広報委員は休まらない   作:希望光

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どうも初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりでございます。希望光です。
今回は……今回も勢いで書いた作品です。
各キャラに焦点当てながら進めていきたいと思ってます。本編どうぞ。


慈愛の女神

 ——放課後。それは終業後に訪れる空白の時間。その空白は部活に打ち込む者もいれば勉学に励む者、趣味に打ち込む者もいればはたまたバイトに精を出す者もいる、と言った具合に各々のやり方で埋められていく。

 さて、そんな空白の時間をオレこと今井リキヤは委員会活動に打ち込みながら過ごしていた。

 

「……終わんねぇー」

 

 卓上に置かれたノートPCから視線を離し伸びをする。それに伴い、長時間同じ体勢を維持していた体からポキポキと小気味良い音が鳴る。

 

「情報量が多すぎるんだって」

 

 誰にとなく呟いたオレは、文章が並べられたPC画面と睨めっこする。

 こんな調子のオレが所属している委員会は『広報委員会』と呼ばれる今年度より新設された委員会で生徒会直轄の組織……らしい。主な仕事は生徒会誌の発行であり、これを月に1回程作っている。また別の仕事としてはイベントが近づいた際の校内、並びに校外への告知なども行ってほしいと言われてる。

 現状後者の延長線として、他校——花咲川学園に関するものやら花咲川でのイベント告知とか作った。でも冷静に考えるとこの委員会の管轄外のはずなんだよなぁ。

 

「こうやって考えると忙しすぎるんよな……」

 

 こんな多忙な委員会であるが、大きな欠点がある。それは、所属しているのが()()1()()()()なのだ。だからちょっと広めの会議室にオレ1人とかいうシュールな状況下で毎回仕事を行ってる。

 それで前に部屋広すぎないか、と生徒会の人達に相談したところ生徒会室で作業しても良いと言われたけど、業務内容が違う上に無限にタイピングとかしてるところ見られるのは正直辛いものがあるということでご丁寧にお断りさせていただいた。

 

「あの時はせっかく提案してくれたつぐには悪いことしたとは思ってるけどね……いかんせん生徒会長(日菜先輩)の視線が……」

 

 あの人の視線、滅茶苦茶興味ありますって感じで……うん。作業しにくいんだわ。時たまこの部屋にも遊びに来るけど、マジで。はい。

 とかなんとか思い返してるうちに作業が一段落していた。

 

「よーし。とりあえず目標までいった」

 

 いや、纏めてほしいって言われた演劇部の案件、流石に書くことが多すぎるって。日菜先輩直々に言われた案件だから嫌な予感は薄々してはいたけども、こんなに時間を要する案件だとは思わんのだよ。

 

「さーて、少しブレイクしてから仕上げようかな」

 

 そう溢し再度伸びをした途端、部屋の扉がコンコンとノックされる。はて、来客の予定は特に入っていなかったが? 

 

「はーい?」

 

 不思議に思いながらも扉の方へと視線を向けるオレ。すると、扉の小窓から見覚えのある茶髪が目に入った。

 

「失礼しまーす☆」

「お帰りください」

 

 扉を開き入ってきたその人物を見るなりオレはそう告げていた。いやいや、貴女ここに来なくても会えるじゃん。

 

「流石に酷くない?」

「普通じゃね。というか家でも顔合わせてるのになんで学校でも顔合わせなきゃならんのさ、姉ちゃん」

 

 たった今現れたこの、どっからどう見てもギャルそのものであろう女子生徒は今井リサ。学年は1つ上の3年生で、何を隠そうオレの姉だ。

 

「いーじゃん。減るものでもないでしょ?」

「オレのSAN値が減る」

「ふーん、そうなんだ」

「そうだよ。だから帰って——待て待て待て」

 

 帰るように促すオレの横を素通りしてオレが作業していた席の隣の座席に腰を下ろす姉ちゃん。

 

「あのすいません、話聞いてました?」

「聞いてたよ」

「じゃあなんで何事もなかったかのように椅子に座ってるんですかね。それもご丁寧にオレの作業場の真っ隣に」

「リキヤがしっかりやってるか見に来たんだよ」

 

 オレの問いかけにそう返した姉ちゃんは開きっぱにしてあるPCを覗き込んだ。因みに追い返すことは諦めた。ああ言ってた以上、姉ちゃんがてこでも動かないことは心得ているので。

 

「あ、これって今度薫が主演やるって言ってた演劇部の発表の記事?」

「そ。書くことが多くてね……とりあえず必要なとこは書き終わったから一旦休憩してた」

 

 軽く補足を入れながら返答したオレは扉へと歩み始める。やれやれ……とりあえず当初の予定通りに動きますかね。

 

「どっか行くの?」

「自販機。姉ちゃんもなんか飲む?」

「じゃあココアでもお願いしようかな」

「はいよ」

 

 短く返したオレは部屋を後にし自販コーナーへと赴いた。そして頼まれてたココアと自分用のコーヒーを買って足早に活動場所へと戻った。

 

「お待たせ。買ってきたよ」

「ありがとう☆」

 

 ココアを手渡した後、オレは椅子に座ってPCと向き合う。よし、切り替えて行くか。

 気合を入れるために両手で自身の頬を叩く。すると、傍から何やら視線を感じる。

 

「……何?」

「いや、リキヤっていつもそんな風に作業してるんだなぁと思って」

「え、あ……」

 

 しまった……人が見ているのを忘れて普段の癖を出していたようだ。今回は相手が実の姉であったから良かったものの、これが他の人とかだったら今この場で切腹してるね。うん。

 

「一種のルーティーンだよ」

「へー」

 

 生返事をした姉ちゃんを他所にオレは両手をキーボード上で走らせる。さあ、ラストスパートと行きますかね。

 掲載記事のレイアウト調整、各文章の推敲。それらを上から下まで隈なく行なっていく。

 そして最後の行の終わりの文字までの確認が終わり、エンターキーを押し込む。

 

「終わった……!」

 

 無事に脱稿を迎えたオレはそのまま上半身を大きく後ろへ投げ重心を背もたれに預ける。くぅ……何回やってもこの解放感はたまらないね……! 

 僅かな間愉悦に浸ったオレはが後ろに投げていた上半身を元あった場所へと戻すと、突然後ろから姉ちゃんが抱きついてきた。え、ちょ、なんですか……? 

 

「姉ちゃん……色々当たってるんですけど」

「当ててる、って言ったらどうする?」

「痴女だって今度の記事に書く……あ、嘘です嘘です……冗談だから、締めないで……」

 

 喉元に回されている姉ちゃんの右腕を叩きながらギブアップの意思を示すと、喉を締めていた腕が緩められる。今ガチで死にそうになったんですけど……。

 

「ゴホッ……ゴホッ……三途の川見えた」

「リキヤが悪い」

 

 バツが悪そうに答えた姉ちゃんは、オレの左肩に顔を乗せる。今度はどうしたっていうんですか一体。

 

「弟が反抗期なのか冷たくて困ってる」

「それデフォルトなんで諦めてくださいとしか」

 

 おかしいな。オレは常日頃からこんな調子で姉ちゃんに接しているはずなんだが? 

 

「そんなことないから困ってるの」

「姉ちゃん、素で人の内心読むのやめてくれない?」

 

 怖いよこの人。普通に人の内心読んで返答してきたよ。コレあれじゃん、オレの思考筒抜けじゃん。やめてマジで。

 

「伊達にリキヤのお姉ちゃんはやってないつもりだけど?」

「なんすか、オレの思考が単純だって言いたいんですか」

「そうじゃなくて、リキヤのことを長く見てきたからリキヤの事は分かってるつもりだって言ったの」

 

 そう答えた姉ちゃんは、右手をオレの頭の上に置くとオレの頭を撫で始めた。あのー、世の男子諸君やRoseliaのファンの皆様に殺されかねないのでやめてもらって良いですかね? 

 

「でもリキヤ、これ好きでしょ?」

「否定はしないけど……」

「ならいいじゃん?」

「流石に学校だと……恥ずかしい」

 

 昔から姉ちゃんに撫でてもらうの好きだったけど、もうこの歳になると答えるものがあるのですよ。特に男子は。

 

「家でならしても良いの?」

「……ダメ」

「結局どこでもダメじゃん」

 

 オレの答えに対して言葉をこぼした姉ちゃんは、オレの頭に乗せていた手をオレの体へ回すと突然抱く力を強めてきた。

 

「姉ちゃん……?」

「アタシはリキヤのことが心配なの……昨日の夜も寝てないでしょ?」

「え、なんでそれを……」

「さっき言ったじゃん。伊達にリキヤのお姉ちゃんはやってないって」

 

 オレのことなら基本的にはお見通し……ってコト……? それはそれで怖いというか困るというか。

 

「アタシ、リキヤが無理し過ぎて倒れないかが凄く心配」

「姉ちゃん……」

 

 オレの背中に顔を埋めた姉ちゃん。表情は見えないが、きっと泣きそうな顔をしているんだろう。人に見られたくない様な。

 

「ごめんね……心配掛けて」

「もう無理しないって約束してくれる?」

「それはちょっと難しいお話では……痛い痛い痛い!」

 

 抱きついてた姉ちゃんの腕が物凄い勢いで締め上げられる。待って待って、オレの身体ちぎれちゃう! というかこのくだり2回目だし、その華奢(きゃしゃ)な身体のどこからそんなパワーが出てくるんですか? マジで怖いんですけども?! 

 

「やっぱりリキヤ反抗期」

「そういうわけじゃないって……そもそも無理するってのは何を根拠に」

「——似てるから」

 

 ん……? 似てるって……オレにそっくりなやつなんているのか? オレの中では心当たりがないということは姉ちゃんの知り合いなのだろうか。

 

「誰に?」

「友希那に」

「……はい?」

 

 なんかオレとは天と地ほど差がある人の名前が聞こえてきたんだけど。というか、オレがあの人と似てるって……どういう事なの? 

 

「オレがユキ姉に似てるの?」

「うん」

 

 いやいや、おかしいって。オレユキ姉と対比されるようなところないでしょ? オレは所詮、一介の男子高校生ですよ? 

 

「どの辺がだよ」

「ひたむきなところと、ちょっと頑固なところとか?」

「そ、そうなのか……?」

「後はなんか放って置けないところとか」

「放っておけない?」

 

 うーん……全くもって心当たりがないぞ? 姉ちゃん的にはそういう部分が見受けられるのかな? 

 

「うん。ちょっと抜けてるところとかあるから放っておけない感じがする」

「おう待てぇ。オレはユキ姉程ポンコツじゃねぇぞ」

 

 断じて言っておく。オレは絶対あそこまでポンコツではない。仮にオレがポンコツだとしても、あの人よりかはまともだと思ってる。

 

「そっかー。じゃあ友希那にリキヤがポンコツって言ってた事伝えておくね」

「やめ、やめろぉ!」

 

 そんなことしちゃいけない! そんなことされたら翌日には……オレが亡き者として家に帰ってくることになってしまう! 

 

「なんでー?」

「まだ……シニタクナイデス」

 

 先ほどまでとは変わり揶揄うような声で尋ねてくる姉ちゃんと、その言葉に対して涙声で応じるオレ。ヤバいんだよあの人(ユキ姉)。前に怒らせちゃった時なんか、色んな意味で地獄を見せられた……コワイヨアノヒト……。

 

「え、えーっと……なんかごめん?」

「……ダイジョウブ」

 

 涙を制服の袖で拭い応じるオレ。泣き始めたせいか姉ちゃんが心配する側に戻った。うん、なんか色々ご迷惑おかけしてることをたった今実感したよ……ごめんね。

 

「とにかく、あまり無理はしないこと。良い?」

「肝に銘じておきます」

 

 姉ちゃんの言葉に返答した直後、携帯の着信音と思しき電子音が部屋の中にこだまする。その後に、オレから離れた姉ちゃんは懐から取り出した携帯を開いた。

 

「アレ、友希那からだ?」

「ユキ姉から?」

「うん。今からCiRCLEで自主練するから付き合って欲しいって」

 

 おや、どうやら姉ちゃんは唐突な予定が出来上がったということは、そろそろ退席かな? 

 

「すぐ出るんだよね?」

「そうだね。早く行かないと友希那怒るだろうし」

「まあユキ姉なら……そうだろうね」

 

 互いに苦笑しながら幼馴染みの不満気な顔を思い浮かべる。容易に姿が想像できるの、良くないと思います。

 

「じゃ、アタシは行くね」

「うん。気をつけて——」

 

 席から立ち上がり姉ちゃんを見送ろうとしたら、突如こちらへ向き直った姉ちゃんに正面から抱きつかれた。対するオレは、反応が遅れ机に腰部をぶつけたが受け止めることに成功した。ちょっと痛かった……骨盤が当たったせいで。

 

「どしたん」

「改めてリキヤが大きくなったなぁと思って、さ」

 

 何故かオレの胸に顔を埋めた姉ちゃんが感慨深い、と言った具合で答えた。

 えーっと、それとこれは全く関係ないと思うんですが、あの? 

 というか本日2回目の姉からの抱擁ですが、間違いなくオレはファンの方々に殺されますね南無三。後姉ちゃんは、そういうのは好きな人にやったほうが良いと思いますよ? 

 

「行動の答えになって無いのですがそれは……成長って面に関しては、身長170もあるからとだけ」

「アタシより大きくなっちゃって……」

「成長期ですから」

「それならアタシもそうだけど」

「ノーコメントで」

 

 どこが成長してるかとか言えないぞこれ。特に女子。下手な発言でこっちは1発アウト貰うんだから。え、オレだけ? 

 などと問答していると、顔を埋めていた姉ちゃんがオレの顔を見据えた後優しく微笑んできた。

 

「でも、どれだけ成長したってリキヤはリキヤだね」

 

 そう告げてくる姉ちゃんの顔に、オレは何故だか懐かしさを覚えた。これは……そうだ。昔、ユキ姉とオレと姉ちゃんとで遊んでいた時に見た姉ちゃんの顔だ。

 

「姉ちゃんも……変わらないね」

 

 短く返したオレは、遊ばせていた両腕を姉ちゃんの背中側に回すと優しく抱き返す。日頃の感謝を込めて。

 

「練習、頑張ってね」

「うん。ありがとう。リキヤも無理しない程度で頑張ってね」

 

 互いを激励し合った後に身を離すオレ達。すると姉ちゃんはオレに軽く微笑む。

 

「改めて、行ってくる」

「行ってらっしゃーい」

 

 手を振りながら部屋を後にしていく姉ちゃんを見送る。なんかうん、他の人が姉ちゃんの事を母性が強いって言ってたけど、今日分かったわ。アレは確かに強過ぎるわ。

 我が姉の偉大さを身を持って体験したオレは、缶の中に残っていたコーヒーを飲み干すと椅子に腰を下ろす。

 

「よし、原稿を試し刷りして生徒会にOK貰わなきゃだな……って、え?」

 

 締めの作業に入ろうとPCの画面に目を向けると、そこには何も映っていない真っ白な画面があった。

 不審に思いながらもテキストやらページ構成やらを調べていく。すると、何も記されていないことがシステムから告げられた。つまり、ここにあったデータが消えたという事だ。

 

「はぁー……さっき机にぶつかった時になんか変なことしちまったかね……」

 

 大きな溜め息を吐いたオレは徐に椅子から立ち上がると、天井を見上げ大きく息を吸い自身の内面を爆発させた。

 

「あんのクソ姉貴ッ!!」

 

 他者の居ない教室内に、オレの怒号が山彦の様に駆け回っていくのであった。その後家に帰って枕を濡らしたのは別のお話。

 因みに原稿については、直前に自動保存がなされていたためなんとか一命は取り留めました。




〜おまけ〜
登場人物紹介
『今井リキヤ』
リサの弟にして本作の主人公。羽丘学園に通う2年生。クラスはB組。周りの人間に振り回される事が多く、生徒会長の突拍子もない提案に巻き込まれて広報部をやることになった。毎日何かしらで頭を抱えている。

『今井リサ』
リキヤの姉。リキヤの事を良く揶揄っており、彼が頭を悩ませる原因だったりする。その反面でリキヤのことを心配しており、今回もその心配故から彼の元を訪ねてきた。

閲覧ありがとうございました。それではまた次回お会いしましょう。

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