あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア)   作:EXTRA2販促おじさん

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無駄に長くなったバトル、ようやっと完結!
反響がない中書き続けるのは割と真剣にきついものがあるので、本作を読まれて何かしら思う所がおありでしたら、一言でも感想として頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)


執筆BGM:Chain(Air Gear OP)




Trick.8: Breaking Beauty -Vs.ARMAGEST- (3)

 

 

 

 

 

 飛びながら気にするのは、いつだって隣のこと。

 

 後ろは気にしない。雑魚に用はないから。

 

 前は気にしない。どうせすぐに過ぎる場所だから。

 

 後ろから追い抜いていく奴は――キライ。

 

 隣のヤツが、そいつの背中ばかり嬉しそうに見るから。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 戦いは中盤に入っていた。そして、あっという間に佳境に入るだろう。

 

 チェックポイントとなる4つのブイ、そして最後に辿り着くべきゴールをめぐっての攻防。

 私が1番と3番のブイ、そしてシャーロットが2番と1番への接触を済ませている。

 残りはお互い2つ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 私が3番への接触後、取った進路は4番に向かうものだった。

 体育館屋上での殴り合いになるのを避けつつ、懸念点の初速を奇策でフォローする……といえば聞こえは良いが、このルート取りにはどうやっても無視しようがない問題点が2つある。

 

 まず1つ目、移動距離が伸びる。

 加速と最高速で劣っている以上、これは割と致命的だ。シャーロットの方も最短とは言えない

ルートを辿っているが、正直安心材料にはならない。

 

 そして2つ目。3番ブイでの攻防を回避こそしたが、それは先送りでしかないということ。

 シャーロットが1番から4番を、私が4番から2番を目指すことになる以上、④ - ②間で再度の

交錯……いや、衝突が発生するのはほぼ確実だろう。

 続くゴールへ向けた競り合いを優位に進められるよう、悪影響が出ないような立ち回りをする必要があった。

 

 そして1つ目については、私自身の力で多少なり改善する余地がある。

 

 私から見て直下5mほどの位置に校舎屋上の庭園が差し掛かろうとしている。

 これをこのままフライパスしてしまえば、行き過ぎた分を戻りながら、地面近くの4番ブイまで減速しながら下降しなければならない。グラシュの移動特性を考えれば普通の動きだが、それは絶望的なタイムロスとして響くだろう。

 

 当然、そうなる訳には行かない。

 私のやるべきことは決まっていた。

 

 

 

 

 

 

「どう思う、隼人」

《……正直、葵はかなり追い込まれてるな》

 

 スマホ越しの返事に、見えないだろうが頷きを返す。

 

「ああ。普通に飛んでたんじゃキツいな」

《やっぱ4番で無茶するしかないか……》

《ねえねえねえ!》

「うおっ」

 

 そこで、ここまで試合展開に一喜一憂するbotと化していた赤崎さんが割り込んできた。

 突然の甲高いトーンでの大声に、慌てて耳からスマホを遠ざける。

 

《男子だけで言わんでも分かるみたいな空気出してるけどー、わたし全然ついてけてません!》

《……えーと、どこから?》

《まず、あおちゃんが追い込まれてるってトコ! そうなの?》

 

「そうなの。遅い方が長い距離、速い方が短い距離を行ってるんだから、そりゃそうなる」

《小学校でつるかめ算ってあったろ、あれが絶対に解けない感じ》

《はへー、そうなんだー》

《マジで分かってんのか……?》

 

 疑わし気な隼人に内心同意だが、手早く疑問に答えてあげた方が良いだろう。

 もうゴールまでは一息に展開していくはずだ。心置きなく審判に集中してもらった方がいい。

 

「それで無茶っていうのはだね、んー、FCでは基本やんないような動きと言うべきか」

《FCでは、やらない動き?》

《まあFCに限らずとも、普通にグラシュで飛ぶ時を考えてくれ。校舎の手前側から、奥側の根元の所にあるブイをタッチしなけりゃならない。赤崎ならどうする?》

 

 うまい表現が思いつかずに言いよどむと、隼人が助け船を出してくれた。グラシュやFCに関しては彼の方が赤崎さんに近い感覚で説明できるだろうし、お任せした方がいいか。

 

《わたし? えっと、普通に校舎を飛び越して、すぐ方向転換して下に行く……かな?》

《すぐっつったって、何メートルかは行き過ぎてからになるだろ? それに方向転換だって一旦ブレーキしてからするはずだ》

《そりゃ当たり前でしょー》

 

《それじゃ遅すぎるし、遠すぎるんだ》

《――えっ?》

 

 

 虚を突かれたような声。無理もないが、"あたりまえ"の飛び方では少々厳しいというのが俺と隼人の見立てだった。

 

「手短に言うとだな、各務さんが勝ちに行くためにはノーブレーキで、かつ最短距離を行く必要がある」

《つまり屋上を越えると同時に垂直に降りて、ブイタッチしたら即座に右へ90度。校舎の側面に出たらすぐもう1回右折して、2番ブイまで直進。これを全部減速なしでやらなきゃならない》

 

《いやいやいや! 無理でしょ! できるの!? そんなこと!? 人間に!?》

《なんか日本語変になってんぞ……》

「隼人、実際どうなんだ? 俺はFC選手としての彼女については詳しくなくてね」

 

 水を向けられた隼人も、流石に即答しかねるようだった。

 

《うーん……他の高校生には無理だろうけど、アイツなら出来るような気もする。流石にFCの試合じゃ出す機会もないような動きだけどな。それにノーブレーキでとは言ったけど、実は1回だけならブレーキするチャンスがある》

「と、いうと?」

《エアキックターンやコブラみたいなメンブレン移動を使った技を、ブイタッチと同時にやれば物凄い勢いで急加速できるはずなんだ。その前に減速があっても一気に取り戻せるはず》

 

 説明を受けてピンときた。

 つまり……

 

《屋上から垂直に降りるのは、ブレーキしてからできるってこと?》

《お、分かってきたじゃないか赤崎》

《ぬへへ》

 

 その笑い方はJKとしてどうなんだ……。いや、ともかく。

 

「各務さんがすべきことはハッキリしている。彼女もそこら辺は織り込み済みだろう。

問題があるとすれば……それを首尾よくやり遂げても、まだまだ不利って所かな」

《うぇっ、そうなの?》

「ああ」

 

 厳しすぎるよー、とでも言いたげな声。

 俺は自信と誇らしさを以て、「なにせ……」と続けた。

 

 

「シャーロットは――クソ強い」

 

 

だからこそ。

それを覆しうる何かを、彼女が見せてくれるといいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 普通に垂直降下するのは無理だな――そう、直感的に思った。

 体育館からここまでの距離で速度が乗ってきているし、何より頭を地面に向けて直進することになってしまうからだ。

 ロクな照明もない真夜中の校舎裏は真っ暗闇で、その中にポツンと黄色く発光するブイがぼうっと浮かび上がっているような状態だ。こんな所に速度を殺さず突っ込めば、距離感を喪失して高速で地面に衝突しかねない。

 

 ……であれば、減速からメンブレンを使って急加速しかない、か。

 

 まさに言うは易し、だ。

 FCで一般に知られているメンブレン系の技は2つ。逆方向に加速するエアキックターンと、順方向――つまり同じ方向に加速するコブラだ。ヘイローは私のオリジナルなので含まれない。

 

 同じ方向に行くなら、わざわざ減速して加速するより普通に真っ直ぐ加速したら? という疑問が良くFC初心者から出るのだが、この技は並んで飛んでいる相手の背中を狙いたい時に使う物であって、速度で競り勝つためのものでは無い。急ブレーキによって敵の視界から消え、混乱させた隙に背後から急襲するわけだ。

 

 

 ところが今回に限っては、スピード勝負のためにコブラを使うことになる。

 校舎を越えてブイの真上で右にターンしつつ急制動、ほとんど自由落下するような勢いでブイに落ち、足先のメンブレンが触れて反発する瞬間に前方に短絡(ショート)させて急加速。

 

 何度だって言う。まさに言うは易しだ。

 

 まずこのコブラ、めちゃくちゃ難しい。これよりは多少簡単なエアキックターンだって高校生レベルでは数人しか使い手がいないのだ。私もメンブレン系の技を得手としているだけあって、コブラの練習自体はしてきたが、公式戦で戦術として出せるレベルにはついぞ至っていない。

 

 おまけにコブラを成功させたとして、校舎の側面に出たらすぐさま直角に近い角度で右折しなければならない。そう、つまり、ヘイローだ。

 

 

「……アホかっ」

 

 思わず悪態が口をつく。

 だが口角はどうしようもなく上がっていて、私は最高に胸が躍っている事実を認めた。

 

 

 こんな無茶苦茶なシチュエーション、今まで一度だってなかった。

 それを要求されるような手合いは一人もいなかった。

 私はひとたびグラシュを履けば誰より早く、高く、軽やかで、勝って勝って勝ちまくっていた。

 

 だから私は一人遊びのように研鑽を積むばかりで、上より下を向く方が多くなっていって。

 あるいは晶也への指導にやり甲斐を感じていたのだって、自分はもう教わる余地が少ないから―――自分に残された()()()()はもう僅かだから、なんていう驕りがあったのかもしれない。

 

 

 だがどうだ。

 私は積んできたものを引っ繰り返してなお、危うい勝負に身を投じている。

 あげく、コブラを()()()()()()()()()()()()()とさえ考えてる。

 

 

 空はこんなにも高かったのかと、感じている!

 

 

 

「あは、はははっ!」

 

 

 屋上を抜けた。

 

 

 ――上体起こして急制動、からの、ターンして、膝下げて、降下!

 

 

 まったく、本当にどうかしてる。こんな作戦ぶっつけでやるモンじゃないよ。

 

 

 ――地面が、ブイが、迫って、足が……触れる! 今! 腕でショート!

 

 

 だがこれでいい。

 

 

 ――髪や産毛がメンブレンの動きを感じる。いける!

 

 

 これがいい。

 

 

 ――ぶっ、

 

 「飛べ!」

 

 

 

 バヂィィン!!

 

 

 

 視界が猛スピードで後ろに流れる。

 コンマ1秒たりとも気を抜くことなく左手を操作。視界右端に続く校舎が途切れた瞬間、

 成功の確信と共にヘイローを決め――

 

 

 

「雑魚は卒業みたいね」

 

「でも――終わりよ」

 

 

 校舎の壁に足を着けたシャーロットが、目の前で3度目の構えを取っていた。

 

 

 私の笑顔は崩れなかった。

「そりゃどうも。すぐ追い付いてやるさ」

 

 

 

轟音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 その戦いを見守っていた誰もが、各務葵の敗北を確信した。

 それは他ならぬ葵当人ですら同じだった。

 

 

 シャーロットの一撃こそ辛うじて回避したが、体制は完全に狂い。

 "鏡"の余波たる暴力的な風圧によって、投げ出された体は勢いのままに放物線を描いてプールまで飛んで行った。

 

 

 その間にシャーロットは悠々と4番ブイにタッチ、さらに加速して一瞬のうちにチャペルへと跳躍した。

 ゴールまでの距離の差がもはや挽回不可能なのは、誰の目にも明らかだった。

 

 

 だが――――。

 

 

 

 

 

 

 かたんっ、と小さな着地音。続けてもう一度、跳躍。

 

 礼拝堂の屋根から尖塔への優美な弧を描く跳躍(エア)のさなか、シャーロットは拗ねたように呟いた。

 

 「ほんと、いるのよね。そういうヤツ……」

 

 

 ――だいっきらい。

 

 

 

 

 

 

《あおちゃーんっ!!》

《葵!!》

 

 俺は二人の悲痛な叫びをどこか他人事のように聞きながら、プールへと落下していく各務さんを眺めていた。

 

「……」

 

 終わりか。

 こんなものなのか?

 俺の手前勝手な期待は外れたと、そういうことか?

 

 自分でもよく分からない、なにか凪いだような気持ち。

 ひどく静かな――

 

「……ん?」

 

 

 静か……そう、静かだった。

 あまりにも静かすぎた。

 

 

《あおちゃん……?》

 

 赤崎さんの怪訝そうな声。

 

 

 そうだ。彼女は。

 既にプールへ落ちていなければおかしいのに――

 

 

 ――各務葵は音ひとつ立てず、ピタリと水上で停止していた。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「――――ずっと、気になってたんだ」

 

 

 彼女の呟きにすぎないはずの声が、はっきりと聞こえた。

 

 

「あの時、グラシュの電池が切れなければ……」

 

 

俺達の誰もが、呼吸も忘れてそれに見入っていた。

 

 

「私は……届いたのかってなッ!!」

 

 

 轟!!

 

 

《わぷっ》

《うおっ!?》

 

 

 突如として、プールを中心に風が吹き散らされる。

 一瞬それに怯んだ俺達をよそに、彼女は飛び立った。

 

 

「行ッ――けえぇぇぇえっ!!」

 

 

 

 ドン! と何かを叩くような音と共に、反重力粒子の燐光を散らしながら。

 凄まじい勢いで尖塔へと飛ぶ各務さんを、呆然と見上げる。

 

 何だ?

 今、何が起きた?

 

 

《わぁ……》

《す、げぇ……》

 

 感嘆の声を上げる2人。

 俺は内心の混乱を何とか収めて、彼女が飛び立った場所を見た。

 

 

「……プール。それにさっきの風は……」

 

 そして、理解する。

 

「……ああ、そういうことか。よくやるよ」

 

 

 それは本当に、本当に驚くべきことだった。

 彼女は昨晩のビルに続いて、もう一度()()()()()()のだ。

 それも、ビルに囲まれた路地裏よりも遥かに困難なシチュエーションで。

 

 

 水は温まりにくく冷めにくい。

 逆に、空気は温まりやすく冷めやすい。

 温暖な四島、それも春の暖かさを貯め込んだ水と、冷え切った深夜の大気であれば……両者の温度差は相当のものだ。

 

 その温度差によって空気が動く。対流する。

 すなわち――風が生まれ、更に上層の風との間に境界面が生まれる。

 彼女は、それを掴んで踏みしめたに違いなかった。

 

 

「……負けだな」

《え、あおちゃんバッジ取ってた!?》

《い……いや、葵が飛ぶ前にシャーロットが取ってたよな?》

 

 俺の言い方が紛らわしかったせいで混乱させてしまったようだ。

 軽く笑って訂正する。

 

「勝負に勝って試合に負けた、ってこと。……いや逆か?」

《はい?》

 

 言われた方は訳分からんだろうが、説明は後にさせてほしい気分だった。

 答えることなく、上を向く。

 

 

 見上げた先では――

 バッジを掴んで鐘楼に立つシャーロットの、そのずっと上を、各務さんが吹っ飛んで行った。

 

 

 ふとシャーロットと目が合った気がして、俺は笑って手を振った。

 

 

 

 

 






実は2番ブイにタッチできてない葵ちゃん。


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