あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
執筆の傍らEXTRA2最終話を読み進めてますが、真藤さん戦も最高過ぎますね……!
今までみさきが積んできた経験が、最後の最後で完全に実を結ぶ感じ。
本作でもああいう胸の熱くなるバトルを描いてみたいもんです。
それと気づけばハーメルンのあおかなSSで一番文字数が多くなってました。
あおかな面白いんだからもっと皆書いて……。
かつて――俺達が生きた世界にあっては、それはいくつかの意味を持っていた。
例えば、それは大地の底へと伸びる“トロパイオンの塔”、その奥深くで生み出された
例えば、それはロスト・エネルギー問題を解決に導く先端技術のテストベッドだった。
例えば、それは超高性能な激レア
例えば、それは――
俺は――俺達が、この世界にA・Tを持ち込むと決めた時。
虚構でも何でもない〈空の王〉の伝説を、この世界の人々に紡がせようと考えた時。
その象徴として、いわば
父を始めとしたアヴァロン社の面々には、先端技術をテストするための採算度外視の試作モデルとして説得し。
一般のライダー達には、世界に二つとなく無類の強力さを持ったA・Tとして噂を流し、彼らが
玉璽をこぞって求めるように仕向け。
今日に至って、彼らのコミュニティの中では『ライダーの走る〈道〉の頂点には
その正体定かではない幻想が、具体的な実像を伴って語られるようになる日もそう遠くはない。
もはや多くの
あるいは本当に、この世界での〈空の王〉が生まれるかもしれない。その彼ないし彼女が辿った物語に惹かれて空の頂上を目指す無鉄砲野郎が集まり、その中から更に次の〈空の王〉が現れたっていい。俺は葵が
――これは、もしかすると、本気で。
アヴァロンのラボが“第一世代
ひとつは、既に然るべき王に履かれ。
続くひとつは、完成に至る最後のピースを待ち望み。
さらに4つは、喰い合う獣の野に放たれて。
最後の一つは、今こうして……導かれるように、各務葵の
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「――セロ? おい、聞いてるのか?」
「あ……、っと。すまん」
葵から怪訝そうに声を掛けられ、唐突に意識が浮上する。
突然のことに動揺し、つい思考に没頭してしまっていたようだ。
「えぇと、何だって?」
「いや、この……レガリアだったか? 大丈夫なんだよな?」
つまり、俺が急に深刻そうな顔でダンマリ決め込んだから不安に駆られたということか。
それはそうだ。今まさにこのパーツでA・Tを組もうというのに、知識面での頼みの綱がこの有様では不安にもなるだろう。葵には悪いことをしたと内心反省する。
「…………」
傍らに立つシャーロットは何も言ずに俺を見ているが、その視線に気遣うような色があるのが見て取れた。
相方としてもチームメンバーとしても、あまり褒められた態度じゃなかったな。
「不安にさせたなら悪い。こいつは……かなり特殊で生産数も少ないハイエンドモデルなんだ。
まさかここで葵から出てくるとは思っても見なくてね。状態は……シャーロット、どうだ?」
ざっと見た感じ大丈夫そうだが、流石に最先端の代物だ。俺の点検だけだと心もとない。
その点シャーロットは前世からして俺より頭のデキが良かったし、何よりこちらで
シャーロットは軽く肩を竦め、箱から爪の玉璽を取り上げた。
「踵の
そう言いながら、
「サスに塗布されてるオイルは新しい。見える限り汚れも浮いていないし摩耗もケアされてるわ。つい最近誰かがオーバーホールに近いメンテをしたはず」
「つまり、何だ?」
「残念だけどアンタがスっ転んで死ぬことは無さそうね。つーか今ぐらいの内容なら知識無くても文脈で理解したらどうなのニワトリ女」
「あ、の、な、あ……!」
つんと澄ましてそっぽを向くシャーロット。
ついでに指先に着いた機械油を葵の服の裾で拭うオマケ付きである。
そしてその暴挙に拳をプルプル震わせる葵。
何というか、こいつらの関係は今後もずっとこんな感じなんじゃないかと思わせてやまない。
「まあその、何だ。ボディはこれで大丈夫だと分かったし、内装もそれなりに揃ってそうだ。
買い足すパーツはそんなに多くないぞ。良かったな葵」
「はぁ……ま、使えるならいい。そういう事にしといてやる。根掘り葉掘り聞いても理解できんだろうしな」
……こいつ、いいやつだな。今更ではあるが。
計画云々は抜きにしても、俺は各務葵という一人の人間への好感、そしてそんな彼女をリーダーとしてチームを組めたことに対する感謝のようなものを感じ始めていた。
「みんな、おっ待たせー」
「流石に都会っていうか品揃えすげーな。俺のは丁度いいサイズ無かったけど……ん?」
そこへ、店内でA・Tのボディを見繕っていた二人が戻ってきた。
どうやら収穫があったようだが、それを聞き出す前に隼人が作業台に広げられた葵のパーツに目を止める。
「うおっ、なんかえらいカッコいいな! 葵こんなもん貰ってたのか? 持ってんなぁー」
「どうだかな……出費が少なく済みそうなのは助かるけど。お前は? 決めたのか?」
「ああ。こんなやつ」
「わたしはこれっ」
そう言って、二人はスマホを俺達に見えるように差し出した。
流石に数万以上する高級精密機器なので、大体の場合A・Tパーツは店員の立会いなしに手に取ったりは出来ない。要は俺達の所まで持って来て見せられなかったのだろう。それなりのショップであればメーカーの製品紹介ページなどに繋がるQRコードなんかを並べて展示しているので、彼らはそれを使って調べたようだ。
「どれどれ……」
「割とゴツい形してるな。二輪ってことは……ウィール式、だったか」
「試着した感じが結構グラシュに近くてな。ホイールも大型のが入れられるから安定感あるって話だったし」
「サイズが合わなかったんじゃなかったのか?」
「気に入った色のが無かったんだ。今画面に表示してる色なんだけど」
隼人が選んだのはミリタリーカラーのトレッキングシューズに近い形状のA・Tだった。メーカーは
葵の言う通り普通の靴に比べれば大ぶりなシルエットだが、言われてみれば競技用グラシュと共通点があるようにも見える。
「いいんじゃないか。隼人は頻繁にグラシュも履くだろうし、スイッチする時に違和感がない方が何かと楽だろう」
「そうか?」
ほっとしたような顔の隼人がスマホを引っ込めると、シャーロットが珠美の方を覗き込む。
「ん、……“BAICOS”? 聞いたこと無いメーカーね」
「えっ、ひょっとしてマズいかな!? 可愛くて安くて履き心地も良かったし、もうこれだ! って感じだったんだけど……」
その名前には、偶々聞き覚えがあった。
「たしか中国のOEMメーカーだな。
「おーいーえむ?」
「製造委託ってやつさ。靴に限らず、メジャーなブランドとかって別のメーカーに外注してロゴだけ貼ってるようなのが結構あるんだよ」
その場合、モノ自体は有名メーカーのものと遜色ない品質だったりするわけだ。ブランドのプレミアムがつかない分、価格面ではお得なことも多い。
よって心配には及ばないのだが、それとは別にひとつ気になることがあった。
「珠美、これボウローラーだけど良いのかい?」
彼女は葵や隼人と違い、バリバリにスポーツやっていたタイプでもない。
その辺を考えて、初心者向きのウィール式を勧めたはずだが。
「あーうん、アドバイスもあったしちょっと悩んだんだけどねー。あのお古を譲ってくれた従姉のお姉ちゃんにあやかりたかったとゆーか……実際、履いてもかなりいい感じだったしね」
「なら良いか」
ボウローラーは独特の走行感で慣れが必要だが、経験のないまっさらな状態で違和感がないのであれば適性があったのだろう。今後しばらくして別のタイプに替える時なんかに苦労するかもしれないが、その時はその時だ。
話が纏まると、葵が不思議そうに口を開いた。
「今まであまり気にしても来なかったが、NAKEみたいな普通の靴メーカーも
「むしろA・T専業の会社なんて無いレベルだよ。まだ市場が若いから」
「確か、グラシュ作ってるメーカーも参入してたよな? アメリカのインヴェイドとか……」
「そうそう。大体A・Tメーカーの方向性としては二種類あるんだ」
まず、我らがアヴァロンを筆頭とした“機械系”。
文字通り機械メーカーが参入したケースで、内部の機構に関しては色々と独自の強みを持っているがガワとなる靴の部分は門外漢で、デザイン的にはイマイチなことも多い。そこを補うために靴のブランドなんかとコラボすることも珍しくない。隼人が選んだのはこっちのタイプだ。
対して、珠美が選んだようなタイプは“アパレル系”と呼ばれる。
靴などファッション業界の企業がブランドの新シリーズとしてA・Tに参入したケースで、一般消費者への訴求力に関しては明らかに一日の長がある。その分中身の方では一歩及ばないことも多いが、若者の割合が圧倒的に高い今の市場ではこっちの方が優勢と言っていい。
まあこの辺は持ちつ持たれつで、アヴァロン社はそういうメーカー同士のコラボレーションを推進する団体も立ち上げている。A・T技術を独占するのではなく、オープンにして市場の活性化を目指す方針だからな。
「どっちが良いって程のこともないから、単なる豆知識だけどね」
「ふうん……」
「セロとシャーロットはアヴァロンのだよな? やっぱ未発表の先行モデルとか?」
そんな説明をつらつら述べると、隼人が興味津々といった感じで聞いてきた。
「そういう訳じゃないけど、市販されてないハイエンドではあるかな」
「わたし知ってる! シャーロットくんのはアレだよね、
「ハイその話はまた今度ねーパーツ探しに行こうねー」
余計な事を言いそうになった珠美の口を慌てて塞ぐ。
あぶねえ。
シャーロットが〈轟の王〉であることは隠していないし、むしろイギリス時代は耳目を集める為もあって大っぴらに喧伝すらしていたが、今ここで大声出して言われてしまうと余計な混乱を招きそうである。なにせここはA・Tショップで、周囲にいる連中は大体ライダーだ。
葵たちはまだA・Tを組んですらいないライダー未満だというのに、
俺は必死にタップする珠美をレジに連行し、会計を済ませるのであった。