あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
EXTRA2、読了!
ホント素晴らしいシナリオですね……久々に感動しました。
あの色々と遠回りしがちなみさきが、馬鹿みたいに何の衒いもなく「FCが好きだ」と言える、その尊さと来たらもう(ry
一方、本作のみさきは似たようでちょっと違うテイストになるかも?
そんな未来のワンシーン。
一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)
「いっち……にっ。右……ひだりっ」
湿気っぽい空気を切って、流れる髪の先が耳元をくすぐる。
あたしは注意深く前進を傾けて体重を移動させながら、勢いよくつま先を踏み込んでターンを決めた。
「あっ、やば」
ガコンっ! こんっ、ころころ……
――やっぱ今のナシ。前言撤回。ターンが決まらなかった。
あたしはその場でブレーキを掛けて乗っていた速度を落とし、所在なさげに横たわった空き缶の所まで行って停まった。
軽く屈んで足元のそれを拾い上げると、顎先からぽたりと汗のしずくが落ちて公園の地面に小さな染みを作る。
「……ふうっ」
それにしても、あっちーなー。
Tシャツの首元をぱたぱた引っ張って申し訳程度の風を送り込む。一瞬だけひんやりとした感覚が広がるけど、手を止めれば元の木阿弥。すぐに蒸し暑さが押し寄せてきて、涼しさの痕跡をごっそりと押し流してしまうようだった。
あたしが何となく虚無感を覚えてぼうっと立ち尽くしていると、背後からきゃんきゃんした声で喝が飛んでくる。
「こらー! みーちゃん、あと3往復!」
「えー無理もう無理、絶対むりー。休憩にしようよタマちゃん、ね?」
「さっき水分補給したばっかでしょーが! あとタマちゃんゆーな! こちとら20代やぞ!」
……そうは言うけどさ。“わたし不満です!”って感情を全力で表現しているみたいに、柔らかそうな頬をぷくっと膨らませてむくれてる姿からは「年上のお姉さん」感はまったく感じられない。時々、あたしより10歳近く年上の既婚者だって事実が信じられなくなる。
初めて会った頃はあたしのことを「みさきちゃん」呼びしてたのに、あたしがタマちゃん呼びを改めないもんだからムキになって「みーちゃん」呼びに変えたりするのも、やっぱり子供っぽい。
むしろこんな風にいつでも良いリアクションを返すもんだから揶揄われるって、気付かないんだろうかにゃー。
学生時代とか、さぞかし弄られキャラだったんじゃないかと思う。
あたしはタマちゃんの方へとひらひら手を振って、公園に据え付けられた水飲み場へとA・Tを転がしていった。こういう時、せかせか歩かなくていいのがA・Tの素晴らしい所だ。
下を向いていた蛇口を180度逆に捻って、ハンドルをぐるぐる適当に回す。
十分な勢いで噴き出て来たお水ちゃんに頭を突っ込んで、あたしは存分に冷たい心地よさを堪能した。
「あ˝ー、生き返るぅー」
髪が濡れ放題だけど、無視だ無視。どうせすぐ乾くし。
こういう時、髪を短く切っていて良かったなって思う。例えば腰の下まであるロングだったりしたら流石に濡れた髪が張り付いて鬱陶しいし、見た目も貞子みたいになってたかも。
髪を伸ばさない理由でいてくれた
「もー、ほんっとその飽きっぽさが無ければなあ」
「そりゃすいませんねー。そーれぶるぶるぶるーっ」
「うきゃああ! 水滴飛ばすなしッ! 濡れた野良犬か!」
「わははー汗混じりの鳶沢汁ショットガンを食らえっっ」
「バカバカバカ、うわっ!? ぺっぺっ、何やってんのさ、もお……」
公園の植木に背を預け、その陰で休んでいた彼女は咄嗟に動けず、あたしが飛ばした水滴をモロに喰らってしまった。ぶちぶち文句を言いながらタオルハンカチで顔を拭き、あたしにもそれを投げて寄越す。
濡れた髪を雑に拭いながら、あたしも木陰に座り込んだ。
「ありがと」
「んでしれっと休憩モード入ってるし。練習に戻りなさい」
「……あははー、いや流石は伝説のライダー、練習ガチ勢ですなー! いよっ特A級!」
「おべっかで誤魔化さないの!」
ぷりぷり怒るタマちゃんを余所に、あたしはグイっと伸びして深呼吸。
両肩を脱力してリラックスさせ、ふうっと息を吐いた。
ひょっとすると、それが溜息でもついたみたいに見えたのかもしれない。
「――みーちゃん、何か……あったの?」
「ん?」
「何か今日、いつも以上に集中できてないみたいだったから」
「あはは、“いつも以上”は心外ですにゃー。普段はこの上なく集中してるってば」
「じゃあ、今日は?」
「……、…………タマちゃんはさ」
つい言い掛けて、あたしの言葉は喉のあたりでつっかえた。
そこまで憚られる話題でもないけど、聞かせていいものなのか。もっと言ってしまえば、こんな話を聞かせてしまっても迷惑がられないだけの間柄なのか……。
その自信を持てていない自分に、今更気付いたからだった。
あたしとタマちゃんって、どういう関係なんだろう。
出会ったのは小学生の、春か夏だったのを覚えている。
今でこそ四島住まいのあたしだけど、つい去年までは永崎市内で暮らしていた。学校の長期休暇のたびに、こっちに住んでるお祖母ちゃんの所へ遊びに来て……ある日、海沿いの防波堤で、かっこいいローラースケートを履いた小学校高学年ぐらいの女の子が結構な高さや速度で飛んだり跳ねたりしているのを見つけたんだ。
当時のあたしは、そのローラースケートが
『ねえ、それ何!? あたしにもやらせてよっ!!』
――思い返せば、中々むちゃくちゃなキッズっぷりである。
でも彼女……当時のタマちゃんは快く応じてくれて、サイズの合わないA・Tでふらつくあたしの背中を支えながら色々な事を教えてくれた。
A・Tのことだとか。
まっすぐ走るコツだとか。
いっしょにA・Tやってる、カッコいい仲間たちがいるんだとか。
学校中の女子が太刀打ちできないぐらい可愛い男子がその仲間にいるだとか。
なんのこっちゃねん。
その後、すっかりA・Tに心奪われてしまったあたしは、永崎に戻ってから両親にねだって子供用のを買ってもらって。
それから毎年、こっちに来るたびにタマちゃんとの奇妙な交流を続けていた。
去年になって親の仕事の都合でお祖母ちゃんの家に預けられ、四島で暮らすようになってからは個人的にA・Tのコーチのような事もして貰っている。今日みたいに。
長いけど、深いんだか、浅いんだか。
そんな付き合いの相手に、目下の悩みのタネを話すべきか逡巡して。
――ええい、めんどくさい。言っちゃえ。
こんな事でうじうじ悩むのはあたしのキャラじゃない。
タマちゃんだって馬鹿にしたり嫌な顔はしないでしょ。
「タマちゃんはさ、あたしが小学生の頃とかどーだった?」
「へ? どうって……」
「面倒見て貰ってたあたしが言うのもなんだけど、相手しててかったるいにゃーとか思わなかった?ってこと」
「え、ぜんぜん」
即答して目をぱちくりさせた彼女は、「それが悩み事なの?」と不思議そうに言った。
「んー、ある意味では似たようなケースと言いますか」
「?」
「ガッコでね、ボッチ拾ったのよ。そしたらレズに進化した。どう接していいか分からんちん」
「情報の洪水」
事の経緯はこうだ。
昼休み、既に早弁してしまってお腹を空かしていた哀れなみさきちゃん。空腹を紛らわすべく昼寝でもすっかにゃーと睡眠スポットを探していたら、校庭にめっちゃいい感じの木陰を発見。
さあ寝るぜと近寄って見れば、死角で体育座りしている幸薄そうなメガネっ娘の後輩が。
なんとその後輩少女、やたらデカくて豪華なお弁当を半分残して俯いてるじゃありませんか。
とにかく腹が減って仕方がないみさきちゃん、「お弁当ください」と乞食行為に打って出る。
無事OK。うおォン、あたしは人間火力発電所だ。
めっちゃうまい弁当をがっつきながら後輩ちゃん(仮)と談笑してたら、なんか懐かれる。
それどころか、どこに行くにも付いてくるようになる。
なんか日に日に距離が近くなる。スキンシップ激しい。
多少面倒ではあるけど、小動物みたいでほっとけない面もある。
どうしたらいいでしょうか。(永崎県在住・15歳女性)
「ちゃんと面倒見なさい」
「ですよね」
ばっさり行かれた……。
あたしがよほど情けない顔をしていたのか、タマちゃんは額に手を当てて溜息をついた。
「さっきの話をするとね?」
「うん」
「わたしは、別にそういうの苦じゃないからさ。初めて会った時、小っちゃいみーちゃんが声掛けて来た時だって『子供がひとりぼっちだと可愛そうだなー』って思ったら自然に面倒見てたし、悪い子じゃないってすぐ分かったからそれからの付き合いも全然面倒には思わなかったよ」
「う、うん……」
面と向かって言われると、ちょっとこそばゆい。
「みーちゃんはどう? その子を放り出して、また一人ぼっちに戻っちゃったら。可愛そうだと思う?」
「それは……まあ、うん」
「ここしばらく一緒に行動して、悪い子だって思った?」
「ううん。いい子だよ、ちょっと空回りする所はあるけど」
「自分の時間を取られるのがイヤ?」
「そこまで多忙な生活送ってないよ。四六時中グイグイ来るのは、ちょっとどうかと思うけど」
「だったら、まあ、いいんじゃないかな」
「何が?」
「友達になれるってこと」
「ともだち、ねぇ……」
口に出してみると奇妙なほどに薄っぺらく響くのに、心の奥底ではしっくり来る。
不思議な感触だった。
「でも可愛そうって、同情じゃん。なんか不健全じゃない?」
「なんで?」
「何でって、それは」
――それは、何でだろう。
上手く言えずにまごつくと、タマちゃんはふっと微笑んだ。
「始まりが前向きじゃないからって、いつまでもそうとは限らないよ。
終わり良ければって言うでしょ? ならさ、終わり以外のどこがマイナスでも……その後でプラスに持っていければ、それは綺麗なものになるんじゃないかな」
「……超・ポジティブシンキングですにゃー」
「茶化さないのっ」
めっ、とでも言いそうな咎め方をして、タマちゃんは少し声のトーンを落とした。
それは秘密の宝物をこっそり見せびらかすみたいな、楽しそうなひそやかさで。
「わたしもさ、これまでチームのみんなと色々あったよ。見放されて、バラバラになっちゃうんじゃないかって本気で怖くなった時だってあった。でも今は、全部何とかなって……」
ああ、みんなと居れて良かった、って思ってるよ。
そう言って微笑んだタマちゃんは、普段とは違ってひどく大人びて見えた。
「みーちゃん」
「……うん」
「自分を好きだって確信できる人、いる?」
「好きな人、じゃなくって?」
「うん」
……それは、居る。
おばーちゃんとか。両親とか。
――――思い出の中で微笑む、あの白いワンピースの女の子とか。
「……居る」
「そっか」
それだけ言って、タマちゃんは膝の上に乗せたものへ視線を落とした。
A・Tのホイール――炎の様な模様が描かれたそれを大事そうに一撫でして、口を開く。
「あたしにも居るよ。まず何よりも〈エア・ギア〉のみんな。あおちゃん、セロくん、シャーロットくん……それと、隼人くん」
「……」
「じゃあ、その人たちにもっと好きになって貰おうと思ったら。どうしたらいいかな」
その言葉は、じんわりとした真摯な温かさをもって鼓膜から心に落ちていった。
――日陰でひとり、俯いていた真白。
あの子をあたしが放って置けるか、じゃなくて、好かれるあたしになるためにはどうするべきか。好いてくれる人たちに、胸を張れるあたしであるにはどうするべきか。
ともすれば酷く自分本位な考えだったけど、今はそのぐらいの方が気楽だった。
「――タマちゃんってさ」
「ん?」
「マジでお姉さんだったんだね」
「ぬへへ、思い知った?」
「うん」
その笑い方はどうかと思うけど。
「……さて、とっ!」
あたしは立ち上がり、お尻を軽くはたいた。
ふと見上げれば、木の葉の隙間からきらきらと光が覗いていて。
あれほど鬱陶しかった暑苦しい太陽光が、とてもやさしいものに感じられた。
「休憩は十分でしょ、練習戻る気になった?」
「ま、お姉さんのありがた~いお話に免じてね~」
「ならよし! あと3周行っといで!」
「へーい」
あたしは、薄暗い木陰から、燦燦と明るい方へ踏み出した。
「――あっっっっつ! まぶしっ! やっぱ無理ッ!」
「こらー! んなもん通るかー! 行かんかい!」