Jホラー界不動のヒロインにTS転生してしまったらしい 作:peve
今話は3分割の予定です。
現在、過去、現在。
「あなたには妹がいるの」
驚かないで聞きなさいね、と。
いつもと変わらない微笑みとは裏腹の、緊張を押し殺した硬い声で告げられた言葉に、私・山村貞子は、足腰から力が抜ける思いがした。
転生前の記憶が叫ぶ。
なんだそれ。聞いてない。知らない。
貞子に妹なんていたのかよ──と。
聞かされた時点で、原作シリーズに共通するとあるフラグを2つほどへし折っていた自覚はあった。
言うまでもなく、そのうち1つは私の容姿と性格のこと。社交的な貞子という、前世の一般人に見せれば何の冗談かと鼻で笑うのが8割、二次創作で見たことあるわーと口角を上げるのが2割じゃなかろうかというイメージ作りである。
黙っていればじんわり怖いが、明るく話せばとびきり美人(予定)のガワを持つため、ある意味前世で言うバ美肉のような感覚で楽しさを覚え始めた頃だった。
もう1つについては、あれは私から進んで壊しに行ったというか、癇癪を起こした結果なので、あんまり思い出したくなかったりする。
恥ずかしいったらない。
でも9歳に届かないくらいの小2女児のやったことなので、被害者、ならびに関係者の方々は大目に見てほしいものである。
半年経っても一年経っても賠償請求が来ただとか、家にシンブンシャーが凸してくるだとかは無かったので、お父さん──伊熊博士がうまいこと立ち回ってくれたのだとは思うけども。
父娘の関係は良好なのである。
父の日には必ずお花を用意するし。いつ始まる記念日なのか知らないけど。
ちなみに弟ならいる。
年の離れた可愛い弟である。
3歳である。
すごく落ち着いた子である。
将来絶対に美形になる。
お姉ちゃんって呼んでくれないので、お姉ちゃんは悲しいです。なんでか呼び捨て。むう。
この子は
なぜ亡くならずに生きているのかはわからない。
時期的に私が前世の記憶を取り戻した頃なのでおそらく私、貞子が早い時期から力の把握と制御に努めていることが、なにかいい影響を与えたのかもしれないけれど──そういった嬉しさからだろうか。ブラコンの自覚はあるからな。
貞子は気付いていると思っていたのだけど、と。
意外を滲ませた母が言うには。
山村貞子は、その出生において、双子であった。
「診てくだすっていた本土の先生もね、おなかの中で大きくなるまで、分からなかったのですって」
それほどに──いっそ癒着していると言っても過言ではないほど。
私と、今度この家に戻ってくるらしい妹は、ぴったりとくっついていたらしい。
その言葉は、私の頭の中で厭な妄想を形作った。
離れて暮らしていた「妹」に向ける言葉としては酷過ぎると思ったのも確かだが──私だって、考えてみれば、山村貞子という少女に別のモノが混ざっているのと変わりはない。
そして、「妹」がこの年齢まで離れて暮らしていた理由を聞いたとき、私は概ね事情を把握した。
概ねというのはつまり、母が私にあえて聞かせなかった部分を含めて、大体の状況を理解したということだ。
母は言葉を選ぶために大変な努力をして、こう教えてくれた。
「あなたの妹──『奈緒子』というのよ。奈緒子は生まれてから……病気がちでね」
視線が一瞬だけ逸れ、
「体を治すのと──『力』を抑えなくてはならなくて。お父さんの、ほら、箱根のおうちがあるでしょう。あちらでね、診てもらっていたの」
……なんとか無表情で頷いてみせた。
箱根。
双子。
そうか。
「貞子はもう、力をだいぶん、扱えるでしょう? もしかすると、一緒にいた方が、あの子も少し……力の抑え方が上手になるかもしれないと、伊熊さんは考えていらっしゃるようなの」
力の。
抑え方。
ほう。
私は口をはさむ。
「つまり、私はその……奈緒子、ちゃん、の、面倒を見てあげたらいいの?」
いいえ、と母は首を振った。
「面倒を見るというより──できるだけね、貞子は奈緒子と一緒にいてあげてほしい。ちょっと難しい子でね、自分のことは一人で出来るそうだし、体の調子も今は差し障りはないそうだけれど」
だから貞子が大変なことはないと思うわ、と。
どうだろうか、と目顔で聞いてくる母に、私は定まらない気持ちを抱えながら頷いてみせたのだった。
これ、あれだ。
ガチで生き別れの妹だ。
しかも前世の記憶で言うところの、
といった会話があったのが、大体半年くらい前だっただろうか。
その数日後、お父さんに連れられてこちらの家にやってきた『奈緒子』は、その出自を察して戦々恐々としていた私の心とは裏腹に、なんというか──普通の女の子に見えた。
私が見た目を変えようと躍起になっていたことで逆に引き立つ、ザ・貞子といった見た目も、この時代のこの年頃の少女としては実はさほど珍しいものではなく。
双子だけあって私と瓜二つの──つまり貞子そのものの容姿ということだ──顔立ちも、人馴れしていないおどおどとした雰囲気と合わさればむしろ見た目通りの可愛らしさで。
ちょっと笑い方は変だったけれど、むしろ愛嬌の範疇。
なにより、私の想像と予想とは大きく違うこととして、そもそも。
私の妹──「奈緒子」は、普通にお父さんに可愛がられて過ごしていた。
療養中ということでほとんど外に出ることはなかったらしいが、例えばの話。
お父さんの研究室の奥に作られた、人目に付かないための隔離室に監禁されて過ごしていただとか。
能力と自我の確立をさせないように成長抑制剤を打たれていただとか。
そういった虐待めいたことは、一切されていない。
私が本気で問いかければ、父といえど嘘をつくことは難しい。だから、これは確かなことのようだった。
なんでだろうな。
いや、いいことなんだけど。
例の事件のあと、お父さんの研究の内容が変わったっていうお話と関係あるのかな。
わかんないけど。
動揺も薄く、特別な出来事もなく、妹との同居生活は始まった。
それから今に至るまで、私と妹は仲のいい姉妹として過ごしている。
いやあ、まあ。
なんて声をかけようか、殺し合いになったらどうしよう、などと考えながら臨んだ初対面で。
頬を染めた上目遣いで、両手をもじもじとさせながら「これからおせわになります」って。
「よろしくおねがいします。……貞子、おねえちゃん」なんて言われたら。
日に当たった様子がない、少し発育の遅れたその体を、ノータイムで抱きしめに行った私を責められるものはいないだろう。
その瞬間、私たち姉妹の関係性はだいたい決まってしまったのだった。
人里の常識に疎く、家の中では姉にべったりなインドアな妹と。
家の外では明るく元気、家に帰れば妹(と弟)に全力で癒される姉。
比喩ではなくたぶん我が半身って感じの妹とは、それ以降、誰が見てもそう思うくらい、良好な関係を築くことができている。
だからというか。
弟が(まだ3歳なのに)姉と一緒のお風呂を嫌がることもあって、私と妹の二人でお風呂に入ることは、ここ半年、結構頻繁にあったりする。
なので今。
奈緒子が私とお風呂に入ろうとしていたこと自体は、別に驚くようなことではないのだが──
「帰ってくるの、わかったから。いっしょに入ろうと思って。……おねえちゃん」
「いやあんた、私が入ったときいなかったでしょ。奈緒子いつ入って来たの」
「………」
「ぶくぶくしてないでさ」
「……とんできた」
「……それ私できないんだけどーーー!」
外遊びから帰って来た私とお風呂のタイミングを合わせるためだけに、瞬間移動といういかにもホラー向けかつ原作映画でも使っていた超能力を使いこなしている妹の規格外さに、改めて戦慄して叫んでしまった私(山村貞子・日本を代表する怨霊予定・9さい)であった。
つづく。
初投稿、大好きな原作ということで、感触がとても気になります。
よかったら、評価、そして感想、ご意見をぜひ、よろしくおねがいします。
原作ネタに注釈はあったほうがいい?(展開に関わらない範囲で)
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