あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
あおかなEXTRA2のOPいいですよね。毎日見てます。
執筆BGM:ARES(Blue Archive OST)
燃えるような悔しさを抱えながら1番ブイに手を伸ばした私は、早くも岐路に立たされていた。
この勝負でのチェックポイントととなるブイは4つ。
スタート地点からまっすぐ行った突き当りに置かれた1番ブイ。
1番に向かって右後ろ、プールの真ん中に浮いている2番ブイ。
2番とは反対、1番に向かって右前の体育館。その屋根の上にある3番ブイ。
そして、上記3つから校舎を挟んで向こう側の地面スレスレを浮く4番ブイ。
すでにシャーロットが触れたであろう2番ブイに向かい、3番→4番→ゴールと向かうか。
体育館の屋根上にある3番ブイまで上昇してそちらを取り、2番→4番→ゴールと向かうか。
あるいは、3番の次は高度を活かして校舎の屋上を越え、4番を取ってから2番へ。そのあとは一直線にゴールへ行くかだ。
刹那の逡巡。
勝負の開始直後までは最初の案、2番へ向かうつもりだった。だがそれを選んでいいものかどうか、迷いが生じる。
2番に向かえば、シャーロットとすれ違う可能性が大いにあるためだ。
奴が2番を取った以上、次は高低差のない1番へ向かうだろう。私が今の精神状態で奴とニアミスするとき、冷静な対処が出来るかと言えば微妙だった。
なら3番かといえば、こちらも手放しでいい選択とも言えない。
3番を取ったあと残りのどっちに向かうにしろ、移動距離においてディスアドバンテージを抱えることになるからだ。
校舎を越えた向こう側にある4番へロスなく飛ぶには、高低差の少ない3番から向かうのが最も効率がいい。だがそれは1番2番を既に取っていればの話だ。ゴールから見て、4番から2番へ行くのは明確な後退。かといって3番から先に2番へ行くのも同様。
伸ばした手がブイに触れるまでの引き延ばされたような一瞬で、熱が出そうなほど思考に思考を重ねる。
結局、私は少し上半身を上げ微上昇。そして、やや上からブイを叩くようにタッチした。
バチンッと音と閃光が弾け、私とブイがそれぞれ纏うメンブレン同士が滑るように接触。私の身体は前方斜め上方向へと反発、加速した。
取った進路は3番から2番。
理由はひとえに私の現在の速度にある。スタートからまっすぐ加速できたならともかく、現実はまんまとシャーロットのフェイントに掛かって大きくヨレ、減速してしまっている。
グラシュが
であれば、より近くにある3番をタッチ。メンブレンの反発で加速し、さらに3番から2番へ下降する際に重力によって僅かでも速度を上げていく。どうせ往く距離が長くなるなら、早いうちに加速した方がトータルではプラスに響くという判断だ。
普段やっているFCではここまで考えることはない。ブイが4つあるのは同じだが、正方形に配置されているから各々の距離は同じだし、順路も一定。高低差だってない。頭の使っていなかった部分をひどく酷使した気分だったが、まだまだ最序盤だという事実に気が遠のきそうになる。
そんな状態だったからかもしれない。私がひとつの見落としをしていたのは。
そう。
この
上昇する私の視界に映り込む金の髪。
シャーロットが、
「っ……!!」
「――アンタ、忘れてない?」
時間で言えば5秒にも満たなかっただろう。
真っ直ぐ最初の壁を登り切ったシャーロットは、その勢いのままに飛び出し。
空中で1回転しながら体育館の壁に
そして……私が3番ブイに触れると同時、コトッと重みをまるで感じさせない着地。
「1対1なら……あんたをゴールできないように叩きのめして、のんびりゴールへ行けばいいってこと」
「っ」
そう。FCと同じだ。
取ったブイと次のブイの間で――
月明りとブイが薄黄色に照らす屋根の上で、金の双眸が私を冷酷に見据えていた。
#####
「……早くも第2ラウンド開始か」
俺の見立てではここが最初の衝突になる筈だったが、まさかシャーロットが初手であんな無茶を通すとは。情けない話、まったく予想していなかった。
あいつらしくない――なんて言っても言い訳にしかならないが、かなり入れ込んでいるのを感じさせる苛烈さだ。
《うわー! すっご! うわーっ!》
《お、いおい……。何だよ今の……》
上空でブイタッチとゴールの判定を頼んでいた隼人と赤崎さんも動揺しているようだ。もっとも、彼らの場合はシャーロットが見せた
「隼人は
《あ、ああ……》
「スゴいだろ? 1回ならともかく、短距離の
《いやいやいや、1回でも俺の常識というかその辺軽々越えてるぜマジで》
「そうかぁ? 隼人も
《はー……》
スマホから聞こえる、感嘆の息を吐く声。
実際、単発の壁登りであれば、コツさえ掴めば長期間の練習を要さず習得できるレベルだ。
「まぁ技はさておき、ここからが正念場だ。各務さんは足を止めてしまったのが痛いな」
《FCだと、ブイタッチからこんなすぐ近くで立ち塞がられる事ないからな……》
体育館の屋根には静止する両者の姿。
隼人の言う通り、彼女が慣れ親しんだFCと違いすぎるシチュエーションが停止することを選ばせたのだろう。人間、予想外で経験もないような状況に出くわせば防御的な反応が出るものだ。
FCならブイとブイの間は一律300m。ドッグファイトに持ち込みたい選手は大体両者の中間から
多少前のブイ寄り……つまり、彼我の距離が100~150mになるような位置で相手選手を待ち構え、進路に割って入ろうとするのが一般的だ。
だが今、各務さんとシャーロットの間は10mもない。だから咄嗟に止まった。
《でもでも、シャーロットくんも止まってるよね?》
「それもご尤も。そして初速に限ってはグラシュの方が速い」
《ならグラシュの方が上昇しやすいし、上から抜ければ……》
「どれくらい?」
《えっ?》
「どのぐらい高くまで上がるか? それが問題だ。
確実に追撃のない高さまで逃げてから2番に行く場合、4番に着くのはシャーロットが先になる」
《……グラシュの上昇は遅いし、トータルの移動距離も伸びるからか……》
そう。初速のメリットが相殺され、その隙にシャーロットはスピードに乗るだろう。
その後各務さんは2番への急降下で加速して4番を目指すだろうが、最短ルートを取る場合校舎越えでまた上昇が必要になる。1番を取って加速したシャーロットが校舎の手前から回って少ない高低差で4番に行くだろうことを考えれば、かなり危うい綱渡りになる。
「そのリスクを最低限にする見極めができるか。あるいは別の一手を見出せるか……」
《あおちゃん……》
赤崎さんの心配げな声。
ぽつりと名を呼ばれた当人は身体を緊張させ、今にも動き出そうとしていた。
#####
3番ブイを背にした私は、またもや気の抜けない選択を迫られていた。
ライオンか熊にでも出くわした気分だ。
眼前の見目麗しい
上昇はリスキー。私だって素人じゃない。それは分かる。
だが前進して突っ切るには、目の前に立つ相手は危険すぎた。
躱す? どうやってだ。シザーズでか?
論外だ。相手との距離が今の10倍あれば、一考の価値もあっただろうが。
ヘイローで横加速は? ダメだ、流石に見せすぎた。おまけに向かい合っている以上、初動を見切るのは容易だ。
やはり上か。それしかないのか。
この思考すら誘われていて、何もかもシャーロットの掌の上なんじゃないかと疑心暗鬼に囚われそうになる。
無言で身じろぎもせず見つめ合っているだけだというのに、それはまさに駆け引きだった。
記憶でも経験でも技でもいい。今までに積み上げてきたそれらの山の上に漫然と乗るんじゃ
なく、この場に最適なひとつを見つけ出さなければならない場面。
ひどく神経を削られるが……だからこそ。
「なにヘラヘラしてんのよ、気持ち悪いヤツ」
「――――ははっ」
言われて気づいたが、驚きはなかった。そんな気がしていたからだ。
そりゃ笑いもするさ。楽しいんだから。
シャーロット・アヴァロン。お前は強い。
グラシュだとか
なんだろうな、そういうアレじゃないんだ。
お前はただ……そう、高みにいる。
セロの方もそうなのか?
きっとそうなんだろうな。
それがたまらなく嬉しいし、楽しい。
まだそう思えると気付けたことは、もっと嬉しい。
“
ゴトー爺さんの台詞が思い起こされる。
……でしょうね。
私も、ようやく実感できましたよ。
気持ちがリラックスしたからか、あれこれと錯綜していたのが噓だったかのように、思考はすっきり纏まった。
私は――上に行くことにする。あらゆる意味で。
ゆっくりと……本当にゆっくりと、体を後ろに傾ける。
後ろ斜め上への移動。じりじり下がっていく様子は、それこそ猛獣に出くわした時の対処法のようだった。
「……?」
意図を掴みかねているのだろう。怪訝そうに眼を細め、注意を深めているのが分かる。
そして、じわじわ下がる身体が《その場所》に差し掛かった瞬間。
体を一気に、前傾させる!
「フッ――――!!」
「!」
私が全身突破を選んだと思ってか、前のめりに踏み込んで迎撃しようとするシャーロット。
だが私の身体は前に進まず、更に深く、深く前傾して。
手を足よりも下に伸ばし――そこにある3番ブイに、思い切り叩き付けた。
バチン!
「なっ――」
息を呑む声。
私はそれに構うことなく、同じ場所に素早く両足をも叩き込む。
2度目の閃光と、反発の衝撃。
私の身体は一気に上へ加速する。
突き腕した左腕に捻り上げられるような鈍痛が走ったが、アドレナリンでも出ているのか気にはならなかった。
私は即座に姿勢を直し、10mほどの安全圏ギリギリまで達するやいなや、校舎の方へと進路を切った。
流れるように視界から外れていく体育館屋根にシャーロットの姿はない。
1番ブイを取りに飛び降りたのだろう。
お互い残るひとつ――私が2番、ヤツが4番を取るためには、再度交錯することになる。
そして、そこからゴールまでも一筋縄では行かないだろう。
更なる激突の予感を覚えながら、私は深夜の大気を切り裂いて進んだ。