あおげば空の、嵐かな (あおかな×エアギア)   作:EXTRA2販促おじさん

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今回ちょっと前世(エアギア世界)でのバトル描写が入りますが、漫画とはそれなりに違った経緯を辿っていることだけお断りしておきます。

執筆BGM:空域の支配者(あおかなOST)


Trick.6: Breaking Beauty -Vs.ARMAGEST- (1)

 

 

 

 

 

 "礫藍(れきらん)の道"。

 

 (れき)は、小石のように砕き削ること。

 (らん)は、()()()()のように引き裂くこと。

 

 

 ――――私の〈道〉は、どうしようもなく、(いたみ)を穿つそれだった。

 

 穿たれるのが誰なのか、想像もしないで。

 

 

 

 

 

[前世:某月某日 - 原子力空母<カーネル・サンダース>B1F]

 

 

 

「解せないわね」

 

 壁際に追い詰めた"敵"の首を足で圧しながら、右手に持った鞭を一扱き。

 

「ここはアンタみたいな雑魚がしゃしゃり出ていい戦場じゃないのよ。元・〈牙の王〉」

「ぐ……!」

 

 そのままぴしゃりと引っ叩いてやれば、そいつは頬に赤い線を引かれながらも燃えるような目でこちらを睨んできた。

 立場を弁えない眼。私の心にチリチリと小さな苛立ちが燻る。

 

「まぁ元同僚と上司の大ピンチだし、駆け付けたってとこかな? いやあ超獣(ベヒーモス)で低級ライダーのために体張ってた宇童(うどう)クンらしい! 俺ちょっと感動してるよ」

「余計なお喋りしてんじゃないわよ、セロ」

「悪い悪い。だけども」

 

 ごしゃっ、と頭を蹴り上げる音。

 

「がぁっ!」

頼みの綱(シルバーバレット)のリンドもこのザマ。悪知恵の回る鰐島室長サンもKO。

今更玉璽(レガリア)もなく、(バトル)レベル100もない君が来るべきじゃなかったかもね」

 

 セロの言葉に、ギリっと眼前の男が歯を食いしばった感触がA・T(エアトレック)越しに伝わってくる。

 

 鰐島亜紀人の肉体に移植(チャージ)された〈はじまりの翼〉ガゼルがいくら強かろうと、貧弱な子供の体に牙の玉璽(レガリア)を履いているという現実は覆しようがない。

 つまり、ヤツの攻撃手段は"牙"だけ。肉弾戦も"荊"も現実的な選択肢足りえない。

 そのメタさえ張ればチャンスはある――

 業腹だけど、そう()()したあいつの言った通りに()()()()()()()()()()事に成功していた。

 

 あとは順繰りに"おとなしく"させて、私たちへの協力を強制するだけ……そんな風に油断していたのが良くなかったのかもしれない。

 

「ふッ!」

「!?」

 

 私の足を押し返そうとしていた圧力が一瞬弱まり、それに反応するより早く宇童アキラの首が拘束を脱する。そのまま反撃されるかと身構えれば、ヤツは予想に反して前転するように私の横を抜け、セロの背に飛び掛かった。

 

「どッ、らァ!!」

「チィッ」

「セロ!」

 

 馬鹿げた筋力から繰り出される一撃が痛打となる事は無かったが、衝撃を殺すために後退を余儀なくされるセロ。その隙を縫って宇童にリンドを奪還されてしまう。

 

「――無事か?」

「ッゲホ……るせぇな。テメーの心配してろ。

だが――読めたぜ、無個性茶髪ヤロー。テメェの"鎧"のタネがな」

 

 仲間に助けられ肩で息をしている分際で、あざけるように舌を出してサメ小僧は中指を立てた。

 

()()()()()()()()()()()

「ッ」

「バイブレーションしてるケータイが机の上を滑るのと同じだ。テメェはその出来損ないのパチモン玉璽(レガリア)を起点に、オカマ野郎が出した"鏡"の残滓に突っ込み、ダメージを受けることなく体の表面に纏ってから固定させている。つまりテメェは〈石の道〉ってわけだ」

 

 ヤツが得意げに暴いたのは、私たちの戦術の骨子をなす(トリック)

 一瞬だけ肩を強張らせたセロが、それを隠すように気の抜けた拍手を送った。

 

「わーすごい。ライダーより浮気調査とか猫探しの方が向いてんじゃない」

「ほざけよ、タネが割れた以上テメェは脅威じゃねえ。他人頼みのサナダムシ野郎なんざ5秒で

1000回は殺せるわ」

「俺は相方を信じてるんだよ、だから命綱だって預けられる。そういう君は友達いなそうだけど」

「……その辺にしときなさい。どうせ知った所で意味なんか無いんだから」

 

 そう、意味などない。

 そもそもヤツの"牙"は"鎧"を、ましてや"鏡"を突破できないのだから。

 そして"鏡"唯一のウィークポイントであるインターバルを"鎧"で埋め、"牙"に相性勝ちする。その上で、地力でも勝つ。

 シンプル極まりないが故に攻略法もない。

 宇童アキラの乱入は想定外だったけど……今更この程度のライダーに何ができるというのか。

 そもそも遭遇戦になった当初だって、万全のこいつらプラスおまけを制圧寸前まで行ったのだ。

 今に至っては満身創痍のザコ共に敗れるような私たちじゃない。

 言葉には出さないけど、私もまた相方を信頼していた。

 

「……君は解せないと言ったけど、こっちにも疑問に思う点がある」

 一触即発の緊迫の中で、この場で唯一の警察官が前に出て口火を切った。

 

「"鎧"といい、君たちの戦い方はやけに守勢寄りだ。俺たちの決定力を削いで……まるで時間を稼ぐみたいに戦っている。レベル差からしても、増援を待つ必要があるとも思えないが」

「流石。いいね宇童クン、ようやく文明人らしいお喋りができそうだ」

 

 すかさずセロが滔々と語ったのは、私たちの真の目的のこと。

 そもそも私たちはこいつらと(バトル)で決着を付けるつもりなんてない。創世神(ジェネシス)を裏切りニケの奴を殺すために、力を貸す、あるいは助力させる必要があった。

 

 それに足るだけの力は見せつけたはずだ。

 だけど、返ってきた答えはひどく私を落胆させるものだった。

 連中が差し出したのは握手のための掌ではなく、たった1本の中指だったのだから。

 

「お断りだ、ヴォケ」

「――そういうわけだ。悪いけど、海人さんをやられてる以上信用できないし……俺も長年暴風族(ストームライダー)だったもんでね、一度遮られたら蹴飛ばすしかない」

 

「そ、じゃあ死になさい」

 

 超臨界流体を繰り出すための加圧は既に十分。

 動こうとしたセロを鞭の先で制止して、脚を振り上げた。

 まずは目くらましの一撃。避けさせて散った所を狩る。

 

 

「ぐぅっ……おぉオオオオオ!!」

「!?」

 

 そう軽く考えていた私の予測は――完全に裏切られた。

 防ぎ得ぬ一撃を回避するはずだった二人のうち一人は忽然と姿を消し、もう一人は()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 ダメージにくぐもった唸りを上げながら、硬直する私へと迫る超獣(ベヒーモス)。その背にぴたりと重なるように姿を隠していた〈牙の王〉が、ひらりと舞い上がるように飛び上がった。

 

 超獣(ベヒーモス)の身体を盾にした突進(チャージ)!?

 それは言うほど簡単なことじゃない。人体の正面面積はひどく狭いし、中肉中背の宇童アキラなら尚更だ。お互いの動きに対して、一瞬のズレや予測の誤りがあれば、即座に被弾して大ダメージを受けてしまう。

 それ以前に、宇童が耐えきれるという確信がなければ選択するはずもない手。

 なのに、示し合わせもせずに、こんな……

 

「3回戦!」

 

 天井に足を着けた〈牙の王〉が、凶暴な笑みを浮かべながら誇るように叫んだ。

 

「〈スレイプニール〉との(エア)でウチのリーダーがやったことを見てねぇのかよ?

――テメェが言ったんだろうが、茶髪。(おれ)アキラ(こいつ)はな、元同僚(チームメイト)なんだぜ」

「!」

 

「チームってのは――足し算じゃねぇ! 掛け算なんだとよ!」

 

 こいつ、ガゼル(リンド)じゃ――

 

「リサーチ不足を呪って逝けや、白ブタァ!!」

 

 

 気づいた時にはすべてが手遅れだった。

 少なくとも……私にとっては。

 

()()()、合わせろ!」

「ハ――テメェがな!」

 

「シャーロットッ!」

 

「牙ってのは――――」

「上下ふたつで、咬むものさ!」

 

 

Dual Fang Executor "CHEWING JAM"デュアルファング・エクスキューター “チューイン・ジャム”

 

 

 

 完全に予想外の"2本目の牙"。私はその時、確かに私を嚙み砕かんとする技影(シャドウ)を幻視した。

 牙の玉璽(レガリア)もなしに……どうやって!?

 そんな疑問も長くは続かなかった。

 

 直感的に悟る。かわせない。防げない。

 玉璽(レガリア)の損傷は軽微とはいえ無視できないレベルに達している。"鏡"で迎え撃つには、クールダウンの時間が足りない。

 直撃は、不可避だった。

 

 私は上下から咬み殺さんと迫る牙を、呆けたように見ているしかなくて。

 

 連中の背後から必死にこちらへ走るセロの顔だけが、ぼやけていく視界で唯一鮮明だった。

 

 

 ――死ぬの?

 終わってしまう?

 こんなところで?

 

 嫌……嫌だ!

 だって、私!

 まだ飛べてない!

 あいつと……!!

 

 着弾。

 轟音と共に粉塵が舞い上がる。

 

 

 

「――防ぎやがったか」

「え……」

 

 予感していた衝撃が来ない。

 とっさに瞑っていた目を開く。

 私、生きて――

 

 

「――――セロ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良かったのか、咢」

「アン?」

「〈轟の王〉の方は、まだ戦えそうだったけど」

 

「……足を動かすだけならできるかもな。けどよ」

 

 

 

翼と心(だいじなもん)が折れちまったろ」

 

 

 

 

 

「セロぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

 

《――なあ、マジでやる気……なんだよな》

「もちろん。巻き込んで悪いけど、まあA・T(エアトレック)絡みの貴重な経験ができたと思って諦めてくれ」

《つーかそもそも、お前らが暴風族(ストームライダー)って時点で驚きだよ》

《ぬふふ……だよねー!》

《なんで赤崎そんな嬉しそうなんだ……》

 

《こほん。わたしはオッケーだよ! 確かに呼ばれた時は驚いたけど……〈アーマゲスト〉と

"飛翔姫"の(バトル)なんてちょーレアだもん! 前代未聞! 凄いよねぇ》

 

「"飛翔姫"?」

《あおちゃんの二つ名! スポーツ新聞が付けてたんだー》

「そらまた……何というか」

 

 コメントに困る微妙なダサさ、と言い掛けた所で視線を感じた。

 出所は言うまでもない、俺と同じく校門でスタート前の集中に入っていたはずの各務さんだ。

 

《なんというか?》

「何というか……超クールだ。ところで君らの方は問題ない?」

《いや問題しかないだろ。当直の先生とか見回りとか警備員とか、大丈夫なのか?》

 

「その辺は問題ないことを確認済み。もともと過ッ疎過疎だった田舎の公立校だけあって、警備費用をケチってたのがそのまんまみたいだね。助かったよ」

《うう、なんかフクザツ……》

「なあに、これからは発展する一方さ。四島が生んだ大スター・飛翔姫サマと……あれ?

 そういやNo.2の隼人は何か二つ名ないの、ほら飛翔王子とか」

《テキトーすぎんだろオイ》

 

 

 深夜の県立久奈浜学院、校門前。

 4月とはいえ多少肌寒い夜空の下、俺は招集された友人たちとスマホのボイスチャットで通話していた。俺は地上だが、隼人と赤崎さんはグラシュを履いて空中に行って貰っている。

 もちろん、俺達がここにいるのは単なる散歩なんかじゃない。シャーロットと各務さんの勝負に立ち会うためだ。

 

「各務さんが挑戦する側である以上、迎え撃つ俺らの流儀でやらせてもらったけど……。

お二人さんはパーツ・ウォウについてどれくらい知ってる?」

 

《わたしはそこそこ、かな? 種目とルールぐらいは分かるよ。雑誌で読んだから》

《俺はからっきしだ。そもそも暴風族(ストームライダー)の抗争なんて全部暴力沙汰だと思ってた》

「結構結構。殴り合い(そういうの)もあるにはあるんだが……ま、今日は違う趣向だ」

 

 雑談を交わしながら、ぱらぱらと手元の小冊子をめくる。読んでいるわけではなく、手慰みの

ポーズのようなものだが。

 

 冊子のタイトルは「2022年度版 パーツ・ウォウ・ルールブック」。

 書かれている内容は当然タイトル通り。ジャンルがジャンルだけに「有志の自費出版」という形で発行しているが、実質的にはアヴァロン(うち)の息が掛かった新興出版社が一枚嚙んでいる代物だ。

 

 

1on1(タイマン)Aランク(バルーン)Bランク(ディスク)はナンセンスだ。あれらはチームワークが(かなめ)だからな。かといってCランク(エア)ではグラシュが有利すぎるし、Fランク(ダッシュ)じゃ逆にA・Tが有利すぎる。Dランク(キューブ)は……昨日の叩き合いで近接戦技能は十分見れたしな。これも外す」

 

《昨日? 何かあったのか?》

「ちょっとした行き違いで、不幸な事故がね」

 

 俺は隼人の疑問をはぐらかし、ぱたりとルールブックを閉じた。

 

「ともかく……そうなれば、残るは一つしかない」

 

 

 

ランクE(バトル)〈ハードル〉!

 

 建物や壁といった障害物があるコースで、目的地へ先に到達した方が勝利!

 A・Tの神髄たるジャンプ技能を磨くための種目だが、今回はグラシュとの混合マッチのため追加ルールを設ける!

 追加ルールは「チェックポイント」!

 FC用のブイ*1を敷地内4か所に設置し、それら全てへの接触を勝利の必須要件とする!

 そして基本的なレギュレーションとして、制限時間なし! 攻撃は移動中の相手へのみ可!

 スタートは久奈浜学院の校門、ゴールは学校内のチャペル尖塔にある鐘楼!

 そこに置かれた〈アーマゲスト〉の族章(エンブレム)バッジを取った者の勝利とする!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「――以上だ。ご両人、OK?」

 目の前の校門付近で待機するシャーロットと各務さんに念のため確認するが、返ってきたのは案の定としか言いようのないリアクションだった。

 

「……」

「……」

 

「いいお返事どうも。

 審判! 二人とも準備良い?」

《白瀬OKだ!》

《赤崎も位置についたよー!》

 

 隼人たちからは軽快な返事。肝心の出場者同士はギスるのに忙しいようだが、聞いていないという事は無いはずだ。

 シャーロットの反応が少し固いようで気に掛かるが、怪我なんかしている訳じゃないのは分かっている。であれば上の二人を待たせるのも悪いし、始めた方が良いだろう。

 

「各務さん、浮かんでいいよ」

「……《FLY》」

 

 小さく頷いた各務さんが起動キーを唱え、3メートルほどの高さに浮かび上がったのを確認し、カウントダウンを始めた。

 

 

「じゃ、5カウントで始めるぞ。

 5――」

 

 両者がぐっと前傾姿勢になる。

 

「……()()()は無いわ。全力で潰す」

 出し抜けにシャーロットがぽつりと言った。誰かに聞かせる意図があったというより、強く念じすぎて思わず声に出てしまったかのような、深い情念の籠った硬質な声。

 

「……4!」

 

 気掛かりこそあったが、カウントダウンの最中、俺の心臓は確かな高鳴りを覚えていた。

 色々と偶然が重なって生まれた状況ではあるが……だからこそ、否が応にも期待が募る。

 

「……3!」

 

 この勝負でハッキリするだろう。各務葵が俺の求める存在足りうるのか。

 無い無い尽くしの圧倒的ビハインドで、至高の域にあるライダーにその爪を届かせられるのか。

 

「……2!」

 

 俺達のいる"ここ"が……退屈な後日談(エピローグ)なんかじゃなく、新たな"風"を吹かせられる場所なのか。

 

「1――!」

 

 

 ――さぁ、どうだ。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 気の昂ぶりというのは、波に似ている。

 

「――ゼロ!」

 

 そしてその瞬間、ぴたりと嵌めたように訪れた最高潮に乗って私は飛び出した。

 狙うのは校門から伸びる坂を上がった先にある、1番チェックポイント(ブイ)

 地面から1mほど浮いたそれに、タッチした際に起きるメンブレンの反発を利用して急ターンを決め、プール上に浮かぶ2番ブイへ切り返す――その絵図を脳内でリフレインした瞬間、私は異変に気付く。

 

「いない……?」

 

 見下ろす視界のどこにも……シャーロットの姿が、ない。

 

 

 はっきり言えば、それは気づくべきでは無いことだった。

 気付かずにいれば――あるいは、そもそもシャーロットから意識を逸らさなければ。

 その一手が成ることは無かったのは疑いようもない。

 

 

「"鏡よ鏡"」

 

「!?」

 

 

 首筋が総毛立った。強烈なまでの既視感。

 思考が一瞬のホワイトアウトを経て、その次は反動のように押し寄せる警鐘が正常な判断を隅に追いやっていく。

 

 首を捻った先には、坂で付けた勢いのままに右手の塀を駆け上がり、私の真上へと放物線を描くシャーロットの姿。

 『攻撃は移動中の相手へのみ可』――ルールを述べるセロの声が脳裏に走る。

 

 

 いきなりか。

 初手で"それ"を打ちに来るのか。

 腰骨から脳に向けて迸るような震え。それは恐怖というよりむしろ昂揚によるものだった。

 

 私のすべき事はどこかに吹き飛び、私のしたい事が胸の(うち)で熱く震える。

 想起される昨夜の交錯。この"壁"を私は飛び越せるのか。

 

 考えるより先に本能が経験を選択する。私の身体は淀みなく動いた。

 ブレーキでは遅すぎる。必要なのはメンブレン系の技による急ターン――ハメ技(ヘイロー)の基本である横への垂直方向転換。以前一度見せてしまったが、今度は()()()を加えて真横ではなく斜め上方向に抜ける。さらにその先でもう一度ターンし、最小の半径でシャーロットの背後に出る。

 

 問題があるとすれば、高度がまるで足りないこと。シャーロットが上に蓋をした状態で坂を上がってきたものだから、私の身体と地面の距離は近づきつつある。こんな体勢で横移動をすれば、左手の壁にぶつかる可能性が高い。

 だがそのリスクを恐れてぬるい手を打とうなどという気には毛頭ならない。むしろ突き腕になってでもここを切り抜け、ヤツが足を止めて大技を切った隙で一気に先へ進むべきだった。

 

 右半身を軽く沈めつつ、右手を体の側面に一定のリズムで触れさせる。

 前回の経験から想定されるインパクトの瞬間、私は一気に身を翻した。

 加速と時を同じくして左手に迫る壁面。歯を食いしばりながらそれを左手で引っ搔くようにしてぶっ叩き、なんとか壁の上に浮上して――。

 

 

 何かが妙だった。

 

 

 確かに直撃は免れたようだった。

 だが……そもそも、以前の一撃が伴っていたような轟音がない。"鏡"もない。

 

 バチリと散る閃光。

 

 シャーロットは振り上げた足で空中そ蹴り、プールの方へと再跳躍していった。

 それだけだった。後には何もない。

 

 

 「…………は?」

 

 瞬きの間の忘我。

 そして、私は全てが最悪に推移したことを理解した。

 

 

――やられた! 馬鹿か私は!

 

 フェイントだッ!

 あいつは撃つ気なんてなかった! さっきのは私をアウトコースに出すための演技!

 

 

 壁に突いた左腕の痛みを捻じ伏せ、強引にバランスを崩した身体を前傾させる。

 最も近い1番ブイへ――シャーロットに背を向ける屈辱に歯噛みしながら、私は全速で翔んだ。

 

 

 

 

*1
フライングサーカスにおいて、タッチすることで得点できるゴールのようなもの。高さ1メートルほどの黄色く発光するカプセル型で、反重力粒子によって浮くことができる。






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過去の手痛い経験から学び、舐めプを控えて見に回ることを覚えたシャーロットくんちゃん。
えらい。
※挿絵(久奈浜学院のコース図)についてはあおかなの画像を見ながら作成しました。マズいようであれば消します。

次回に続きます。
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