがこの度胸と負けん気なら過程がどうであれちゃんと成長していくだろう。

 

 

 




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