今日はおかしな日だとマルゼンスキーは思った
シンボリルドルフと親友と言える間柄であるマルゼンスキーは普段、寮通いではなく自宅から直接通いに来ている少し特殊な生徒である
今日も今日とて安全運転を心がけながら鼻歌交じりにトレセン学園へと到着した彼女は、一瞬『自分の知っている世界と似たようで全く違う世界』に迷い込んでしまったのではないかと思った
「今日は海水浴日和ですので登山に行きますわよ!!着いて来れない方はアメリカで大陸横断バイクツアーをしてもらいますわーっ!!」
「ま、待ちなさいゴールドシップ!!……あぁもう!私の物真似を無駄に寄せないでくださいまし!」
「はぁああぁ~堪らないです堪らないですっ……ぅっ、自分の喋りだけでウマ娘ちゃんエネルギーが満たされていくっ……♡」
「あ、あの、私の身体でそんな顔しないで欲しいんですけど……」
「はっはっはっはー!!!身体が変わっていようとも私は魂の学級委員長!!なんなら生徒会副会長として権力レベルもアップです!!今日も今日とて一球入魂!!バクシーン!!」
「はぁっ……っ、ま、待てっ……くっ、距離適性の差が……あ、あのたわけめ……!」
海水浴日和に登山に行こうとニンマリとした笑みを浮かべる『メジロマックイーン』を、ゴールドシップと自分の名前を呼びながら追い掛ける『ゴールドシップ』
鏡に映る自分の姿とその自分が発する声に昇天しかかり大分緩い表情を浮かべる『メジロドーベル』に、それを辺りの視線を気にしながら止める『アグネスデジタル』
自らを学級委員長と豪語しながら元気に学園を駆け抜けていった『エアグルーヴ』と、距離適性の問題からか追い付けずにその場でへばってしまう鋭い目付きの『サクラバクシンオー』
何もかもが違和感しかないこの状況に頭がパンクしかかり、きっと私が来る場所を何処かで間違ってしまったのだろうとよそよそしい態度で出て行こうとするマルゼンスキーだったが、そこに漸く見知っていて尚且つ自身のよく知る特徴と一致する相手が現れる
「おはようございます、マルゼンスキー……さん?」
「……ちょっち待って欲しいかな……えっ、つまりどういうこと?」
「つまり、この学園のウマ娘達が入れ替わってしまったということになる……ま、待ってくれマルゼンスキー!私を1人にしないでくれ!!」
聞いても納得は出来たが訳が分からなかった、理解出来なかった
あの後たづなに出会ったことで冷静になれたため、改めてこの状況説明を迫れば
「私も何も……今朝から皆さんの様子がおかしくて……と、とにかくシンボリルドルフさんに伺ってみてください」
と彼女も今朝来てみればこうなっていたそうで混乱していたらしく、仕方なく生徒会室に訪れてみれば
「……おはよう、マルゼンスキー…………マルゼンスキー!?」
体格が足らず座高を上げることで生徒会長の机に突っ伏していた『トウカイテイオー』を見て、何となく予想はついていた
こちらを見かけて思わず飛び上がり目を輝かせていたことから、皇帝と呼ばれる彼女は誰が誰だか見分けのつかないこの状態で現れた変わらないマルゼンスキーという存在が嬉しくなってしまったのだろう
普段素を見せない彼女がそこまで喜んでいたのは、この荒唐無稽な現象への対応を責任ある立場として引き受けなければいけなかった疲れから半ばルナモードに突入しているのもあったのだろうが、そんなことは知る由もなかった
ともかくそうして状況を把握してしまった(巻き込まれたとも言う)マルゼンスキーはというと
「……因みにだけど、本人だって証明出来る証拠ってある?」
「トレーナー君のご実家のご両親の名前は……」
「待って、充分」
何となく試しに聞いてみたその質問で、色恋沙汰とは無縁に思えていた親友が既にトレーナーの家族関係を把握し始めていることに戦々恐々するのだった