あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
前回のリザルトと、新たなる敵の影! なお話。
葵ちゃん視点ばっかでオリ主の影が薄い……薄くない? ウスィ~~のになってない?
一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)
執筆BGM:Strutter's Cruise(Air Gear OST)
ピピピピピピ――――がちゃん。
「ん…………」
だがその朝、私の起床は至ってスムーズなものだった。
止めた目覚まし時計を尻目に二度寝と洒落込むこともない。昨晩の敗北を悪夢に見たりといったこともなく、窓から差し込む柔らかな日差しにふさわしい爽やかな目覚め。
少し暑苦しく感じるようになってきた掛け布団を蹴り上げ、そのままベッドの上に立って大きく伸び。全身の空気を入れ替えるように深呼吸。
窓にうっすら映る自分の顔を一瞥して、私は野暮ったい寝巻きに手を掛けた。
「おはよ」
「あら、おはよう葵」
学院のセーラー服に着替えて2階の自室から階段を降りると、母が朝食の支度をしていた。
おざなりな挨拶を交わして、手持ち無沙汰にテレビのリモコンを手に取る。
特に目的もなくチャンネルを回していると、地元のケーブル局に目が留まった。
『ヨーロッパの大手製造企業が主催する業界団体が、さらなる
「葵、今日はちょっと早いわね? 何かあったっけ」
「別に……」
「もう。ほら、歯磨いてらっしゃい」
言葉少なに誤魔化せば、呆れたように居間から追い払われてしまった。
洗面所で、歯ブラシを咥えながら鏡をチェックする。
「……」
何ということは無い、いつもの私だ。劇的に何が変わるでもない。
だが感覚的には確かな変化の実感があって、その証でも探すかのように視線を走らせる。
そうしていても見つかるのはせいぜい寝癖くらい。あとは……
左腕に走る、小さな鈍痛。
今のところ、昨晩の出来事が夢でも何でもないことを示す、唯一の証拠だった。
歯磨きその他身繕いを済ませてトーストを齧っていれば、あっという間に登校時間だ。
母から受け取った弁当箱を通学鞄に放り込み、革靴型の通学用グラシュを履いて。普通に登校するには少し早い、だが朝練をするには少し遅いタイミングで家の玄関を出る。
通りにはスーツを着た人が数人歩いている程度で、通行人の姿はまばらだった。
やはり時間が中途半端ゆえか、私のような学生はまるで見当たらない。この辺りは四島が
グラシュの運用区域となり、観光地として発展してきた影響で生まれた新興市街地の一部で、ベッドタウンのように周辺は住宅ばかりなのだが……今ばかりはひっそりと静まり返っている。
「……」
そんな目に見える光景の差異ではない、なにか別の……違い。そんなものをここでも感じる。
腹の底がふわふわと浮き立つようなそれは、結局外側の何かが変わったというより、私自身の内面に変化があったという事なのだろうか。
はっきり言えば……高3にもなって小っ恥ずかしいが、私はワクワクしていたのだった。
通学路を進んでいくだけで感じる、大小さまざまな風。空気の揺らぎ。
つい先日までは気にも留めていなかったそれらが髪や指先を撫でるたび、昨日の戦いの最後の場面が脳裏に再生される。
届かなかったが、届いた。そんな感じ。
シャーロットに2度目の敗北を喫したくやしさは当然あるのだが、それまでの色々があって、最後にあの数瞬――校舎裏を高速で駆け抜け、その後にプール上で起こした出来事がとどめの一押しとなって。私の内心に息苦しさを齎してきた靄とも蓋ともとれないものは、確かにぶち壊された。
特に最後の最後。吹き飛ばされてプールに落っこちるはずだった私が何をどうしてああなったのかは、正直あまり覚えていない。
だが物凄く楽しくて気分が良かったのは確かで、私はもう一度
そうして歩を進めていけば、ここ四島に特有の道路標識が姿を見せた。
白いポールに青い円形の鉄板がついた形状は一般的な道路のそれと変わりないが、描かれたマークはグラシュの運用区域でしか見かけない代物だ。
靴底のような2つのマークに、妖精の羽のような流線型の図形が組み合わさったアイコン。
“グラシュ発着用停留所”を示すものだ。
それを示すように、海辺の崖沿いを走る道路のガードレールが一部途切れており、駅のホームのようなボタン式スライドドアがついた3メートル四方ほどの足場が突き出ている。
ここからは湾を真っ直ぐ突っ切って学校まで行ける。普通に地上を行けば距離も伸びるし信号待ちなんかにも煩わされるところだが、飛んでしまえばそれもない。便利なものだ。
ここまでの通学路に学生の姿がなかったのと同じく、発着所や見える限りの空中にも人影は
ない。そのために時間を選んだのだが、それが無駄にならなかったのは
「《
ボタンを押し込んでドアをスライドさせ、グラシュの起動キーを呟く。
そのまま私は一気に高度を上げ、通学路からは少し外れた上空へと向かった。
#####
ひゅう――――
「――ふっ!」
スピードを付けて飛び、風を感じたタイミングで切り返す。
方向転換自体に問題はないが、昨日と一昨日の戦いで感じたような爆発的な感覚もない。何の変哲もない、
「はあっ、ふう……練習法が違うのか?」
乱れた息を整え、思わずひとりごちる。
発着所を飛び立ってから30分ほど。そろそろ通学者がこの航路を通りがかるだろう時刻になりつつあり、私も切り上げて学校に向かった方がいい頃合いだ。
だというのに、私は特に何のコツも掴めずにいた。
正直、短時間でも何かしら掴めると思っていた。"風"を掴むのに一度は成功し、もう一回だってグラシュのバッテリー切れがなければ上手く行っていたかも知れないのだから。
だが――これではダメだ、という感覚が時間を追うにつれて増していく一方だった。
なんというか、感覚が鈍い。
急に皮膚が分厚くなってしまったような、もどかしい鈍感さ。
このままやっていてもフラストレーションが募る一方だ、だが収穫なしで終えるのも座りが
悪い……そんなふうに葛藤していた所、眼下に広がる海面を横切って見慣れたセーラー服がすっと入ってきた。
「……はぁ」
しょうがない、学校行くか。
どうせ意地を張った所であと数分しか粘れないんだ。さっさと学校に行って、気は進まないが
セロやシャーロットにコツを聞いた方がいいかもしれない。
一つため息をついて、私は高度を落とす。
そうして通学用の航路に戻り、先ほどの女子の後方につける。
もちろん距離はそれなり以上に空けている。年1回の安全講習でも口を酸っぱくして言われる
が、グラシュの衝突事故は正面からより擦れ違いや追突の方が多いのだ。これは身体を覆う不可視のメンブレン同士が触れることで反発が起きてしまうのが主な要因で、接近を目で見て避けようとしても手遅れになってしまうからだ。
そのため離れていたのだが、件の女子は速度を落とし、するすると後退するように私へと接近してきた。
――後ろの私に気付いていないのか?
このまま行けば衝突し、相手は驚いて姿勢を乱して制御を失ってしまうかもしれない。
私は2メートルほど右に膨らみ避けようとするが、彼女は私がいた位置まで下がるとピタリと止まった。
「――各務さん、ですよね」
「っ?」
そして、顔だけ向けてそんなことを言われる。
まさか声をかけられるとも思っていなかったので、驚きにビクリと肩を跳ねさせて振り向いた。
「あ……ああ。そうだけど」
「あら良かった、人違いだったら恥ずかしいですからね。
ぼくは
「……そうか。よろしく」
――おまけにボクっ娘と来たもんだ。朝っぱらから濃いなおい。
まさかこいつもシャーロットよろしく女子制服着てる男じゃなかろうな、と失礼を承知でじろじろ見たが、奴と違って普通に胸は膨らんでいる。パッドでも入れてたらお手上げだが、流石にそこまでする輩が同じ学校の同じ学年に2人もいるとは考えたくない。
青柳と名乗った彼女は赤崎ほどではないにしろやや小柄で、整った温和そうな顔立ちにアンダーリムの丸っこい眼鏡を掛けている。青み掛かった長い髪を左右で三つ編みのお下げに括っており、一点を除けばさしたる特徴もない文学少女のように見えた。
「? 何か?」
「いや……マフラーしてるけど、暑くないのかなと」
唯一気になった点と言えばそのくらいだ。
早朝とはいえもう4月でだいぶ温かい。だというのにしっかりと巻かれた防寒具は多少奇異なものとして映った。
だが真夏という訳でもないし、個人差で済む範囲だろう。
実際、青柳も「少し寒がりなものでして」と言い、メンブレンの中でふよふよと靡く、灰色に
チェック柄の地味なそれをきゅっと引っ張った。
「で、何か用か」
「あら、同じ学年の方に用がなければ話し掛けてはいけませんか?」
「そういう訳じゃないけど……」
どうにもやりづらい相手だ。なんとなく、転校生の片割れである茶髪にこやか男の飄々とした
笑みが脳裏をよぎった。
多少げんなりした内心が表情に出ていたのか、青柳はクスクスと上品に笑う。
「ごめんなさい、意地悪な言い方でしたね。ただちょっとお見掛けしたもので、お話してみたかっただけなんです。なんせ各務さんは有名人ですから」
「そんなもんかね。ちょっとマイナースポーツが得意なだけだ」
「謙遜なさることはありませんよ――高く飛べるというのは、素晴らしいことですから」
にっこりと笑まれながらそんなことを言われると、どうにも面映ゆい。
“高く飛べる”というのを、どういった意味で言ったのか――まさか純粋に高度の話ではないだろう――は知らないが、私はここ数日で更なる
それは連中に言うべきじゃないか、なんて他人事のような気分になる。
「ですけれど、そんな貴女がこちらにいらっしゃったとは驚きです」
「?」
いまいち言っている意味が掴めず、首をかしげる。
確かに今まで3年間も通学していて、彼女と会った覚えはない。同じ発着所を使っているという事は、お互い家もそう遠くない筈だが……彼女の言う有名人と近所だったから驚いたとか、そういう事だろうか?
聞き返そうとしたが、そこで青柳は満足したのか「急に話し掛けてすみませんね、それでは」と再び速度を落とし、私の横から下がっていった。
「失礼します――では、また」
別れ際の言葉も、また少し奇妙なもの。
振り返って見ても人畜無害そうな笑顔を返されるだけで――少し後ろ髪をひかれながらも、私は学校へと速度を上げた。
#####
「おっそい。5時間前に来ときなさいよ、ハリネズミ女」
「ハリ……おい、それひょっとして私に言ってるのか?」
何やら疲れた気配を感じさせる各務さんが現れた瞬間、右手で持った鞭を左手の平にぴしゃりとやったシャーロットが一切遠慮することなく詰った。
俺達も10分前から居ただけだというのに、4時間50分も待ちぼうけ喰らわせようとは流石だ。
登校時間帯の久奈浜学院、校門前。
昨夜の
校門のすぐ内側にいる教師も何事かという目で見ている。
「いい名前よね? ちょこまかすばしっこくて、なんか髪ツンツンしてるし。お似合いよ」
「……………………で、何の用だ」
ものすごい葛藤を感じさせる表情で用件を促す各務さん。
義理堅そうな性格だから昨晩の敗者として甘んじて受けているのか、それとも教師の前だから騒ぐのも得策ではないと思ったのか。
このままシャーロットに任せているとどう転ぶか分かった物ではないので、話を進める。
「いや、実は大した用がある訳じゃないんだ」
「こんな場所で待っていたのにか?」
「ああ。君と一緒に教室まで行きたくて」
「はあ?」
訳が分からないといった表情。まあそうだろう。
俺はシャーロットと彼女を促して校門に入りながら、口を開いた。
「教室で君が見るものは……俺たちの仕業じゃあない。
お疲れのとこ悪いけど――次の戦いはすぐそこだぞ、各務さん」
#
「な、んだ――――これ」
愕然とした、以外に表現しようがない声色。
各務さんの……いや、ざわつく教室中の視線が、彼女の目の前にある机へと集中していた。
ぺた。
ぺた。
ぺた。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺた。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた――
机の天板、脚、裏面。
椅子の背にいたるまで、一分の隙間もなく。
大量に貼られた――ステッカー。
もはや学校の机であることなんてまるで伺えないオブジェと化したそれを前に、各務さんは通学鞄を取り落として立ち尽くした。
「あおちゃん! こっ、これ、なに……!?」
「いったい何があったってんだ……!?」
赤崎さんと隼人が待ちかねたように駆け寄って来る。
だが各務さんにも心当たりなんかある訳なく、呆然と二人の顔を見返すのみ。
「……セロ」
「――ああ」
「お前、これ……いや」
俺が校門の所で言ったことを思い出したのだろう。
何かを言い掛けた彼女は、一度目を閉じてゆっくり呼吸すると再度問いかけた。
「何か……知ってるのか」
応えたのは、俺ではなくシャーロット。
「見れば分かるでしょ。
――――
その端的な回答に、3人が息を呑む。
俺は補足するべく、ポケットからスマホを取り出して、机を覆うステッカーの一つに翳した。
「《リード》」
音声認識で、スマホのアプリ――パーツ・ウォウを戦うA・Tライダーなら誰もが知るそれが機能の一つを起動する。
程なくして画面に表示されたのは、ステッカーと寸分違わぬ
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TEAM : PULP FIXER
RANK : D
MEMBER : 5
AVG.LEVEL : 29
REGISTERATION : 2019/7/29
...
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それを驚いたように凝視する各務さん。
「これは……」
「詳細はさておき、これはジョークでもなんでもないってこと。つまり」
一呼吸を置き、続ける。
「――この島は
ここを
一難去ってまた一難。
次なる嵐が、来ようとしていた。