あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
読者の皆様方、お久し振りです。お待たせし申し訳ない。
そして祝・あおかなEXTRA2発売!
本作を書きつつ遊んで今5章ですが、思っていた以上のクオリティで大満足です。
みなもちゃん可愛すぎてifの発売が楽しみなんだ期待が高まるんだ
一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)
やることが決まれば、あとは行動あるのみ。
そういう訳で、俺たち5名は勤労少年少女に身をやつしていた。
「おーい外人の兄ちゃん! 次はそっちに運んでくれ!」
「了解!」
ずっしりと重たい内装資材を担ぎ上げ、指示された位置まで運び込む。
腰を痛めないよう慎重に下ろして、俺は額の汗を拭った。
「監督ー、持ち分全部搬入終わりましたー!」
「お、早いな。ならもう上がっていいぞ」
「いいんですか? じゃあお先に失礼しますね、お疲れ様です!」
「おう、お疲れさん。また来週も頼むな」
周囲の同僚に挨拶しながら自動ドアをくぐり、作業現場のビルから出る。
室内の光景に代わり目の前に広がるのは、赤らんだ西日に彩られた市街地の光景だ。
4月上旬とはいえ、南国だけあって気温も湿度も故郷イギリスの比ではない。数時間も肉体労働すれば中々に暑いものだ。
俺はTシャツの襟をぱたぱたと仰ぎながらミネラルウォーターのペットボトルを一口呷り、スマホを取り出して電話を掛けた。
『もしもし……何か用か、セロ?』
「そっちもそろそろ上がってる時間かと思ってね。お疲れさん、リーダー」
数度のコール音の後、そろそろ聞き慣れてきた葵の声。
調子はどうかと尋ねれば、「悪くはないが……」と、歯の奥に物が挟まったような物言いが返ってくる。
「ないが?」
『いや、ほんっっとここ数日で展開が速いと思ってな』
「何を今さら、行動が早くて悪いってことは無いさ。まぁ俺も話を強引に持って行った自覚はあるけど」
『自覚あったのか…………で、何の用だ』
バイト上がりに声を聴きたい間柄でもないだろ、おいおい冷たいじゃないの……そんな牽制しあうような軽口を交わしながら、俺はたまたま視界に入った路傍のベンチに腰かけひとつ呼吸を入れた。
「君の声が聞きたくって」
『そういうのはシャーロットにでも言ったらどうだ』
「毎日言ってるよ。冗談はさておき、これから空いてるかい? ディナーのお誘いをと思ってね」
「私にはそっちも冗談にしか聞こえないけどな……まだ6時前だろう? 飯には早すぎないか」
気怠そうというほどでもないが、億劫げな声音。
お疲れ気味な所に悪いが、あまり先延ばしできる用件でもない……いや、夕飯に誘ってその場で話すというのは高校生同士っぽくないのか? 急に自信がなくなってきたが、生憎”フツーの高校生”だった記憶は想起するにも難儀するような遥か彼方の物となって久しい。耳目の多い教室でしたい話でもなし、このままゴリ押させてもらおう。
「まあそう言うなよ。そっちも体動かして腹は空いてるだろう? 四島で一番美味しいうどんを
おごってやるから。トッピング自由、正装不要、宇宙一可愛いウェイトレスさん付き。どう?」
短い沈黙の後、聞えよがしなため息の音。
「――わかったわかった……。今からか?」
「別に1時間後でも構わないけど。『ごめーん待った?』『俺も今来たところだよ……』とかやりたいんなら、それもサービスで付けようか」
「合流は新町の停留所でいいな。すぐ行く」
ぶつっ。
小粋なジョークに返されたのは無慈悲な切断音だった。
あいつちょっとクール過ぎないか?
ベンチの背にぐっと体重を預けて脱力し、背を起こしてから首や肩を解すように回す。
重い腰を上げれば、既に日は沈み始め、辺りの光景は赤みを増していた。
夕飯の買い出しにでも向かうのか、商店街の方へと流れる人々に逆らって俺は歩き出した。
#
「い˝っ、いらっしゃい˝、ませ……」
ニゴォ……。
「それはひょっとしてギャグでやってるのか?」
「殺すわよハリネズミ女」
新市街からは入江を挟んで反対側、古くからの島民が住む旧市街。
そのやや外れた立地に建つ『ましろうどん』の
そして、案の定葵がノータイムで着火したので割って入る。
「待て待て待たんかい。隙あらばギスるな君ら」
「セロ……あんたね」
「こんばんはシャーロット。そう怒らんでもただ客として来ただけだよ。バイトの邪魔はしないから安心して」
「……はぁー、こちらへどうぞ」
渋々といった感じで座席へと案内される。幸い客足がはけたタイミングだったのかテーブル席もほとんど空いており、そちらに座ることができた。
動きやすそうなパンツスタイルの上から着た、ひらがなの「ま」の字を象ったロゴが入った深緑色のエプロン。大き目の白い三角巾の下で豪奢なブロンドを纏めて流したシャーロットは、しらけきったような表情でカウンターへ向かい、プラスチックカップ入りのお冷を運んで来る。
しかし何着ても似合うな。
ファッションというのは服よりも、それを着る素材の比重が大きいのかもしれない。
「ご注文は」
「俺はかき揚げうどん、海老天2本乗せてくれ。葵は?」
「……」
返事がない。混乱した表情を隠しもせず、俺とシャーロットを交互に見ている。
「葵? ……まあいいや。地獄極楽うどん柚子胡椒3倍、しし唐天5本乗せで」
「腐った豆は?」
「マシマシ」
「かしこまりました」
「かしこまりましたじゃないが。……いや待て。もう全部待て。最初っから説明してくれ」
あ、再起動した。
悪ノリの結果出来つつあった罰ゲームめいた一品に本能的危機感を覚えたのかもしれない。
「説明、説明ね。つっても見ての通りだよ。こいつのバイト先はここってだけ」
「……で、それを見せるために呼んだのか?」
「まさか。本題はこれからだよ。で、ご注文は」
促すと、葵は一瞬頭痛でも堪えるかのように眉間を揉み解してから壁に貼られたメニューを一瞥した。
「肉うどん。トッピングはじゃこ天と大根おろし」
「へー、意外としっかり食う――」
「それと海老天1つに豚天2枚、煮卵2つ。以上注文終わり」
「いや盛りすぎじゃね?」
この女、澄ました顔で唐突にぶっ込んで来たな……。
しかもタンパク質がやたら多い上に方向性も小学生めいている。見る目変わっちゃいそう。
奢りとは言ったがもう少し遠慮ってものをだね。
そうは思うものの、すっかり座った眼つきをしたリーダーにとやかく言う訳にもいかない。結局、意外なほど慣れた手つきで注文をメモしたシャーロットを見送るしかない俺であった。
「ずいぶん食うな。女子ってもっとカロリーとか気にするものかと」
「これでもスポーツ選手だからな。ま、自分の財布だったらここまではやらんが」
そりゃ結構なことで……。
「それに今日は肉体労働もしたしな。カロリー多めでも罰は当たらないさ」と言って伸びをした葵に相槌を打ち、俺はお冷で口を湿らせた。
「資金集めのバイトは結局各人で選ぶに任せちゃったけど、葵は何にしたんだ?」
「
「へぇ、よく考えてる。FCの練習時間を減らす遠因になった俺が言うのもなんだけど、時間は効率的に使うに越したことは無いからな」
「別に……そこまでして練習しなきゃって訳でも、ないんだがな」
「ん?」
一瞬、彼女の表情に陰が差したような気がした。
「いや……何でもない。第一、
「そう言って貰えると助かるけど。で、予算分は稼げそうかい」
「大丈夫だろ、大して使ってもない貯金もそれなりにあるしな。そういうお前はどうなんだ」
「ご心配なく」
なんせ一番費用の掛かるA・Tを自前の物で賄える以上、必要なのは精々ユニフォーム代だけ。
むしろシャーロットのバイト先を選定する方に心を砕いたぐらいだ。
そんな話をすると、葵は目を逸らそうとしていた現実を突き付けられたかのように深く溜息をついた。アットホームな小料理屋のような雰囲気の店内でJKがするには重すぎる雰囲気のそれに、思わず笑いが漏れる。
「……選んでアレか。あいつ、接客に向いてるとはとても思えないんだが」
「そんなことないわよ~、シャーロットちゃんはようやってくれてるわ」
答えたのは俺ではなく、少し間延びした大人の女性の声。
それを発した彼女は両手でどんぶりの乗ったお盆を抱え、俺達の座るテーブルの横に立った。
「お待たせしました~。かき揚げうどんと、肉うどん。トッピング確認してね」
「ああ女将さん、どうもこんばんは」
「はい、こんばんは。どうぞごゆっくりね~」
会話を中断して顔を上げた俺達にニコリと微笑む妙齢の女性。
この店を切り盛りする
俺達のうどんを運んで来た彼女は言葉と裏腹に立ち去る様子を見せず、にこにこと人好きのする笑みを浮かべながら立ったままだった。
「……あの?」
「え? ……あらら、ごめんなさいね。どうぞ召し上がって。
……ねえ、そっちの貴女、各務……葵さんよね? “飛翔姫”の!」
「え、ええ……そうですけど」
葵が目を白黒させながら首肯すると、女将さんはぱっと笑みを浮かべた。
「やっぱり! 新聞とかテレビで見たな~と思ったんよ!
去年の全国大会、凄かったわね~」
あらあらまぁまぁうちの店に有名人来ちゃったー、とはしゃぐ彼女に葵も押され気味で、気付けば食後にお話させてほしいだの店にサイン飾らせてほしいだのといったお願いをされている。
しかしえらいグイグイ来るな。もちろん強要されているとかではなく、彼女の全身から滲み出るかのような人の好い雰囲気からつい快諾してしまうといった感じだが。
まあ田舎のこういった家族経営の食堂なら、このぐらいの距離感は珍しくもないか。
そんな勢いによるものか、女将さんがるんるんと立ち去った後も暫し仰け反るようにしていた葵だったが、思い出したようにトッピング特盛うどんに箸をつけた。
そして天ぷらを一口二口齧り、やや細めのつややかな麺と色の薄いつゆを啜って――
目を大きく見開く。
「…‥! うまいな」
「言ったろ? 四島で一番美味いって。ちなみに美味ログ星4つ半」
「いや、お前そんなん見るタイプだったのか……?」
電話口で言ったのは何も冗談ではないのだ。
何というか、まず出汁からして違う。この辺の名産だというトビウオと昆布の出汁は旨味成分が後から後から沁み出てくるようで、その精緻なコクに弾力のある麺がまたよく合っている。
トッピングの天ぷらも、油にラードでも使っているのか非常に香ばしく軽やかな揚がり具合。
概して、イギリスでアレ極まる食環境に甘んじてきた身としては感動の一言だ。
これだけで日本に来た甲斐があるというもの。
「……しかし、あれだな」
俺はどんぶりを傾け、天ぷらの油が僅かに浮いたつゆを一口飲んで口を開いた。
「あの二つ名が全国区で知られてるのって割と罰ゲームじゃないか?」
「言うな」
#
美味を堪能しながら、今日の本題を話していく。
「チーム結成から二週間ばかり経ったわけだけど、そろそろみんなのA・Tを揃えておきたい」
「ああ……練習も必要だろうし、それは分かる。それで軍資金集めの進捗確認か?」
「それもある。隼人はとりあえず大丈夫そうだって知ってるけど、珠美の方をあまりフォローしてなかったと思ってね。学校で聞こうにも彼女、最近休み時間ずっと爆睡してるし」
「私は一応聞いてるが、なんか自宅で出来る軽作業だかを大量に請けたらしくてな……」
夜を徹する勢いでペットボトルの蓋にオマケを付けたり部品を組み立てたりしているのだとか。
とりあえず順調……ということでいい、のか?
「ま、あいつは大丈夫だろう。確か
「へえ、そいつは初耳。
……となると、出来モノで売ってる既製品のA・Tよりもパーツを買って自作した方がいいな」
確か隼人も「パーツを組んでイチから自作したい」と言っていた気がするしな。
何よりそっちの方が安上がりだ。金欠高校生軍団である我々にとっては重要なポイント。
「自作……危なくないのか?」
「素人だけでやるなら、そりゃ危険だろうけど。そこは俺とシャーロットを頼りにしてくれていいよ。
なにせ
原付どころかその気になればバイク並みの速度だって出せる
よほど無茶をしなければ、故障のせいで事故ったりはしない。
それに加えてバラでパーツを買って組む場合は、一部のパーツを
安全に直結する重要度の高い部品は良いものを使って、そうでない所はコスパ重視のものや中古品で済ませたりな。
――――いや、待てよ?
……中古、中古か。
いい事を思いついたかもしれない。
「なあ葵、ひとつ腹案があるんだが……その前に残念なお知らせがある」
「?」
「隼人に調べて貰ったんだが……四島には既製品を売ってる店はあっても、パーツをバラで扱ってる店はない。せいぜい劣化の激しい部品の交換用を置いてるぐらいでね」
「は……おいおい。それ、ここまでの話の前提が覆ってないか?」
肩透かしを食らったと言いたげな葵。
だが、この話にはまだ続きがある。
「
「本島の方まで出れば、あるのか」
「ああ。あちらならA・Tも盛んだしな。それに安く仕上げる心当たりもある」
「知人がやってる店があるんだ。
「――――ん!?」
「
なんせフェリーでトラックごと出荷されて一晩過ごした店だ。
葵にとってもさぞかし思い出深い店になったことだろう。
葵は心当たりに思い至ったのか――そして、それを俺が知っている事実をどう受け取ったものか、口の端を引き攣らせた。
「おま、お前、何で……。いや、色々と言いたいことがあるんだが……」
「その前に、まずはお答えをどうぞ」
にこりと笑顔を浮かべて先を促す。
女将さんには負けるが、シャーロットの営業スマイル(仮)に比べれば100倍朗らかなのは間違いない。だというのに目の前の薄情なリーダー様は白け切ったジト目で俺をにらみ、嫌々という調子でその名前を口にした。
「――〈グランパ・ギアーズ〉」
「ご名答。それじゃ珠美に連絡頼むな」
そう言って「ごちそうさまでした」と丼に箸を置くと、葵は深々と溜息をついたのだった。