「「入れ替わってるー!?」」   作:眠りたい時だけ手が進む人

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私が紅茶で、貴女がコーヒーで

「本当に驚くべきことばかりで、本当に面白いことばかりが起きるね……カフェ」

「そうですか」

 

入れ替わりが発覚してから数時間後のトレセン学園

『こうなってしまったから仕方ない』『他にどうしようもない』と生徒達が徐々に落ち着きを取り戻し始めた中で、この事件を何処か他人事に捉えていた『マンハッタンカフェ』は机に座り胡乱気な目で目の前に置かれた珈琲を見つめる『アグネスタキオン』にけらけらとにやけながらそう呟く

 

「釣れないなぁ、トレーナーくんだったら『何か新しい発見があったのか?』と聞いてくれるのに……」

 

残念そうにしながらパッと『タキオン』の前に置かれた珈琲を取り上げた『カフェ』はそれをまじまじと観察すると、スンスンと臭いも嗅いでみせる

自分のものであったはずの肉体が目の前で勝手に動く様を見ていた『タキオン』はそれが恥ずかしくて目を背けながら、よりにもよってこの人となんて……と己の運命と神を呪っていた

せめてこれがトレーナーとであればまだ……と

 

「まぁいい、それより……飲まないのかい?既にこれを淹れてから数分が経過しているというのに」

「…………」

「鉄は熱いうちに打て、とは違うが珈琲も暖かい内に飲んだ方がいいのではないかな?『私にはこれが美味しそうに見えているのだが』」

「………………何が、言いたいんですか」

「食い付いてくれたね、ではまず私達の状況を振り返ろう」

 

煽るように、自分から話題を提示させようとする彼女に酷く鬱陶しそうにしつつも仕方なく『タキオン』は説明を要求する

それを受けて彼女は嬉しそうに微笑み、まるで演劇でもするように大袈裟な身振り手振りで授業を始めた

 

「私は、アグネスタキオンで……君はマンハッタンカフェだ

「それを示す根拠はアグネスタキオンにしか知り得ない筈のことをマンハッタンカフェが知っていて、マンハッタンカフェにしか知り得ないことをアグネスタキオンが知っているから

「だが考えてみて欲しいのだよ、他者から見たら私達が事前に情報を交換しあい、入れ替わっているという状況を演じているように他人には見えるわけだ

「鬼の証明だよ、どうしようもない」

 

自分達は確かに入れ替わっている、しかしそれはあくまで自分達の間にしか分からないことであり他者からすればあまりにも超常現象的すぎて、この状況を演じていると思ったほうがまだ納得がいく

そう告げる『カフェ』は、更にこの状況が発生させている問題について触れ始めた

 

「私は珈琲が大嫌いだ

「……いや、珈琲が、というよりそもそも甘い物が好物と言ったほうが早いかもしれないね…とにかく、牛乳も砂糖もない珈琲は大嫌いだ

「そして君は…紅茶が嫌いというわけではないだろうが、好きではない

「さて、私にはやはり『この珈琲が美味しそうに見える』…君はどうかな?」

 

机の上に置かれたカップを手に取り、今までなら行うだけで眉を顰めていただろう匂いを嗅ぐという動作を行い…満足そうにそれをコクリと一飲みする

砂糖も牛乳もない、甘味のあの字もないその味が口内に広がるも嫌悪感すら湧かず、逆に心が落ち着いていくように『カフェ』は感じている

 

「……思考と身体の趣味嗜好が合致しない

「カフェでないと示すために、紅茶を飲みたいと思えないし珈琲を絶とうとしても身体が求めている

「これでは今の私は他者から見て、アグネスタキオンと名乗っているマンハッタンカフェでしかない

「こうなっては私達が入れ替わっていると客観的に示す根拠はほぼないと言っていい

「私達が入れ替わっていると一種の催眠術に陥っていると考えた方がマシに思えるよ

「誰が、或いは何が元凶なのか分からないが…少なくとも私は狂いそうだ

「タキオンとしての思考が珈琲を否定するのに、カフェとしての身体は肯定する……

「私から見たカフェの良いところと悪いところとを、無理矢理学ばされている気分だ」

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