あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア) 作:EXTRA2販促おじさん
オリキャラいっぱいの過去編ばっかやってると読者離れが進みそうなので、ここらで箸休めに
原作キャラが出てくる閑話をお届けいたします。次回バトルの前振りともいう。
今後も5~10話ごとにこんな感じの話を挿入していく予定です。
あおかなをご存じない方は、まあこういうキャラが原作及び次章には出ますよ、程度に見て頂ければ。
第1弾の視点人物は……トリッキーでも強くもないけど超絶かわいい、あの子!
ヒロイン昇格ってマジなのですか?
「はー……ふっ、はあっ」
両手の荷物から重さを感じながら。
椰子の木が立つ真夏の並木道を、わたしは額に汗しながら進む。
できるだけ木陰を選んでいるんだけど、今日はそんなちょっとした工夫じゃ誤魔化せないくらいに暑い。
島だから湿気も多いし、ちらちら当たる木漏れ日だけでも茹だっちゃいそうだ。
でもまだましなのは、風を感じられるから。
今日は海も凪いでいるのか風も吹いていないんだけど……足に履いた"羽"のおかげで、わたしは強く空気を搔き分けて、向かい風の中にいられる。
足元からはシャーっと軽快なホイールの走行音。
わたしは脇の小道へと滑り込んだ。
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更に10分ほどかけて目的地に着いたわたしは、くたくたになってしまっていた。
「ふう……つ、ついた」
もう腕と手首がぱんぱんで、両手に1つずつ持った大きな紙袋を落っことしてしまいそうになった。でもこれは大事なお届け物。そんなふうには扱えない。
そもそも、わたしが名乗り出て配達させてもらったわけだし……。
わたしはよたよたと[定休日]の木札が下がったガラス戸の前ぎりぎりまで移動して、そこでA・Tのスイッチを切った。
途端に展開されていたメンブレンがさっと散って、荷物を軽くしてくれていた反重力の効果が切れてしまう。
重い重い痛いいたい。
ちぎれそうに感じる腕をぷるぷる震わせながら、わたしは必死で声を上げた。
「あ……葵、さんっ! 葵さあーん……!」
引っ込み思案なわたしは、こんな街中で声を張るだけでも恥ずかしくてしょうがない。
でもしょうがない。お店だからか、普通のおうちみたいなインターホン、見当たらないし。
手が塞がってるから、ノックもできないし。
反応がない。
出る前に電話したら居るって言ってたから居るはずなんだけどな、もう1回呼ばなきゃダメかないやだな、覆面でもして視線を遮れればもっと大声出せたかな――なんてネガティブな想像がぐるぐるし出して、わたしは絶望的な気分になる。
いよいよ腕も限界かに思われたところで――ちりんちりん、とベルを鳴らして、ドアから救いの主が現れた。
「――――みなも? なんだ、お前が来たのか。てっきり隼人かと」
「う゛っう゛っ、にも、荷物ぅぅ」
「え……あ、ああ悪い。重かったな、よく頑張った。ほら持ってやるから。
だから店の前でガチ泣きだけは止めてな。頼むマジで」
「はいぃ゛……」
各務葵さん。
お兄ちゃんの元同級生で、わたしがこっそり憧れている人のひとり。
そして、このA・Tカフェ兼中古スカイスポーツ用品店、〈ギアーズ・バンケット〉の店主さん。
そんな彼女が、長くてきれいな髪を揺らして、困ったように私を見下ろしていた。
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店内に通されたわたしに「適当な席に座ってていいよ」と告げて、葵さんは荷物を持って店の奥へ引っ込んでいった。
適当な、と言われると気を使ってしまうタイプなわたしはどうにも落ち着かなくて。辺りを何度も見回してから、入口に一番近いボックス席の隅っこにちょこんと腰かけた。
それにしても……ふう。
冷房の効いた店内で座れたからか、生き返ったような心地だ。
重い荷物を持ちっぱなしで強張っていた手をにぎにぎ動かして、シートの背もたれに体重を預ける。ちょっと気持ちに余裕が出てきたわたしは、首だけで店内を見回した。
おしゃれなお店だなあ……なんて、全然おしゃれじゃない感想しか出てこないけれど。
シックな濃い色の木材が基調の喫茶スペースとパーツショップ。そしてその両方から金網越しに見える、吹き抜けのようなA・Tコート。夜はバーにもなる、カウンター席つきの喫茶スペースが上品な色使いでスッキリまとまっているのに対して、パーツ屋さんの方は至る所にA・Tのパーツがぶら下げられていて、なんだか秘密基地みたい。
個別に見ると少しちぐはぐなのに、ひとつのお店として見るとお腹の上が軽くなるようなワクワクするカッコよさがあって、それが何だかお兄ちゃんや葵さんたちの組んでいたチームみたいで。
結局、「いいなあ、おしゃれだなあ」という感想になるのだった。
「プロ選手だのモデルだのの稼ぎを大半つぎ込んだ」って言ってたけど、それだけの価値はあるというか、やっぱり葵さんって凄い人なんだな、と素直に思う。
ちょっと前の四島って本当に田舎だったのに、今はこんな素敵なお店があって、ここに来るまで通ってきた道だって、あんなに綺麗で広々して賑やかになったのはつい最近だ。
愛着のある島がそうやって活気に満ちていって、その一員であるお兄ちゃんのお店の手伝いをするのは、わたしにとって少し誇らしいことだった。
もっとも、おこづかい欲しさってのもあるんだけど……。
定休日でお客さんのいない店内をぼけっと見ていると、葵さんがカウンターから顔を出した。
「しかし中学生の妹にこんな荷物持たせて炎天下でお使いなんて、隼人のヤツとんでもないな」
「ぇと、違って、あの……わたしが、お願いしたんです。バイト……したいって」
「おっと、そうなのか……。バイトって、何か買いたい物でもあるの?」
「ぁ、ありますっ。競技用のグラシュと、フライングスーツ……あとA・Tのカスタムもしたいし……」
どれもそんなに安くないし、貯めてたおこづかいとお年玉じゃ足りそうにない。
買いたいものを指折り数えながら言っていくと、葵さんは「そりゃ大変だ。いっぱいお手伝いしないとな」とからから笑った。
「でもスカイスポーツ用品ばっかじゃないか、もっと女の子っぽい買い物したっていいと思うけど。もう高校生なんだしメイクでもしてみたら?」
「ふぇっ」
そんなこと、考えた事もなかったわたしはびっくりしてしまって、ぶるぶる頭を振った。
「むっ無理無理です、わたしそんなに可愛くないし」
「そんな事ない。かわいいよ、みなもは」
「ひゃぅ……」
シャープな顔立ちに薄い笑みを浮かべて、目を真っすぐ見ながらそんなことを言われる。
せっかく体の暑さが冷めて来たのに、顔がかあっと熱くなるのを感じた。
やっぱり葵さん、かっこいいなぁ……。
お兄ちゃんが『後輩の女子にめちゃくちゃモテてた。バレンタインなんか俺とセロを合わせたのより沢山チョコ貰ってた』って言ってたけど、なんとなく分かる気がする。
でもお兄ちゃんじゃあんまりセロさんの足しになってなかったんじゃないかな。
セロさんだけで結構いい勝負できてたんじゃ……。
「みなも?」
「ひゃっい!? ぁ、なんでも、ないです……」
「……そうか? まぁ私もその辺無頓着だったとは思う。私と珠美で雁首揃えて、シャーロットの奴に大半教わったなぁ……。今思えば男にメイク教わる女子高生2人って中々ないよな」
シャーロットさんは例外じゃないかな……。わたし、未だにあのひとが男の人だって信じきれてないし。わたしの人見知りは年上の男の人と話す時なんて特にひどいんだけど、シャーロットさんと話す時はそういうのじゃなくて、美人過ぎて気圧されているような気がする。
そんな雄弁な感想を言葉にうまく出せず、こくこくと何度もうなずくにとどめた。
「私が教えると今の流行りから浮くかもしれんし、うちの店に来るティーン共も、大体道具に
金使っちゃって化粧っ気のない連中だからなぁ。先生役には向かないか……。
ま、そいつらに道具売ってる私が言えたことじゃあないが」
そんなことを言いながら、カウンターの向こうで何かやっていた葵さんがこっちに回ってくる。
手にはお盆、その上には結露したグラスとケーキの大きな一切れが乗った小皿が。
「さ、お駄賃代わりだ。どうぞ」
「ぇっす、すみません……」
「店の商品じゃないから気にするな。さっきセロが来ててな、土産にしちゃバカでかいケーキを置いてったんで、食い切れそうもないしどうしたもんかと困ってたんだ」
「ったく、アイツそういうとこあるよな。気が利かないよ」だなんて言っている葵さん。
だけど、その顔つきはなんだか凄くやさしくて、むしろ仲良しなんだなぁと思わせる感じだ。
私の座るテーブルにお盆からグラスと小皿を置き、彼女は片眼を閉じて口の前で人差し指を
立てる。
「お兄ちゃんには秘密だぞ」
「は、はひ……!」
ふわぁ……カッコいい……。
こんな仕草がここまで似合う人、他にいるだろうか。
頂いたケーキは宝石みたいに色とりどりのフルーツがぎっしり乗っかって、その上からゼリーみたいなものでつやつやのコーティングが施されている。
断面からはピンク色でふわふわした、チョコチップ入りのクリームがたっぷりと見えていて、なんだか見ているだけで幸せになってきそう。
思わず頬を緩めながらはむはむ食べ進めていると、葵さんが不思議そうに聞いてきた。
「みなも」
「?」
「配達ならグラシュの方が良かったんじゃないか? そっちの方が荷物の重さもないし」
「ぇっと、お兄ちゃんもそう言ってたん、ですけど。私が、
「へぇ? チームでも組むの」
「いやいや! ぅ……違うんですけど。誰かに誘われたらいいな、ってくらいで」
「なるほどなぁ……みなもの性格的にはそうなるか」
「はひ……」
やっぱり消極的すぎるよね……。
わたしはいたたまれなくなって、グラスのきんきんに冷えたアイスティーをひとくち。
そのまま続けて、ケーキをひとくち。
「まぁ私らの影響ってのも手前味噌だけど、高校デビューがてらチーム結成って連中も最近はそれなりだ。案外ない話でもないか……そういや、志望校ってどこだったっけ」
「はっはい、あの……高藤、です」
「へえ! あそこ、エスカレーター以外の外部受験だと結構難関だろ? 頑張れよー」
「ありがとう、ございます……」
「で、強豪高藤FC部にも入部って訳だ」
「ぇっ……!」
なんで分かったんだろう。
「いやいや、さっきフライングスーツとかグラシュが欲しいって言ってたろ?
そんなトコじゃないかと思ってさ」
「あ、はい……そう、です」
「いいじゃないか、夢は高い場所に見た方がいいぞ。お姉さんの経験談だけどな」
憧れの人からの真摯な激励がこそばゆくって、わたしはケーキを口に運ぶ。
さっきのひとくちよりも、甘酸っぱい気がした。
穏やかな時間。
少し薄暗い店内に、夏の日差しがきらきら差し込む。
いくらか気が楽になったわたしは、前から知りたかったことを訊いてみることにした。
「ぁの、葵さん。聞いていいでしょうか?」
「ん? どうぞ?」
「昔の……ば、
「昔ねぇ……それなりに
「……シャーロットさん、です」
「――おいおい、そりゃ……ほんとに昔だな」
「お兄ちゃん、お酒が入るとよく言ってます。〈エア・ギア〉ができる前の、葵さんとシャーロットさんの
「あいつこんな可愛い妹の前で酒飲んでやがるのか……。酌なんかさせられてないよな?」
「しゃく……?」
「お酒、つがされたりしてない? ってこと」
「なっ、ない、ですっ」
「そう? ああいや、無いならいいんだ。でももしさせられたら言えよー? 私がケツ蹴っ飛ばしてやるからな」
葵さんの蹴り、すごい威力だと思うんだけど……お兄ちゃん、死んじゃわないかな。
もし"しゃく"させられても言わないようにしよう、うん。
お酒つぐくらいなら、べつに嫌でもないし。そもそもお兄ちゃん、そんなにお酒飲まないし。
葵さんは顎先に人差し指を当てて、何かを思い出そうとするように視線を上げていた。
「しっかし、懐かしい話が出てきたなぁ。結成前の
あの頃はなんというか、私もカリカリしててなあ。思えば色々ムチャしたよ」
葵さんは、奇麗な景色でも眺めるような、遠くにある大事なものを見るような表情をして、
カウンター席の椅子に半分乗り上げるようにしてもたれ掛かった。
わたしは何か言わなきゃという気がして、でも上手い話題の出し方なんてわからなくて。
うんうん唸りそうになりながら何とか、当たり障りのない質問をした。
「……どんな感じ、だったんですか?」
「んー? はは、そうだな……」
冷房が効きすぎていたのか、葵さんは半袖から出た左腕を軽くさすった。
「まず初手でやられた。あれが随分響いたよ」