デート・ア・ライブ~真理亜デストラクション~   作:Kyontyu

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第六話

「白」

 

 ここは……?

 わたしは周りを見渡した。白い地面は地平線の果てまで延々と続き、空は清々しい青空が広がっていた。今のわたしは何故か服を着ていなかった。

 とりあえず現在位置を確認しなければ。

 拡張大脳皮質(メタコルテックス)を起動させようと、脳の一部分に呼び掛けるが、それに対する返答が返ってこない。立ちあがって再び周りを見渡すも、生き物も、人工物も見えない。

 わたしは、一人……? 

 そう思った瞬間、どうしようもない悲しみが脳内を支配する。

 たまらず頭を抱えてうずくまる。

 淋しい? なんでわたしが……

「痛い……痛いよォ……」

 わたしははっ、と顔を上げる。正面にはマリアが立っていた。しかし、その雰囲気はどこか違った。その姿からはなんとも言えない違和感が感じ取れる。そして、その瞳には涙が溜まっていた。溢れた涙が頬を伝う。

「なんであなたがここに……?」

 わたしは手を伸ばす。がマリアがそれを弾く。

「やめて……触らないで……痛いの……」

「あ……ごめん」手をひっこめる。

 そしてマリアは呟く。

「……誰か、わたしの嘘を、見抜いて……」

 その瞬間、マリアの身体の一部が花弁に変わり、浸食するようにマリアの身体を花弁に変え始めた。

「ッ! 待ってッ!」

 わたしは再び手を伸ばすも、掴むことが出来たのは一滴の涙だけだった。

 それを舐めてみる。

 

 それはトウガラシのように辛かった。

 

「はっ!」

 わたしは目を覚ました。

 ちゃんと服は着てる……天井もある……そうだ、マリアは!

 起き上がると腹部が痛んだ。

「うっ……」

 たまらず腹を押さえる。布のような感触……包帯が巻かれているらしい。こんなものでは治らないというのに……。

 どうやら体内のqドットの配置が変わっていて、この身体を構成する為のレイヤーがばらばらになってしまったようだ。現在、自動修復プログラムが修復を急いでいるが、まだ時間がかかりそうだ。

 と、そこで脳内に謎の不連続感が発生した。許可していない外部のデータが紛れ込んだらしい。それを慎重に隔離しようと動かすとそのデータの外壁が崩れて、不審な部分が露わになった。

 これは……?

 ウィルスに感染しないように開けると、大量の情報が流れ込んでくる。

 何かの量子データだ……でもこんなデータはこの世界では……そうか! マリアか!

 すぐに拡張大脳皮質(メタコルテックス)内の解析ゴーストに依頼してデータを解析してもらう。

 だが、何故こんなデータが入って来たのか、思い当たることは一つしかない。これはあくまで推論だが、おそらくレイヤーが崩れた時にマリアのコピー精神(ゴースト)が裂け目を通って来たとしか考えられない。そしてそのゴーストが夢の中に現れた、ということだろう。

 そこまで考えた所で解析結果出た。

「マリアのqドットの矛盾点か……! これなら倒せる!」

 勢いよく立ちあがると腹部に鋭い痛みが走った。わたしはベッドの上で悶えた。

 

『士道、聞こえる?』

「ああ、聞こえるよ」

 士道はインカムをコンコン、と叩く。見えないが、士道の遥か上には〈フラクシナス〉が浮かんでいる。

『恵美には悪いけど、相手が精霊であろうとなかろうと、封印出来るのなら封印するわよ。さぁ士道、デートして、デレさせちゃいなさい』

 士道ははぁ、と溜息をつき、「簡単に言ってくれちゃうな~もう」と肩を落した。

 今、目の前に広がっているのはすっかり銀世界に染まった天宮市だった。

 士道は短く息を吐いて一歩踏み出す。

 

 これからは俺の戦争(デート)だ。

 

 マリアは地面に仰向けになったまま大きな欠伸をした。

 今、マリアという日常は魔術師(ウィザード)という非日常に囲まれて攻撃を受けていた。が、攻撃は全て〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が作り出す氷の壁に阻まれ、マリアの周りには〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の力によって凍らされた円球型の氷塊――元々魔術師(ウィザード)だったものが随意領域(テリトリー)ごと凍らせられたものだ――が十個ほど、転がっていた。

「あ~弱い。弱すぎる」つまらなそうに唇をとんがらせる。

 マリアが前方に目を凝らすと、中々奮闘している白い髪の少女が見えた。

「お、あの娘、中々やるじゃん。じゃあ、わたしが行こうかな~っと」

 マリアは立ちあがり、両拳にqドットで生成したナックルを出現させ、少女に向かって跳ぶ。少女はこちらに向けて分解ゴーストを込めた銃弾を浴びせてくるが、そんなものは効かない、所詮は鉛弾だ。

 異物を感知した少女の貧弱な機能性霧(ユーリティリーフォグ)がマリアを排除しようとするが、一瞬でシステムの穴を見つけ出し、それを攻撃、破壊した。

 そして少女の腹部に確実に再起不能になりそうな拳を一発。機能性霧(ユーリティリーフォグ)という盾を失った生身の人間は人形のように飛ばされ、地面に打ちつけられ、動かなくなった。

 それを見た少女の仲間は動かない少女を連れて、撤退していってしまった。

「あ~、やっぱ駄目か~。しょうがない、次を探す……いや、世界征服とかどうかな~。ん~どうしよ」

「じゃあ、俺と少し話……いや、デートしないか?」

「ふぇ?」

 マリアが素っ頓狂な声を上げて後ろを向くと、何故か青い髪の少年が立っていた。歳は十六歳くらいだろうか。

「あんた、バカ?」

「い、いや、バカって……」

「え? だってバカでしょ?」

「う……」

 まぁ、こんなもんでしょ、と〈氷結傀儡(ザドキエル)〉に命令して少年を氷漬けにしようとすると、少年が言葉を発した。

「バカでもいい! 話を聞いてくれ!……ほ、ほら!」

 そう言うと仰向けになってお腹を露出させた。

「ア、アハハハ、あんたやっぱバッカじゃないの!?」

「と、とりあえず、話を聞いてくれ!」

 マリアは溜息をついた。

 なんかめんどくさそうだし、それに暇だから、話を聞いてやるとするか。

「いいよ、聞いてあげる」

「ほ、本当か!」

 少年嬉しそうに立ちあがった。

 全く、なにうれしそうにしてんだか。

「じゃあ、行こうか」

 こうして士道の攻略作戦が開始した。

 

 わたしは先ほど作り上げたこの街の仮想空間(シム)で模擬戦闘を始めていた。この新武装を試す為だ。

 目の前に立っていたマリアはその場に崩れ落ちた。

 これはさっきの戦闘データを基にして作られたアバターだ。そして両腕に搭載した新武装を解除し、仮想空間(シム)から出た。

 

 目が覚めたわたしは起き上がった。既に身体のqドット・レイヤーは完全に修復されている。そして包帯を取り去り、そばの椅子に掛けてあった赤いジャケットを着た。どうやら誰かここに掛けていったらしい。

 立ちあがったわたしは艦橋に向かう。

 

 艦橋では精霊攻略に向けてクルー総動員で作業を行っていた。わたしは大急ぎで琴里の元に向かう。

「おい、こりゃどういうことだ」

「何って、見れば分かるでしょ。精霊の攻略よ」

「分かってるのか!? あいつは、精霊じゃない! それよりも質の悪いヤツなんだぞ!? 士道だって、殺されるかもしれないんだぞ!?」

「ええ、でも、彼女は士道を殺そうとしてるわけじゃなさそうよ。ホラ、ちゃんとデートしてるじゃない」

「え?」

 前方のモニターを見ると、そこに映っていたのは、士道と肩を並べて歩く、マリアの姿だった。

 

「なぁ、お前も、恵美と同じ所から来たのか?」

 士道は隣で一緒に歩いている少女――マリアに話しかけた。

「恵美――ああ、わたしにやられたあの宇宙騎士のことね。ええ、そうよ。彼女はわたしと同じ所から来たわ。わたしを追ってね」

「追う? 一体なぜ?」

「さあ? 何故かは分からない。でも、きっと悪い事をしたんでしょうね」

「分からないのに追われるって……恵美は何者なんだ?」

 そこでマリアはある考えを思いついた。もしかしたらこの少年、使えるかもしれない……

「『女神』の手先よ。わたしも『女神』なんだけど、重大な秘密を持って逃げた裏切り者のわたしを殺して、この秘密を消し去ろうとしているの」

「秘密って……」

「この世界に存在する全ての次元の量子化……彼女たちは量子状態を自在に操ることができる。つまり、それが意味するのは、全世界の支配。もちろんこの世界だって、例外じゃない」

「そんな……!」

 そしてマリアは士道の手を取る。

「ねぇ、わたしを助けて……」

「うっ……」

 

「そこをどけッ! 士道ッ!」

 

 〈フラクシナス〉から飛び出したわたしは士道とマリアの間めがけて着地する。その際、蜘蛛の巣のようなひびが放射状に広がった。

「こいつの言っていることは全て嘘だ。耳を貸すな」

「え……でも……」

「いいから、そこを退け。これはわたしとあいつの戦いだ」

「あ、ああ」

 士道はしぶしぶながらもさがった。

「おい、あいつをどうするつもりだった」

「えー、だって使えそうだったんだもん。面白くないなぁ~もう」

「ここでテメェをぶっ殺す」そう言いながら両腕にパイルバンカーを装備した腕甲、qバンカーを装着する。

「かかってきなよ」空から〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が下りてきて、機械のような咆哮を轟かせる。

 そして二人同時に加速した。

 

 士道は目をしばたいた。

 二人と一匹(?)が一歩踏み出したかと思うと、同時に二人の姿がはっきりと目に映らなくなった。

 そう、まるで超高速で動いているかのような、そんな感じだ。

 士道はただ茫然とそれを見ているしかなかった。

 

 世界の流れが変わる、加速するといつもそんな感覚に襲われる。だが、今はそんなことを言っている暇はない。

 マリアの弱点は分かっている。あとはそこをこのqバンカーで貫く。それだけだ。しかし、それを相手に悟らせてはいけない。あくまで一撃必殺、これで勝負が決まる。

 クッ……あのウサギが邪魔だな……ん? 待てよ、なぜあいつは熱を放出していないのに加速できるんだ?

 と、〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の放った冷気を孕んだ青白い光線がそばを掠め、地面を氷漬けにした。

 氷……そうか、分かったぞ!

「そこだぁぁぁ!」

 わたしは〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の懐にもぐり込み、アッパーカットを喰らわせる。そしてパイルバンカーが起動し、中から黒い杭が飛び出す。杭は〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の頭部を貫き、中からエキゾチックな粒子をばらまきながら倒れた。

 と、その時、胸に衝撃が走ったと思うと、吹き飛ばされる。民家の塀に衝突した。拡張知覚が胸部ラジエーター使用不可能と告げる。

「これであなたも加速出来ないわね」

 マリアの髪の毛は白に戻っている。

「へっ、だからどうした」qバンカーの杭をマリアの腹部――ちょうどおへその辺り――に当てる。

「あんたの負けだ!」

 qバンカーをぐっ、と押しつけ杭を突き出させる。杭がマリアを貫く。その途端、大量の情報が流れ込んで来た。

「ごはぁっ……!」

「士道! 精霊を助けたかったらその手で掴み取れ!」

「ああ! 分かった!」

 士道はマリアの後ろに立った。

「で、どうすれいいんだ!?」

「杭が出てる所があるだろ、そこに手を突っ込め! 杭は今仮想状態に置いてあるから、そこに手を入れろ! 水色の結晶があるはずだ。それを引っ張り出せ」

「分かった!……よぉし」

 士道が手を入れる。杭は確かに物質としてはそこに存在していないようだ。すると固い何かが手に当った。なぜかは分からないけど、精霊の物だと士道には直感で分かった。

「これかッ!」

 士道はそれを引き抜く。ブチブチブチッ! と音を立てて『それ』が引き抜かれる。それと同時にマリアがわたしを蹴って離脱した。

 マリアは腹部を抱えながら呻く。

そして「……この借りは必ず返す。黒輝恵美ィ!」と、言い放ってどこかに飛んでいってしまった。

 

 わたしはその場に崩れ落ちた。

「何となく……疲れたかな……」

 そのままスッ、とわたしは眠りに落ちた。

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