赤蛮奇 イメージCV悠木碧さん
八雲藍 イメージCV中原麻衣さん
で、脳内再生してます。
─最近、藍様の様子がおかしい。
八雲藍筆頭式神、化け猫の橙は炬燵に丸まりながら思うことである。
あの日、不覚にもマタタビの匂いに釣られて迷子になってしまい、生首が探しに来たことには大層驚かされた。
自分自身が驚かす存在でなければならないのに。
それが橙にとっての不覚、二度あることは三度ある。
主人である八雲藍がこの八雲藍筆頭式神である橙に興味を失っている、否、主人の主人、つまり逆らうことを決して許されない八雲紫様が冬眠に入られて多忙なのはわかる。
式神である橙に意識を向けられないというのも、まぁ、わからなくはない。
しかし、多忙な最中でも赤蛮奇とかいうろくろ首を想っているとは、これ如何に…
「藍様…」
主人の溜め息も増えてる気がする。
これは確認せねばならない、この八雲藍筆頭式神である、橙が。
「藍様、最近お疲れですか?」
「あぁ、橙。そういうわけじゃないんだが、どうしたんだい?」
「……藍様藍様、おしゃもんじが反対です」
「い、いけないいけない!」
あはははは、と苦笑いを浮かべる藍の様子にジト目の橙。
八雲藍は真面目で仕事をテキパキと要領よくこなす従者の鏡のような妖狐である。
そんな彼女が料理中に上の空、心配するなというほうが難しい。
「……橙?本当にどうしたんだ?」
「な、なんでもありません!藍様は、そのままの藍様でいてくださいね!」
「う、うむ?」
橙はあの頃の橙ではない。
式神として選ばれ、舌足らずでドジを踏みまくってた頃の化け猫ではない。
─八雲藍が筆頭式神、橙。
主人のピンチとあらば、動かなければ何が式神か。
素行調査を行わねばならぬ。
橙は名残惜しく、ぬくぬく炬燵から飛び出し、マヨヒガへと急ぐ。
かつての仲間達の知恵と情報で素行調査へと乗り出さねばならない。
─ターゲットは赤蛮奇。
恩人を疑うのは癪だが、あの時、化け猫である橙を見事に驚かしてくれた借りもある。
覚悟せよ、赤蛮奇!
橙の冒険が始まる。
※
霧の湖。
西洋形式の紅魔館が聳え立つ、場所から少し離れたところにある別名妖精の溜まり場。
そんな一角で三人の妖怪が駄弁っている、もとい談笑している。
「てかさばんきっき、最近付き合い悪くね?どしたの?」
「そもそも私、草の根妖怪ネットワークのメンバーじゃないからね?あんたらに呼ばれて人里からわざわざ毎回来てるだけだからね??」
「ウケる」
「なんで?」
湖の中に身を沈めるギャル口調と呼ばれる話し方を極める、わかさぎ姫。
「いや、あたしとあんたの仲じゃん?ていうか、普通に入っちゃいなよ、みんな我ら草の根妖怪ネットワークはこの三人がレギュラーだと思ってるし」
「それどこ調べよ?」
赤蛮奇の隣に腰かける狼女の今泉影狼が宥めるように話し掛ける。
わざわざ迷いの竹林から泊まり掛けで来てるのだ、呼ばれたからには参加せねば友人としての縁が廃る。
「ばんきっきも、かげちゃんもこまけーことはなきなきでよろ」
「……そのキャラ疲れないの?」
「素だYO」
おかしい。
前会ったときはこんなキャラじゃなかったはず、わかさぎ姫。
「わかさぎさぁ、あたしらの中で一番影が薄い、というか、キャラが立ってないから頑張ってんだよ。暖かく見守ってあげて」
「そ、そういうことなら」
「あれー?私この距離で陰口言われてる系??」
※
人里から出た赤蛮奇を尾行し、霧の湖にて妖怪達の怪しげな会合を目撃した橙。
目的はわからないが、赤蛮奇なる妖怪が徒党を組んでいることがわかった。これは大きな一歩だ。
会話の内容は聞き取れないが、顔を確認できる狼女は超笑顔だ。
まるでこれから人里に赴いて人間共をたらふく喰らってやろうか、くらいの肉食獣らしい犬歯と涎を露にし、愉快そうに笑っている。
まさか、赤蛮奇が人里に拠点を置いてるのは彼女らに情報を送るため…?
赤蛮奇がスパイ行為を働いているというのだろうか。
橙は戦慄した、本当にそうだとしたら幻想郷のパワーバランス崩壊の危機である。
主人の藍、ひいては主人の主人である八雲紫にもこの件は伝えねばならない。
……しかし、早とちりはいけない。
橙は学ぶ子、いい子である。
八雲の姓を襲名していないとはいえ、今や立派な八雲藍の式神。
事実は確実に簡潔に、特に大事となれば尚更である。
もう少し三人の話を聞こうと聞き耳を立てる。
「─それまじ?」
「だから、それは─」
「え、それはないよ、だって─」
─悲しきことかな、距離があって上手く聞き取れない。
「あれ、橙ちゃん?」
「え」
後ろから声がした、それはあそこで話してる赤蛮奇の声。
何故、どういうことだ、反射的に振り返って橙が見たものは─
「なにしてるの、こんなところで?」
─宙に浮いた赤蛮奇の顔だった。
※
「……で、どうするのこの子?」
「私が連れて帰るよ。知人の式神なんだ」
「知り合いだったんだ」
「まぁね」
泡を吹いて気絶した橙を赤蛮奇が背負う。
人の気配に敏感な影狼が「あの草むらに誰かいる気がする、もしや入会希望者!?」と言ったので、霧の湖だし妖精かなんかだろうとわかさぎ姫は済ませていた。
それでも気になった赤蛮奇が頭を飛ばしたというわけだ。
赤蛮奇としては、二度も橙を驚かすことになってしまい申し訳なさでいっぱいである。
藍には事故だと伝えよう。
「じゃあ、あたしも竹林に帰るとしますか。今夜は満月っぽいんだよねぇ、鳥肌超立ってる」
「寒さも凌げそうね」
「他人事みたいに、ほんっっっとに毛深くなっちゃうんだよ、コンプレックスなんだよ?」
「コンプレックスも考え方によっては長所、とこれ以上は野暮だね」
「まったくだよ」
わかさぎ姫は寒さに耐えきれなくなり、湖の水底へと帰っていった。
今後、冬に集まるときは検討しなければならないかもしれない。
「……私、今日集まりがあることわかさぎ姫に聞いたんだけど」
「……あたしもわかさぎから聞いた、ていうか呼ばれた」
─冬に集まるときは、検討しなければならない。
「それじゃ、また次の集まりで」
「あぁ、できれば満月じゃない夜空の下で」
※
「すまないね赤蛮奇君、橙が世話になったみたいで」
「気にしないで、大丈夫だから」
所変わって、人里にある赤蛮奇の部屋。
長屋暮らしで他にも人間が暮らしてる、八雲藍が長屋に訪れたのは夜遅くであった。
一人暮らしには十分なスペース、八雲邸よりも狭いがそれでも藍が尻尾を仕舞わなくても居座れる広さはある。
「藍に連絡しようにもどうすればいいかわからなかったから、来てくれて助かった」
「書類が一段落してね。君に一言挨拶をしておこうと思ったんだよ」
思えば、冬の間は会えることが少なかった。
週に二回ほど顔を会わせていたが、二週間に一度会えたらいいくらいに変わっていた。
赤蛮奇に会いに来た、そこにまさか式神の橙がいると思わなかったが、一石二鳥とはこのことである。
「幻想郷の管理っていうのも、大変ね」
「全くだ。紫様ならスキマであちこちに行けるのだが、私はあいにくとそうはいかない。一応、式として簡易的なスキマは使えるんだが、限定的でね」
「……忙しいところごめんね」
「─気にするな、私も会いたかったんだ」
恥ずかしげに言う藍は頬を染める、つられて赤蛮奇も顔が真っ赤になってしまう。
「れ、連絡先交換、しよっか。黒電話なら、うち繋いでるし…」
「そ、そうだな!なにかあったときに便利だからな!」
「……ふふふ」
「はははは」
─八雲藍がここまで他者に心を開くのは珍しい。
後に冬眠から目を覚ました八雲紫が二人の様子を見て呟くことである。
九尾の妖狐という、妖として最高位に位置する大妖怪ゆえにプライドも高く気高い。
式神である橙に対しても、どちらかというと娘や妹といった接し方に近い。
主人である八雲紫に対しては絶対の忠誠を誓ってはいるものの、どこか距離を感じられる。
─赤蛮奇がこんなに素直になるなんて珍しい。
後に友人である今泉影狼が二人の様子を見て呟くことである。
人里で暮らし始め、妖怪としての身分を隠している(バレてるが)彼女は愛想笑いが増えたという。
元々外交的な性格ではない、一匹狼で人間に溶け込むことにはそれなりのプライドも持ち合わせている。
草の根妖怪ネットワークに身を置かないのも人間社会と妖怪社会の二足の草鞋は無理があると判断してのことだろう。
赤蛮奇本人としては、自分が身を置いてしまい、万に一つ友人達に報復の火の粉が飛ぶのを防いでいる。
責任感が人一倍ある彼女だからこそ、垢抜けてありのままの姿でいることは少ない。
─つまるところ、この二人は似た者同士なのだ。
「せっかく来てくれたし、夜食作るよ」
「いいのか?」
「普段主様のために色々苦労してるんでしょ?デュラハンは騎士だからね、今日くらいは姫様気分味わってよ、藍」
「……そういう言い方は卑怯だと思うぞ?」
むぅ、と藍は口を尖らせる。
「橙ちゃんもしばらく起きそうにないし、ゆっくりしていきなって。妖怪でも腹は空くんだから」
「……まったく、相変わらずの狐たらしだなぁ、君は」
「褒め言葉として取っておくよ」
エプロンを装備した赤蛮奇が台所へ向かった。
ナインヘッド & ナインテイル
※
美味しそうな匂いと共に橙は目を覚ました。
「お、起きたか橙」
「─藍、しゃま?」
「橙ちゃん起きたの?なら、おかず暖めちゃうね」
「生首!?」
「赤蛮奇です」
八雲邸でもマヨヒガでもなかった。
橙が目の敵にしている赤蛮奇、つまりここは敵地。
人里でスパイ活動を行っている拠点、現場さえ差し押さえてしまえばこっちのものである。
「藍様、報告します!この者、赤蛮奇は人里で─」
「ん?あぁ、彼女が妖怪でありながら人里に身を置いてる理由は簡単だよ。幻想郷のアピール、もとい人間と妖怪の共存証明さ」
「……え?」
「あぁ、そうなの。異変のときに慧音先生にね、ちょっと、それ以来ここに住んでるの」
「……え??」
「全く、まさか紫様もご存知とは驚いたよ」
「そこは私も初耳なんだけどね、藍の主人様と直接面識があるわけでもないし」
赤蛮奇が三人分の料理をテーブルに運びながら溜め息を吐く。
「ていうか、その分だと他にもいそうね。人里に妖怪」
「あぁ、何人かいるぞ、たしか」
「まじか」
「味噌汁、美味しいな」
「油揚げの残りがあってよかった」
話しについていけずに目を点にした橙。
「えと、え?え?」
「まぁ、橙ちゃん。驚かせてしまって申し訳ない、この夜食はお詫びと思って、藍とゆっくりしていってくれてもいいよ」
「え、あ、え?え?」
「橙、ここは素直にいただいておきましょう。この油揚げ、美味ですよ」
「藍は油揚げだったらなんでもいいの?」
橙は誤解してた。
まさか主人の主人が公認だったとは、末端の末端である橙が先走りしすぎた。
赤蛮奇、普通にいい人だった。
その後、三人で交じって談笑をしながら夜食を進める。
お陰で赤蛮奇と橙もある程度打ち解けることができた、その様子に藍も微笑みを浮かべる。
「そうだ、橙ちゃん」
「なんですか?」
「草の根妖怪ネットワークに興味ない?」
「おい、主人を目の前に式神を勧誘しないでくれないか?」
藍が赤蛮奇の胸ぐらを掴んだ。
感想、評価、批評、罵倒、その他諸々お待ちしてます(^^)