あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
太平洋標準時ではまだ朝なのでセーフ(満身創痍)
ようやくパーツ屋から出られるぞ……! それとアオハル重点。
匿名の方から評価1を頂きまして、それ自体は厳粛に受け止めているのですが……可能であれば、評価コメントにてどの辺が気になったかを教えて頂けますと助かります!
今後の糧にさせて頂きますので、0~4辺りの評価を頂く際には是非ともよろしくお願いいたします。
一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)
ガラスのドアを軽く押して開くと、軽やかに入店を知らせるベルが鳴った。
「うわ、すっごいパーツの数……」
「さっきまでの普通のショップとは全然雰囲気違うな……」
わくわくした様子で店内を見回す隼人と珠美を横目に、私は感慨とも新鮮さともつかない奇妙な気分を味わう。
昼と呼べる時間帯も過半を過ぎ、じきに日差しも傾きかけようかという時刻。
一通りのショップ巡りを済ませた私たちは、今日の小旅行の締めとして中古
ほんの数週間前、不本意ながら軽トラの荷台で海を越え、家出少女めいた立場でご厄介になった店舗――とはいえあの時は見物どころではなかったし、夜遅いこともあってショップスペースの方は閉まっていた記憶がある。昼の、言ってみれば通常営業している姿を見るのはこれが初めてだ。
あの夜にはまさかこの扉を再び、それも客として……自分を負かした
過去の私に言っても到底信じやしないだろう。
だが、あの時と変わらないものもある。
レジカウンターのむこうで腰かけたその老人は、印象深い装いそのままに、丸めた背をこちらに向けて何か作業をしていた。
「おう、いらっしゃい」
「…………どうも」
何と言ったものか迷い、結局出てきたのは凡庸な挨拶。
だがそれでも伝わる物はあったようで、キャスター付きの椅子がぐるりと回って切ない軋み声を上げた。
バンダナ、デニムジャケット、室内ゆえかサングラスは外している。
ゴトー爺さんと名乗った店主が、記憶のままに悪童めいた太々しい笑みを浮かべた。
「――はっは、思ったよりも早かった。
どうや嬢ちゃん。
私も、出来る限り悪ぶった笑みを浮かべて見せた。
「たぶん、FCと同じくらいには」
#
「いい話風になってるトコ悪いんですがねぇ……」
黙って私たちを見ていたセロが、わざとらしく嫌味ったらしい声色で老人を呼んだ。
そのままツカツカと大股で近づき、カウンターに両肘を突く。
「どうもうちのリーダーに期待を掛けて頂いたようで? その素ン晴らしいお考えについて、イロイロとお聞かせ願いたいもんですねぇ……“ゴトー爺さん”」
「それともこうお呼びしましょうか?
日本
「……――はあッ!?」
全く想像だにしなかった言葉に思わず大声が出る。
私達以外の客は見える範囲には居なかったようで、変に注目を集めずに済んだのは不幸中の幸いだった。
え、誰が……何の、何だって?
自分でも何がしたいんだか、なぜか咄嗟に周囲を見回してしまう。
話についていけずポカンとした隼人と珠美がいるだけで、シャーロットに至っては我関せずといった体で陳列されたパーツの方へ行ってしまった。
「……」
セロは微動だにしない。何か聞くまでは動かないぞと背中が主張しているようだった。
辺りに緊張した雰囲気が滲みだす。
そして渦中のゴトー爺さん……いや五桐氏(?)はと言うと、しばし俯いてから重々しくその口を開いた。
「……」
そして、口を開いたまま立ち上がり――――。
「…………」
ん?
なんだ?
口を半開きのまま歩き始めたぞ。
「…………」
そして、何故かそのまま左右にウロウロ歩き始めるゴトー爺さん。
え、何この……何?
セロは相変わらず微動だにしない。
完全にさっきまでのとは別種の異様な空気が辺りを支配している。
思わず喉を鳴らした。隼人たちも完全にメダパニ食らったような面で身動きが取れずにいる。
いやホント、なんだこの――
「――いやボケ老人ムーブで乗り切れるとマジで思ってんのかッッ!」
「なんや、バレたか」
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝もう! マジ何なんだアンタ!!」
――まあ、その。
こいつもこんな風にキレることあるんだな、うん。
今まで余裕ある態度を崩さなかったチームメイトが揶揄われる姿に、思わず遠い目になってしまう私だった。
#
「――――さっきの話は後でするとして。本題に戻ろう」
こめかみのあたりをピクピクさせながら、セロが両手を叩いた。
そして一応、先程の醜態を見て見ぬフリしてやるだけの優しさが私たちにも存在した。
「
「なんやアヴァロンの坊主、ケチ臭いインバーター買うたのォ。これならエアクッションを
「ビークワイエット! 客の会話にグイグイ入るんじゃあないッ! 服屋の店員かテメーは!!」
――見て見ぬフリしてやるだけの、優しさが、私たちにも存在した。
「ン˝ンッ、それでだ。揃えたパーツと、コストを抑えるために
【新品】
ボディ(電子制御系も含まれる)
バッテリー
ブレーキ
エアクッション
ソールインバーター(回生発電機構)
メインボルト
ドライバーユニット
【中古】
ホイール
サスペンション
メインモーター
インナーコイル(サブモーター)
変速ギア
ベアリング
「――あと、データ保存用のマイクロSDな。これは4GBクラスの廉価品でも十分だから、今日日コンビニでも買える。最悪なくても動くしな」
「データ?」
A・Tのイメージにはそぐわない単語だ。まさかドライブレコーダーって訳でもあるまい。
疑問を顔に出すと、セロは「そういやその話はまだだったか」と額を打った。
「教室で葵の机が現代アートにされた時、俺がスマホのアプリで相手チームの情報を読み取っただろう? あのアプリはA・Tの走行ログを読み取って、それを履いてるライダーの強さも数値化できるんだ。で、そのデータはA・Tを使っている間、自動的に蓄積されてる」
「ほへー……数値化って、なんかバトル漫画の戦闘力みたい」
「実際それに近い面はある。指標はいろいろだけどね」
走りの速度、跳躍の高さ、今まで成功させた
そういったものが数値化され、自動的に記録されるのだとか。
それを聞いて、私は今日に至るA・Tの爆発的な流行、その理由の一端を垣間見た気がした。
どれほどの精度なのかは知らないが、自分の上手さを分かり易い形で知れるのはモチベーションに繋がる事だろう。SNSなんかで自慢したり共有することだってできる。FCは他の多くのスポーツと同様にそういった仕組みを持たない筈だし、伸び悩んで消えていった選手に心当たりが無い訳じゃない。そんな連中にも、こういった物があれば違う未来があったのかもしれない。
そこでもう一度咳払いすると、
「話を戻すぞ。と言っても後は簡単な話で、足りてないパーツを買って組み立てるだけだ。
だけど、規格が合うやつを適当に組み合わせれば良いってもんでもない」
バランスが重要なんだとセロは続けた。
「バランス?」
「前後のホイールで出力が違いすぎたり、ギア比がおかしかったり……。そういうのは上級者があえてやるようなチューンだから、初心者の内は止めておいた方がいいんだ」
「つってもなあ、正直よく分からずにそういうの選んじゃうかも知れないぞ」
「不安ならそこのボケ老人に聞けばいい。それで飯食ってんだから」
半眼で店主を見ながら言い、セロは「俺とシャーロットも教えられるし」と締めた。
そうして、私たちの宝探しともジャンク漁りともつかない中古パーツ選びが始まったのだが……
「うに˝ゃあぁあビス締まんなーい! ふんぬぬぬ」
「わーバカやめろ電動ドライバー両手で持つな!」
「78
「良く調べとるのォ、やけどホイール硬くてデカい奴にすると着地の反動えげつないで。エアクッションとかサス良いやつにせんと」
「さり気なく当て擦ってんじゃねーぞ不良老人」
「はは……でも反動かァ」
「金のない若いのだと、サスとソールの間に100均の耐震パッドなんか入れてDIYしとるんもおるな」
「100均なんてオシャレなもん四島にあったか……?」
「そこからか……2022年だぞ、島根にだってパソコンある時代にそんなことある?」
「いやお前、マジでイギリス人なんだよな??」
ドタバタしつつも、なんだかんだで私たちの
……なんか、いいな。こういうの。
バカ騒ぎ(だいたい珠美が発生源だが)をBGMに、店内の棚やワゴンに雑多に突っ込まれたホイールやらモーターを手に取って見比べてみる。
専門知識はないが、ざっと見て感覚的に良さそうな物をゴトー爺さんかセロの方に持っていき、アドバイスでも貰おうかと考えた時だった。
「――ワンウィールは初速高めにして安定させた方がいいわ。こっちの組み合わせにしたら」
「……シャーロット」
ひょいと細く美しい腕が横合いから伸び、いくつかのパーツを摘まみ上げると私の方へと押しやった。
「……」
「何よ」
「いや、ありがとう……?」
「ふん」
予想外の相手からの助け舟に、らしくもなく少しまごついてしまう。
僅かばかり気まずい沈黙が流れるが、私は思い切って感じたままを言ってみることにした。
私だっていつまでも、こいつとの距離感を図りかねたままでいたい訳じゃない。一応、チームリーダーであることだし。
「――ちょっと意外だな」
「はあ?」
「お前は……その何だ、私の事があまり好きじゃないのかと」
「へえ、好きになって欲しいのかしら」
挑発的に軽口を叩いたシャーロットだったが、私が静かに聞きの態勢に入っていると歪めていた口元をきゅっと引き締めた。
「べつに……アンタはチームメイトでしょ。わざわざ嫌ったりしない」
「お前はチームを組むことに、そこまで興味があるようには見えなかった」
反対もしていなかったとは思うが、ここの所の出来事で積極的に動いていたのはセロの方だったと思う。
私の言わんとすることを察してか、金髪を垂らした横顔が決まりの悪そうなものになった。
「それは……その。セロが」
「?」
いつもの断固とした言いっぷりからは珍しい程に、シャーロットは何かを言い淀んだ。
それは言い辛い事があるというより、自分の中にある思いを言葉に変換するためにひどく苦労しているような、そんな不器用さを感じさせた。
それを茶化す気にもなれず続きを待っていると、
「私はあいつのしたいことを助けてやりたいの。それだけ」
「……」
「……何か文句でもあんの」
「い、いや?」
「ならいいけど」
どこか拗ねたような顔つきのまま、それだけ言ってシャーロットは私の傍を離れていった。
「…………」
――なんというか、意外なものを見たな。
あの深夜の戦いから……あるいは街中での追撃戦からこっち、私の中であいつは超然とした存在のように思えていた。
天才的なアーティストなんかのステレオタイプのように、他人の理解も共感も必要とせず、ただ高みに在ることの出来る存在だと。
だが――そういう訳でも、ないのかもな。
私は自分で手に取ったパーツと、シャーロットに寄越されたパーツを見比べる。
「……ここは先輩に従うかね」
そして前者をワゴンに戻し、後者を持ってレジへと向かった。
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「かんせーッ!! あーもー普段使わない場所酷使したわー。ちかれたー」
「いやあネジ1本余った時はどうしたもんかと……」
「おうおう、おめっとさん。これでようやくスタートラインっちゅう訳じゃな、嬢ちゃん」
そうして、私たちの
外装は新品だからか小綺麗で、手作り感のような雑さは一見して感じられない。
そして、意外なほどに
「――“
パーツのメーカーはてんでバラバラ。
それでも、組みあがったそれらは
――――やはり、シャーロットは先達として頼りになるみたいだ。
私の中でまた一つ、小気味のいいものが広がった。
すっかり浮かれた様子の隼人と珠美が「このまま初走行行くか?」とか「大賛成! 赤崎行きます!」だとか騒いでいる。
私も内心そうしようかと、心に高揚感を感じて……
そこで、ゴトー爺さんが不思議そうに言った。
「そんな時間あるんけ? 土日のフェリーはじき最終便やろ」
『……』
空気が凍る。
私たちは顔を見合わせ、全員一糸乱れぬ動きでスマホを取り出した。
――17:35。
戻りの船は18時過ぎ。距離を考えれば相当に危険な時間だった。
「やっっっば!」
「しつれーしゃーっす!!」
「アンタほんと覚えとけよ!」
「秒で忘れるわ。ボケ老人じゃから」
「やかましいわ!」
「漫才してる場合じゃないでしょ。行くわよセロ」
大慌てでA・Tをバッグに詰め込み、めいめいにドアを押し開き駆けだす仲間たち。
私もそれに続こうとして、一瞬止まって振り返った。
西日がきついのかサングラスを掛け直したゴトー爺さんは、あの日と同じ姿で怪訝そうに片眉を上げる。
「どした?」
「……また来ます」
「おう。次も自分の足でな」
「――あはっ、
可笑しくなって小さく噴き出し、笑いながら駆け出した。
「走れば間に合うよな!?」
「ギリセーフじゃないか? ビリのやつ船の自販機で他全員にオゴリな」
「はっ!? ねえ待って待って赤崎もうヘトヘトなんですけど!」
「疲れてなくてもどうせビリでしょ。足短いし」
「むっかーッ! シャーロットくんだって身長大差ない……ん? あれ?」
「いいから走るぞ! またこっちで一晩過ごすのは絶ッ対にゴメンだ!」
そこからはあっという間だ。
ぜーはー息をしながら港に駆け込み、転がり込むようにしてフェリーの乗降口に体を押し込んだ私たちは。自然とお互いの肩を小突き合い、何だか訳もなく楽しくなってゲラゲラ笑った。
――さあ、帰ろう。
変わり映えのしない島の、いつもと違う空が待っている。
そのための“
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『そもそも貴方、楽隠居の身だからってこんな所で何やってるんですか』
『趣味や趣味。ワシも若い頃ヤンチャした分、似たような連中の面倒を見たい気持ちがある。
坊主、お前ワシの全盛期の伝説聞いたら腰抜かすで』
『ああはいはい、そういうのはリーダーにどうぞ。で、
『うむ……それがな、』
――――――――。
『――爪の
『おう。あれがどういう機能を持っとった
『アンタの手元に来た時には、既に
『ワシはよう抜いたりせんわ。ンなけったくそ悪い真似するかい』
『――分かった。それはウチで対処する。
で、何が抜かれたとアンタは思うんだ』
『それはな――――』
「さて、容疑者は絞られるが。どうしたもんかね……」
悩まし気に思案する声が、誰にも聞かれること無く空中に溶けていった。