あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
バトル回。こういうハイスピード戦闘は妙に書きやすいですね。
自分で言うのもあれですが適正あるのかも。
しかしこの小説、伸びない……。何かコツとかあるのだろうか。
執筆BGM:蒼の彼方へ(あおかなOST)
「見つけた……!」
奴らの姿を視界に捉えたとき、既に辺りは夜の暗がりに覆われていた。
空中で全身をぐっと前傾させる。
グラシュによる飛行の原理は、反重力粒子によって空気中で疑似浮力を得るというものだ。
カートリッジと呼ばれるパーツに充填された粒子が起動とともに展開され、粒子は人間の体表電位に反応して吸着。小さな球状の範囲に見えない泡のような浮揚フィールドを広げる。
その"見えない泡"が密集すると、さながらシャボン玉が結合して大きな泡を形成するように、浮揚フィールド同士も繋がって一つの大きなフィールドになるのだ。
この際、体表の"泡"が結合するため、フィールドの形状は人型を一回り大きくした着ぐるみのようになる。この状態を一般的に“
これだけでは上方向にノロノロ加速しながら浮いていくだけだが、一定の電波信号を当てて浮く方向を偏向したり、メンブレン内での粒子濃度を調節することで速度を上げたりすることができる。
それらの制御機構とメンブレンの生成機構を詰め込んだ靴型の装置がグラシュという訳だ。
なお、
グラシュの操作は姿勢によって行う。
前傾姿勢は――"前方へ加速"!
現在、私の姿勢はもうほとんど地面と平行と言っていい。その状態でここまで1㎞近く飛んでいる。視界の下端を流れる街並みの景色が異様に速い。普段やっているFCの試合では、一般的に300m以内の距離で加減速を繰り返すことを考えれば、今の私は試合じゃ中々到達しないような速度域に手を掛けつつあるのが分かる。
だというのに……推定転校生たちとの距離は、焦れったい程にゆっくりとしか縮まない。
――
グラシュより最高速が高いのは知っていた。大出力とコンピュータ制御で、原付並みかそれ以上の速度が出るとも。だがそれにしたって……。
奴らの強さを大仰な身振りでアピールしていた、赤崎の言葉を思い出す。
私は顎を強く噛み締めて、ふと晶也の姿が見えないことに気付いた。
――どこかで追い抜いたのを見落とした? いや、そんな筈はない。さすがに気付く。
――途中であいつらを追うのを止めて降りたのか? あるいは……無茶な飛行で堕ちた?
迷いが生じる。
下りて晶也を探すか。
転校生どもを追い続けるか。
普通に考えて、後者を選ぶ余地はない。
そもそも晶也を心配して追ってきたはずだ。対して、転校生とは教室でだって一言すら会話していない。そんな相手を追っかけ回すような理由も、動機もあるわけがない。
そのはずだ。
そのはずなんだ。
――けど、いや、晶也をどこで見失ったかも分からないんだ。飛んだまま探そうにも辺りが暗すぎて視界が悪い。かといってこれ以上地面に近づくのは危険だ。市街地の超低空を高速飛行なんてしてみろ、一瞬のミスで大怪我するぞ。死んだっておかしくない。
じゃあ停止して下りる? 下りてどうする。夜道で子供一人歩いて探すつもりか?
だったら……
だったら、何だ。
私は言い訳をしていた。こんな時でさえ、どっち付かず。
でも私の身体は、本能は、空への希求は、明らかに暴風族たちを追うことを選択していた。
「……!」
事ここに至って、私は覚悟を決めた。
何だか知らないが、どうやら私はあいつらを追いたいらしい。ならそうする。そうして、連中に晶也と何をしていたのか、晶也がどこに行ったかを聞く。それで万事解決だ。
どうせ飛行禁止区域をかっ飛ばして来たんだ。誰かに見つかれば通報されて補導まっしぐら、大会にも出場停止食らって選手生命はおじゃんだろう。
その上で私は行きたい。なら、行くしかない。
眼下を流れる街並み。街灯や自動車のヘッドライトが流星のように尾を引いてゆく。
幸い、奴らはビルの屋上や壁(!)を足場に移動する関係で進行ルートはジグザグだ。
対して私は真っすぐ突っ切れる。高度だって私の方が20m近く上を取っている。重力加速度を使えば、グラシュの性能を越えたスピードを一時的に得ることもできる。
十分に目はあった。
二人のうち、長身の男らしき方――恐らくセロ・アヴァロンが次の建物に飛び移ったのを皮切りに、私は身を右に捻って進路を変えた。
奴らとの距離が縮まる。目測で150m。
100m。
50。
30――!!
左後方から迂回。小半径の弧を描きながら体を反転させ、彼らの前に出るタイミングで上半身を跳ね上げるように引き起こす。急ブレーキの態勢。
身体は寸分の狂いなく、彼らの前方斜め上2mほどの位置に収まった。
そのまま両手足を大の字に広げ、
「お前ら、止ま――」
「悪いね、カガミさん」
カタンッ。
速度からは考えられないほどに軽い踏み切り音。
あっけなく、いっそ鮮やかな程に。
私の予測よりも遥かに速い位置でビルの屋上を蹴ったセロが、曲芸のように宙返りの動きで飛び上がって。
そのまま一度身体を捻り、15mほど先の別のビルへ、私の方を向いたままザッと着地した。
体勢の乱れは全くない。ずっとそこに立っていたかのように安定した立ち姿。
呆然と浮いていれば、先ほどよりさらに軽い踏み切り音。
頭上に意識を取られた私のすぐ左手をシャーロットが煽るように抜けていく。
そして、あざけるような声音で囁いた。
「
「――お前ッ」
首筋にぞわりとした熱さが滲み、それがカッと頭に昇る。
咄嗟に振り向いた先で静かに着地、スピンターンで止まったエセお姫様に、向ける視線が険しくなるのを私は止められなかった。
今更だが、やはり
学校の制服とは異なる装い。セロはシンプルなシャツとスラックス、首には細いタイを巻いて飛行士のようなゴーグルを下げている。シャーロットは白いブラウスに花柄のチュールスカート、上からペールピンクのボレロカーディガンを羽織った令嬢然とした出で立ち。
両者の足には……素人目にもそこらの市販品とはモノが違うと感じさせる、
これだけ走り回って衣服に乱れはなく、息ひとつ乱していない。何かの写真集の1ページでも飾っていそうな、澄ました立ち姿だった。
一度、深呼吸。
努めて心を落ち着けながら口を開く。
「……晶也に、何をした。答えろ」
「マサヤ?」
「お前らを追いかけていた小学生だ」
「ああ……何って」
応答したセロは困ったように肩をすくめた。
「ちょっとした追いかけっこかな。それ以上は秘密でね。男同士の約束っていうか、あれだ、武士の情け?」
「ふざけてるのか?」
「あいにく本気だよ。ま、彼は途中でギブアップしちゃったけど……
……シャーロット、お前さっき彼女に何か吹き込んだか? えらい疑われてるが」
「さあね。けど」
のらりくらりとした調子のセロに問われ、シャーロットはつんと澄ました表情に愉悦とも高慢さとも取れるものを滲ませて、一歩こちらに近づく。
春先とはいえ、肌寒さを運ぶ夜風が私たちの間を吹き抜ける。
たなびく金の髪とカーディガンを軽く押さえ、薄いくちびるを微かに歪めるのが見えた。
「雑魚に聞かれて、素直に教えるのもつまらないわ」
「……あ゛?」
自分の喉から出たとは信じられないようなドスの利いた声が出た。
ここまでのやり取りで冷めかけていた頭が、一瞬で元の熱さを取り戻す。
ふーーっ……
無意識に吸い、吐き出していた深い呼気。先ほどの深呼吸とはまるで違う種類のそれ。
さっきのが火をかき消すためのものなら、これは火に酸素を送り込むためのものだった。
「あちゃあ」と天を仰ぐセロと、楽しめそうだと言わんばかりのシャーロット。
顔の筋肉が強張っているのを感じながら私は口を開いた。
「何が言いたい」
「察しが悪いのね。勝負しましょう、あんたのやり方に合わせてあげる……FC選手なんでしょう?
ドッグファイトであんたが1点取れたら、知りたいことを教えてあげるわ」
「お前が先取したら?」
「くす、対等な勝負だとでも? 冗談きついわ。
――あんたが堕ちるまで取られなければ私の勝ち。
良かったわね? 何回でもチャレンジ出来て」
その時、確かに。
頭の中でブチリという音を聞いた。
「おいシャーロット」
「黙ってなさい、セロ」
「ああそうだ。黙ってろ」
「……ああはいはい。お仲がよろしくって羨ましいね、どーぞご自由に」
ドッグファイト――フライングサーカスにおける戦術、あるいはそれが連続する試合展開を指す。語源となった戦闘機のそれ同様、空中で激しく姿勢を変え、ポジションを入れ替えながら後背を取り合い、敵の背中にタッチする。それで晴れて1点獲得という訳だ。
私とて全国で最もレベルの高い北仇州地区でトップに立った身だ。腕に覚えはある。
それをこうも侮られて、どうして我慢できる?
見かねたようにセロが割って入るが、知ったことではない。
強い口調で切り捨てれば彼は呆れた態度を隠しもせず引き下がったが、それは本気で言っているのかとすら思う。ここまで舐めた発言をされて引き下がるやつがいたら、そいつはスカイウォーカー*1じゃない。
だがこの男の関心は、私とはすこし違う所にあったようだ。
「器用なもんだ」
「……何だって?」
傍観者になりつつあったセロが、出し抜けに言った。
「器用だねって言ったのさ。シリアスに怒ってるのに、顔は随分と楽しそうだ」
「…………」
「いや、失礼。結局やるんだよな? 好きに始めてくれ」
私は答えずに――実際には、何と言うべきか思い浮かばず――体を傾け、彼らの立つビルを 中心とした半径20m程の円を描くように飛び始めた。
グラシュは初速でこそ優るが、加速においてはA・Tに大きく劣る。
おまけに私が今履いている奴は最高速重視で加速を落としたチューニングだ。
だからこそここまで追ってこれたとも言えるが、速度を乗せない状態では一方的な展開になるかもしれない。助走を付けてスピードを稼ぐ必要がある。
頭は熱くなっていても、積み重ねた経験から必要な一手を取った。
視線を外さず、ぐるりと1周回る。
シャーロットは動かない。
2周目。
セロは屋上の出入口建屋の壁に背を預け、リラックスして観戦の構えをとっている。
3周目。
半周してシャーロットの視界右端ギリギリだろう所で――――微上昇、からの急降下!
彼我の距離が短いので、左右に体を揺らすシザーズ*2は最小限。
上半身の微妙な動きでフェイントを掛けながら突っ込んでいく。
さあ、どっちに躱す? 左右か、それとも上か。どちらでも構わない。
シャーロットは私から見て右を向いた状態。私を正面に捉えるには、どちらに行こうが体を私の方へ回転させる必要がある。私はその軸の逆、右方向――奴から見て左側に大回りで旋回して、揺さぶりをかけつつ距離を詰める。
縮まる距離。
――どっちだ?
シャーロットの身体が僅かに沈む。
地面を蹴った先は――上!
決めていた通りの左旋回をすると、バチッ! と弾けるような音と光。
A・Tが空中を蹴った際のエフェクトに、私は追い縋ろうと――
「つまんない
シャーロットの白い影が、ぴたりと。
旋回する私の軌道上に、収まっていた。
まさに一瞬の早業だった。
バヂヂヂ! と連続するスパーク音。
閃光と金の残像を残してかき消えたシャーロット。その姿が深く沈んだ態勢で
咄嗟に上体を反らせば、夜空を仰ぐ視線の先には――
「はい、1発目♡」
身体を捻り引き絞るように高く掲げられた、ほっそりとした右脚。
サイハイソックスとA・Tで飾られたそれが、ギロチンのように打ち下ろされて――
「ゼロだよ、間抜け」
ヒュゴウ!!
ひんやりとした大気が乱暴に裂かれる音。気温に関係なく背筋に冷たいものが走る。
だが、メンブレンの衝突音もスパークのような発光も*3ない。ましてや肉を打たれる音も。
命中の直前、私の身体は弾き飛ばされるように左へ吹き飛び、そのまま無様に数度の乱回転を経て復帰した。みっともないが、あの蹴りを喰らうよりは遥かにマシだ。
ここまでの疲労で重くなった身体。可能な限り素早く姿勢を安定させながら、思う。
……まさか、あの技に救われるとはな……
胴体を覆うメンブレンと、少し離した腕周囲のメンブレンをタイミング良く
私を思い悩ませる"ハメ技"の基礎といったところだが、まさかこれを出してなおその場凌ぎしか出来ないどころか、不利を悟ってしまうような相手がいるとは思いもしなかった。
次同じことをしようにも、きっと対応されるだろう。
「……ははっ」
口から出たのは荒い呼吸ではなく、なぜか笑い声だった。
理由は分からない。だけど、妙に清々しかったのは確かだ。
高度を上げ、急降下の態勢を取る。
せっかく稼いだスピードも無に帰してしまったが、諦める気は毛頭ない。今度こそ取りに行く。
「――ちょっとムカついたわ。ちょっとだけね」
シャーロットが何か言ったような気がするが、この位置からは聞き取れない。
先ほどは横軸の動きに対応された。なら次は縦軸。大体の人間にとって上下方向の動きは目で追いづらいものだが、どうか。
ダイブ後、屋上から高さ3mほどを掠めるようにして再上昇。ローヨーヨー*4にしちゃいささか危険すぎる――なんせ上昇に切り替えるタイミングが0.5秒遅れれば激突だ――が、必要経費だ。余裕をもって突進を躱したシャーロットが地面を蹴りつけ、A・Tを加速させたのを確認しながら再び旋回。
さっきの交錯とは打って変わって、シャーロットも動いてくるようだ。隣の頭一つ低い建物にこともなげに飛び移り、速度を緩るどころか加速しながらこちらへ回頭する。視線が絡む一瞬。
スタートは同時。
私の再下降と奴の跳躍。お互いに
あえてシャーロットの下を通るように過剰に降下、上半身を起こして減速。一瞬無防備な背中を晒す事になるが、私を捉え損ねた奴が空中を蹴る、その静止する瞬間に仕留める。
高度の優位を取るために上から行く方が常道の判断であるからこそ、その裏を掻くつもりだった。先ほどの交差で下から良いようにされかけた事の意趣返しも無いではなかったが。
「――!」
交錯点はビルとビルの間だ。私が更に下へ突っ込むということは、即ちビルの壁面へ突進することを意味する。危険なんてもんじゃないが、それでも――勝ちたい!
迫るシャーロット。私は視線や肩の動きで欺瞞を掛けながら、一気に体を傾け――
――分からないとでも思った?
ゾッ――と背筋が粟立つ。
誰一人いない、冷たい池の真ん中に取り残されたかのような。
喪失感にも似た、本能的恐怖。
引き延ばされたような無音の時間の中で、なんとか身を捻って振り返れば。
夜空に浮かび上がる像。
赤みがかった膝まである長髪。
鋭く吊り上がった、色素の薄い目。
久奈浜学院のセーラー服。
「――
「"鏡よ鏡"」
「"この世で最も弱く、みじめで、負けグセの付いたボロクズはだあれ?"」
まるで空中に浮く鏡。
そこに映る私の像が、内側から膨らむように撓んで――
「お前よ」
「ごっ……!」
鈍い炸裂音。
爆発した。
"鏡"がじゃない。
全部が。
ヤツに向いていた体の正面全てを爆破でもされたんじゃないかという衝撃。
FCで相手選手と衝突したときの比じゃない威力で、自分が吹き飛んでいることすら知覚できなかった。
何だ。
何かぶつかった。
痛い。
背中か?
私はどっちを向いてる?
どこにいる?
もしかして。
墜ち――――
「――る、もんかッ、バカ野郎!」
舐めるな!!
あいつは言った。「あんたが墜ちるまで」と。
ムカつくが、つまり、墜ちなければ――負けじゃない!
風前の灯火が、最後の瞬間に一際燃え上がるように。混濁していた意識が冴えわたる。
身体は投げ出されたように伸び切っている。どうやら吹き飛ばされてビルの隙間、幅5mもない空間にいるようだ。
「ぐ、ぅう!」
筋肉を痛めそうになりながら体を屈め、手と足のメンブレンを接触させた。
この状況から脱する手立てはひとつだけ。メンブレンの急激な移動を利用して急ブレーキ、逆方向へと急加速――エアキックターンと呼ばれる技だ。
体勢が安定しない。エアキックターンは直進しかできない。左右をビルの壁に挟まれた状況では射出角を10度ミスるだけでも激突するだろう。
やれるか?
愚問だ。やれる。
疲れ切っていた体は、心地よい脱力を得て。
煮えたぎっていたはずの頭は、この狭く区切られた空の全てを穏やかに見通せている。
ふとセロの言葉が思い出された。
『随分と楽しそうだ』
それはよく分からないが、今、自分の頬は吊り上がっているような気がした。
落下速度がぐぐっと和らぐ。
ふと、足りないな、と感じた。
ここまでの落下量。体勢の安定度。メンブレンの移動量。
集中が深くなった故だろうか。壁にはぶつからなくても、シャーロットの待ち受ける屋上までは届かないだろうと試すまでもなく理解できた。
今は無い。無いが、すぐにやって来る。私には分かる。
大通りの方から、ビルの隙間を縫って、私の背中を押す"風"が。
さぁ、来るぞ。
3。
2。
1――!
流れ込んできた"空気の塊"……その面に、足が触れる……今!
行け!
「飛っ……」
吼え猛ろうとした、その瞬間。
《ビーーーーー!ビーーーーー!》
けたたましいビープ音が鳴り、足元に感じていた反発力が霧散した。
「……え?」
音の出処はグラシュ。ぎこちなく見下ろせば、バッテリーランプが真っ赤に点滅している。
バッテリー切れ。
ここに来て、私は昨日充電をサボっていたことを思い出した。
「うっそだろ、おい……」
緊急保護機能によって全ての機動がキャンセルされ、ふわふわと地上に降ろされる。
がしゃん、と何処とも知れない路地裏に降ろされたその瞬間、頭のどこかで張り詰めていた
なにかがふつっと切れてしまい。
極度の疲労のせいか、私の意識はだんだんと夜闇に飲まれていった――――。
#####
グラシュの保護機能によって各務葵がゆっくりと降下していく。
薄暗くて見えづらい路地の底まで小さな光が下りて行ったのを見届け、俺はシャーロットに問いかけた。
「最後に彼女がやろうとしてたこと、見たか?」
「……
「ああ。流入口も流出先も限定的だからこそ
だからこそ、って面もあるんだろうが……各務さんは確かに"風"を掴んで、
「……」
「資質、だな」
「……うるさい。なにしたり顔で解説してんのよ。戦いもしなかったくせして」
「おいおい、お前が勝手に吹っ掛けたんだろ? 俺は平和裏に交渉する気だったのに」
「ふん、どうだか」
鼻を鳴らすシャーロット。
言葉の字面は辛辣だが、存外に語調はやわらかい。
俺としても、こいつがなぜこんなことを始めたのかが分かったような気がした。
「お前、あれを俺に見せるために?」
「勘違いしないで。私はやりたいようにやってるだけよ」
「そうかい。じゃ俺も受け取りたいように受け取りますか。
シャーロット」
「……なに」
「すまんな。それとありがとう。
お前がいてくれてよかった」
「……ばか。うじ虫」
言い捨てて、シャーロットは背を向けた。
耳の先がほんのり赤いように見えたのは肌寒さのせいか、はたまた夜の街並みから来る明るさのせいか。
とりあえず野暮なことを言うのは止して、俺はひとつ伸びをした。
「……ま、今日はこれでお開きにしようか」
「ん」
「降りてった各務さん拾って送って、詳しい話はまた明日、だ」
「めんどい。あんたがやりなさい」
「仰せのままにぃー。さぁーて…………」
その瞬間。
ブン! ブロロロロロ…………
「「――ん?」」
俺達の立つビル屋上の縁、さらにその真下。
ちょうど各務葵が下りたあたりから、何やらエンジン音が聞こえた。
思わず顔を見合わせた俺とシャーロットが、おそるおそる下を覗き込むと――
「……」
「……」
「なあ、シャーロット」
「……」
「あの子どこ行ったん???」
誰もいない。
がらんどうであった。
辺りに視線を配ったシャーロットがはっと目を開き、少し震える声を上げて表通りの方を指差す。
「…………セロ……」
「え? 居た?」
「あれ……」
「どれよ?」
「あの……白い、軽トラみたいな」
「軽…………」
ア゛っ。
#####
そして、数十分後。
「うーん……」
「――ぉい、――ちゃん」
「ん……?」
「おおい、嬢ちゃん! 起きて!」
「――はっ!?」
「おお、起きた起きた。キミどうしたんや、こんな所で」
「こんな所……?
あ、ええとすみません。お爺さん、あなたは一体……」
「ワシけ? ワシは
「私は……各務葵と言います。久奈浜学院の学生で」
「久奈浜ぁ? 四島の学生さんかい。
何でキミ、ワシのトラックの荷台なんかで寝とったんや?」
「荷台」
「もうトラックごとフェリーに乗っちまったし、港も出ちまっとるでよ」
「フェリー」
…………。
「あー、大丈夫け? 意識ハッキリしとるか?」
「…………」
どうしてこうなった。
暗い夜の海に、葵の慟哭が吸い込まれていった――。