デート・ア・ライブ~真理亜デストラクション~   作:Kyontyu

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第三話

「来訪者その2と雨」

 

 シベリアの猛吹雪の中に一つの氷像――否、人間が雪にまみれた状態で立っていた。既に身体の半分以上を厚い雪の層が覆っており、かなり寒そうだった。しかし、人間は微動だにせず、その場に立ち尽くしていて、焦点の合わない目は虚空を見ていた。

 するとそこにバックパックを背負いかなりの重装備で歩く二人の人間が通った。二人の人間は一瞬ちらりと氷像と化した人を見て、目線を前に戻した。しかし、事の重大さに気付いた二人はさっさと氷像のところに戻った。

 

「助かりました。あなた方が、来なければ、わたしは、わたしの、身体機能を、全て、強制シャットダウン、するところでした」

 氷像だった人間はどうやら少女だったようでショートカットにした水色の髪と同じ水色の瞳を持っていた。今、その少女は青いガウンを着て熱いコーヒーを飲んでいた。

 雪上車の中は暖房が効いていて温かい。しかし地面は少女の溶けた雪で水浸しになっていた。

「ああ……そうなのかい? でも助かって良かった。僕はてっきり死んでいるものかと――」

「――こらっ。止めなさい。失礼でしょう! すいませんね、ウチの夫が……」

 少女を助けた男性が言おうとしたのを同じく少女を助けた女性が止めた。

 どうやら二人は夫婦のようだ。

「紹介が遅れたね。僕は祟宮 真太郎。んで、彼女が――」

「――祟宮 夏海よ。よろしく。あなたの名前は?」

 夏海は手を差し出し、少女はその手を握り返す。

「わたしの、名前は、スノォ。ある人に、伝言を、届けるのが、わたしの、仕事」

「伝言? 誰にだい?」

 スノォは少し首をかしげた。

「……分からない。でも、日本に、いる」

「日本! じゃあ彼に頼もう!」

 真太郎が合点といった様子で立ちあがった。

「え!? また頼むの!? 士道のこともあるのに?」

 夏海は心配そうな顔をして真太郎を見上げる。

「大丈夫! 彼ならきっと首分かってくれるさ。って、それよりもスノォちゃん、君はどこから来たんだい?」

 スノォは真剣な顔をして口を開く。

「別の、次元」

『え?』

 さすがに二人も驚きを隠せなかったようだった。

 

「あっはっはっはっ! そうかそうか、君は別の次元から来たのか! かなり興味深いねぇ」

 スノォ達は雪上車に乗ってしばらくの所にある街にそびえるビルの中にある研究室と書かれた部屋の中で赤毛の白衣を着た男性の所に来ていた。男性はコーヒーを片手に持ち、眼鏡をかけている。

 そこでスノォは頭をくしゃくしゃと少し乱雑に掻きまわされた。

「どうだ、弦気。また日本にある君の家の所にこの子を連れて行ってはくれないだろうか?」

「ああ、構わないよ。琴里もきっと、喜ぶだろうよ。『新しいおもちゃが来た!』って目を爛々と光らせて、ね」

 それを聞いた真太郎は肩をすくめてみせた。

「おいおい……それじゃあ困るよ……」

「ははは。冗談さ――んで、それよりも、調査は進んでいるかい」

「ああ」

 真太郎は肩に掛けたショルダーバッグからホチキスで綴じられた紙の資料を取りだした。

「ん、どうも」弦気はコーヒーを一口啜ってこれを受け取った。

「……あまり状況は良く無いみたいだね。顕現装置(リアライザ)の性能もそろそろ限界が来ているし……我々が対処出来るのはもうそろそろ限界、あとは、君の息子頼りっていうことになるかもね」

 真太郎は苦い顔をした。

「そうさせないためにも、僕達科学者が精いっぱい頑張らなきゃならない」

 弦気は再びコーヒーを啜って資料をテーブルに置いた。

「……分かっているとも。じゃ、君――スノォちゃんだっけ? 日本に送る準備をしようか」

 

 スノォはビルの前に待機していたリムジンに乗せられた。雪はだいぶ少なくなってはいたが、それでもかなり降っていた。

「よろしくね~」

 弦気はニッコリと笑いながら手を振る。それにならって真太郎も手を振った。そしてリムジンが発車した。

「本当に一緒に戻らなくても良かったの? 真太郎」

「まぁね。自分を捨てた親になんて、会いたくないさ。きっと」

 真太郎はゆっくりと上を向いた。目には涙が溜まっていた。

「そうかもしれないけど。でも、心のどこかではきっと会いたいはずさ。それが、人間という生き物なんだ」

 弦気は真太郎の肩を叩いてビルの中に戻って行った。

(いつか必ず会いに行くよ。だから、待っていてくれ、士道)

 誓うようにそう願ってから、真太郎もビルの中に戻っていった。

 

「ねぇ弦気、あなた、本当に士道君に全て押しつけるつもりなの?」

 弦気がエントランスに入った瞬間、黒髪を肩まで伸ばした女性が話しかけて来た。

「酷いなぁ、りこちゃん。それじゃあ、僕が全ての責任を放棄してるみたいじゃない」

「実際にそうなんじゃないの? 琴里のこともそうだけど、わたし達は、見て見ぬふりをしてるのよ! 研究の為だとか言って、わたし達は離れた所でのうのうと暮らしてる! わたしはもう我慢できない、このまま現実から目を……そむけるのは……」

 そしてりこはその場に崩れ落ちて泣き出した。

「分かってるさ……そんなこと……でも、今はあの人の話を、信じるしかないんだよ……!」

 弦気は拳を強く握りしめた。

 

 少女は大事な人と手をつないで街を歩いていた。既に彼女の時間は数年経っており、そこで少女は女性に成長していた。女性の右手は小さなポップコーンの容器を持っていた。

 そうやってしばらく歩いていると鼻の上に水滴が落ちて来た。

「あ……雨」

 女性が呟くとさらに雨脚が強まり始めた。

 するとさっきまで隣で手をつないでいた×××が消えた。

「えっ……? どこいっちゃったの……? ねぇ……×××……」

 女性がまわりを見渡して探すも、男の姿は見当たらない。

 声も、雨が奏でる銃声によってかき消されてしまう。

 そしてまわりの景色が全て消え、女性は白い空間に取り残された。女性の目の前には白い髪を腰まで伸ばした――あの雨の日の少女――が立っていた。

 女性が右手の容器の中を覗くと、中にはなんらかの調味料と思われる物を振りかけられた小さい×××が倒れていた。

「ねぇ、あなたは×××のことが好きなの?」

「……うん。でも、わたしはこれを食べられない」

 女性はそう言ってポップコーンの容器を静かに下に置いた。

「ん? 何で? 好きなんでしょ?」

 女性は静かに首肯した。

「でも、×××は、わたしの手を握ってくれた。わたしの心を分かってくれたの。だから、食べられない」

 少女はつまらなさそうに口を尖らせた。

「なぁんだ、つまんない。好きなら、食べちゃえばいいのに。少なくても、わたしはそうしてる」

 女性は気づくと少女の手の上に立っていた。少女は大きく嗤う。

「わたし、おいしいのがだぁーいすきなの。そして、あなたも」

 そして少女は女性を口の中に放り込んだ。そしてしばらく味わうように咀嚼してから飲み込んだ。

 

 それは雨が降った時のような湿った空気の風味がした。

「ごちそうさまでした」

 少女は満足そうに手を合わせて笑った。




祟宮夫妻の名前は適当につけましたのであしからず。
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