魔力0だから結婚は無理   作:ヤンデレ大好き星人

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第4話 脱出の計画

 魔力を持たない者の扱い、それを俺は身を持って知っている。

 賢者と呼ばれるこの国最大の魔術師の娘と結婚などした日には、その偏見はさらに強くなるだろう。

 ローナには悪いが、そんな重圧には耐えられない。なんとかしてこの屋敷を抜けなければならない。

 

 しかしローナは俺をここから出す気はないらしい。

 どうしたものかと考えていると、かすかに人の声のような音が聞こえた。

 おかしい。この客室には俺だけしかいないはずだ。

 

 耳を澄ますとやはり何かが聞こえる。

 だがノイズが多く聞き取れない。

 

 その声は徐々にはっきりと聞こえるようになる。

 

『……ギ……ぇ……ギル……える?……ギル!聞こえたら返事なさい!』

 

「げっ!エリザ!?」

 

 頭の中に響く声は、確かにエリザのものだった。

 

『げっ……ってなぁにぃ?』

 

「いや、なんでもない……それよりお前どうやって」

 

『魔術師学校の先輩に、イスタ家の女がいたのを思い出したのよ。彼女に空間魔術を中継してもらったの』

 

 そういえば、ローナには姉兄がいると聞いたことがある。

 この屋敷の内部から中継し、空間魔術で音声を届けているようだ。

 

『そんなことよりギル。イスタ家にそそのかされたからって、よくも私から逃げてくれたわね。帰ったらみっっっちり、教育してあげるわ』

 

「……いや、俺はメイジー家には帰らない」

 

 メイジー家に戻ったところで、ここにいるのと変わらない。

 魔力のない人間が無理に魔術師の家にとどまる必要はない。

 

『はぁ?いいから帰ってきなさい!あなたが感じている負い目なんてクソよ。私がぜーんぶ、なんとかしてあげるわ』

 

「俺には魔力がないんだぞ!そんな簡単に解決なんて……」

 

『だからぁ!私がどうにかしてあげるって言ってんの!詳しくはまだ言えないけど』

 

 どういうことだ?

 

 俺が今後、魔術師と関わらずに生きていける環境を用意してくれるとでも言うのだろうか。

 そんなことをエリザが提案するとは思えない。

 

 だがひとつだけ言えることがある。

 エリザは昔から、嘘だけはつかない。

 

「ああ、分かった。いったん帰るよ。だからここから出る方法を教えてくれ」

 

『じゃあ、まず最重要事項。あのローナとかいう女、あいつには気をつけなさい。彼女の姉が言うには、普通じゃないみたいだから』

 

「それは……なんとなく分かる」

 

 ここにきてローナの本性のようなものを見た。

 

『分かってないわよ。あれはイスタ家でも異質なの。先輩だって、賢者の一族らしく腕のいい魔術師だったわ。その彼女が化け物だの悪魔だのって呼ぶのよ』

 

「さすがにそれは言い過ぎだと思うが……分かった。気をつける」

 

『じゃあそれともうひとつ。屋敷の図書館に行きなさい。先輩が話を通してくれているわ。使用人に言えば案内してくれるはずよ』

 

「なんで図書館なんかに用事があるんだ?」

 

『そこに空間魔術の最終章の魔導書があるのよ。イスタの人間と人脈を作ったのは、それを見せてもらうためだったの。あなたの視界を通してその魔導書を見るわ』

 

「空間魔術の最終章か。それを使えばここから出られるのか。分かった、協力する」

 

 この屋敷を出るとなると、並大抵のやり方では難しい。なにせ最強の魔術師の領域だ。

 それでもイスタ家の人間に中継してもらい、エリザが今回習得する魔術を使えば脱出は可能だと判断したのだろう。

 

『理解が早いのは好きよ。帰ったらたっぷりキスしてあげるわ』

 

「それは遠慮しとくよ」

 

 エリザの口ぶりからすると、この作戦にはある程度の勝算があるようだ。

 時間的猶予もある。

 

 ローナは俺を長時間束縛するつもりだ。

 それは彼女自身の時間も束縛されるということだ。

 

 イスタ家の者としての職務がある彼女には準備がいる。

 彼女が提示した猶予は2日。それまでになんとかしてここを出る。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 エリザが言うには空間魔術の最終章はほぼ習得しているらしい。

 だがまだ調整が必要とのことだ。

 

 まだ時間はある。

 なんとかなりそうだ。

 

 

 

「ぎーるさまっ」

 

 突然後ろから抱きつかれる。

 全く気配がなかった。

 

 後ろにいるのはローナだ。

 

 大丈夫だ。まだ時間はあるはずだ。

 

「ギルさまとの初夜が楽しみすぎて、仕事を全て済ませてしまいました」

 

 は……?

 

 まさか予定より早く仕事を終わらせたのか?

 まずい。エリザの魔術は完成していない。

 

 いや冷静になれ。

 今するべきことは一つだ。とにかく時間を稼ぐ。

 

「なんだよ。明日じゃなかったのか?急ぐこともないだろ」

 

「だめです。我慢できません」

 

「いや俺にも準備が……」

 

 そう言おうと思った瞬間、体の自由が奪われる。

 ローナの重力魔術により、俺は膝をついていた。

 

 そしてローナはひざまづく俺の首筋を舐め始めた。

 

「な、なにやってんだ」

 

「んっ……味見です」

 

「味見って……」

 

「ギルさまもするでしょう?美味しそうなものが目の前にあったら。いいじゃないですかペロペロするくらい」

 

 ローナの表情がさっきとは明らかに違う。

 獲物の首に牙を立てようとする猛獣のように、息をあらげ理性を失いかけている。

 

「ああ……もう我慢できません」

 

 ローナは馬乗りになり俺にまたがる。

 

 そして俺のシャツのボタンを外し始めた。

 

「待て!いいかローナ、俺には魔力がないんだ」

 

「知ってます」

 

「分かってないだろ。魔力がない人間からは、魔力がない子供が生まれる可能性があるんだよ」

 

「はぁ……かわいそうなギル様」

 

「な、なんだよ。俺はおかしいことは言ってないぞ」

 

「違うのです」

 

 ローナは哀れみの目を向けているが、口元は笑っていた。

 

「魔力のないギルさまは、魔術師であるわたくしと結婚することは不安でしょう。それなのに、今日あなたは無理矢理犯されて、そのままパパになっちゃうんです。本当にかわいそうに。でも大丈夫です。わたくしが必ず幸せにしてみせます!」

 

 ダメだ。

 まるで話が通じない。

 

 諦めかけた瞬間……

 

 

 ガンッ

 

 

 俺の上に乗っていたローナが跳ね飛ばされた。

 

「なぁにしてんのよ。お前ぇ……!」

 

 何もない空間に魔法陣が展開され、そこからエリザが現れた。

 

「あら、エリザ·ウィズ·メイジーさん。どうやってこの屋敷に入ったのでしょう」

 

 そう言いながらローナは重力を無視した動きで起き上がる。

 

「チッ、殺すつもりで殴ったのに」

 

 鋭く睨みつけるエリザに対し。ローナは笑顔で返す。

 

 エリザは出てきてしまったが、ここを脱出するための魔術はまだ完璧ではないはずだ。

 

「エリザ、なんで出てきた。ひと晩俺がローナの相手をすれば……」

 

「駄目に決まってるでしょ。ギルは私以外の女を知らずに生涯を終えなさい」

 

 いや、俺はメイジー家からも出る予定なんだが……。

 なんてことが言える状況でもない。

 

「ここから出る魔術は完成したのかよ」

 

「多分大丈夫よ。今からやるから離れてなさい」

 

 エリザがそう言うと同時に、俺の体は部屋の端まで飛ばされる。

 吹き飛ばされた勢いで壁に体を強打し、大きく咳き込む。

 

 くそっ、少しは加減しろよ……。

 

 しばらくは動けそうにない。

 

「じゃあ、始めるわよ」

 

 エリザの姿が消える。

 

 そして何もない空間から出てきた腕はローナへと向かう。

 

 一方的な攻撃。

 どこから出てくるかわからない拳や足によって、ローナはなすすべもなく強打される。

 

 エリザの攻撃はしばらく続いたがやがておさまった。

 

 その攻撃が効いていないと分かったからだ。

 

「すごいですね!空間魔術は座標を計算し続ける難しい魔術です。それを強化魔術と同時に使うなんて」

 

 ローナは心底関心したというふうに笑っている。

 

「そう言う割には余裕そうね」

 

「そうですね。強化魔術に関してはわたくしの方が得意みたいです。防御に徹したら痛くありませんでした」

 

 攻撃が効かない。

 それでもエリザからは焦りが見えない。

 

「そう、ならこれならどうかしらぁ」

 

 エリザの前に魔法陣が展開される。

 

「空間切断」

 

 エリザのその魔術で、ローナの居た空間が切り裂かれた。

 空間そのものをズラす魔術のようだ。

 

 ローナはそれを重力の感じない動きで飛び上がり避けた。

 

「チッ、はずれたか」

 

「わぁ!今のはあぶなかったです!当たったら真っ二つになって死んでましたね!」

 

 空間切断。

 空間そのものをズラすことで、そこにあるものを切断する魔術。

 エリザが図書館で習得したのはこの魔術のようだ。

 

 俺をここから出す。

 それはローナに致命傷を与え、彼女の領域を機能させなくする。

 その隙に逃げることだったのだろう。

 

 ローナは空中でくるくる回りながらケラケラと笑っている。

 そしてエリザに向かって手をかざすと、エリザのいる場所の地面が凹んだ。

 

 しかしそこにはエリザはいない。空間魔術で移動していた。

 

 

 

 2人の攻撃は、お互いに当たれば即死しかねないものだった。

 

 まさかエリザの計画がこれほど過激な内容だとは思わなかった。

 このまま戦いが続けば、確実にどちらかが死ぬ。

 

 俺はなんとか起き上がり、2人に手を伸ばす。

 

「やめろ!」

 

 くそ!俺に魔力があれば。

 2人を止められる力が……!

 

 そう願った瞬間、自分の中に小さな炎のようなものを感じた。

 

 それがなにかは分からない。

 だがなにか大きな力だ。

 

 二人を止められるのならなんだっていい!

 

 俺は自分の中にあるその炎を解放させた。

 

「あ……これは……まずい……」

 

 俺の中から何かが噴き出す。

 視界が真っ赤に染まり力が抜けていくのを感じた。

 

「ギル!?」

 

「ギルさま……まさか!」

 

 エリザとローナが同時に俺の方に振り向く。

 

「……駄目ですギルさま……!このままだと……」

 

「死ぬわね。……これが魔力の封印が禁術とされる理由」

 

 魔力の封印。

 それは禁術とされるS級魔術。

 

 使用された者は魔力が封印される。しかし魔力がなくなるわけではない。

 もし封印を解けば、蓄積された魔力が暴走する。何もしなければ魔力の暴走に体が耐えられず死にいたる。

 

「でもどうして……封印魔術を自力で解除するなんて無理なはずです。……おじいさまは外出中……わたくしがやるしか……」

 

「なにぶつぶつ言ってるのよ!あんたのせいでしょうが!」

 

 ローナはその場で固まって、思考をめぐらせている。

 

 エリザはそんなローナの胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

「しっかりしなさい!これからギルを私の空間に引き込むわ。あなたも手伝いなさい!」

 

「……空間魔術に他人を引き込むと、その他人と自身の魔力を大きく消費する……ああ、その手がありました!」

 

 つまり俺の溢れ出す魔力を、エリザの空間魔術に引き込むことで強引に消費させる算段だ。

 

「そうよ。でもここはあんたの領域。私の力は完全には発揮できない。だから力を貸しなさい」

 

「……分かりました」

 

 そしてエリザとローナの2人で、魔法陣を展開する。

 エリザは俺の手を取る。

 

「じゃあ行くわよ。かなり体に負担がかかるから、歯をくいしばりなさい」

 

「ぐっ……!」

 

 魔法陣に少し入っただけでも、魔力が大きく消費されたのを感じた。

 

 エリザと俺は、展開された魔法陣へと消えてゆく。

 完全に俺たちの姿が消えようとした時、エリザはローナに手を振ってこう言い残した。

 

「ばいばぁい。お馬鹿さん」

 

 そして俺たちはイスタの屋敷から姿を消した。

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