あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
とりあえずここまで一括投稿。
以降は2~4日に1話ペースになると思います。(予定は未定)
本話より第1章。原作7年前、葵さんや白瀬店長の高校時代です。
また、グラシュや反重力周りに多少の捏造設定があります。
第一章はあおかな的スポ根よりもエアギア前半(15巻あたりまで)的な雰囲気で書いていく予定です。
要はストリートスポーツチーマーバイオレンス青春バトルです。
あと、この時代の原作登場人物が上記2人くらいしかいないのでオリキャラいっぱい出てきます。
これもひとえにあおかな編に向けた仕込みですので、どうかぐっと堪えてご了承いただきたい次第です。かしこ。
Trick.1: HOW TO FLY (Hehe, not like U) (1)
ぺちん、と可愛らしく両手を打ち鳴らす音が、朝の教室の喧騒に呑まれていった。
「お願いお願いおねがいだよー! ねっ、一生のお願い!」
「そう言われてもな……」
進学校でもない田舎の高校じゃ、登校なんてのは多かれ少なかれかったるいものだ。
ましてや今さら目新しいこともない3年生、それも新学期最初の登校日なんて……。
私とてそんなふうに自己正当化しながら大あくびの一つも打ちたい所だったが、どうにも喧しい
やつに絡まれていた。
「お~ね~が~い~っ、頼むよーあおちゃん~」
「あおちゃんは止めろ」
まあ目くじらを立てる程ではないが……。
そんなことをぼけっと考えながら、目の前の朝っぱらから騒がしい人物を見やる。
「なあ、
「なにかなあおちゃん! SS同好会、入ってくれる気になった!?」
「入らん入らん。そもそもそのエスエス? が何かも聞いてないと思うけど?」
大体想像は付くが。
活発な印象の通り交友関係の広い――それこそ、私のような無愛想
はたして、「あり?」とくりくりした目を見開いた赤崎の返答は予想に違わぬものだった。
「またまたまたぁ。そんなのスカイスポーツの略に決まってるじゃん!」
「……ま、そんなとこだろうと思ったよ」
だからこそ、
何よりここ数日、少々思うところがあってブルー気味なのだ。
にぱっと笑って「頼むよぉー」と顔をぐいぐい近付けてくる彼女を押し返しながら、私は背けた顔で窓の外の青空を見上げた。
スカイスポーツ。
これが5、6年前なら、スカイダイビングだの何だのといった、高校生の部活としちゃ分不相応なレジャーを指した言葉だったことだろう。
だが近年――特にこの地、
そう、つまり――
空を飛ぶ靴。
その登場から5年も経つのに今更だが、字面は中々にファンタジーだよな。
私は人より
そんな代物がこの世に生まれた契機はおよそ8年前、インドのラージャスターン州にある粒子加速器とかいう実験施設で『ある粒子』が発見された事だ。
一般的には略してアンチグラビトンだとかAG粒子だとか、あるいは解りやすさ重視で単に"反重力"と呼ばれるこの物質は、重力に反発して浮揚する性質を持ち、さらにいくつかの有用な性質すらも持ち合わせていた。
私は当時小学生だったので記憶が朧気だが、『世界の常識を変える発見』と呼ばれ、発見者はノーベル物理学賞を受賞したとかなんとか。
そんな反重力粒子の発見後、世界中の人間や企業なんかが色々な領域で活用方法を模索する中で
発明されたのが"空飛ぶ靴"というわけだ。
着用した人間を自転車以上スクーター以下程度の速度で飛行させることが可能な代物で、次世代の移動手段として注目され日本各地で試験運用が行われているところだ。
ここ四島列島もまた、そんな試験運用地のひとつ。
そしてグラシュの用途は移動に留まらず、それを活用したスポーツも次々と考案された。
今時において"スカイスポーツ"と言えばそれらを指すのが一般的で……私もまた、そんなスカイスポーツに身を投じている人間だ。
赤崎は今まで無かった部活を設立したくて、経験者である私を引き込みたいのだろう。
その意気は買わんでもない。
だが私にも言い分があった。
「私は一人でも十分、選手としてやれてるしなあ」
「うぐ……」
「第一、高3にもなって新部設立したって夏には引退じゃないか?」
「うぐぐ……でもでもでもだよ! こう……ストイックにやるだけじゃなく、みんなで和気藹々! アオハル! 思い出作り! 的なのも……よ、よくね? どうすかね?」
「なんで自信なさげなんだ……。
"みんな"つったって、部員候補は集まってるのか?」
「うぎゅぎゅぎゅぎゅ……にゃいですゥ……」
集まってないらしい。
珍妙な鳴き声を上げて意気消沈する友人に私はひとつため息をついた。
「経験者なら
小5の頃から同じクラス、家も近所の腐れ縁で、私と同じスカイスポーツ――
選手としてもかなりのもので、去年の地区大会決勝では私と当たっている。
まだ声をかけていないなら、と思い推薦(スケープゴートとも言う)したのだが、赤崎は首を縦に振らない。
「白瀬くんも声は掛けるつもりだけど、まずはあおちゃんオトしてからかなーって」
「オトすってお前な。つーか、なんで私?」
何やら私に拘りがあるようだけど、とんと身に覚えがない。
それを問うと赤崎は居心地悪そうに胸の前で人差し指を突き合わせ(あざとい仕草だが、小柄なこいつがやると妙に似合う)、ぽしょぽしょと歯切れ悪く答えた。
「それはそのお……あんね、こないだね? 浜辺のトコで、あおちゃんが小学生ぐらいの男の子にFC教えてるの見かけて」
「うっ」
今度は私が呻く番だった。
見られてたのか……。
隠していたわけでもないから仕方ないとはいえ、少し気が沈む。
その男の子――
朝から憂鬱気味だった理由の一端と言っていい。
とはいえ、それを赤崎に言っても仕方ない。
「――で? あれを見て、引っ張り込めばコーチ役にもできて一石二鳥だって?」
「へへぇ、おっしゃるとーりで……厚かましくてゴメンよぉ」
多少は後ろめたさを感じているのか、ただでさえ小さい体躯をしおしおと縮める赤崎。
どしゃ降りに遭った子リスみたいな有様だ。
何故か私まで訳もなく罪悪感を感じ始めたところで、萎れていた彼女は背筋をぴょんっと伸ばした。
「あ、でもでもでも! FCやったり教えたりがアレでもさ、ほら、スカイスポーツ部だから!
こう他の競技なんかもやってみたら……FCにも役立ったりするかも? どう?」
「どう、って」
おもくそ取って付けたような理由で粘られたが、一応考えてみる。
他の競技、他の競技ね。
グラシュ登場から5年。競技用と呼ばれる
玉石混交な数多の競技が雨後のタケノコよろしく生まれては淘汰されている真っ最中な
わけだが、ある程度複雑なルールを持つ種目はFC一強になりつつある。
あと数年も経てばスカイスポーツ全体における競技人口ではFCが7割を越すだろう、なんて予測もある。
消えゆく種目をやるのは正直気が進まないし、かといってそれら以外だとシンプルなレース類しか残らない。
FC自体は短距離レースと鬼ごっこが組み合わさったような代物だから、レース類にチャレンジした所で新しい技能が身に付くとも思えなかった。
それを率直に伝えると、赤崎は平坦な胸を張って「ちっちっち」とドヤ顔で舌を鳴らした。
「まだあるよ! いいのが!」
「何だ?」
「――
「おいおい……」
そう来たか。
私は今度こそ頭を抱えた。
####
"
グラシュとはある意味対照的な、もうひとつの"空を飛ぶ靴"。
グラシュの運用区域であるこの四島ではまず聞かない代物だ。
だが運用区域の外を見渡せば、むしろよりメジャーな存在でもある。
そして、その色々と
まあショボい。
そのくせ当時出たモデルは、安くて15万円弱もした。
多くの先進国ではグラシュ普及のために補助金を出し購入者の負担額を減らしていたので、コスパでも大きく水をあけられていたのは間違いない。
非競技用でも25km/h程度で自由自在に飛び回れる
当時のPR記事やレビュー記事が日本はおろか本国ですらロクに無かった、という逸話からもよく分かる。
だが、風向きは唐突に変わった。
突如として
速度上限の引き上げ。
跳躍・着地アシストの強化。
――そして、
そして、何者かがそれらをフルに使用して常人離れした
呼応するように、アヴァロン社は突如A・Tの生産工程の一部を動画として公開。
『A・Tは60km/hで最低30000kmの耐久性試験を行っている』という、含みを持たせた発表を行った。
『ご安心ください』という謳い文句がどういう意図を含んでいるか、視聴者は全員察していただろう。
それだけではない。場外からも追い風があった。
グラシュに関する法規制が思ったよりもガチガチで、当初に人々が思い描いていた『人間が自由自在に飛び回れる未来社会の到来』とは程遠かったことへの反発意識がじわじわと広がっていたのだ。
そんな中で登場した"もうひとつの空飛ぶ靴"に熱狂する世論を前に、一仕事終えたばかりの司法も政治も腰が重かった。
なにしろ人を飛行させるんじゃなく跳躍を補助する道具だったから、航空法に追加されたグラシュ関係の条項で一纏めに扱うこともできなかったようだ。
気づけば先進国の都市部を中心に爆発的に浸透していたという流れだ。
アヴァロンがわざわざ性能を低くしてから売り出し、後から本来の機能を解放するなんて迂遠な真似をしたのも、この既成事実めいた状況を後出しジャンケン的に作り出す狙いがあったと囁かれている。
他にも
「
「えーなんで」
「危なっかしい。転んで泣いても知らんぞ」
「むかー! オカンかあんたわー!」
部活の誘いへの答えをはぐらかして適当にあしらえば、言い様がお気に召さなかったのか犬歯を見せながら私の机をガタガタ揺らす赤崎。
子猿かお前は。
ま、危ないだの何だのはこいつへの忠告であって私の理由ではない。そこを突っつかれると
面倒だ。
赤崎には悪いが、今は悩み事が多くて新しく何かに手を付けるような気分じゃないのだ。
最近の晶也のこと。
FCの練習中に思いついてしまった、
じわりと心をいやなものが過ぎって、私はそれらを振り払うようにかぶりを振った。
やめろ。今考えたって仕方のないことだ。
そう理性では考えるが、どうにもならない部分が滅入るのは抑えられずに気が沈む。
勧誘を断る文句を考えるのも億劫になってきたところで、赤崎は意外なことを言い出した。
「転ばないし! おさがりだけどA・Tだって持ってるんだよ!
「…………」
マジか。
その時、たぶん私は普段ならしないような口半開きのアホ面を浮かべていたと思う。
一瞬滲んだ憂鬱さも飛んでしまう程度には驚いた。
驚いたのは、スジが良い云々のところにではない。
バイクに乗った暴走族すらいないような平和な久奈島で、赤崎みたいな元気印の口からそんな連中との繋がりが出てくるというのは中々にインパクトが強かった。
私のリアクションをどう受け取ったんだか、赤崎は「あ、暴風族に興味ある!? わたし良いもの持ってきたから見せたげるね!」なんて言いながら自席までぴょこぴょこ駆けていき、カバンから何かの雑誌を抜き取って戻ってきた。
「部員集めのためにそんなものまで持ってきたのか? 教師に見つかったらコトだぞ」
「まーまーまー、いいってことだよ。
えーとね……あった、このページ!」
これまた不似合いなストリートスポーツ系?の雑誌をパラパラとめくっていた赤崎が、がばっと
真ん中あたりのページを開く。
どれどれ、と覗き込んだところで――
「はい、みんなおはよう。
「うぎゃーっ先生きたーっ。あおちゃん、後でね!」
「あ、おい、私んとこに雑誌置いて……」
教室前側の引き戸をガラガラと開けて教師が入ってきた。
なぜか雑誌を放り出してぴゅーっと逃げるように席へ戻っていく赤崎だったが、着席してから気づいたのか両手を合わせてぺこぺこ頭を下げてくる。
私はといえば、自分の物でもない雑誌を見咎められて叱られるのも面白くないので、教師の注意を引かないようそろそろと雑誌を机の引き出しに――は入らなかったので、しぶしぶ太ももの上に置いた。
まったく、新学期初日からなにやってんだか。
内心ぼやきつつ、教師が退屈な挨拶やら注意事項をつらつら述べている間の暇つぶしでも、とさっき見損ねた雑誌のページに目をやる。
"A・T界のレジェンド"
"轟の王"
"わずか2人だけで構成されるA級チームの素顔に……"
なにやら仰々しい言葉で飾られた外国人の男女2人。
十代くらいに見えるが、どちらもえらく美形だ。
特に女の方はとんでもない美少女で、白人にしたって白い肌といい写真越しでもきめ細かさが見て取れるブロンドといい、紙面でアピールされている"何やらすごい
ドレス風のワンピースを纏っていることもあって"お姫様"のステレオタイプをそのままCGで再現したかのような美しさばかり印象に残る。
なんというか、これがファッション雑誌で2人は看板モデルですと言われた方が納得だな……。
そんな事を考えながら写真をじろじろ眺めていると、急にクラス中がどよめいた。
「?」
余所見がバレたのかと思ったが、誰もこっちを見たりはしていない。
なら何をと思えば、誰もかれも教室の前側入り口に注目しているようだ。
「イギリスからの留学生! しかも男子2人!」
「イケメンだったらどーしよっ、あたし英語全然ダメなんだけど!」
「いや喋れたからどうにかなるってもんでもないでしょ」
……なるほど。
ちょうどおあつらえ向きに周囲の会話が耳に入り、状況が理解できた。
転校生ね。
高3なんて時期に、それもわざわざ海外からこんなド田舎の離島行きとはご愁傷様だ。
しかし3年には2クラスあるのに、2人を振り分けたりしないのだろうか?
まあ、どうでもいいか。
ぼけっと周囲に倣って入り口を眺めていると――扉が開き、件の転校生が教室に現れた。
先に入ってきたのは背の高い男。身長は180前後あるだろうか。
整えられたライトブラウンの髪は清潔感があり、グレーの瞳や彫りの深い整った顔立ちもあって
ウチの没個性な学ランでさえ妙にファッショナブルな着こなしに見える。
……ん?
他の女子が小声でキャーキャー騒いでいる中、私は妙な既視感を覚えていた。
あの顔、つい最近どこかで見たような……。
いや、でもそんな機会あったか?
記憶を辿ろうとするが、続いて入ってきた2人目を見て思考が一瞬フリーズする。
なぜなら。
つかつかと入ってきたのはとんでもない美少女だったからだ。
まず目を惹くのは、窓からの朝日を帯びてうっすらと赤みを帯びる金の髪。
毛先を緩くロールさせた膝丈のロングヘアは豪奢の一言に尽きる。
その髪と、これまた黄金色の大きな双眸に彩られた顔もまた現実離れして美しい。
鼻筋は人種を考えれば少し低めで、髪と同色の睫毛も離れた位置から見て取れる程長い。
絵に描いたような小顔小口で、輪郭からパーツの配置から、もはや嫉妬心も沸かないくらいには
完璧としか言いようのないバランスで整えられていた。
なんというか、まさに"お姫様"のステレオタイプをそのままCGで再現したかのような……
……ん?
なんか……やっぱり既視感がないか?
絶対最近どこかで見たよな?
喉に小骨でも引っかかったような、くしゃみが出る一歩手前のようなもどかしさを感じる。
何か出てこないかと自分の額を指でコツコツやっていると、担任が何やら物凄く葛藤を
感じさせる表情で口を開いた。
「セロ・アヴァロン君と、えー……その、シャーロット・アヴァロン……
二人とも日本語は話せるが、イギリスから来たばかりなので色々と助けてあげるように」
……ん?
いま何か変なことを言わなかったか?
先ほどまでとは別種の引っかかりを感じる。
クラスの面々も同意見なのか、徐々にざわめきが収まって異様な沈黙が教室を包み込んだ。
一面静まり返った後、一人の女子が恐る恐る手を挙げた。
「あのぉ……先生?」
「ん?」
「えっと……転校生は、
「……」
先生は何故か答えず、眉間を2、3秒抑えてあーとかうーとか不明瞭な音を発した。
なんなんださっきから。あまり生徒に不安感を与えないでくれ。
更なる戸惑いが教室に満ちる。
そんな空気を嫌ったのか、転校生の
ついてから口を開いた。
発せられる声は、これまた外見に似合った甘く澄んだもので……
「私は男よ」
……。
え?
今なんつった?
男? 誰が?
……。
えっ。
『うええぇーーッ!?!?』
みんな叫んだ。
キャラじゃないが、たぶん私も叫んだ。
####
この時、私は気づいていなかった。
ヒントは確かにあった。
思わず身を乗り出したせいで腿の上から床に滑り落ちた雑誌。
クラスで唯一叫ばず、しきりに目を擦ってはぱちぱち瞬きしていた赤崎。
彼らが何者であるか――そして、私にとってどういう存在になるか。
それを知るのは、その日の放課後の事だった。