魔力0だから結婚は無理   作:ヤンデレ大好き星人

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最終話 要求

 エリザの空間に引き込まれたことで俺は魔力を使いはたした。

 そして無事に魔力の暴走はおさまっていた。

 

 エリザの魔術で作られたその空間は、彼女の部屋に似ていた。

 

「し、死ぬかと思った」

 

「死ぬわけないでしょう。ギルの魔力の封印を解いたのは私なのよ」

 

 エリザが言うにはこうだ。

 

 図書館で調べていたのは、俺の魔力の封印を解除する方法だった。

 魔力封印はS級魔術だが、それを解除するのはそう難しくはなかったそうだ。

 

 空間魔術の最終章が記された魔導書については、イスタ家に”ある”と言っただけでそれを習得するとは言っていなかった。

 

 しかしローナが予想よりも早く準備を終えた。

 

 エリザはローナの足止めに徹した。

 封印の解除は不完全だったが、あとは俺が自力で解除できるだろうと判断した。

 

「俺が死にかけたのはお前のせいかよ!」

 

「ちょっと、怒鳴らないでよ。最初から計画通りって言ったでしょ。助かる方法も考えてあったわよ」

 

 空間魔術に引きずり込んで魔力を消費させるのも計算のうちだったようだ。

 

「そうだったのか。てっきりローナを倒そうとしたのかと思ったよ」

 

「無理に決まってるでしょう。あんな化け物。私と戦ってた時も、あいつは本気なんてこれっぽっちも出してなかったわ。ムカつくけど」

 

 そんなに強いのか。

 いや、魔力がないという嘘をついていたがあれでも賢者の一族だ。自身の領域で戦えばかなりの力があるのだろう。

 

「ところで、俺はいつここから出れるんだ?」

 

「……?出さないわよ?一生」

 

 首をかしげて、不思議そうに俺を眺める。

 

「ちょっと待て、ここで一生をすごすのか?」

 

「間抜けな顔しないでよ。一緒にいるのは夫婦として当然でしょ」

 

「これはほぼ監禁だろ。ってかいつから夫婦になったんだ……」

 

「昔約束したでしょう!もしかして覚えてないの!?」

 

 本気で覚えていない。

 だがそんなことを言える雰囲気でもない。

 

 ここは嘘でも……いや、子供の頃の話か……。

 

 魔力量の検査前、たしかにそんな約束をした。

 

「したな……結婚の約束」

 

「なんだ覚えてるじゃない。で?それができなかった理由はなに?」

 

「魔力がないからだな」

 

「その魔力はあったでしょう。じゃあ結婚は?」

 

「……できる……のかもしれない」

 

 エリザは「でしょう?」と言って上機嫌な顔をする。

 

 彼女のこんな表情を見たのは久しぶりだ。

 ずっと何かと戦っているようで、正直近寄りがたかった。

 だがそれも結婚の約束のためだったのかもしれない。

 

 そう言えば、俺には魔力があったんだな。なんだか実感が湧かないが、諦めていた魔術師をまためざせるかもしれない。

 そして俺の魔力を取り戻してくれたのはエリザだ。

 

 そのお礼をまだ言っていなかった。

 

「ありがとうな。魔力の封印を解いてくれて」

 

 そう言ってエリザの頭に手を乗せると、照れたように俯いた。

 

「な、なによいきなり。そう言うんだったら、抱きしめるくらいしなさい」

 

「そんなことでいいのか?お礼なら他にもあるだろ」

 

「いいわよ」

 

 正直こんなお礼でいいのかわからないが、今は彼女の要求に応じた。

 そうしてエリザがいいというまで抱きしめることになった。

 

 

 ……長い。

 

 抱き合ったままもうどれくらい経っただろうか。

 

 エリザの体温が徐々に上がっていくのを感じる。

 そして俺をじっと見つめる視線には、さらなる要求への期待が見えた。

 

「ねぇ、ギル」

 

「な、なんだよ」

 

「イっちゃった……」

 

 ああ、まずい。

 エリザと接する上で、守らなければならないルールがあったのを忘れていた。

 

「私のギル、お願いを聞いてちょうだい。これから私と……」

 

 そのルールとは『エリザからの要求は、どんな小さなものにも応えてはならない』というものだった。

 

 彼女の要求にひとつでも応えてしまうと、必ず次の要求が生まれる。そしてその内容は、前回よりも重いものとなる。当然彼女からの期待も大きくなる。

 そして期待の膨れ上がった要求を断ると……

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 子供の頃の話。

 

 俺とエリザはずっと一緒にいた。

 いや、エリザの方が24時間、俺のそばから離れなかった。

 寝る時も、食事をとる時も、彼女はずっと俺を見ていた。まるで監視されているようだった。

 

 俺はエリザと、他の誰よりも仲が良かった。

 当たり前だ、エリザが誰も寄せ付けなかったのだから。

 

 ある日、エリザが俺にお願いをした。

 

「ギル、ほっぺにキスしていいかしら?」

 

 大した要求ではない。俺は「べつにいいよ」と言って受け入れた。

 

 そしてひとつ要求に答えたことにより、次の要求にも応じてくれるという期待が生まれる。

 

「ギル、くちびるにキスしていいかしら?」

 

「だめだ。それは恋人がするやつだ」

 

 その答えにエリザは目を丸くして驚いた。彼女にとってこの要求は、先ほどのものと差して変わらなかった。

 前回は良くて今回は駄目。その理由が分からなかった。

 

 きっと意地悪をしているに違いない。

 エリザはそう考えていた。

 

 深夜、体に違和感を覚え目が覚める。両手は縛られ柱にくくりつけられていた。

 そして俺の唇は、エリザの唇によって塞がれていた。

 

「んんっ……あ、起きたぁ。ひどいわギル、こんな気持ちいいことさせないなんて……ちゅっ」

 

 口の中へ舌がねじ込まれ唾液が流れ込む。

 唇へのキス。それを断っただけで、このディープキスが一晩続いた。

 

 ひとつ要求に応える。するとさらなる要求が生まれる。その度に要求への期待が大きくなり、それを断ると期待値分の代償を払わなければならない。

 そんなことが何度も続いた。そうして俺の中では、エリザの要求は軽々しく応えてはならないものとなった。

 

 それでも小さな要求にはつい応えてしまうことがあった。

 

 

 

 

「ねぇギル、さっきお父さまとお母さまが抱きあっていたの。私たちもやってみない?」

 

 エリザが抱きついてくるのはいつものことだ。だから俺はその要求を受け入れた。

 

 2人で抱き合っていると、エリザがこう言った。

 

「ねぇ、ギル。お父さまとお母さまがそのあとね、服を脱いでベッドで抱きあったの。私たちもやってみない?」

 

「いや……それは……」

 

 俺はその要求を断った。

 

 恐らくその晩だろう。エリザが、寝ている俺と勝手に性行為を行なったのは。

 

 

 

 

「ギル、お姫さまだっこ」

 

 エリザが俺の腕に飛び込んで体を預けたことで、反射的に体を支えてしまった。

 結果『お姫さまだっこ』という要求に応えてしまった。

 

「お姫さまと王子さまは結婚するものよね。ねぇギル、将来私と結婚してくれる?」

 

 重い要求は、それだけ彼女にとっての期待も大きい。

 結婚という将来を誓い合う契約。この要求を断れば、どれだけの代償となって返ってくるか想像もつかなかった。

 

「……結婚してくれないの?」

 

 彼女の爪が俺の頬に食い込み、生暖かい血液が冷や汗のように頬をつたう。

 

「わ、分かったよ……」

 

 その時はそう答えるしかなかった。

 大人になった時、エリザの気が変わっているかもしれない。そんな未来の偶然にまかせるしかなかった。

 

「じゃあ約束ね。もし破ったら、誰も見つけられないところに閉じ込めて、無理矢理結婚してやるわ」

 

 そしてその約束は、俺に魔力がなかったことにより破られるかたちとなった。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 今俺は、エリザの作り出した空間にいる。自力でここから出ることは不可能。そして誰も助けに来られない。

 ああそうか、これはあの時の『将来私と結婚してくれる?』という要求に応えなかった代償だ。

 

 そして今、エリザからの『抱きしめる』という要求に応えたことで、次の要求が始まっていた。

 

「これから私とセックスしましょう?」

 

 エリザはわかっている。俺はここから逃げられず、当然選択肢などない。

 絶対に断られないという大きな期待、そしてそれを断った時の代償。

 

 八方塞がりだ。受け入れるしかない。

 

 

 

 そうして閉ざされた空間で、時間の感覚すらない長い夜が始まった。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 ギルと暮らしてからもう1年になる。

 

 お腹の子もだいぶ大きくなった。

 

「エリザ様、客人がいらしています」

 

 今日は来客の予定なんてないはずよね。

 

「いったい誰よ」

 

「ローナ·イスタ様です」

 

 あら、ずいぶん遅い登場じゃない。存在を忘れていたわ。

 

 使用人の話によると、ローナ·イスタは最近当主になったとのこと。

 

 当主になったことの報告は、魔術師の礼儀だし当然ね。

 

 

 

 

 多くの使用人を従えて客間で座っていたローナ·イスタ。

 その姿を見て、私はぎょっとする。

 

「あら、お久しぶりです。エリザ·ウィズ·メイジーさん」

 

 彼女の腹は、その小さな体に見合わず大きく膨れていた。

 

「久しぶりねローナ·イスタ。ところでそれは誰の子かしら」

 

「あははっ、面白い冗談ですね!わたくしが子供を作る相手なんて、ギルさま以外いませんよ?」

 

 ありえない。

 私が作った空間には誰も入れないはず。

 

「嘘よッ!不可能だわ!」

 

「うーん。見てもらった方が早いですね」

 

 彼女がそう言った瞬間、屋敷に張られた魔術の領域に穴が空いた。

 

「わたくしは魔術を書き換えることができます。今はメイジーの屋敷に作られた領域を、少しだけわたくしの領域へと書き換えました」

 

 ……ああ、化け物ってそういうこと。

 

「つまり私がギルを空間魔術に引き込む時に、魔術を書き換えていたってことね」

 

「そうです。だからあの空間には入り放題です!時間が足りなかったので、全ては書き換えられなかったんですけどね」

 

 ありえない。聞いたことがない。

 領域をぶつけ合う魔術師の世界で、この能力はあまりにも強い。

 

「あなた本当に人間?」

 

「ひどいです!私たちもう姉妹みたいなものじゃないですか」

 

 こいつと姉妹だなんて死んでも御免だわ。

 それにこいつだってそんなこと思っていないはず。

 

「それにしてもメイジー家の当主というのは大変なものなのですね。1日8時間しかギルさまと一緒にいられないなんて」

 

 ローナ·イスタは笑顔のまま話を続ける。

 

「おかげでわたくしは、1日16時間もギルさまを独占できました」

 

「なぁに言ってんのお前……!」

 

 ギルは回復魔術をかけられながら、一睡もできずにこいつに犯され続けたっていうの?

 

 想像するだけで反吐がでる。殺してやりたいとすら思った。

 

「ギルさまはあなたに何も言わなかったのですね。きっと前のようにわたくしたちが衝突するのを懸念しているのでしょう。……ああ、お優しい」

 

 ローナ·イスタはそう言って、にこにこと笑いながら右手を差し出した。

 

「ということで、和解の握手です」

 

 ふざけるな。

 和解なんて無理に決まっている。

 

 いえ、この握手は……。

 

「なるほどねぇ。魔術を書き換えるには、魔術に手が触れている必要があるのね」

 

 握手と称して手に触れようものなら、ギルを閉じ込めている空間魔術を書き換えられる。

 一瞬でも気を抜いたら殺されかねない。

 

「私はあの空間からギルを出さないわよ」

 

「それではギルさまがかわいそうです」

 

「ギルを出せば私はお前にぶっ殺されるでしょうしねぇ。でも今私を殺せばギルごと空間が消滅するわ」

 

 そしてどういう訳か空間の書き換えはできない。

 座標を計算し続ける空間魔術に書き換えを行うのは難しいのだろう。

 

 だから魔術を展開するときに、外部から少し書き換えることしか出来なかった。

 

 偶然にも私の空間魔術は、ローナ·イスタの天敵だった。

 

「あなたは私を殺せない。私はあなたに勝てない。この辺が今の落とし所かしらね」

 

 ローナ·イスタは、私の話を楽しそうに聴きながら紅茶を飲み干した。

 

「さて、挨拶も終わったので帰りますね」

 

 立ち去ろうとする足をとめ「あ、そうだ」と言って振り返る。

 

「本日はとても貴重なお話をありがとうございました。あなたが消えるとあの空間は消えるのですね。勉強になりました」

 

 こいつ……。

 落とし所だなんて考えはないようね。

 

「いいわ。私だってこのままじゃないわよ」

 

 この国最強の魔術師。その彼女に抵抗できるだけの力をつけてやる。

 そしてギルを守り抜いてみせるわ。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 結局ローナ·イスタとエリザ・ウィズ・メイジーの力の拮抗はお互いの人生が終わるまで続いた。

 その間に挟まれたギルという男は、2人の女魔術師の管理のもとで幸せに暮らしましたとさ。

 

 

 

 おしまい

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