ギルに婚約者ですって!?
余計なことを……!
あの風貌からして名家の令嬢だわ。
ああああ!面倒臭い!
後処理をする私の身にもなってほしいわ。
「お父様、どういうことかしら。ギルに婚約者がいるなんて聞いてないわよ」
「い、いや、向こうからぜひにと話があってな。断る理由もないかと……」
「はぁ!?理由ならあんでしょうが!あれは私の物よ、勝手に他人に渡すんじゃないわよ」
「だが向こうの娘も魔力がないと聞いてな。魔力のないギルにとって、名家との縁談はこれが最後かもしれんだろう」
魔力がないですって?
馬鹿かこいつは。
「なぁにちょろっと騙されてんのよ。あの娘は魔術を使えるわ。しかもかなりの腕ね」
最初にあいつの首を掴んだ時、私は頭に血が上っていた。
魔術で抵抗されなければ即死だったはず。
「そんなはずは……!いったいなんのためにそんな嘘を……」
「知らないわよそんなこと。で?どこの家の娘よあれ」
「……イスタ家だ」
「はぁ!?」
なに言ってんだこいつ。
イスタ家と言えば魔術師の頂点、賢者の家系じゃない。
圧倒的強者に対して!
なんの取引材料もなしに!
騙されて!
宝をみすみす渡そうとしたっていうの?
「あんた本当に馬鹿ね」
「な、なんだと!?親に向かって!」
「うるさい!当主に口答えすんじゃないわよ!メイジー家という恵まれた血筋に生まれながら、なまけになまけてB級止まり。挙げ句の果てにこんな無能さらして、生きてて恥ずかしくないのぉ?ねぇ!」
おじいさまも、その先代も、ずっとメイジー家はA級魔術師。
こいつだって才能だけあるのに、頭が悪いせいでこのザマ。
「まぁ今あんたに文句言ったって仕方ないわ。イスタ家ともあろう名家が、どうして魔力のないギルにちょっかいかけるのよ」
「……分からん。普通なら大事な後継を、魔力を持たない者に渡すとは思えん。当主が許さんだろう」
当主が許さない。
確かにそうね。
「そうよね、そんなこと……ちょっと待って」
まさか……でもありえる?
いえ、それ以外には考えられない。
「現イスタ家の当主は、あのローナとかいう娘ってことになるわね」
そして当主の権限にて、ギルと婚約した。
14歳でS級魔術師。
とんでもない化け物じゃない。
「この!無能がッ!」
バキッ!
「うっ……!や、やめてくれ!」
「本当は殺してやりたいところだけど、今は一発蹴るだけで勘弁してやるわ」
それよりもギルをこのままの状況にするわけにはいかない。
「賢者の家が魔術の才能のないギルを狙う理由……まぁそういうことよね……」
理由は私と同じ。
当主になってまで手に入れようとする強い執着。
格下相手ならどうにでもなる。
でも相手は賢者とまで呼ばれる、この国最強の魔術師の名家。
ひとつ間違えばこっちの立場が危うくなる。
くそがッ!ほんっとうに余計なことを!
でも問題ないわね。
なにがあろうとギルを渡さなければいい。
ギルがどこに居ようと場所を把握できる。そのために空間魔術を習得したのだから。
~~~~~~~~~~~
夜、エリザの部屋に呼び出された。
「ねぇギル、お願いがあるのよぉ」
「なんだよ」
「気持ちいいこと、して欲しいわ」
「……マッサージでもすればいいのか?」
「はぁ……もうそれでいいわ」
そう言ってエリザはうつ伏せになる。
まさかマッサージで許してくれるとは思わなかった。
「んっ……」
そうしてしばらく彼女の背中を指圧する。
「下手くそねぇ!」
「わ、悪い」
「いいわよ別に。もう面倒だからさっさと服脱ぎなさい」
「は?」
「だーかーらー、気持ちよくしてって言ってんでしょうが。これが一番手っ取り早いわ」
エリザが自分の服に手をかけ脱ごうとする。
「待ってくれ。これは流石にまずいだろ」
「なぁに?当主である私のお願いが聞けないっていうわけ?」
確かにエリザの命令は断れない。
だが俺には婚約者がいる。
「わかったわよ。じゃあキスで我慢してあげる」
「だからそういうのは……って体が動かねぇ……!」
「観念しなさい。魔力のないあんたじゃ抵抗できないわよ」
そうしてそのまま唇を奪われる。
「んん……チュ……ギル……あははっ、最高ッ!」
そして抵抗できないままベッドに押し倒され上にまたがられた。
「おい、キスだけじゃなかったのか」
「気が変わったわ。別にいいじゃない。私たちがヤルのは初めてじゃないんだし」
「な、なんの話だよ!」
「昔の話よ。まだ一緒に寝てた頃だったわね。ギルのをいじってたら硬くなったから、つっこんでみただけ。ああ、そう言えばあなた寝てたわね」
「マジかよ……」
2人で寝てた頃って、まだお互い10歳になる前じゃないか。
「あの時は痛かったけど、今は平気でしょ」
「頼むからやめてくれ!」
「あははっ!泣いてるわ。おもしろぉい。そんなに私が嫌?ねぇ!」
違う。お前のことが嫌いとかじゃないんだ。
魔力のない親からは、魔力のない子供が生まれる可能性がある。
もし魔術の使えない子供しか生まれなかったら、魔術師の名家としてのメイジー家は終わってしまう。
「はぁ……ひどい顔。もういいわ。下がりなさい」
部屋を後にしようとする俺に、エリザは言い放つ。
「勘違いしないでよね。今日は勘弁してあげるってだけだから」
つまり明日にでも続きを要求されるかもしれないということだ。
今回は彼女の気まぐれで解放されたが次はわからない。
すぐにでもこの家を出たほうがいいと考えた。
そして次の日、俺はローナの手配した馬車でこの街を出た。
~~~~~~~~~~~
ギルが消えた。
彼の居場所は魔術で探知していた。それなのに彼が買い出しに出ている最中、突然魔術が遮断された。
ギルの反応が消えた周辺を従者に探させると、すぐに報告があった。
「エリザ様、ギル様はイスタ家が手配した馬車に乗ったそうです」
「じゃあ行き先はイスタ家ね。居場所がつかめなかったのは、馬車に結界でも張っていたのでしょう」
くそっ、まさかこんな早く動いてくるとは思わなかったわ。
「報告はもういいわ。あとはこっちでなんとかするから」
ギルのことを考える。
まさか自分からこの家を出るだなんて……。
昔はこんなんじゃなかった。
いつも2人一緒にいた。
誕生日には必ずプレゼントをくれた。
それだって魔力がないと診断されてからはぱったりとやんだ。
部屋の隅(すみ)にある小さなオルゴールを手に取る。
これもギルからもらったものだ。
もう壊れてしまって音はならないけれど、昔はこの音色をずっと聴いていた。
そして違和感に気づく。
「あれ?……このオルゴール」
よく見ると魔石が埋め込まれている。
まさかと思い、その魔石に魔力を注いでみた。
するとオルゴールは、昔と変わらず静かな音色を奏で始めた。
これって……魔道具!?
ギルは小さな頃から魔術師に憧れていた。
まさかあの年で魔道具の勉強までしていたなんて……。
「あああああ!あああああああああああああああぁぁぁぁッ!」
ギルは魔力を持っている!
このオルゴールには昔、間違いなく彼の魔力が込められていた。
「あいつッ!奪いやがった!ギルの魔力!私との関係も全部!!」
ローナ·イスタとの婚約。
これはずっと前から仕組まれていた。
ギルの魔力を奪ったのは、私と彼を引き剥がすのが目的。
イスタ家がギルとの縁談を持ち込んだのは、私が魔術学校にいってすぐのことだと聞いた。
だとするとローナ·イスタは当時12歳。
その頃の彼女がS級魔術を扱える訳が無い。つまりイスタ家の当主ではなかったはずだ。
普通に考えればわかることだが、自分が早くにA級魔術を習得したことで失念していた。
当主ではないローナ·イスタでは魔力のないギルとの結婚など許されるはずがない。
だから最初から疑うべきだった。ギルに魔力があることを。
しかしそれならチャンスはある。
流石にS級魔術師を相手にするのは骨が折れるが、恐らく彼女はまだそこに至ってはいない。
未熟なうちの彼女なら、私でもなんとかなるはずだ。