残酷な神様 LEGENDSアルセウス   作:ネクロズマ(日食)

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思った以上に文字数が伸びたので、誤字や文章にミスがあるかもしれません。


『捜索』と『バトル』

紅蓮の湿地、古の隠れ里

 

「…そうですか。コギトさんの所にもやっぱり来ていませんか…」

 

「全く薄情なヤツよのう…これまで散々客として贔屓してやったというのに、事が済めばそれっきりじゃ」

 

屋外に据えられた洋風の椅子に腰掛け、ティーカップを片手におどけるように言うコギトさんとは反対に、僕は少しだけ肩を落とした。

 

「何か心当たりはありませんか? 何処の遺跡にいそうとか、何でもいいですから」

 

ギンガ団内でウォロさんの足取りを探ってみたものの、目立った収穫は0。イチョウ商会の人達にも掛け合ってみたけど、やっぱりあの戦い以降彼の姿を見た人はいなかった。それ以外で一番足取りを知ってそうな人物としてコギトさんのところまでやって来たけど、この様子だと此処でも得れるものはないかもしれない。

 

「放浪癖の人間が何処に行くかなぞ、この地から録に外に出とらん私には分からぬよ」

 

自虐的に微笑しながら彼女は言う。

やっぱりコギトさんでもダメか。

 

「…手間を取らせてすみません。ありがとうございました」

 

振る舞われたお茶には手を着けず、僕は彼女に背を向ける。何て言うか、この人は掴み所が無さ過ぎて難しい。

見た目はシロナさんと少し似てるけど、纏ってる雰囲気は全然違う。正直なところ、この人と目を合わせていると全てを見透かされてるようであまり居心地がよくない。

情報がないならここに長居は無用だ。でも

 

「まあ待て…そなた、今更あやつに接触してどうするつもりじゃ?」

 

そんな気持ちを察したように、コギトさんは立ち去ろうとする僕へと釘を刺した。

 

「それは…あの人は先の事件の首謀者です。放っておけば、また何処かで何か企むかもしれない」

 

「だからそなたが捕まえて罪を問うと?」

 

「はい…」

 

まるで尋問に掛けられてるような感覚。

コギトさんがティーカップをカタリとテーブルに置く。

それから数秒僕を見つめた後、彼女は怪しくフフッと笑った。

 

「嘘じゃな。では何故そなたはこの数ヶ月もの間あやつを放置しておったのじゃ? 危険だと感じたなら、それこそ先の一件があった時、シンオウ神殿でそのまま捕らえてしまえばよかったじゃろうに、何故今まで泳がせた?」

 

背筋を冷や汗が伝う。

 

「それは…あの時は僕もポケモンも満身創痍でしたし…今まではギンガ団の任務もありましたから」

 

「下手な嘘は止めよ…仮にもこの地の神2体を従えた英雄がウォロ1人捕らえられぬ筈なかろうて…それに、ギンガ団が今まで積極的にあやつを捜索しなかったのは、一重に"そなたが頭目にそう掛け合ったからよな?"」

 

「な、なんでそれを…?」

 

確かにプレートとギラティナを巡る一件の後、デンボク団長に事の顛末を報告した時に、僕がウォロさんについて情状酌量を求めた事は事実だ。でもその件についてはギンガ団とコンゴウ団、シンジュ団の上層部しか知らない筈。

 

「あれ程の大罪人じゃ、それぞれの団が組織を上げて捜索せぬなど相応の理由がなければ有り得んよ。あのデンボクという男なら尚の事。そなたが『ヤツにも同情すべき部分がある』とでも弁明したのじゃろう。違うか?」

 

完敗だ。そこまで正確に当てられるとぐうの音もでない。この人は人の心が読めるんじゃないだろうか。

コギトさんに情報を求めたのは悪手だったかもしれない。結果論とは言えあの時ウォロさんを捕らえていればと後悔する。

 

「……流石です。参りました。でもすみませんが、理由はまだ話せません」

 

「ほう?それは難儀じゃな…」

 

「…………」

 

吸い込まれそう目を向けられた僕は固まる。

もしかすると自分がこれからやろうとしてる事さえ察しがついてるのかもしれない。平常心を保つようにはしてるけど主導権は完全に握られている状態。

これ以上ここにいると墓穴を堀続けるだけだろうし、もう退散するしかないと思った瞬間、コギトさんは僕から目線を外し、『まあ良い』とティーカップに口を付けた。緊張の糸が切れ、僕はホッと胸を撫で下ろす。

 

「少なくともあやつはもうヒスイにはおらんよ」

 

「…それは…なんでそう思うんですか?」

 

「あれ程の大事件じゃ、追われはせぬとて回りは敵だらけ。いや違うな…"追われはせぬからこそあやつはヒスイから姿を消すじゃろう"」

 

「えっ?」

 

「ウォロもバカではない。此度程の事件で自分に追っ手が付かねば『そなたに情けを掛けられた』事などすぐに気付く。 ヒスイにいる限り、あやつは言わば『そなたの掌の上で生かされてる』といっても過言はない。それを潔く認めるような男ではあるまい?」

 

なるほど、確かに筋は通ってる。 

ウォロさんの事だ。ヒスイに現存するアルセウスに関する遺跡は今のところ全て訪れてるだろうし、アルセウスが僕を選び、神への挑戦権(プレート)も全てこちらの手元にある今、どうあがいてもあの人がアルセウスを使役する事は叶わない。『現状に限れば』だけど、確かに彼がこの地に固執する理由はないのかもしれない。

 

「最近ははじまりの浜から南に向けて船が出ておる。ワシがあやつならそれに紛れて別天地を目指すかのう…」

 

「なるほど…確かに一理あるかもしれません。助かりました」

 

軽く頭を下げ、僕は待機してくれていたアヤシシに跨がり隠れ里の出口へ進む。不意に

 

「そなたがウォロのようにならぬ事を願っていよう…」

 

背中から微かにそんな言葉が聞こえた気がした。

本当、この人は僕程度じゃとても利用出来そうにない。

 

ーーーーーーーーーーー

 

『最近は南に向けて船が出ている』

時刻は2時を少し回ったくらい、紅蓮の湿地からの帰り道、アヤシシに揺られながら僕はさっきのコギトさんの言葉を考えていた。

 

(始まりの浜って近場だけどあまり行く事もないし、こっちからも船が出てるのは知らなかったな)

 

これまでも時々別の地方から新天地を目指した船が漂着していたし、ギンガ団の面々も元は南からこの大陸に移住して来た一団だ。なら逆にそちらへ向けての航路が確立している可能性は十分ある。デンボク団長が咄嗟の場面でコガネ弁が出るように、コトブキ村の住人はジョウト地方の出身者がかなり多い。ウォロさんがはじまりの浜から出航したなら、やはり一番可能性がありそうなのはジョウトだろうか。

 

(ジョウト…ジョウトか…漠然としてるなぁ)

 

一口にジョウトといっても何から手をつけていいのか全く分からない。僕自身ジョウトについては元の時代のアサギやエンジュくらいしか行ったことないし、そもそもウォロさんが本当にジョウト地方(そこ)にいるのかさえ分からないのが現状だ。闇雲に探すだけ時間の無駄だろう。

確証は何もないし、コギトさんの助言も虚しく振り出しに戻ったかと思った時、ふと僕はある一つの可能性に気付いた。

 

「…ちょっと待てよ もしかしたら…いや、でも確かにあり得ない事はないのか…?」

 

それは元の時代てシンオウとジョウトを結ぶ1つの遺跡の存在だ。僕も知識でしかしらないけど、確かあの遺跡の名前は…そうだ『シント遺跡』!

 

かつてシンオウ地方から移住してきた人々が、故郷の神を讃えてジョウトの人々と共同で建造したと伝えられている神殿"。内部はシンオウ神殿とアルフの遺跡が融合した様式を持っていて、シンオウから遠く離れた地にも関わらず、アルセウスに関する伝承や文献が豊富に残されてらしい。

 

ヒスイからジョウトへの移住が始まってなら神殿が建造された時代と丁度合うし、アルセウスを盲信しているウォロさんならあれの建造に携わっていても不思議はない。というか、ジョウト地方(全く所縁のない土地)にも関わらず、最奥部にはアルセウスを降臨させるための舞台が丁寧に作り込まれてる事を考えると、最早ウォロさんが噛んだとしか思えなくなってくる。

 

「これは調べてみる価値がありそうだ」

 

確かシント遺跡はジョウトの最北端に近い場所にあった筈だ。一番近い人里はチョウジタウンだろうか。この時代にあの町があるかは分からないけど、ジョウトは全体的に歴史がある地方だし、誰かしらは住んでるだろう。ヒスイからはかなりの距離だけど、こっちにはアルセウスもパルキアもいる。長距離空間移動なんて対した話じゃない。

 

「まあ現地につけば後は足で探すしかないし、早速だけどショウにも少し手伝って貰おうか」

 

そろそろコトブキ村も近い。

今日はしっかり準備をして明日の朝出発だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

コトブキ村へと戻ってきた僕は、一度本部に戻った後、すぐに手持ちのポケモンの入れ替えと買い物を済ませた。

向こうの地方ではこっちのライドポケモンは使えない。元の時代と同じように手持ちだけで対処する必要がある。まあアルセウス(神様)を使えば大抵は何とかなるだろうけど、あくまで模倣品のこのポケモンに過度な期待は出来ない。長距離空間移動にパルキアと、現地でウォロさんを捜索するために嗅覚が鋭くて移動も早いウインディあたりは連れていこう。万が一戦いになった場合に備え、それ以外は道中を長く共にしたジュナイパー、ゴウカザル、レントラーで固める。この3匹がいれば例えいかりの湖でギャラドスの群れに襲われようが簡単に撃退出来るだろう。

後は写真屋さんが保管していたトゲピーと写るウォロさんの写真を借りてくれば準備は完了だ。

 

「さてと、後はショウに声を掛けるだけだ」

 

隊長の話だと、彼女は今黒曜の原野でポケモンの捕獲やバトルのレクチャーをコトブキ村の住人に向けて行っているらしい。図鑑完成に伴って野生のポケモンの生態が分かった今、ポケモンとの共生も今後の重要な課題になる。『モンスターボールを扱える我々ギンガ団が、率先してその任務に当たるべきだ』とはシマボシ隊長の弁だ。

 

「夕方まではまだ時間があるし、黒曜の原野なら待ってるより行った方が早いかな」

 

待ってるとむしろ逆に団長や隊長に体よく使われるだろうし、帰ってきたばかりだけど僕はまた足早に村を出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

黒曜の原野に到着すると、すぐに原野ベースで村人に囲まれるショウを見つけた。この世界に来て初めて彼女から色々教えてもらったのもこの場所だから、なんだか少し懐かしい気持ちになる。

今は丁度バトルのデモンストレーション中だろうか。ショウのピカチュウが誰かと戦ってるみたいだ。

 

「あれは…ノボリさんとグライオン?」

 

あの特徴的な出で立ちは間違いない。なるほど、今回のはショウとノボリさんの合同任務って感じかな。

邪魔しちゃ悪いし、しばらく此処で見てようか。

 

「この対面は流石にピカチュウだと厳しいな…交代しないところを見ると、ショウの手持ちはもうピカチュウだけか…」

 

遠目だけど、戦況はどう見てもグライオンが圧倒している。ピカチュウは懸命にアイアンテールや電光石火を当てようとしてるけど、宙を飛び回るグライオンには掠りもしない。むしろ足元に無数にばら蒔かれてる『まきびし』が刺さって動く度にダメージを受けてるみたいだ。

 

「これは完璧に詰められてるな…やっぱりノボリさんは戦い方が上手い」

 

あの人の実力はこのヒスイの中では別格だ。それこそ、トレーナーとしての『個』の実力ならウォロさんや僕よりも数段上。ノボリさんはギンガ団ではないけど、『ポケモンバトル』を教える上で彼以上の適任者はいないと思う。

ショウも団の中だと強い方だけど、今回は流石に相手が強すぎる。回りを囲んでる村人はショウに教えて貰ってるんじゃなくて、あれはたぶん終始劣勢の彼女を応援してるんだろう。

 

「僕とは考え方が違う人だけど、もし同じだったらいいライバルになれたのかな…」

 

グライオンがジリジリとピカチュウを詰める。

ポケモンの性質を理解して数手先を見越した立ち回りは凄いの一言だけど、ノボリさんは『ルールがある中での強さ、純粋なトレーナーとして実力』をとにかく重視する人だから、無差別にひたすらバトルを繰り返して経験と実力を積み上げてきた僕とはちょっと毛色が違う。

戦い方もタワータイクーンのクロツグさんに近いし、こっちに来る前はその手の施設の強豪トレーナーだったのかもしれない。

 

(そうだ…そういえばノボリさんも僕と似た境遇じゃないか!)

 

話を聞く限り、ノボリさんも時空の裂け目を通ってこの世界に流れ着いた存在だ。『帰りたい』か『帰りたくない』かで言えば前者だろう。記憶がないせいで僕と同じ世界から来たのかどうかは分からないけど、そこは話の仕方次第。ウォロさんに加えて彼が協力してくれるなら鬼に金棒じゃないか。

 

(ショウがいると『元の世界に帰る』ってワードは出せないし、後で二人きりになれるタイミングをどうにか作るしかないか)

 

そんな事を考えてる内、ショウのピカチュウに体力の限界が来たらしい。愛くるしいフォルムがパタリと倒れる姿に、ショウの回りの村人達がざわついた。

 

「さて、そろそろ行こう」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「アタシの負けです。ノボリさん、お手合わせ下さりありがとうございました!」

 

「とんでもございません。ワタクシの方こそ、ありがとうございました」

 

バトルが終わり、それぞれのポケモンをボールに戻した後、ショウとノボリさんがガッチリと握手を交わした。

ギャラリーとなっていた村の人達の後ろから、僕はショウに向かって声を掛ける。

 

「ショウ! お疲れ様!」

 

「えっ!? わっ!テ、テル!どうして此処に!?」

 

振り返った彼女は僕の顔を見た途端に慌てふためく。

どうやらまだ今朝の事をかなり意識してるみたいだ。

あからさまに様子が変わった彼女に、村の人達やノボリさんもポカンとしてる。

 

「いいつから居たんですか!?」

 

「到着したのはついさっき。ショウを探しててね 今時間は大丈夫かな?」

 

「そ、そうですね…あの…今のバトルで今日の任務は一通り終わったので…えと…はい…大丈夫です」

 

慌てたかと思えば今度はぎこちなくモゴモゴと口ごもってる。裏表がないのはショウの美点だけど、流石にあんな思わせ振りでここまでの効果が出るとは正直思わなかった。レクチャーを受けていた村の人達も、一部は何かを察したのかニヤニヤしてる。まあこれだけ表情と態度に出てれば当然か。

 

「明日ちょっと用事に付き合って貰えないかな?ショウにしか頼めない事なんだけど」

 

「用事?…えと…任務ですか?」

 

「任務って訳じゃないんだけど、付いてきて欲しい所があって…ちょっと遠出になりそうなんだけど、どうだろう?」

 

「あたしにしか頼めない……任務じゃない……遠出………!!!」

 

今度は何かを考えるように急にボソボソと一人事のように呟く。そして何の勘違いか、次の瞬間ショウの顔はさっきよりも更に赤く、まるで火が吹き上がりそうな程真っ赤に染まる。そして

 

「それって…あの……もしかして…あ、あ、逢い引きのお誘いですか!!?」

  

「えっ?」

 

ショウの思わぬ爆発発言が、周りの村人達をたちまち野次馬へと変えてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

誤算だった。

彼女を都合よく利用しようととした事への罰だろうか。ショウは性格的に村の人達によく可愛がられてるし、中には我が子のように接する人も少なからずいるくらいには村の人気者だ。

そんな子が村の人達の前であんな事を言えばどうなるか、答えは簡単だった。

『ショウちゃんを泣かせたら許さない』、『男ならしっかり責任を果たせよ』『こんないい子は他にいない』『鼻垂れ小僧が百年早い』『娘(仮)はやらん』

 

「はぁぁ……」

 

野次馬へと豹変した村の人達にもみくちゃにされた上、散々好き勝手言われた僕は、黒曜の原野の木陰で大きなため息をついた。

この時代は僕が生きてきた時代よりも、よっぽどこの手の話には重みがあるみたいだ。少し軽率だったかもしれない

結局なんとか『逢い引き』という名目でジョウト行きを取り付けはしたけど、村の人達に散々問い詰められたショウは、いたたまれなくなったのか野次馬達の護衛をほっぽりだして逃げるように村に帰っていった。昨日までの気心知れたやり取りなんて全く出来やしない『動かしやすくなる』どころか、これじゃかえって『扱いにくくなったた』だけだ。 

 

「大変な騒ぎでございましたね。あれほどの賑やかさは久しぶりです」

 

木陰で休む僕の隣で、ノボリさんが表情を変えずにそう呟く。この人はショウ達が帰った後も、「もう少しやる事がある」って事でこうして残ってくれた。まあ僕としては二人きりで話せるタイミングが欲しかったから、そこだけは都合よくいったのかな。

 

「任務の最中にややこしい事になってすみません」

 

「お気になさらず。ショウ様も言っていた通り、もう後は村に帰省するだけでしたので」

 

 

 

「記憶の方はどうですか?」

 

「肝心な部分は相変わらずでございますが、バトルを通して何となく『自分がどういった人間だったのか』は掴めたように思います」

 

「どういった人間だったか、ですか…」

 

「はい。元の世界でも、ワタクシは確かにポケモンバトルに明け暮れる日々をおくっておりました。それが業務だったのか趣味だったのかは分かりませんが、とても充実していた事だけは間違いありません」

 

そう答えるノボリさんの表情は、沈み掛けたオレンジ色の太陽と合わさって何処と無く寂しそうだった。

 

「テル様は"シャンデラ"というポケモンに覚えはありますでしょうか」

 

「一応知ってはいます。遠く離れた地方のポケモンですから、実際に見た事はないですけどね。でも、それが何か?」

 

「ワタクシの元いた世界でのパートナーです。最近はっきりと思い出せたのは、その名前と姿、ワタクシによくなついてくれておりました…」

 

ノボリさんが空を見上げる。

たまたまかもしれないけど、その視線はかつて時空の歪みがあった天冠山の山頂を向いていた。

 

「ノボリさんは、帰りたいですか?」

 

「そうでございますね。帰りたい…とは思いますが、実際今は何処に帰ればいいのかも分かりません。記憶を取り戻さない事には…」

 

まあこれは想像通りの答え。

後はここからどういう風に話を持っていくかだ。

でも、僕が次に言葉出すよりも早くノボリさんはスタっと立ち上がった。

 

「時にテル様 もしよろしければ、今からワタクシと一戦交えて頂けませんでしょうか?」

 

「え? まあそれは構いませんけど、もうすぐ日が沈みますよ?」

 

「1体1のバトルでも構いません。貴方様とのバトルはワタクシの閉じた記憶を刺激する最高の薬です。ワタクシはどうしても過去を思い出したい。いや、思い出さなければならない。ここに残ったのもそのためでございます」

 

そう言って、ノボリさんはモンスターボールを1つだけ手に取った。まあ、僕の方の話は日が暮れてからも出来るし、卓越したトレーナーとのポケモンバトルはヒスイでは本当に貴重だ。それにバトルを通して少しでも記憶を取り戻せば、『帰りたい』って気持ちもより強くなるだろう。

 

「わかりました。そういう事ならよろこんで」 

 

僕も腰に掛けたボールを1つ手にして立ち上がった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

「行け!ジュナイパー!」

 

「フーディン!お行きなさい!」

 

僕とノボリさんが同時にボールを投げた。

パンという小気味いい音を上げて勢いよく出てきたジュナイパーとフーディンが相対して睨み会う。

 

「手加減は無用です!本気でいらしてください!」

 

ノボリさんが声を上げる。

言われるまでもない。フーディンか、ひとまずノボリさんがタイプ的には有利。中距離戦に持ち込まれると厄介なポケモンだけど、さあどう出てくるか。

 

「ではバトルの乗車開始といきましょう!フーディン!サイコキネシス!」

 

開戦と同時にノボリさんが動いた。

瞬間的に高められた念力でフーディンの回りに小石が無数に浮かんだかと思うと、それらが一斉にジュナイパーへと飛来する。まるで散弾銃みたいだ。いきなり容赦がないな。

だけど、

 

「ジュナイパー!叩き落とせ!」

 

「クゥルックー!」

 

コイツはそんな事じゃ動じない。

地面に爪をガッチリと食い込ませ、両腕を前に大きく振るう。ブオンという風切り音を上げて繰り出したのは『風起こし』なんてレベルじゃない空気の壁。無数にあった小石は全てその壁に飲み込まれ力なく落下した。

でも分かってる。たぶんこれはブラフだ。本命は

 

「フーディン!瞑想です!」

 

ジュナイパーの反撃の隙をついてフーディンが目を瞑る。やっぱりそうきたか。攻撃の合間の短いスパン事に念力の精度を上げていく器量は凄いけど、そうはさせない。

 

「ジュナイパー!矢羽根を飛ばせ!瞑想を止めるんだ!」

 

「!!」

 

ジュナイパーが瞬間的に弓を引いて(羽根)を連続で放つ。さっきの小石の意趣返しだ。小手先程度の技だけど、これでも防御が薄いフーディンなら1発でも当たればかなりの痛手になる筈。だけど

 

「フーディン!テレポート!」

 

瞑想を中断し、着弾の瞬間にフーディンはそれらを全てかわした。タイミング的にはバッチリだったつもりだけど、あれを全部避けれるのは流石だ。

 

「ジュナイパー!リーフブレードとシャドークローで追撃!距離を取らせるな!」

 

「クルクルウゥ!」

 

「当たる訳には参りません!連続でテレポート!」

 

間髪入れずにジュナイパーがフーディンの懐に飛び込む。

両腕で繰り出すリーフブレードと回し蹴りの要領で足の爪で繰り出すシャドークローの連携は、まるで激しい舞を踊っているかのような怒涛の連擊だけど、フーディンはこれをギリギリのタイミングで全て避けていく。

一件膠着状態だけどこれでいい。緊急時のテレポートは長距離間を移動出来ない。つまりジュナイパーが攻撃を止めない限りフーディンは自分の強みを活かせる距離を取れない。となれば後は体力勝負だ。極限近くまで鍛えたヒスイのジュナイパーにスタミナ切れはない。

 

そして

 

「クルウゥ!!」

 

「フーディン!後ろに飛びなさい!」

 

何十回にも渡る転移で念力(体力)の限界に達したのか、フーディンがジュナイパーが振るった腕をテレポートじゃなく後ろに倒れ込む形で間一髪避ける。これで終わりだ。

 

「ジュナイパー!止めのリーフブレード!」

 

体勢を崩したフーディンにジュナイパーの翼が横凪ぎに迫る。これで詰みだ。

でも、僕が勝ちを確信した時にそれは起きた。

 

「今ですフーディン!炎のパンチ!」

 

「えっ!?」

 

ほのおの…パンチ…!?

一瞬頭が混乱する。瞑想までしてきたフーディンが物理技!?

でも実際、目の前にいるフーディンはジュナイパーのリーフブレードにカウンターを取る形で肉薄し、スプーンごと握り混んだ炎の拳を打ち出した。完全に不意を突いたそれは、ドンっという鈍い音を上げてジュナイパーの腹部に直撃する。

 

「グルゥッ!?」

 

「ジュナイパー!」

 

ジュナイパーが腹部を押さえ膝を折った。あの初速の早さは早業か。元の威力は対した事なさそうだけど、それでも弱点タイプをまともに急所に受ければ話は違う。

そしてその隙をノボリさんは見逃さなかった。

 

「フーディン!もう一度瞑想!そしてサイコキネシス!」

 

強化された念力がジュナイパーの体を容易く宙に持ち上げる。

これは完全にしてやられた。体力が尽きたと思わせといてまだ余力を残してたのか。 

 

「何とか振りほどくんだジュナイパー!ブレイブバード!」

 

「させません!叩きつけなさい!」

 

「グルッ!!」

 

地面に叩きつけられてジュナイパーの行動が妨害される。そして起き上がろうとしたところをまた体を持ち上げられる。そして

 

「これで終わりです! フーディン!投げ飛ばしなさい!」

 

抵抗出来ずに投げ飛ばされたジュナイパーは原野の木々を数本薙ぎ倒す程の勢いで遥か遠くまで飛ばされ、最後は水辺の巨岩にドゴンとその体を打ち付けた。

土煙が激しく舞い上がる。

あの威力、瞑想で強化した上に力技まで掛けてるのか。

 

「テル様、さっきの油断はよろしくありませんね」

 

技の応酬が止んで一瞬静まり返る黒曜の原野に、ノボリさんの声が響く。

 

「…ホントその通りです。まんまとやられました」

 

流石ノボリさんだ。相手の心理や行動を上手く利用した上で、的確に最大限のダメージを与えてくる。

指示の正確さも計算された立ち回りも、そして今の奇襲もこの時代のトレーナーでは絶対に追い付けない境地だ。元の時代を含めて考えても、この人にトレーナーとして勝てる人間が一体どれだけいるだろうか。

ただ、

 

「…でも、ノボリさんの方こそ油断しない方がいい」

 

今のノボリさんはさっきの自分と同じだ。

 

「ん?」

 

弱点タイプの技を何度も受け、最後は力技で締めたんだ。普通は決着がついたと思うだろう。けど、

 

「"僕のジュナイパーは"この程度じゃ倒れない!」

 

確かに純粋なポケモントレーナーとしてのレベルはノボリさんの方が上だ。けど、"ポケモン本体のレベル"も含めた総合値なら話は別。僕だって伊達に5年もチャンピオンを張ってた訳じゃない。

声を大にして叫ぶ。"レベルの違い"を見せるのはここからだ!

 

「そこから撃ち抜け!!!ジュナイパー!!!」

 

「なっ!…まさか!?」

 

僕の一声で遥か先の水辺に視線を向けたノボリさんの表情が歪む。土煙が晴れた時、そこにはいるのは夕日を背に弓を構えたジュナイパー。その背後には闘気で錬成された三本のミサイルのように巨大な矢が浮かぶ。

狙撃手(ジュナイパー)に距離と時間を与えたのが運の尽きだ。いくら強化されたフーディンでも100ヤードを越える距離には干渉出来ない。いや、仮に出来たとしても、フーディンのレベルでジュナイパーのあの矢を止めれはしない。

 

「フーディン!アレは何としても避けて下さい!」

 

ノボリさんもそれを瞬時に判断して指示を出した。直撃、バシュンと放たれた三本の矢が轟音を上げてフーディンへと直進する。対してフーディンは指示通りのテレポートで瞬時に軌道外へと移動した。3本の矢が虚空を切る。

でもそのくらいじゃこの攻撃は終わらない。

だってこの矢はジュナイパーの闘気、言わば『意思を持った矢』なんだから。

フーディンがテレポートした直後、矢の起動が90度直角に曲がってそれぞれ追尾する。

 

「危ないフーディン!!くっ!もう一度テレポートです!」

 

長距離テレポートを行う余裕は与えない。

フーディンはさっきと同じように緊急テレポートで避けようとするけど、最大出力(力技)のこの矢は着弾すれば広範囲を巻き込む。受ける事も、避ける事も、逃げる事もこの矢は許さない。

囲い込むように変幻自在に軌道を変える3本の矢は転移先丸ごとフーディンを捉え、そして、

 

閃光を上げてドカンと弾けた。

 





かなり1話が長くなったので、ノボリさん勧誘は次話の冒頭で。

次回はショウとデートでジョウト地方でウォロさん探し。

ヒカリはあんまり可愛く見えないのに、ショウはやたらと可愛く見えるのはなんなのか…
ほっかむりなのか?ほっかむりマジックなのか?
それともおでこなのか?それともグラフィックの関係なのか?
ショウの反応がかなりオーバーな気もしますが、昔は『男女がサクッと付き合う』みたいな文化は今より薄いですし、結婚適齢期が15才とかも普通にあったので、ショウからみればプロポーズと対して変わらないかなといった感じです。テルは逆に現代っ子+元がチャンピオンなのでそこそこ普通にモテるって事で、異性への耐性はかなり高めのイメージです。

手持ち
ジュナイパー(ヒスイ)♂Lv90
ゴウカザル♂Lv89
レントラー♂Lv85
ムクホーク♀Lv85→パルキアLv80
トドゼルガ♂Lv88→ウインディ(ヒスイ)Lv36
アルセウスLv80
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