あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア)   作:EXTRA2販促おじさん

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エロゲならプロローグが終わってOP流れる感じのシーンまで。
だいぶ長くなってしまいました。

一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)



Trick.10: Preludin'(2)

 

 

 

 

 謎の暴風族(ストームライダー)によって現代アートに変えられてしまった自席の前。

 セロが放った言葉は、狼狽える私たちの間でどこか不気味さを伴って響いた。

 

「――この島は暴風族(ゾク)なんか影も形もないような、平和な場所じゃなかった。

 ここを縄張り(テリトリー)にする連中がいて……そいつらは君に狙いを定めた」

 

「うそ……」

「マジだよ。残念だけど」

 

「そうだとして――何で私なんだ」

 

 私としては、むしろ気になるのはそこだった。

 口元に手を当てる赤崎や、言葉もないといった様子の隼人の気持ちも分かる。普通の暴走族だって居ないような久奈島に、暴風族(ストームライダー)が3年近く前から根付いていたなんて青天の霹靂もいいところだ。少なくとも数日前の私であったら、こいつらと同じリアクションを取っていただろう。

 

 だが、まぁ……ここ数日で色々と非常識な経験をしたせいか、『そういうこともあるだろう』と受け入れることが自然とできていた。条例やら規則をぶち破りまくったせいで、変に肝が据わったのかも知れない。

 

 だが、そんな連中がいたとして。

 私を狙ってくるような理由に心当たりはない。

 なぜなら……

 

「勝ったのはアーマゲスト(おまえら)だろう?」

 

 縄張り云々の話なら、こういうのは昨晩の勝者に吹っ掛けるもんじゃないのか?

 

 そんな私の疑問に、セロは「ああ、そこ?」とどうでも良さげに答え、手に持つスマホを操作し出した。

 

 

 

「――――だってほら、アーマゲスト解散しちゃったし」

 

 

 示されたディスプレイの最上部に表示されていたのは、[ ARMAGEST #解散済み# ] の文字。

 

 

「…………は、」

「うええぇぇええぇッ!?!?!?」

 

「「声デカっ!」」

 

 赤崎のとんでもない大音声に、隼人と揃って思わずのけぞる。対するセロは気にした風もなく、「いやー昨日の今日で耳が早い連中だこと」なんて他人事のように言っていた。

 

「でもまあ、ひとつ分かったことがあるな」

 

「……なんだ?」

 

 まだ耳がキーンとしている。

 

(くだん)のライダーはこの学校の生徒ってことさ。俺達の解散を知った上で君に仕掛けたということは、多分どこかで昨日の戦いを見ていて俺達の動向をチェックしていたんだろう。そして、それにはそもそもシャーロットと君がぶつかると知ってる必要がある」

 

「大方、アンタが私の机に貼ってくれたステッカーへの報復でしょうけど。その場面を知ってるのなんてどうせ生徒でしょ」

 

 セロの推論をシャーロットが引き継ぐ。

 それに関しては同意だが、外野はそれ所ではないようだった。

 

「かッ解散……アーマゲスト、解散……?」

「……赤崎、なんでそんな大騒ぎしてんだ?」

 

 嵐の前の静けさのようにぷるぷる震えていた赤崎に隼人が恐る恐る声をかけると、彼女は感情を抑えきれないかのようにぴょこんと飛び上がる。

 

「そりゃ騒ぐわっっ! ちょー有名なA・Tライダーが同じクラスになったと思ったら解散て!!

ナニゴトよ!? なに!? 展開に頭がついてかないっ」

 

「……らしいけど。俺はあんまり暴風族(ストームライダー)には明るくないんだが……大丈夫なのか?」

「大丈夫もクソもないわよ。どうせこの島じゃAランク戦の相手もいないし、ロンドンの縄張り(エリア)は今頃空き巣狙いのハイエナどもに荒らされてるでしょうしね」

 

 セロ同様、シャーロットも特にチームへの拘りは無いようだった。

 私からしても、雑誌に特集組まれるようなチームをこうも簡単に無くせるというのは少し意外だったが……。

 

 

 そこまで他人事のように考えて――ふと、引っ掛かった。

 

 いや……そもそも。勢いで誤魔化されていたが。

 こいつら、なんでチーム解散したんだ?

 

 今言ったのも、解散しても状況が変わらないという話であって、解散の理由ではなかった。

 それに仕掛けて来た相手は、さっきセロに見せられたデータによればDランクだったはずだ。

 そいつらの挑戦を回避する必要なんてない。迎え撃てば勝てるのだろうし。

 

 

 何か嫌な予感がして、セロの方を見れば……目が、合った。

 

 奴はいっそ憎たらしい程に爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「安心してよ赤崎さん、俺達はライダー自体を引退なんてしないから。

 幸い、()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、そーなの?」

「うん。なぁ?」

 

 

 おいやめろ。こっちみんな。

 なんで私の方を見るんだ。

 

 視線を逸らせば、その先ではシャーロットがニタニタと意地の悪い笑みを浮かべている。

 

 おい、まさか、こいつら――。

 

 

「おーっと、そう言えば各務さん。まだ貰って無いものがあったね」

「……あ?」

 

「忘れたのかい? 君、昨日の昼に言ったろ。俺達が勝ったら――“好きにしろ”って」

 

「!」

 

 

 

 ――“良いでしょう。この戦い、私たちの誇り(エンブレム)を賭ける。あんたは?”

 ――“好きにしろ。今度は負けん”

 

 

 

 売り言葉に買い言葉。もちろん覚えていた。

 出来る事なら永遠に忘れていたかったが。

 

 そんな私の心中をまるで関知すること無く、「そこで話を戻すんだけど」とセロは続けた。

 

 

「流石に各務さん1人じゃ分が悪い。暴風族(ストームライダー)に対抗するには、こっちも暴風族(ストームライダー)として当たるべきだ。

――君にしてもらいたいのはただ一つ。チームを結成して、そこに俺達を入れてくれ」

 

 

 簡単だろ?

 にこやかに放たれた言葉に、私は眩暈を覚えそうになった。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 時は過ぎ、その日の放課後。

 

 

「――ここまでは予定通りってわけ?」

「まさか。そう言うには偶然が多すぎただろ?」

 

 公立校にしては珍しく施錠されていない校舎の屋上で、俺とシャーロットは語らっていた。

 見渡せる校庭には部活に励む生徒の姿があるが、ここには俺達以外誰もいない。

 

 話題はもちろん、各務さんに関する()()()()

 もっとも、当人は「少し考えさせてくれ」と言って下校してしまったが。

 

「彼女みたいな優秀なスカイウォーカーがこの学校にいた事からして偶然だし、そもそも同級生から()()を見繕う予定でもなかった。そう思いきやクラスにはFCの地区トップ2が揃い踏みで、挙句片割れと転校初日にチェイスすることになって、トントン拍子でこれだ」

 

 言葉にして振り返って見れば、なんとも都合よく進んだものだと呆れるレベルだ。

 だがそんな無形の追い風を感じたからこそ、彼女に拘る理由があるとも言えた。

 

 

「各務さんは――」

「 “()()()” かも知れないって?

 私、その言葉嫌いよ」

「悪い。でも物の例えだって」

 

 俺の弁解に、シャーロットはふいと顔を背けることで応えた。

 まだ高い春の日差しが憂うような眼差しを彩り、海風になびく金糸の髪をきらきらと照らす。

 

 

 “主人公”。

 もちろん、本気でこの世界が物語だとか言っている訳じゃない。

 だが俺の求める人物像にとって、一番しっくり来る単語がそれだった。

 

 「グラシュもA・T(エアトレック)も、世間からすればまだまだ新興のオモチャでしかない。けど、それこそ普通の靴みたいに普遍的な道具として根付かせる事ができれば……()()()()が成し得なかった境地に、この社会は至れるかもしれない。

そしてその流れを決定付けるためには、ヒーローが必要なんだ」

 

 “あの世界”……俺達がかつて生きて死んだ、A・T(エアトレック)とライダーに満ちた場所。

 俺たちはそこに居ながら、ほとんどのライダーたちを駆り立てていた活気や熱意とは程遠い場所で生きていた。

 

――8本の〈道〉を行く、〈(ロード)〉と〈玉璽(レガリア)〉の伝説も。

 

――勝利の塔(トロパイオン)の御伽噺も。

 

――そして、それらを目指して脇目もふらず駆け続けた、暴風族(ストームライダー)たちの物語も。

 

 全てはクサレ畜生ド悪党の武内空(たけうちそら)と、クソカス似非科学者オカルトポエマーこと南林太(みなみりんた)によって作られた虚構だと、生まれながらに知っていたからだ。

 

 確かに、末端とはいえ奴らの陣営に居た事で、俺は強くなれたのかもしれない。

 一般的なAランクライダーに倍すると言っていい力量を身に付けられたのは確かだ。

 

 でも俺は、何も知らずに仲間たちと頂点を目指して試行錯誤するような――そんな普通のライダーたちの生き方が、羨ましくてしょうがなかった。

 

 あるいは、こう言い換えても良いかもしれない。

 エアギア10巻あたりまでで提示された恐ろしく魅力的な世界観が、終盤へ話が進むにつれて

 『全部武内空と南博士の掌の上で利用されていましたー』となってしまった事への不満。

 俺の計画は、そういう種類の感情に端を発するものだった。

 

 

 「……」

 「何でもない出自から、あらゆる意味で高みに昇ってド派手な伝説を残す。そういう人間が居ればこそ、みんなが『自分だって空のてっぺんに至れるんじゃないか』と憧れを持つはず」

 

 

 この世界に妙ちきりんな陰謀はない。

 

 A・T技術は画期的でこそあるが、世界の趨勢を左右するようなものじゃない。

 

 南博士が掲げていた『重力に反逆する』とかいう馬鹿げたスローガンに至っては、()()()粒子なんて物が生まれた時点で動機すら沸かないレベルだ。

 

 何もA・T(エアトレック)じゃなく、グラシュを選んだっていい。

 

 ここの人々は――本当に、自由に飛べる。

 

 

 そんな彼らが羽ばたく切っ掛けとして、法螺話じゃない〈道〉の伝説を打ち立てたい。

 そして叶うなら、その伝説の目撃者になりたい。俺は各務葵に、それを期待していた。

 

 脳基移植者(ブレインチャージャー)のように“鳥の心”を持っていなくとも良い。

 必要なのは、幾ばくかのカリスマ性と――空を高く飛ぶことへの、執着心。

 炎の王(スピット・ファイア)の言葉を借りるなら、情熱だ。

 

「ハリネズミ女にはそれがあるって言うの?」

「まだ会って数日だけど、俺の見立てではな」

 

 そして、FCで既に結果を残しつつも、A・T(エアトレック)に関しては素人であるのも重要だ。

 俺達自身ではダメだ。色々と出自が特殊すぎる。生まれた家もそうだし、重力子(グラビティチルドレン)としての能力も、1G環境下ではフルに発揮できないとはいえ損なわれてはいない。傍目に見て自分にも再現可能だとは思われ辛いだろう。

 

 そして、既存のA・Tライダーでもダメだ。俺たちはA・Tに関しては誰より知識も経験もあるが、FCに関しては大したことはできない。両方の“空飛ぶ靴”で伝説を残せる人材を育て上げようと思ったら、まだ若く成長の余地がある優秀なFC選手がうってつけだった。

 

「それに……彼女は()()()()人間だ」

 

 ここ数日の様々な偶然。

 馬鹿げたオカルトかもしれないが、まるで何かの物語みたいなそれらを見聞きした事が俺の背中を押した。

 

 巻き込まれる彼女からしたら、頼んでもいない上にいい迷惑だろうが……。

 それでも、俺は躊躇うつもりはなかった。

 

 俺の熱弁を興味なさげに聞いていたシャーロットが、不意に口角を上げた。

 

「でも、今朝のライダーは(けしか)けたようなモンでしょ」

「……まあな。けど精一杯サポートはさせて貰うさ」

 

 

 今朝、彼女に宣戦布告したと言っていいDランク暴風族〈パルプ・フィクサー〉。

 俺とシャーロットは連中の存在を()()()()()

 

 転校初日――俺たちは“ランニング”と称して、A・T(エアトレック)で市街地の至る所を駆け回った。その終わり際に、例のマサヤ君とかいう小学生やら、各務さんやらと追いかけっこする羽目になったのだが……それらは完全に予定外の余禄だ。

 本来の目的は、この島をエリアとしている連中が貼るであろうステッカーを見つけること。

 そして案の定、奴らのステッカーを至る所に発見していた。

 

 そんな縄張りでああいう騒ぎを起こせば、そりゃターゲットにされる確率は非常に高まる。

 言ってしまえば、各務さんがA・T(こっち)の世界に踏み込む動機になって貰ったわけだ。

 

 

「キングメーカー気取りで台本書いてるってわけ?」

「アテにならんプロットだけで、大半はアドリブだよ」

 

 とはいえ、否定はすまい。

 結局の所、これは前世で〈小烏丸〉の伝説を見れなかった故の代償行為かも知れないが……。

 

「――セロ。あんた、それでいいの?」

「何の話だ? いいに決まってる。じゃなきゃこんな事するかよ」

「ふぅーん……?」

 

 欠片も信じていなそうなシャーロットの声音。

 少し恥ずかしさを覚えて彼に背を向ければ、ぎゅっ、と温かな感触が触れてきた。

 

 

「……ま、仕方ないわね。詰めの甘いアンタのために手伝ってあげる」

「……ありがとう?」

「なにそれ、ばーか」

 

 小さな笑い声が上がって、背中にこつんと固い感触が預けられる。

 

 シャーロットの顔は見えないが、仕方のないやつ、みたいな表情をしているのが、目に浮かぶようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時の浜辺。

 カモメやウミネコの声が遠くに聞こえ、辺りが赤みを帯びた太陽に照らされる。

 

 そんないつもFCの練習に使っている場所で、私は妙な感慨深さを覚えていた。

 

 ……つい一昨日、この場所に全く違う気持ちで立っていた。

 煮え切らなさと後ろめたさが全身に詰まって重りみたいになっていたのに、今ではそれを遠い過去のようにさえ感じる。

 

 けど今は、ただ軽い。

 それこそ、今まで知らなかった空にだって羽ばたこうと思えるほど――

 

 

《――さん、葵さんっ?》

 

「ん、ああ……?」

《ああ~じゃないよっ、今のおれの動き、ちゃんと見てた!?》

 

「あー……はは、ごめんな晶也(まさや)、目ぇ瞑ってた」

《もーっ!》

 

 耳元に付けたインカムから聞こえる、怒ってますと言わんばかりな声変わり前の少年の声。

 上空で制止してこっちを見ている教え子――日向晶也に、私は大きく手を振った。

 

「悪い悪い、次はちゃんと見てるから」

《ほんとかよー……》

 

 今のは完全に私の落ち度だ。集中しよう。

 軽く頭を振り、指示を待っている晶也に声をかける。

 

「よし、スタートしていいぞ」

《うっし、行くよー!》

 

 そして空中に、彼の飛行軌道が描き出す薄緑色のラインが伸びていった。

 軌跡(コントレイル)と呼ばれるものだ。

 グラシュでの飛行時、搭載された反重力粒子の一部を使って、飛行機雲のように発光するラインを描き出すことができる。主に競技用の機種に搭載されている機能で、基本的にはスカイスポーツの観客が選手の現在位置を見逃さないようにするためのものだ。

 

 そして、こうして地上から飛行姿勢や機動の良し悪しを見るのにも役に立つ。

 最近の晶也への指導では並んで飛びながら教えるのが多かったが、何となく今日は地面にいたい気分だった。

 

 

 ――それにしても。

 あいつ、面構えが変わったな。

 

 晶也とは元々、親の知り合いから紹介されて指導を依頼されたのが始まりだった。

 なんでも、私のFC地区大会での試合を見て憧れたとかなんとか……。

 それが少し面映ゆかったし、また私自身も選手としてそれなりになってきたばかりだったので、最初は依頼を断るつもりでいた。

 

 だが結局拝み倒されて、お試しで何回か教えることになり……その期間が終わるころには、指導を引き受けてもいいかという気になっていた。

 

 理由は大まかにいえば、あいつがとにかく楽しそうに空へと向き合っていたこと。それと、飛行技術に関しての呑み込みが非常に良かったこと。

 私はいっちょ前に“教える喜び”だなんて抜かして、あいつの面倒を見るようになった。

 

 

 結局。それは、代替行為だったのかもしれない。

 かつて――初めてグラシュで空を飛んだ頃の私も、そんな感じだったから。

 そして、その気持ちが色褪せつつあったから。

 でもその理由が分からなくて、昔の自分を思わせる晶也を見ていることで己の問題から目を背けるような……そんな後ろめたい感情が働いていたのだと、つい昨日気付いた。

 

 だがその事に気付きもせずに指導を続けるうち、晶也もまた情熱を失っていったように見えた。

 結果的に表れたものが同じだっただけで、原因はまた違ったのかもしれないが……自分の理由すらよく分かっていなかった私が、教え子のそれを何とかしてやれる筈もなくて。

 

 どん詰まりのまま、取り返しの付かない局面まで行くかに思えたそれらは。

 つい一昨日、よく分からん連中によって、むちゃくちゃな方法で吹っ飛ばされた。

 

 

 あの日、この浜辺から始まった追いかけっこが、私たちの状況をすっかり変えてしまった。

 私の悩みも、あいつの悩みも。

 

 

《葵さん、ちゃんと見てる?》

「ああ。ローヨーヨーの上昇はもっと早く入れていい。逆にシザーズは遅らせて、もっと深くするんだ」

《おっけーっ》

 

 指示に対する返答も張りというかキレというか、そういうものがある。

 その様子に安堵しながらも、ひとつ気になっていたことがあった。

 

「……晶也」

《なに?》

「お前、こないだA・T(エアトレック)履いた外人を追っかけてたろ」

《う゛ぇっ!?》

 

 飛行軌道が乱れ、コントレイルがいびつに歪む。

 小さく見える晶也が泡を食ったように停止して、こっちに向いたのが分かった。

 

《え、何でそれしってんの!》

「あの時私も後ろにいたんだぞ、気付かなかったのか?」

《はあ!?》

「ま、途中で見失っちゃったけどね……。

お前、何であいつらと追いかけっこしてたんだ?」

 

 その問いに対して、インカムからはもごもごと言葉にならない声が暫く続き。

 終いには「何だっていーだろっ!」と癇癪を起こしたみたいな反応が返ってきた。

 

 思わず笑ってしまう。どうやら、セロの言っていたことは嘘じゃなかったらしい。

 それに私だって、晶也の後に自分がどういう目に遭ったのかは言いたくない事だしな。

 

 

 それで――そう。

 何だか、些細なことを気にするのがバカらしくなってしまった。

 

 

「お前、A・T(エアトレック)に興味あるのか?」

 

 なんてことのない質問。

 答えは、意外にも素直なものだった。

 

《うんっ! おれ、A・Tもやってみたいな! 楽しかったし、かっこよかったから……あっ!》

 

 だが途端に、何かに気付いたように口を噤む。

 グラシュの先生役に対して言うのは気が咎めたとか、そんな所だろうか?

 

「そうか……そうだよな」

 

 「別に気にしないよ」と宥めるより先に、思わず言葉が零れた。

 

「なぁ晶也」

《……なに?》

 

 叱られると思ったのだろう。おずおずとした声。

 

「――グラシュでもA・Tでもいい。“空を飛ぶ靴”、好きか?」

《え……う、うん》

 

 それは、実はこれまで聞いたこともないような質問だった。

 “空が好きか?”とか、“飛ぶのが好きか?”とは何度も訊いたことがある。

 でも、そのための道具が好きか、だなんて聞いたこともなかった。

 

「なんで、好きなんだ?」

《えっと、それは……何処にでも飛べて気持ちいいじゃん》

「……そっか」

 

 子供らしい、飾らない正直な言葉。

 だからこそ――――

 

 

 

《それにさ、履くだけでいいし!》

 

「――――――え?」

 

 

 

 何かが、カチリと嵌まった気がした。

 

 

 

 

 

 “一揃いの道具、っちゅう意味がある。”

 

 

 “こいつに全部詰まっちゅうとこが好きなんじゃ。”

 “全部?”

 “ヒトが自由になるためのな。”

 

 

 

 

 耳の奥に蘇る、風変わりな老人の言葉。

 

 私は、思わず目を閉じ……自分に言い聞かせるように、呟いた。

 

 

「――――その通りだな……本当に」

 

 道具は揃っているんだ。あとは、そのことに気付くだけだった。

 

(そら)が見えたんなら行きたいよな。行きたければ……行けるんだよな」

 

 

 まだはっきりとした言葉にはならなかったけど。

 それで、十分な気がした。

 

 

 

 

 ――――それと。もう一つ気付いたことがある。

 

 私はこの2日で色々なものを得た。

 まだ、それらへのお返しができちゃいない。

 

「晶也。私な――決めたよ」

《は? 何を?》

 

「はは、色々だ、色々。高校生のお姉さんには色々あるんだよ」

《なんだよそれー、エラソーに》

 

「晶也」

《ん?》

 

 

――ありがとうな。

 

 

 今さら言うのも小っ恥ずかしいそんな言葉が、海風に溶けて攫われていった。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 翌朝。

 

 教室後ろ側のドアから入ってきた各務さんの表情を見て、俺は確信と共に声を掛ける。

 

「覚悟は決まったかい?」

 

 彼女はそれに答えることなく、つかつかと俺の前まで歩を進めて――

――そのまま、横を素通りした。

 

「あらっ!?」

 

 思わずずっこけそうになる。

 シャーロットが口許を押さえて「ぷ、だっさ……」と笑いを嚙み殺していた。

 

 そんな俺達を余所に、各務さんは足を止める。

 

「赤崎。あの……SS(スカイスポーツ)同好会だったか? まだ部員募集してる?」

 

 声を掛けられた赤崎さんは目をぱちくりさせ、

 

「はえっ!? え、その……うん?」

「なら3人追加してやる。これで4人」

「え゛っ」

 

 素っ頓狂な声が上がる。

 かくいう俺もちょっと混乱していた。

 

 えーと……これは、どういう事だ?

 思わず彼女の方へ顔を向ければ、視線がぴたりと合った。

 

 そのまま、不敵な表情で告げられる。

 

 

「――やるからには上に行く。

最上級のバトルは5人でやるんだろ? あと一人はお前が何とかしろ」

「……はは」

 

 おいおい……。

 まったく、とんだ王様候補だ。

 

「――お気遣いどうも。実はいいアテを一人知っててね、なぁ隼人」

 

 動揺を隠すように混ぜっ返せば、隣で聞き耳を立てていた男がガクッと頭を落とした。

 

「言うと思ったよ……」

「でも嫌じゃないだろ? そういう顔だ」

「……へへ、まぁな」

 

「え、ちょ、あの、どういう、え???」

「気にするな」

「いや気になるわ! えーとつまり? わたしも暴風族(ストームライダー)やれば部活できるってこと?」

「そういうこと」

「……わかった! 赤崎、やります!」

 

 マジで分かってんだか、口車に乗せられた赤崎さん。

 各務さんはそんな友人の頭に手を置いて、ぐりぐりと撫でまわした。

 

 

「――チーム名は私が決めていいんだろうな?」

「アンタじゃセンスには期待できなさそうね……ま、大目に見てあげるわ」

「言ってろ」

 

 シャーロットの煽りも受け流し、彼女は俺達をぐるりと見回す。

 

 赤崎さん。

 隼人。

 俺。

 シャーロット。

 

 ――――最後に、自身の胸元に手を当てて。

 

 

「なら、決まりだ。チーム名は――」

 

 

 

 

 

 

 それを聞いた全員のリアクションは様々だった。

 赤崎珠美は、かっくいー! と目を輝かせ。

 白瀬隼人は、いいんじゃないか? と納得したように。

 シャーロット・アヴァロンは、ギリギリ及第点ね、と鼻を鳴らし。

 

 そして、セロ・アヴァロンは……手の平で目を覆い、笑いながら天を仰いだ。

 

「各務さん、君――――ほんっと最高だ」

 

 そして、葵に思いっきりハグした。

 

 

「あっ、な、おま……!」

「おっと失礼。つい感極まって――イッッッタ!!」

「……このグズ」

 

「あーセロくんがシャーロットくん怒らせたー。浮気はダメだぞー」

「浮気……なあセロ、お前とシャーロットって」

「ノーコメントだ」

「というかいつまで抱き付いてるんだ! は、離れろッ」

 

 

 と、まあ……いささか締まらないものではあったが。

 

 彼らを示す名は、いつか伝説として語られる名は、この瞬間を以て決まった。

 

 

 

 Fランク暴風族(ストームライダー)、〈エア・ギア〉――――始動。

 

 

 

 

 







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お手数とは思いますが、ぜひぜひよろしくお願い致します。

※あおかなEXTRA2の発売に合わせて記念連続更新をすることを思いついたので、しばし書き溜め期間に入ります。
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