残酷な神様 LEGENDSアルセウス 作:ネクロズマ(日食)
こんな事になるなんて思ってなかった。
「…そんな…僕はこれからどうすればいいんだ…」
天冠の山嶺、いずれ『槍の柱』と呼ばれる崩れたシンオウ神殿で、僕は1人何もない空間へと問いかけた。
寒冷な土地に加えてその中でも一際高い山の山頂、吐いた息が真っ白になる程の厳しい気温も、今は驚くほど何も感じられない。体は震えてるけど、それはきっとこの寒さが原因じゃない。
「…帰りたかった…僕は…ただそのためにこれまで頑張ってきたのに…」
その言葉を絞り出すのでやっとだった。
突然知らない世界へと飛ばされた時よりも、命を掛けてキングやクイーンと対峙した時よりも、そして理不尽に村を追われた時よりも、何倍もの絶望で体が震える。
ヒスイでの生活が嫌だった訳じゃない。村の人も、それぞれの団も、そしてショウやラベン博士もみんないい人達だ。でも、自分にとって本当の居場所はここじゃない。最終的には『元の時代へと帰して貰える』と思っていたからこそ、ここまで折れる事なく頑張ってこれたんだ。でも…
「あああああぁぁぁぁ!!」
最後は言葉も出なくて、ただ踞りながら絶叫するしか出来なかった。
僕は…
『帰れない』
ポケットモンスターLEGENDアルセウス
残酷な神様
「あっ!テル!お帰りなさい!」
「…えっ…あっ…ショウ…?」
ことぶき村の入口で先輩団員であるショウから声を掛けられて僕はハッとした。回りを見渡すと、既に日は落ち掛けていて、オレンジの夕日が少し眩しく感じる。
正直どうやってここまで帰ってきたのか殆ど覚えてないけど、自分の足は自然とここに向かっていたらしい。
もう二度とここに戻ってくる事はないと思ってたのに。
「どうしたんですか!? 顔真っ青ですよ!」
「そうかな? あぁ…いや…そうかもしれないね…」
心配そうに顔を覗き込むショウに最初は取り繕おうと思ったけど、傍目から見て相当酷い顔色をしてる事は自分でも何となく分かる。誤魔化すのは無駄だと思うし、ここは話を合わせておこう。
「ごめん 天冠山の実地調査でちょっと疲れたみたいだ。特に報告出来るような成果はないから、今日はこのまま宿舎で休むよ」
「そうして下さい シマボシ隊長にはあたしから伝えておきますから」
「ありがとう」
「後でムベさんのイモモチをお持ちしますので、ゆっくりしていて下さい」
「気を使わせてごめんね」
「いえいえ 天冠山の単独調査なんてあたしにはとても出来ませんし、疲れて当然ですよ。とにかく、無事に戻ってきてくれて良かったです!」
「…うん それじゃ僕はもう行くよ」
愛想のない短い受け答えだけして、僕は逃げるように宿舎の方へと足を進める。
『単独の実地調査』なんて方便だ。本当は黙ってそのままいなくなるつもりだったなんて言える筈がない。
「どうか無理はしないで下さいね この村にはまだまだ貴方が必要ですから」
背中越しのその言葉に、僕は息がつまるような感覚がした。この世界には僕が"知ってた人"に似た人が多すぎる。
「また、帰ってきちゃったな…」
ガラガラと玄関のドアあけると、そこは綺麗に整理された殺風景な自分の部屋。
もう戻るつもりはなかったから、出発前に部屋の整理も済ませてたし、ちゃぶ台の上には置き手紙も置いていた。
(何が『もう戻ってこない。探さないで下さい』だよ…バカみたいだな。僕は…)
封の切られていない手紙をビリビリと破り捨て、僕は膝を抱えて畳に座り込む。
「これからどうしようかな…」
思えばずっと、僕はこの世界に対して疎外感を持っていた。ただポケモンを捕まえただけで過剰に期待を掛けられたり、バトルでは当然の指示をしただけで『天賦の才』と持て囃される。勿論時代が時代だ。確かに仕方がない部分はあるだろう。でも元いた遥か先の未来、ポケモンがいる生活が当たり前になっていた自分にとって、それは余りにも次元が違う世界だった。
ポケモンバトルは競い合うライバルがいてこそ最高に楽しいものだけど、『シンオウ地方の現チャンピオン』だった自分と、捕獲の概念が生まれたばかりのヒスイの人々とでは、バトル特有のあの緊迫感や興奮は終始生まれなかった。
荒ぶったキングやクイーンは確かに驚異だったけど、それは執拗に自分に狙いを定めてくるからで、一度ポケモンバトルに持ち込めば野生のポケモンの1匹に過ぎない。純粋な強さも立ち回りも技のキレも、遥か未来の四天王やジュン、シロナさんの手持ちには到底程遠い。
「僕は…なんで此処にいるんだろう…」
今まで何度も頭を過っては、その度に『使命があるからだ』と先送りにしていた疑問が頭の中でループする。
プライベートな話も殆ど通じない。好きだったポケモンバトルも満足に出来ない。この世界での目標もない。
そんな僕がこれ以上ここに留まり続ける事に何の意味があるのか。
気付けばまた涙が溢れる。
「…今なら
未来のギンガ団のリーダー、かつて敵対したその野望を思い起こす。誰からも理解されず、感情を悪としてそれがない世界を創造しようと画策したカリスマ的な悪党。
あの時は全く理解出来なかったけど、彼がこの孤独感を小さな頃から感じてたなら、それはどれ程の絶望だったんだろう。
「…そう言えば、あの人の野望を止めたのも今のシンオウ神殿だったな…これも因果応報っていうのかな…」
あの時のアカギと今の自分。
同じギンガ団という組織に所属して、目的の達成を目前に同じ場所でドン底に落とされた彼に、こんな時だけど僕は初めて親近感を覚えた。
案外、あの人と僕は似ているのかもしれないな。
(久しぶりに泣いたからかな…かなり疲れた…今日はもう寝よう…)
明日の事は目が覚めてから考えよう。少なくとも少し時間を空けないと満足に頭も回りそうにない。
ショウが玄関をノックする音が聞こえたけど、今は顔を見られてくない。
あれだけの体験をしたんだ。昼間の出来事は絶対夢に出てきそうだと思いながら、僕は座ったまま眠りに落ちた。
ーーーーーーーー
「~~~~~~♪」
カンナギの笛が形を変えた『天界の笛』の音色が響く。
この時代、この地方に住むポケモン全てを捕獲して、今日、僕は天冠山の遥か上空、天界と呼ばれる場所でアルセウスに会った。
アルセウス≪神≫に会えば、全てが元に戻ると信じきって。
「これが僕達の全力だっ!ジュナイパー!三本の矢!」
「クルックー!!」
体勢を僅かに崩したアルセウスへと三本の闘気の矢が飛ぶ。
『最後の試練』と言われるだけはあり、アルセウスの攻撃は今まで戦ってきたどのポケモンよりも苛烈だった。
『1撃入れればいい』『手持ちの6匹全員で挑んでも構わない』という条件下でさえ、休まる事を知らない嵐のような猛攻にこちらが一方的に満身創痍だ。
そんな中、僅かな攻撃の間に捩じ込むようにゴウカザルとムクホークが地と空から捨て身のインファイトを仕掛け、ヒラリと交わされた瞬間にレントラーがスパークで一瞬だけ視界を奪い、着地寸前にトドゼルガが冷凍ビームで足場を凍らせ、バランスを崩した瞬間ヨノワールのサイコキネシスでコンマ1秒その体勢のまま拘束する。
ここを逃せば次はない。限界の連携攻撃だった。
だけど、ヨノワールの拘束を振り切ったアルセウスが、即座に飛来する3本の矢の迎撃に入る。
1本目、2本目の矢を瞬く間に裁きの礫で叩き落とし、最後の矢さえも間一髪でかわされた。
でも、まだだ!
「これが最後だぁ!!」
叩き落とされた矢が爆散する煙に乗じて、右手に鎮め玉を握り混んだ自分が走る。タイミングの都合礫の余波をまともに受ける事になったけど、アルセウスに接近するにはこれくらいの代償は仕方ない。
「!」
完全に不意を突く形、僕が4本目の矢だ。
至近距離から投げたアルセウス特性の鎮め玉は、パンっ!という小気味良い音を上げてその身体に命中した。
「……」
「……」
アルセウスと視線が合う。にらみ合いのような沈黙だけど、向こうから攻撃してくる様子はない。
これは僕の勝ちでいいんだろうか。
そう思っていると、頭の中に何処か優しい声が流れてくる。アルセウスやディアルガ、パルキアといった神話のポケモンは、人語を介さない代わりに、その思念をテレパシーで他者に共有するのだ。
『試練をよく乗り越えた』『感謝している』『試練を越えた褒美に、自分の分身体を託す』
不思議な力による"回復"を受けながら一通りの話を聞いた上で、僕は次に自分がここに来た目的を打ち明けた。
「アルセウス あなたの望みを僕は叶えました。あなたの最後の試練も、今乗り越えてみせました。だから僕を…元いた時代に帰して下さい!」
毅然とした佇まいを見せるアルセウスに僕は叫んだ。
『時空の裂け目』が消えたあの日から、僕はずっと小さな不安を抱えながら生きてきた。
目に見える形で元の世界との繋がりが消えた今、そこに帰るためには神と言われるアルセウスに頼る他ない。実際僕は時空の裂け目に飲み込まれてこっちき来た訳じゃなくて、アルセウスに呼ばれてこの世界へと落ちて来たんだ。なら彼の望みを最後まで果たした今、創造神の力をもってすれば時空の裂け目に関係なく元の世界へと戻れる筈だ。
「…………」
しばらくの沈黙、でもそこで次に流れてきた情報は、僕が期待していたものとは全然違っていた。
「えっ…戻る事は…叶わな…い…」
頭の中で目まぐるしく情報が入ってくる。初めは優しく聞こえたその声が、段々と無機質なように聞こえる。
「…………」
「う…嘘だ」
佇むアルセウスを前に、僕は呆然と膝から崩れ落ちていた。
曰く、未来人である自分がこの時代に干渉した事で、この先の未来は厳密には『自分がいた時代とは別の世界』になったのだという。未来へといく事自体は神の力を使えば可能だけど、その時代の僕の席には既に『別の誰か』がいて、帰ったところで自分の居場所はないと。
言ってしまえば、初めてこの世界に来た状況に再び身を置くことになるという事だ。いや、出自不明でもやっていける過去の時代とは違い、未来の世界で『何処の誰かも分からない人間』などポケモンバトルがいくら上手かろうとまともには生きていけない。
アルセウスからのテレパシーは言葉を介さない分、正確な情報だけが頭に入ってくる。反論に対するあらゆる解答も同時にだ。異を挟む余地はそこにはない。
「うっ…!」
それと同時にアルセウス自身の意思も流れ込む。
神は事象に対して自身が直接干渉する事はしないと。
彼は人やポケモンが起こした問題は可能な限り人やポケモンの手で解決すべきだと考えている。それがどうにもならない場面でのみ、最低限の補助をするのが自身の役目だと。今回の『時空の裂け目』の事件がそれだ。過去の人間だけではどうにもならないと判断したからこそ、それを解決出来る"可能性がある"人間を未来から呼び寄せた。
ただ、アルセウスが神として干渉するのは"そこまで"なのだ。事件が解決したのなら、その先に関しては再びその世界の摂理に添うべきだというのが彼の神としての意見だ。でも
「ふざけるな…」
頭ではその立場や意見も分かる。いや、テレパシーで分からされたと言えるかも知れないけど、感情は別だ。神からの裏切りとも言える思念に僕の怒りは爆発した。
「ふざけるな!僕は
「…………」
「帰してよっ!! 僕のいた世界に!! 神様の理屈なんて知らないよ!!」
これまで抱えていたストレスの数々が一気に噴出する
世界を救える可能性があるから選ばれた?
そんなの冗談じゃない!別にそれは僕じゃなくても出来た事なら、自分はただ貧乏クジを引いただけじゃないか。
「帰してよ…うぅ…」
この世界に来て一度も流した事がなかった涙があふれてくる。もう過去にも未来にも、本当の『僕』を知ってる人はいない。母さんやジュン、ヒカリやナナカマド博士にも二度と会えないなんて、そんな現実はあんまりだ。最後に何を話したかなんて、僕はもう一つも覚えていないのに。
「………」
でも、僕がいくら喚こうが、アルセウスが『神』としての立場を譲る事はやっぱりなかった。
話は終わりだと言わんばかりに、僕の視界は光に包まれながらホワイトアウト。気付いた時には、天冠山の山頂にポツンと取り残されていた。
「…そんな、僕はこれからどうすればいいんだ…」
すがるように天界の笛を吹いてみても、あの階段がもう一度現れる事はなかった。
ーーーーーー
次の日
「……うん…ああ、やっぱり夢に出たか 最悪だ…」
起床と同時に呟く。
これ以上の悪夢なんて今の僕には思い付かない。まあ、実際は悪夢じゃなくてそれが現実なんだけど。
(責めて布団で寝ればよかったかな)
時刻は朝の7時くらいだろうか。
寒さには慣れてるけど、暖房が録にないヒスイ地方の夜は特に厳しい。
固まった体をほぐして小さく伸びをする。
「あれだけ泣いたのって何時ぶりだろう…でも ちょっとだけ楽になったかな…」
一晩寝たお陰か意識はもうハッキリとしている。散々弱気になったけど、元々10才で殿堂入りして5年もシンオウ地方のチャンピオンを務めてたんだ。メンタル面だけは他人よりも強い自信はある。
(泣いてるだけじゃ何も解決しない。僕がどうしたいかが大事なんだ)
目を閉じて考えてみる。
『帰れない』『帰りたい』『帰れない』『帰りたい』
『帰りたい』『帰りたい』『帰りたい』『帰りたい!!』
今まではその内帰れるって勝手に安心していた。
『帰れない』と言われて初めて気付いた。
僕はやっぱり、どうしても在るべき場所に帰りたい。
母さんにもう一度会いたい!ヒカリやジュンと心から笑い合いたい!シロナさんやクロツグさんと本気のバトルがしたい!そしていつか父さんに追い付きたい!
絶対に諦めたくない!僕はここで終わりたくない!
(僕はまだ…諦めない!)
これから自分が何をすべきかも、今ならハッキリと分かる。
「これまでだって乗り越えて来たんだ…今回もきっと出来る」
簡単な事だ。
歴代最年少シンオウチャンピオンになれたのも、『時空の裂け目』の事件を解決出来たのも、図鑑を完成させてあの録でもない神様への道が開けたのも、回りのサポートはあったにせよ、詰まる所『自分が絶対に諦めなかったから』だ。
今回もそうだ。
帰れないと言われたから何だ。
あんな神様の言う事なんか関係ない。
僕は畳に転がったモンスターボールの内の1つに手を伸ばす。あの時山頂から投げ捨てるか迷いながら、それでも持ち帰った昨日の『戦利品』。
「ねえ神様…今度はあなたが僕に協力する番だよね」
『アルセウスの分身体』
"分身"とは言っても、実際は子供や模倣品に近い存在になるのだろう。まあ本体程万能の力はないにしても、ディアルガやパルキアに匹敵する力はボールからヒシヒシと感じる。
この神様のコピーと、これまで集めたこの地方全てのポケモンの力を使えば必ず出来る。
アルセウスから得た情報を元に考えるなら、僕が元々いた世界は消えてしまった訳じゃない。あくまでこの先の未来が僕のいた世界と直接繋がらなくなっただけ。僕がここに存在してるなら、僕が生まれ育った未来が丸ごと消えてしまった可能性は限りなく低い。だから、
(こんな現実僕は認めない どんな事をしても絶対に元の世界に帰る)
例えもう一度『時空の裂け目』を作りだそうとも、いや、元いたの世界とこの過去の世界が切り離されてる以上、これを繋げるにはもう一度『裂け目』を起こす必要がある。
勿論そんな事をすれば、この世界のみんなから激しい非難を受けるだろう。でも、奪われた居場所を取り戻すにはこれしかない。どれだけ罵声を受けても必ずやり遂げる。
ウォロさんに出来たんだ。同じ人間の僕に出来ない筈がない。
そうと決まれば、後は行動するだけだ。
ふと、備え付けの全身鏡に写った自分の姿が目には入る
「酷い格好だな…」
昨日そのまま眠ったから、服はボロボロで髪はボサボサのまま、更に体が冷えきって血色まで悪くなってるし、流石にこのままギンガ団本部に行くのもちょっとどうかと思う。
「…とりあえずお風呂だな。それからムベさんの店にいって栄養を取って、最後に昨日の報告を適当に本部にしようか」
もう使うことはないと思っていたスペアの団服をタンスから引っ張り出して、気持ちを新たに僕は宿舎を出た。
ーーーーーーーー
「おはようございます! テル」
「あっ!ショウ おはよう!」
ムベさんの店で朝食を済ませたタイミングで、ちょうどバッタリとショウに出くわした。昨日の今日だ。向こうも僕の事を気に掛けてくれてたんだろう。彼女は小走りぎみに大丈夫ですか?と駆け寄ってくる。
自分としても彼女に用があったから、ここで会えたのは探す手間が省けてちょうどよかった。
「昨日はごめんね 僕あの後すぐに寝ちゃって」
「いえいえ 体調が戻ったみたいでよかったです!昨日のテル、何だかこのまま消えちゃいそうな雰囲気でしたから…」
「心配掛けたね。でももう大丈夫! ほら、顔色だって昨日と全然ちがうでしょ?」
そう言って、僕はあっけらかんと自分の顔を指差してみる。銭湯で血色はバッチリ元に戻ったし、身だしなみも整えてある。パッと見はいつもの僕と何も違いはない筈だ。
彼女は「うーん?」とまじまじ自分の顔を覗き込んで来たけど、やがてなんとなく納得したように1歩引き下がった。
「まあテルがそういうなら信じますけど、くれぐれも無理はしないで下さいね」
「心配いらないよ 何て言うか、いろいろスッキリしたんだ、もう昨日みたいな事にはならない」
そう言って、僕は胸の内を悟られないようににこりと笑ってみせた。
『時空の裂け目』をもう一度作る。でも、それは僕一人の力じゃ上手くいかない事もあるかもしれない。そう考えた時に真っ先に浮かんだのが彼女だった。純真でお人好し、更にこの村では数少ない同年代の友人となれば、僕にとってはこの上なく"扱いやすい"。
「?? よくわからないですけど、元気になったなら嬉しいです。何かあれば遠慮なくあたしに相談して下さいね。テルは一人で抱え込む事が多いんですから」
「うん。ありがとう これからも色々苦労を掛けるかもしれないけど "頼りにしてるからね" ショウ」
「はい! 私に任せてください!」
満面の笑みでヒカリに似た少女は首を縦に振った。
彼女は優しくて、それでいて保護欲が強い。こちらが頼りにすると言えば言うほどそれに答えようと努力してくれるし、彼女なら曖昧な理由でも多少の無理は聞いてくれるだろう。『自覚なき協力者』ってやつだ。
後は…上手くできるか分からないけど、念には念を入れておこうか。
「そうだ。相談って訳じゃないけど、一度キチンと言っておかないといけない事があったんだ」
「早速ですね! ドンと先輩に何でも言ってください!」
そう言ってえっへんと胸を張るショウ。
でも驚くだろうな。僕がこんな事言うなんて。
「こんな僕をいつも気に掛けてくれてありがとう。初めてこの世界に来た時から、ショウの優しさに僕は何度も救われてきた。本当に感謝してる。今の僕にとって、この世界での"一番"は間違いなく君だ」
「へっ…」
まさに鳩が豆鉄砲を喰らったようにショウは固まった。
こんなクサイ台詞は今まで言った事ないから、失敗したかとも思ったけど、数秒後、彼女の顔が面白いくらいにみるみる赤く染まった。どうやら上手くいったみたいだ。
「えっ!?ええぇぇ!?きゅ、急にどうしたんですか!?」
「素直な気持ちだよ 一度はっきり言っておきたかったんだ」
「でもその…あの…」
そこまでモジモジと恥ずかしそうにされると僕も少し困る。でもまあ、時代を考えれば彼女のこの反応は割と当然なのかもしれない。こんな使い古されたセリフでも、この時代だと十分『破廉恥』なのかもしれないな。
もし次があるなら、その時はもうちょっと時代を考えよう。
「それじゃあ、僕は本部に顔を出してくるよ」
まあとにかく、これで彼女への用事は済んだ。
次は団長と隊長への帰還報告だ。
「あっ!え!? ちょっと待ってくださいよ! テル!」
「じゃあ、またね」と手を振りながら、僕は足早にその場を立ち去った。
あの様子だと、こんな素人の思わせ振りでも少しは効果が期待出来そうだ。上手くいけばより彼女を動かしやすくなるかもしれない。
多少良心は痛むけど、もう決めたんだ。
目的のためには手段を選ばない。利用出来そうなものは何でも利用するって。
(これから忙しくなりそうだ…)
背中越しにショウが何か言ってるけど、振り返らずにギンガ団本部へと進む。今は彼女にこれ以上の用はない。
(次ははウォロさんの居場所を探さないとな)
『時空の裂け目』をもう一度開くなら、先の事件の首謀者にも協力してもらおう。彼は僕を疎ましく思ってるから普通に頼んでもまず協力してくれないだろうけど、幸い今の僕には最高の交渉材料がある。
ギンガ団本部に顔を出すついでに、ウォロさんの足取りについての情報も探ってみよう。博士や団長なら何かしってるかもしれない。
(せいぜい役に立ってよ…神様…)
腰に携帯したモンスターボールに、心の中でそう呟いた。
ご覧頂きありがとうございます。
アルセウス本編を最後までクリアした時に、誰もが一度は思う「えっ? オレ帰れないの!?」を独自解釈で書いてみました。
原作通りの戦い方だと最終戦のアルセウスの強さがびっくりするぐらい表現しにくいので、『6(テル含め7)対1』克つ『攻撃を通せば勝ち』克つ『アルセウスは手加減』って感じに改変しました。
10話ぐらいでまとめたいと思っています。
主人公はゲーム内のデフォルトネーム。
イメージは『殿堂入り後、15才になったBDSPの主人公』って感じです。
手持ちポケモン
ジュナイパー(ヒスイ)♂Lv89
ゴウカザル♂Lv89
レントラー♂Lv85
ムクホーク♀Lv85
トドゼルガ(親分)♂Lv88
ヨノワール♂Lv85→アルセウスLv80 Now