あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア)   作:EXTRA2販促おじさん

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ちょっとゴタゴタがあり遅れました。そのぶん長め(8000字)
それと、前話にちょっと入れ忘れていた伏線を追記しています。

一言でも構いませんので、ご感想を頂けると幸いです。
(文章書きとして上達したいと思っているので、マイナス面の指摘や批評なども歓迎です)



Trick.16: Naturarythm (1)

 

 

「お待たせ致しました。ジンジャーアップルティーとカフェオレ、それとこちら桃のタルトとブルーベリーパフェになります」

「どうも」

 シャーロットの前に置かれたパフェを俺の方に引き寄せ、代わりにタルトを押しやると、一瞬ウェイターが「そっちかよ」という顔をした。

 

 彼が立ち去ったのを見計らってテーブルに置かれたシュガースティックの封を5本纏めて引き千切り、カフェオレのカップの上で引っ繰り返す。

 ザラザラと流れ込む砂糖の向こう側で、シャーロットが呆れたように端正な眉を上げた。

 

「それすぐ死ぬヤツ」

「平気だろ、俺まだ若いし。甘党なんだから仕方ない」

 

 安っぽいプラスチックの使い捨てマドラーで雑に攪拌しつつ、俺は彼に微笑みかける。

 

「あいつらとも大分打ち解けて来たんじゃないか?」

「そういう保護者気取り、ウザいっつってんでしょ」

「そう怒るなって。俺の方が多少は社会経験豊富なんだから頼って欲しい気持ちもあるんだ」

「…………」

「で? どうよ?」

「まるっきりの雑魚じゃないのは、認めるけど」

「素直じゃないん――――あいてッ」

 

 テーブルの下で足を軽く蹴られる。足癖の悪さは相変わらずだ。

 

 

 さて、俺とシャーロットは珍しく二人で福留島のショッピングモールまで出掛けていた。特に大層な理由はなく、そろそろ二人の時間を持ちたいと思ったためだ。

 ついでにちょっとした買い物の予定もあるが、今はその前に雰囲気のいいカフェで一服といったところ。

 

 話題に上るのはチームメイトのことだ。

 まあ実際、転校してきてからほとんどの時間を彼らのうち誰かしらと過ごしている訳で。同僚との良好な関係なんて望むべくもなかった重力子(グラビティチルドレン)時代や、こっちに生まれてからの生活においても割と人間関係に無頓着だったシャーロットの生活において、彼らは今までにない刺激になっているはずだった。

 そんな環境下でストレスの一つも感じてやいないかと心配していた訳だが、様子を見る限り問題はなさそうである。

 

 お互いカップを傾け、静かなピアノのBGMだけが俺達の間に流れる。

 ゆったりとした沈黙。居心地の悪さとは無縁な静けさがしばし続き、不意にシャーロットがテーブルに頬杖をついた。

 バラ色が差した小振りな色白の頬の表面を、白金の髪がさらさらと流れるように伝う。

 

「……ね、セロ」

「ん?」

「私は、あんたの役に立ててる?」

 

 何でもない話題のような語調。でも、俺にはそうではないと分かっていた。

 

「もちろん。今日の練習でも助かったしな」

 口に上らせたのは、ほんの数時間前のことだった。

 

 

 

 久奈浜学院での授業の合間、昼休みでのことだ。

 普段であれば教室なり屋上なりで昼食を摂るところ、俺たちチームの5人は揃って人目を避けるようにして構内にあるチャペルの裏手、雑木林に面したエリアまで足を伸ばしていた。

 

 それは何も今日に始まった事ではない。先日にチームメンバーのATが揃って以降、バイト――ユニフォーム代はまだ稼ぎ終えていない――やらFC選手組はそっちの練習もあるやらで都合の合いにくい俺達は、可能な限り早くFクラス戦に進みたい事情もあり、わずかな時間でも活用してA・T(エアトレック)の練習をすることにしているのだ。

 

「う、わ……とっとっとっととっとぉッ!?」

「前傾姿勢! 足バタバタせず体重は前輪だ!」

「ぜ、前傾……ってスピードォ!?」

「んで徐々に姿勢戻して速度落とす! 停止はスピンターンだぞ、教えた通りに!」

 

 バランスを崩して仰け反りそうになる隼人に声を掛けると、A・T(エアトレック)の加速に面喰いながらも何とか態勢を持ち直し、転ぶこと無く停止した。

 

「お見事」

「……ふうーッ、やっぱ見るのとやるのじゃ全然違うな」

「そりゃそーでしょ……あ、そだ」

 

 隼人が安堵したように深呼吸したところで、珠美が思い出したようにスマホを取り出した。

 

「〈リード〉! ……あ、隼人くん対地最高速(さいこうそく)上がってる! 新記録!」

「そりゃあんだけ出てればな……レベルは?」

「んーん。1のまんま」

「ダメかぁ……」

 

 二人が言っているのは、先日パーツショップで彼らにも見せたスマホアプリの事だ。

 例によってアヴァロン(うち)が一枚噛んでいるが、A・Tと通信し、走行ログから各種データを瞬時に表示してくれる優れもの。“レベル”というのは、総合的な上手さの指標……漫画『エア・ギア』読者ならお馴染みの(バトル)レベルのことだ。

 

 レベルが上がっているのを期待していたのか肩を落とす隼人に、シャーロットが鼻を鳴らした。

 

「あのね、ライダーってのは5m程度の着地とか最低限の壁走り(ウォール)ができてようやく半人前なの。レベル気にするのは気が早いなんてモンじゃないわ」

「そうか……」

 

 少し声の調子が落ちる。

 そんな様子に何を思ったのか、言い繕うようにシャーロットは続けた。

 

「……まぁ、その。アンタはFCの下積みがあるでしょうし」

「え?」

「三次元的な距離感とか……その、必要な感覚は鍛えられているから……上達にそう時間は掛かんないんじゃない」

 

 心なしか早口に言い切って、そのままそっぽを向いてジャンプを練習中の葵の方へ歩いていく。

 取り残された俺たちは思わず顔を見合わせた。

 

「ひょっとして今の、励ましてくれたのか?」

「……だろうな。まあ素直じゃないのよ。そこが可愛いんだけど」

「ひゃー、デレた……」

「それ言ったら蹴っ飛ばされるから気を付けてね?」

 

 

 

 

 

 その時のことを思い出し、ひとつ思い出し笑いが漏れる。

「俺だけじゃなくて、あいつらだってお前の存在を有難く思ってるに決まってる」

「……そ」

「けどな」

「?」

 

 一点だけ、譲れないことがあった。

 

「『役に立つ』なんて卑屈な言い方はよせよ。俺達はもうニケの道具じゃないんだ。

 ……むしろこっちから言うべきだな。これからも俺を助けてくれ、シャーロット」

「――――」

 

 それに何を思ったか、シャーロットは少し驚いたように目を開き。

 ひとつ瞬きをして、静かに目を閉じた。

 

「……そうね。あんた弱いし、危なっかしいし。少しぐらいはね」

「おいおい」

 

 

 それから、俺達は色々な話をした。

 大昔のこと。

 ちょっと前のこと。

 最近のこと。

 茶菓子の食器が空になるころには、店の窓から見える日差しはすっかり赤みを帯びていた。

 

 脇に寄せられた食器がカチャリと音を立てて、俺は席から軽く腰を浮かせる。

 

「じゃ、ご馳走様して行きますか。次は3階のスポーツ用品店だな」

「まさかFC用品を揃える日が来るなんてね」

「そりゃ部長命令だしな。それに俺だって見たいし、シャーロットのフライングスーツ姿」

「……ばか」

 

 

 

 

###

 

 

 

「セロくん達はFC用品買いに行くって言ってたから、今日はわたしたち3人!

 って事でよろしくね、あおちゃんっ」

 フライングスーツに身を包んだ珠美が、私の前で両手の袖をひらひらと振った。

 

 場所は私がいつもFCの練習に使っている浜辺。海水浴シーズンでもないので人影もない。

 ここ最近はすっかりA・T(エアトレック)関係の諸々にかまけていたが、私と隼人はFC選手だ。それもその辺のいち学生選手ではなく、地区大会や全国大会の有力選手として目を付けられているレベルの。

 研鑽を疎かにして情けない結果を晒すのはプライドが許さないし、いい結果を残せば高校卒業後の進路にも影響がある以上、手を抜くという選択肢は存在しなかった。

 

「しっかし珠美が参加するなんて意外だなあ、どういう風の吹き回しだ?」

 

 不思議そうに隼人が言うと、珠美は憤懣やるかたない調子で頬を膨らませた。

 

「ちょっとちょっとちょっとー、わたし部長! キミら部員! なんですけど!」

「「…………あ」」

「ほらー! やっぱ忘れてるし!! 特にあおちゃんは忘れちゃだめでしょーが!!」

 

 ――――そういえば、そんな話あったな。完全にすっぽ抜けてた。

 

 もともと珠美はスカイスポーツに興味があり、それで高3にもなってSS(スカイスポーツ)同好会なんてものを立ち上げようとしていた。それも私を引き込んで。

 私はそれを逆手に取って、同好会に入る代わりに暴風族〈エア・ギア〉のメンバーとして珠美を引き込んだのだった。ついでに言えば、その時の話の流れで他のチームメンバーも同好会の面子としてカウントされていたはずだ。

 彼女の認識としては暴風族チームとしてのリーダーは私だが、同好会としては発起人である自分が部長だという事だろうか。ややこしい話ではあるが。

 

「すまんすまん……でも、あの同好会の話は結局どうなったんだ? 顧問が見つかったとか、そんな話もしてなかったと思うが」

 そういった進展があれば、聞かれずとも喋り倒す性格なのは良く良く知っている。

 

「ぐぐ……見つかんなかったんだよー! 高3なんだから勉強に専念しろとか、部費は年度初めに支給額決まるからその時にはお前卒業だぞとか! 失礼しちゃうよ!」

「そりゃまたド正論だな……」

「いいもん! 非公式同好会でやってくから!」

 

 苦笑いする隼人と、ぷんすかと腕を振り回す珠美。

 袖口からぶら下がるヒレのような部分が再びばさばさと音を立てた。

 

 

 ――フライングスーツ。FCという競技においては着用が義務付けられている服だ。

 材質はほとんどウェットスーツと同じで、形状や構造も概ねそれに倣うが細部が違う。全体的に通気性に配慮されているのもあるが、外見上最も大きな違いは今珠美が振り回している“袖”の部分だろう。だいたい幅30㎝、長さ1m強のヒレのような布が袖口についているのだ。

 これは競技中に着水した時には浮き袋として機能し、通常時でも選手同士がお互いの動きを視認しやすくなるように設計されたものだ。

 

 ちなみにカラーリングは割と自由が利き、特に学校やチームで揃える決まりがある訳でもない。

 私は黒ベースに赤いラインが入ったもの。目の前の珠美は白地にオレンジで、ついでに隼人は薄いグレーに青とバラバラだ。

 

 そのフライングスーツもそうなのだが、そもそも競技用のグラシュだって四島市民が日常的に使っているものとはまるで別物だというのに、どこで入手してきたのだろうか?

 疑問に思って聞けば、A・T代がパーツの使い回しで安く済んだのと、バイトを大量に入れていたお陰で資金に余裕があったそうな。

 

「だから結構ちゃんとしたの買えちゃった! へへ、可愛いっしょ?」

「授業中ほぼ爆睡しといてよくそんなドヤ顔できるな……」

 

 こいつ、今年受験生だということを理解しているのだろうか……。

 そんなに成績は悪くなかったと思うが、親御さんでもないのに心配になってくる。

 

 ともあれ、そんな感じで私たちのFC練習はスタートした。

 

 

 

 

 FCの練習といっても、特別なことは何もない。

 体造りの基礎トレーニングと、飛行や機動(マニューバ)の練習あるのみだ。

 

「まずはフィールドフライ(周回飛行)20本、隼人は後ろから姿勢を見てやって貰えるか」

「ああ」

「その後私が上がって、珠美と2人で向かい合った状態から正面衝突(ヘッドオン)で接触するケースの練習にしよう。空中での反発とリカバリーに慣れておいた方がいい」

「うんっ、よろしくね!」

 

 ひとまずストレッチと軽いウォームアップを終え、お次は飛行だ。ほぼ初心者の珠美の面倒を私と隼人で交互に見る事となるが、私たちもここ最近他事にかまけて鈍っていた感覚を取り戻すには丁度いいだろう。

 

 グラシュの起動キーを呟いて高度50mほどまで上がっていった二人が、前傾姿勢になってぐるぐると円を描く軌道で飛び始める。

 早速隼人に色々と指摘を食らったようで、珠美は時折慌てたようにふらつきながらやや歪んだ楕円形を描き出していた。

 

 懐かしいもんだな。私も初めたばかりの頃はあんなもんだった。

 

 一方で新鮮さがあるのも確かだ。久奈島では私と隼人ぐらいしか競技FCをやってる学生は見掛けないし、こんな時期に新入りが現れるだなんて思いもしなかった。

 

 ふと、珠美に同好会の話を持ち掛けられた時の話を思い出した。

 セロとシャーロットが転校してきた日だ。あれから1か月も経っていないはずなのに、随分遠い日の出来事のように感じる。

 

 あの時……私は参加を断ろうとしていたはずだ。それは、何でだっただろうか。

 それだけのことが一瞬出てこなくて、思い出すのに少し労力が要った。

 

 ――ああ、そういえば、私は塞ぎ込んでいたんだった。

 

 教え子の晶也が初めてのスランプに陥り、それに満足なアドバイスもしてやれなかったこと。

 編み出した新技――〈アンジェリック・ヘイロー〉が、あまりに()()()()()()()を持っていて、それを使うことも捨てることもできない自分の中途半端さが情けなかったこと。

 

 そのことを……それ()()のことを、思い出す。

 まるで他人事か無関係の小説でも眺めるみたいに感じている自分に気付いて、ひどく意外なような、しかし腑に落ちたような気分になった。

 

 

 ――だってさ、そりゃあ……そうもなるだろ?

 

 弁解するような、笑い話でもするような言葉を、誰に言うでもなく心に浮かべる。

 

 私とは別の“空を飛ぶ道具”を履いた連中がやって来て。

 そいつらに空の高さを教わった。

 

 結局、私は私を負かす誰かが欲しかっただけなのか?

 そうではない気もするし、そのぐらい単純に考えた方がいいという気もする。

 

 少なくとも、チーム作りの為に奔走する日々も、組みあがった私のA・Tも、こうして珠美たちが飛んでいる青空を眺めるのも、そう悪くないのは確かだった。

 

 

(あ、そういえば)

 そうして順番待ちしている最中、ふと気になることがあって鞄からスマホを取り出した。

 私のA・T(エアトレック)――さらに言えば、ゴトー爺さんから貰ったボディパーツのことだ。セロは多くを語らなかったが、あの反応ではなにかあると言っていたようなもので、気にならないと言えば嘘になる。

 

「確か……レガリア、とかいう名前だったよな」

 検索エンジンに[エアトレック アヴァロン レガリア]と打ち込めば、すぐにそれらしい検索結果が表示された。

 

 

【雑談】レガリアってマジで実在すんの? - ATまとめ速報

0ch過去ログ倉庫:【A・T】アヴァロン社製品part1622【最大手】

王とか玉璽とか中二すぎて草www - らいだーけいじばん

 

 

「…………」

 それらを見て――正直、少し面食らう。

 普通に製品紹介のページでも出てくるのかと思いきや、あたかも都市伝説でも語るみたいな論調のサイトばかり表示されたからだ。

 

 少し悩んで、幾らかはマトモな内容が期待できそうな候補をタップした。

 

 

【A・T】アヴァロン社製品part1622【最大手】

 

546:名無しライダー ID:xoi26AYAD

やっぱ気になるのはレガリアなんだよなぁ

 

547:名無しライダー ID:23czBdE8s

去年11月のリーク資料はガチやろ少なくとも先月発表された新モデル載ってたし

 

548:名無しライダー ID:pYJrWPqsc

そこだけ正しくても他も合ってる保障ないじゃん(ないじゃん)

あんな画像いくらでも偽造できるし

 

549:名無しライダー ID:y2UzfwbUE

お、陰謀論か?

 

550:名無しライダー ID:LOEmkcKLF

頭にアルミホイル巻いてそう

 

551:名無しライダー ID:PrR2GnbQ1

ATにアルミテープ貼ってそう

 

552:名無しライダー ID:fVcWrSB+Q

貼らなくてもBランクだぞFラン君^^

 

553:名無しライダー ID:sF4y0fQ6n

シュババ

 

554:名無しライダー ID:SaUbQY+MI

これは恥ずかしい

 

555:名無しライダー ID:EAsVKhZmW

レガリアに話し戻すけど今所在分かってるやつ以外になんてあるのかね

普通そんな超絶AT持ってたら履きまくり走りまくり見せびらかしまくりだろ

 

556:名無しライダー ID:ro/qtT4Zh

確認出来てんのは3つだっけ?

 

557:名無しライダー ID:o5d15uPWS

今は2つだぞ

轟はアーマゲスト解散して消息不明 実在するのは確かだけど

 

558:名無しライダー ID:KDbNQqhaq

シャーロットくんちゃん姉貴兄貴ほんと可愛くてすこ

tntnが苛立つ

 

559:名無しライダー ID:8A89TjrQE

ホモじゃん

 

560:名無しライダー ID:Celo/svFG

シャーロットなら俺の隣で寝てるよ

 

561:名無しライダー ID:bBeJZTif4

そのレガリアが2つとも日本にあるとかいう事実

 

562:名無しライダー ID:V5p+xd0n6

それどころか両方同じチームなんだよなあ…バランスこわれる

 

563:名無しライダー ID:uyX3JG0K0

もうファーレンハイトに勝てる奴おらんやろ

メンバーの層も厚いし隙が無さすぎる

 

564:名無しライダー ID:ZVYFrKheQ

炎の王姉貴エッチだ……

 

565:名無しライダー ID:4ACm//fKR

暴風族の話はスレ違いだぞ専スレ池

 

566:名無しライダー ID:vV59rQ1bT

申し訳ないがなつシコ民を放流するのはNG

 

 

 

「うーん……」

 どうにも雲をつかむような話だ。私の調べ方が悪いとかじゃないよな?

 

 字面通りに受け取るなら何やら凄いA・Tのようだが……ここ数日の練習でも、特に隼人や珠美のそれに比べて特別優れているようには感じなかった。

 乗り手が素人に毛が生えたような技量だからか?

 あるいは私のは一部のパーツしか無かったから、()()()()()()()()()()()とか?

 

 よく分からないが、少なくとも、ひけらかせば無用な注目を集めることは分かった。

 

 それと、どうやら日本に他にもレガリアの持ち主がいるようだ。

 ついでに調べるか、と思ったところで、

 

「葵ー! こっち終わったぞー!」

「っと、了解ー! 今そっちに上がる!」

 

 隼人たちが一段落付いたようだ。

 私はスマホを鞄へ放り捨て、グラシュの起動キーを口にした。

 

 

 

###

 

 

 

 

「おつかれー! 今日はありがとねー!」

「ああ、また明日な」

 

 練習を終えた帰り道。

 手をぶんぶん振って(流石に子供っぽくないか?)去っていく珠美と、家が同じ方向の隼人に別れを告げ、私は小さく振り返していた手を下ろした。

 

 南国の四島では春から初夏になりつつあるとは言え、6時過ぎともなればもう日は傾いている。

 私は肩を解すように軽く回し、踵を返して歩き出した。

 

 海辺の車道の隅っこを、海風になびく髪を押さえながらゆっくり歩いていく。

 

 ……やはり、いくらか勘が鈍っていたな。

 初心者の珠美にもできる練習ばかりしていたら私たちの方が練習にならないんじゃないかと心配していたが、意外といい錆び落としになってしまった。

 武道は1日休むと取り戻すのに3日掛かるなんて言うが、スポーツも似たようなものだな。

 

 次からはセロとシャーロットも参加するはずだが、二人の習熟度はどの位なのだろうか。珠美の話では北欧の学生王者に勝ったと言っていたが、あいつらならA・T(エアトレック)で勝ちましたと言い出しても驚かない。

 

 ――そんな事を考えながら、道のりの半ばほどに差し掛かった時だった。

 

 

「あら、こんばんは、各務さん」

 

 

 地味な色合いの季節外れなマフラーを巻いた、久奈浜のセーラー服を纏った少女。

 どこか見覚えのある人物が、西日を背にして私の前に立っていた。

 

「あんたは……確か、」

 

 既視感に戸惑ったのは一瞬。いつかの通学中に出会った相手だと気付く。

 彼女はアンダーリムの丸っこい眼鏡の向こうで穏やかに目を細めた。

 

「青柳です。青柳彩夏(あおやぎ さやか)

 

 そう。たしか、そんな名前だった。

 

「そうか。……こんばんは、青柳さん」

 

 それだけ言って軽く会釈し、横を通り過ぎようとした。

 私は珠美のように社交的なタイプでもない。学年が同じだけでクラスメイトでもない相手に、他にすべき事もなかったからだ。

 

 緩めていた歩調を戻して歩みを進め、まさに私たちが擦れ違おうとした、その瞬間。

 

 

「……ああ、楽しみですね。本当に」

 

「――――?」

 

 独り言でもいうような、何気ない語調。

 そんな風に青柳が呟いた言葉に、私は何とも言いようのない不穏さを嗅ぎ取った。

 

 思わず振り向く。

 だが私の直感に反して、青柳はマフラーの裾とお下げ髪の先をゆったりと揺らしながら、何の気負いもなく歩き去って行った。

 

「……」

 

 なんだ、今のは?

 

 気掛かりな部分はあったが、じゃあそれが何かと言われれば答えに窮するような判然としない感覚。

 結局、私はもう一度振り返って家路を急ぐほか無かった。

 

 

 

 

 ――――この時は気付きもしていなかったが。

 私たちを照らしていた穏やかな陽だまりは、もうじき去ってしまう()()()に過ぎなかった。

 

 

 分厚い雲が近付いていた。

 荒れ狂う風の、前兆が。

 

 

 





執筆と書き溜めを並行する期間に入りますので、投稿感覚が少し空くことになるかと思われます。

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