あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
あいつの表情を、今でも覚えている。
「いやあ……負けた負けた。リンド? いやアギトか?
とんでもねーな、〈牙の王〉」
雑魚と見下げていた相手の"牙"でズタズタの返り討ちにされて、彼はむしろ安堵したように穏やかに笑っていた。
私はそれに何だか腹が立って、でもそんな彼に間一髪の所を助けられた事が確かに嬉しくて、結局はいつものような物言いをした。
「呑気なものね、落ちこぼれのクズ。今にニケがカラスどもを始末して……次は私たちよ」
辛辣かもしれないけれど、事実だった。
私は〈
目の前の少年は言わずもがな。
才能ないし。
グズだし。
空気読めないし。
格下の癖に褒めたり頭撫でてくるし。
自分の方が酷い状況のくせに、なんか私を励ましてくるし。
みんな辛そうにしてる時でも、こいつだけニコニコ笑って声掛けてくるし。
弱いくせに庇ってくるし。
ずっと一緒にいてくれたし。
あったかいし。
血……いっぱい出てるし。
おまけに〈石の道〉にそれなり以上の適正があったせいで、ニケにも空にも嫌われてる。
そんな彼は確実に処分されるだろうなと思うと、冷たい諦観の息だけがひゅうっと漏れた。
けど彼は、そんな時でもキツそうに口角を上げて歯を見せた。
「じゃ連中に、加勢、して……ふー、ニケをぶっ殺しに……行くかい」
「はぁ!?」
「ンだよ……驚くことか? もともと、その、つもり、だっただろ」
シャツの切れ端で太ももの裂傷――私を庇って出来た――を縛り、崩れた壁に凭れていた私に肩を貸しながら立ち上がる。
「お前あったけえな」と笑う彼の体はどんどん冷たくなっているようで、私は普段の傲慢な振舞いすら忘れて言い募った。
「万全の状態で手を組めれば勝機はあった! けど違うじゃない……!
共食いよッ!
私たちが
そんな状態で徒党を組んだって、武内兄弟に殺されるだけ――」
「ああ、いや。そこは……心配してねえんだ。
でもま……カズ様はちょっと、詰め甘いとこ、あるからな。手伝ってやりゃあ、確実だろ、っ」
なぜ?
何を根拠に?
何を知っているの?
分からないことだらけだったけれど、顔つきだけがひどく印象に残った。
寂しそうな顔――――なんで? 何を見ているの?
信頼しきったような顔――――なんで? 会ったこともない相手なのに。
私の知らない顔――――なんで?
なんで――いま、私じゃないヤツに、そんな、顔。
だけど、ああ。
あいつはその表情を消して、私のよく知る、やさしく言い聞かせる父親みたいな顔で。
私を、見た。
「なーに、前世から分かり切ってる事さ。カラスは……イッキは、勝つ。
"嵐"が"空"を、めちゃくちゃにかき混ぜて……
きっと、スゲエ自由な蒼色が見える。そしたらさ」
その言葉と瞳のかがやきを。
「いっしょに飛ぼう、シャーロット」
死んだって忘れないだろう、って暖かな確信があって――それは本当のことになった。
##
《当機は、只今よりおよそ20分でナリタ空港に着陸する予定でございます。
ただいまの時刻は午前9時30分、天気は晴れ、気温は摂氏17度となっております。
着陸に備えまして、皆さまのお手荷物は――》
「シャーロット、着くぞ起きろ……シャーロット?」
「すー……」
「……まったく、可愛い寝顔だこと」
いつもの浅い眠りから覚めた時、相方はいまだぐっすりと夢の中だった。
身を乗り出して窓の外を見たいところだが、あいにく肩に頭を預けられてしまっている。
寝起きの悪いこいつを少し早めに起こしてやろうと思い声をかけたが、思いのほか眠りが深かったようだ。
であれば仕方ない。俺は彼の顔に視線を移し、そっと手を伸ばす。
陶磁器のように滑らかなミルク色の肌に、桜色を控えめに乗せたような小ぶりなくちびる。
閉じられた瞼を飾る長く整えられた白金の睫毛は、豪奢に伸ばされたロングヘアと同じ色。
いくら目にしても飽きないそれを眺めつつ、つくづく数奇な運命もあったものだと思いを馳せた。
すべての始まりは、正直今となっては曖昧だ。
21世紀の日本。さして見るべき所もない希薄な生涯を送っていた"俺"は、その中途で死んだ……のだと思う。
そしてそのまま消えるかと思われた意識は"何者か"と出会い、神様だか何だか知らないソレは"俺"をどこかに生まれ変わらせようとしていた。
いわゆる輪廻転生と違うのは、"俺"の記憶をそのままにしておいてくれた点と、ひとつだけ願いを叶えてくれた点だ。
俺はそれを聞いて……どうしようもなく憧れていた、"ある漫画"の世界で生きてみたいと願った。
生まれ変わる先の変更を願い出た訳じゃない。
"どこか"に行く前に、憧れの世界で、憧れたヒーローたちと接してみたかった。それだけだ。
今わの際に出てくる願いがそれなのは自分でもどうかと思うが、まあとにかく大好きな作品だったんだ。
"どこか"にその漫画があるとも思えなかったし。
"何者か"は多少驚き、少しだけ考え込んでいたように思う。
だが最後には『構わないが、長くは生きられないだろう』と言われ……俺はそれでもいいと答え、その作品の世界に生きる一人として生まれ変わったのだ。
――『エア・ギア』。
さる週刊誌で連載されて、かなりのヒットを飛ばした少年漫画。
大出力を搭載した架空のインラインスケートと、それを履いて"空の道"を走るアウトロー達の活躍や激突を描いた作品だ。
俺はその世界で、作中No.2の悪玉たる"
だがそこで、一つの想定外があった。
隣で俺の右肩に頭を預け寝こけているシャーロットその人だ。
彼女……のような彼は、
つまり『エア・ギア』の世界の人間だ。
何なら漫画の方にも登場している。ぽっと出の色物中ボスだけど。
調子ぶっこいて嬲ってた相手が覚醒して瞬殺されるとかいうコテコテの中ボスだったけど。
俺とシャーロットはタッグを組んでいて、最後の戦いにもペアで出陣していた。
本来その役どころにはアーサーという
その辺は想像するしかないが、ひょっとしたら俺が
ともかく、戦いに出ていた俺とシャーロットは最後の最後でニケに反旗を翻し、彼と戦っているであろう主人公チームNo.2の助太刀に打って出た。
そこで結局は返り討ちにあって――シャーロットは生かすつもりだったのだが――ふたり一緒に死んでしまい。
こっちの世界で物心付いたときには、何故か彼もこっちにいて再会した。
そうはならんやろ。
なっとるやろがい。
しかも
正直原因はマジで全く分からないが、そんなこんなで今度は真っ当な生まれの人間として。
相方とともに十数年ばかり楽しく生きてきた、という訳だ。
「シャーロット……シャーロット?」
さらりと金の髪を手で梳き、卵型のほっぺをぺちぺち叩く。
するとほっそりとした眉がひそめられ、開いた瞼から髪よりも濃い金色の瞳が姿を見せた。
「おはようさん。着きましたよお客さん」
「……うじ虫。さいあくよ、あんな夢見て……寝起きにあんたの顔だなんて」
「ご挨拶だなおい」
寝起きゆえかとろんとした瞳。
機嫌が悪いのか頬を少し上気させたシャーロットは、右手でもぞもぞと何かを探すような仕草をしている。
付き合いも大概長いからわかる。
愛用の鞭で俺をシバこうとしているのだ。
鋼芯入ってて飛行機に持ち込めそうにないから郵送したでしょ。郵送もしないでほしかったが。
何が悲しゅうて海外でもSMプレイされにゃならんのか。
「残念ながら鞭は無いんだな~、これが」
「……"残念"?」
「いや違う待って待って、言葉のアレだって」
からかったつもりが墓穴を掘ってしまった。
シャーロットの瞳が高慢な色を帯び、口元が歪む。
「お望み通り、新しい家に着いたらたっぷり甚振ってあげる」
「勘弁してよ……」
「イヤ。
……勝手に置いて行ったりしないように、躾けてやるんだから」
ぽつりと付け足すように呟いたあと、表情にかすかな憂いの色が混ざる。
不満というより不安の色をはらんだ言葉に俺は大体の事情を察した。
「……"前"の夢、見たのか?」
「…………うん」
「忘れちまえよ、ロクでもない時代の話は」
俺がシャーロットを置いて逝こうとしたのは一度きり。
だが、それにしたってもう十何年も前の話だ。
こっちで再会してからはずっと一緒に行動してきた。
培養槽生まれの少年兵としてド悪党に使い潰される記憶なんか百害あって一利なしだろうに。
俺にとってもニケの糸目ヅラは未だに悪夢に出るほどのトラウマだ。
〈小烏丸〉も、結局アギトにカズ様と多少話せただけだったしなぁ……生まれが悪いよ生まれが。
結局、口にした願いそのものは叶ったが、本当の望みは叶わなかったわけだ。
何かのありがたい説話みたいだな。
そんな中でも、シャーロットの存在があったからやってこれた面はある。
だからこそ心安らかにいてほしいのだが、どうにもシャーロットは
俺の言うことなんて聞きやしないのはいつもの事だが……。
「いやよ、忘れてなんかやらない」
「えぇー……」
俺の目をじっと見据えて断言されてしまうともう何も言えない。
けどそこまで言うほどか?
正直1秒でも早く記憶から消去したい思い出が一杯じゃない?
お前がそう言うならいいけど。
そんなことを言っている間に、飛行機が目的地に着いたようだ。
キャビンアテンダントが着陸態勢に入る旨をアナウンスし、機内にランプが点灯する。
俺はシャーロットの髪をもう一度撫でた。
「ま、昔は昔、今は今だ。気楽にいこう。
なんせこれから海外留学だ、あの頃じゃ想像もできなかったなあ。楽しみだろ?」
「……こんな東のド田舎じゃなければね」
「言うなよ、家のお仕事もあるんだし。何より我が心の故郷ってやつだ」
「あの前世とかいう与太話?
……ま、こういう経験をしてる以上、あながち否定もできないわね」
「だろ? なに、箸の使い方なら任せてくれよ」
「私に何か教えようだなんて生意気よ、うじ虫」
「いでっ」
脛を容赦なく蹴っ飛ばされる。鞭がないと思ったらこれだ。
見た目通りに華奢ならともかく、〈轟の王〉の蹴りはマジで洒落になっていない。
「~っつぅぅ、お前すぐ鞭か足が出るの直せって。
イリーナが真似すんだよ、こないだなんかマイ鞭買って嬉しそうに素振りしてたしさあ。
俺ァあの子の将来が心配で心配で」
「将来有望で結構なことね。というか」
「あん?」
「妹の心配なのね。私じゃなくって……」
「え? 何? 怒ってる?」
「怒ってない」
とてもそうは見えないが、それをわざわざ口に出すほど無神経でもない。
つんと顔を背けるシャーロットの隣で痛みに悶絶している内に、微かな揺れを全身に感じた。
俺たちを乗せる飛行機がランディングしたのだ。
程なくして電子音が鳴り、澄ました声でアナウンスが流れた。
《皆様、ただいまナリタ空港に着陸致しました。
ただいまの時刻は午前9時55分、天気は晴れ、気温は摂氏18度でございます。
安全のため、ベルト着用サインが消えるまでお座りのまま――》
プシューッと独特の稼働音をたてて出入口が開かれる。
3度の人生で初めて乗ったファーストクラスの柔らかなシートに別れを告げ、立ち上がった俺はシャーロットに右手を差し出した。
「お手をどうぞ、シャーロット」
「ええ―――セロ」
彼はそういって、ひんやりとした白く細い手を俺のそれに重ねた。
俺はセロ。
セロ・アヴァロン。
中々に数奇な人生を経て、ツンケンしたドS男の娘をツレにして。
前世やそのまた前世とは少し違う、2020年代の地球で生きている。
図ったかのように、
――俺たちが"
感想・評価・お気に入り登録をいただけると励みになります。
お手数とは思いますが、ぜひぜひよろしくお願い致します。
アヴァロン姓、あっ……(察し)
オリ主くんはエアギア30巻あたりに出てきたポッと出の中ボス、アーサー&シャーロットのアーサーの立ち位置に転生したマンです。
(「シャーロットとペア」という立場が同じだけで、他はほぼ全部違いますが割愛)
レガリアに改造されて文字通り一心同体になった訳でもないので、シャーロットくんちゃんのメンタルケアを一生懸命やってました。
名前はランスロット(Lancelot)から一部抜粋したもの。
アーサーを消してシャーロットとイチャコラするんだからランスロットが適切かなと。
シャーロットくんちゃんはエアギアで一番かわいいですがtntnついてます。だが男だ。これだけは覚えて帰ってください。
次回からあおかな世界(原作7年前)編です。