またこの作品の方、バンドリ杯の方に寄稿する作品とさせていただきます。
それでは本編の方どうぞ。
——平穏。読んで字の如く、穏やかで平和といった意味合いがとれる。怪我や病気、天災や事故などいつどこで起こるかわからないものたちが蔓延る人生に於いては、最高に素晴らしい言葉だとオレは思う。
さてそんな平穏を願うオレであるが、現在平穏の2文字は見当たらない状況下に置かれている。
「な、なんでこんなことに……」
現在オレがいるのはファミレスの角の席。そんな人目につきにくそうなところでオレと、オレから平穏の文字を奪い去った銀髪の少女とで向き合っていた。
「それでリサから聞いたけれども、私のことをポンコツと言ったそうじゃない?」
鋭い視線と共に問い掛けてくる彼女こそが、オレと姉ちゃんの幼馴染でありお隣さんの湊友希那。バンド『Roselia』のボーカルにしてリーダーも務めている羽丘学園の3年生だ。
現在、学校帰りに湊さんことユキ姉に捕まり、ファミレスに連れ込まれ問答されております。訳がわからないよ。
「一体全体何のことでしょうか。全く持って記憶にございませんが……」
「惚けないで頂戴。すでに裏は取れてるのよ」
「……なら、オレに聞く必要性なかったのでは?」
裏取りできてる時点での詰問ってただただ時間を無駄にしているだけの様な……? というかなに、姉ちゃんあの事ゲロッたの? 帰ったらグリーンスムージー気絶するまで飲ませてやる。
「本人の口から本当かどうかを聞きたかったの」
「さいですか」
「一応聞いておくけど、今さっきの自分の発言が非を認めたということは認識してるかしら?」
「……あ」
やっちまった……あの言い方じゃ認めちゃったも同然じゃないか。どうしてそんな単純なことに気づかなかったんだオレ……。
「気付いてなかったのね」
「ええ、まあ、はい」
頬杖付いたオレは目の前の彼女から顔を背ける。そういえば今日、雷輝の奴がシフトに入ってるとか言ってたような……あ、明日オレシフト入ってんじゃん。
などと目の前の現実から目を背けるようにしながらホール内を眺めていると、なにやらユキ姉の方から刺すような視線を感じた。
恐る恐るそちらを向くと、何やら不満そうな顔をした
「私と話している途中によそ見するなんていい度胸じゃない」
「ウチのメンバーが表に出てないから気になってつい……申し訳ない」
「ペナルティ追加でも良いわよね?」
「……へ?」
ペナルティ……? え、オレその話聞いてないけど。ねぇ? もうここ来てからかれこれ15分以上経ってるはずだけど何も聞いてないよ?
「何?」
「ペナルティって……?」
「ペナルティはペナルティよ」
「そうじゃなくて、何されるの……」
恐る恐る尋ねてみるが、ユキ姉は顔色ひとつ変えない。あの友希那さん、それはそれで怖いのでやめていただいてもいいですか?
とかなんとか思ってると、ユキ姉が傍らにおいてあったカバンの中を漁り始めた。
「今からここへ一緒に来てもらうわ」
「……えーっと?」
差し出された紙切れを受け取ったオレは、それに目を通してみる。うーんと……猫カフェのチケットですね、これ。……猫カフェ?!
「え、え、え?」
「何かしら」
「これ、え? 行くの? 今から?」
「ええ」
何そのペナルティ。聞いた事ないし、そもそもペナルティって呼べるのかコレ?
訳がわからないまま目を白黒させていると、ユキ姉が荷物を纏め始めた。やべ、この人有言実行型なの忘れてたわ。この決めたらテコでも動かない辺り実姉に似てる……と言うかこの人の影響が大きいだろうな。
「……わかったよ」
諦めたオレは力無く返事すると自身の荷物をまとめ始める。さてと……お勘定済ませてきますかな。
重い腰を上げたオレは、荷物を背負うとユキ姉と共にレジへと歩み始めたのであった——
突然だが、大好きなものを前にした人間はどうなるかご存知であろうか。己自身が好きなものを目の前にしたらどうなるか、を考えていただけると割とすぐに想像がつくことかもしれない。オレの場合は、割と躊躇いの姿勢を見せる……って姉ちゃんが言ってた。一応自覚もしてるけど。
さて、そんな大好きなものを目の前にした人間が幼馴染、且つ超クール系な人物であった場合どうなるのだろうか。その答えは、現在オレの目の前にある。
「にゃーんちゃん……!」
数匹の猫を前に頬を緩ませ戯れているユキ姉とかいう、普段の彼女をご存知の方はまず想像もつかない状態になっております。人ってここまで変わるものなのですね。これがヌコ様のお力なのか、はたまたユキ姉の理性が溶けてるだけなのかは分からないけど。
「そのギャップが原因なんだよな……」
「何か言ったかしら?」
「いや、何も」
首を横に振りながらユキ姉の問いを流していると、オレの膝の上に1匹の猫が飛び乗ってきた。
「うお……そちらからやって来ますか」
オレの膝上に現れたのは、白と茶のぶち模様の毛並みの猫。猫カフェという環境にあるせいかどこか人懐っこく、自らこちらへとすり寄ってくる。
オレもそれに応えるかのように、首元や頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めてくれた。あ、うん。これはね、落ちるわ。可愛過ぎるもん。
「人心を誑かす魔性の獣……とは言ったものだね」
自身が撫でている猫と、未だに猫に囲まれご満悦な様子のユキ姉を交互に見ながら1人苦笑する。すると、今度は全身真っ黒な猫がオレの元へとやって来た。
「黒猫……?」
普段見かける事のない、珍しいその猫を前にしオレは目が離せなくなっていた。なんだろう……不思議な魅力がある気がする。
暫しの間眺めていると、黒猫は鳴き声を1つ上げこちらへと歩み寄ってくる。そしてオレの目の前で丸まり、毛繕いを始めた。
不思議に思いながらその様子を眺めていると、先程まで猫に囲まれていたユキ姉がいつの間にかオレの傍にいた。音しなかったけど忍者かな?
「その子、貴方に対しての警戒を解いてるわね」
「そうなの?」
オレの言葉に対しユキ姉は首を縦に振る。そして、件の黒猫の頭を撫で始めた。黒猫の方も慣れているらしく嬉しそうな様子だ。
すると突然、ユキ姉は猫を撫でるのをやめオレの方へと向き直る。
「ほら、撫でてあげなさい。膝に乗せてる子は私が相手するから」
戸惑うオレの膝下からぶちの猫を抱え上げたユキ姉は、今度はその猫と戯れ始める。ユキ姉……猫と戯れるの慣れてるなぁ。
そんなことを思いながらも視線を黒猫の方へと向けると、相変わらず丸まったままで毛繕いをしていた。
意を決したオレは、黒猫へと手を伸ばしその喉元を撫で始める。するとゴロゴロと音が鳴り始める。
「喉を鳴らしてるのか……?」
確か猫が喉を鳴らすのは気持ち良い時、だったよな。不安に思いつつそのまま撫で続けていると、黒猫がその身をこちらへと寄せてきた。オレもそれに応じるように黒猫を抱え上げ膝の上に乗せる。
お前……すごく甘えん坊なんだな。さっきの、ぶちの子よりも撫でてる時よりも嬉しそうな反応するから。
「偶には、こういうのも悪くないかも」
普段は味わえない安らぎを得られたオレは、ユキ姉と共に猫カフェを満喫するのであった——
結局あの後、2時間も猫カフェに居座ってしまった。それで今は西陽を浴びながら2人揃って帰路についてる。
「楽しかった。猫カフェってなんか、いい場所だな」
「リキヤもそう思う?」
「うん。なんだろうこう、猫と戯れる至福の時間を過ごせるって感じで良かった」
「そう」
オレのややしどろもどろな返答を聞いたユキ姉は、短く返答してくれる。素気なく見えるけど、声色的には嬉しさが滲み出てる。これ初見さんはわからないと思う。
「それにしても、あの子がすんなりと心を開くなんてね」
「あの子って?」
「黒い子よ」
「えーっと、あの毛繕いしてた?」
「ええ」
頷いたユキ姉は、今まで正面に向けられていた視線をオレの方へと向けてくる。
「あの子、殆ど人に対して心を開かないのよ」
「そうなの? 全然そんな風には見えなかったけど……」
「私とリサが通い詰めて漸く心を開いてもらえた、といえば納得してもらえるかしら?」
「マジか……」
それ聞かされたら納得するしかないんですけども……。したらオレ、初見なのに心開いてもらえたってことじゃん。というかなに、ユキ姉も姉ちゃんもあの店の常連さんなわけ。色々驚く点が多すぎてツッコミ間に合わないんだけど。
「じゃあ、1発目で心を開いてもらえたオレは中々特殊って事ね」
「そうなるわね」
「そっか……それと、あのお店に通い詰めてたんだ」
「それは……」
顔を背けたユキ姉は恥じらい故か頬を赤らめていた。一瞬夕焼けのせいかと思ったけど、全然そんなことなさそう。日陰に入っても普通に赤いから。
「まあいいや……と、そろそろ電車が来る時間じゃない?」
「そうね。少し、急ぎましょうか」
頷いたユキ姉とオレは、小走りで都電の東池袋四丁目停留所を目指す。そして停留所手前の信号を渡り切ったところで、停留所に電車が入ってくる。
「ま、間に合った」
荒くなった呼吸を整えながら列車に2人揃って乗り込むと、車内最後方へと進み並んで座席に腰を下ろす。
「乗れて良かった……」
「そうね」
互いに軽い笑みを溢しながら言葉を交わす。うーん、こうやってみるとユキ姉ってだいぶ丸くなったんよなぁ。性格の話、ね。
昨年まではひたすら音楽にのめり込み、他のことには全く興味を持たない。他者を寄せ付け難い雰囲気を醸し出してたから……余計にそう思える。などと考えていると、突然ユキ姉がこちらを向いた。
「それにしても、こうしてリキヤとゆっくり話すのも久し振りね」
「そう……だね」
歯切れ悪く応じたオレはユキ姉から視線を逸らす。内心で彼女に対して罪悪感が込み上げてきたがために。
オレは……ユキ姉の事を遠ざけていた節がある。同じタイミングで音楽を始めたのに、開いていく技量差……いや、彼女のどこまでも一途な音楽に対する思いが、凡才である己にとっては途方も無く眩く感じたから。
「その……ごめん。オレ、ユキ姉のこと……」
「謝らないで頂戴」
全てを悟ったかのような表情でオレの言葉に静止を掛けるユキ姉。そんな彼女の次の言葉に、オレは驚愕した。
「むしろ、謝らなければいけないのは私の方よ」
「……え?」
「私は音楽のみに打ち込み、他のことを疎かにしていた。それは紛れもない事実であり、貴方に対しても興味関心の類いが向かなかった、と言う点では当てはまる」
そう言って俯くユキ姉。初めて見るその表情を前に、オレは言葉に詰まった。気丈に振る舞う
「だから、ごめんなさい。今更、遅いかもしれないけど」
「そんなこと……ないよ。遅すぎたなんて」
なんとか声を絞り出したオレはユキ姉の言葉に反論する。だって、それを証明してくれたのは他でもない貴方なのだから。
「何事も遅すぎたなんてことはないって、オレに教えてくれたのはユキ姉だよ。あの日——オレがバンドに入ったあの日」
「リキヤ……」
音楽をやめようか悩んでいた瀬戸際で、今のバンドのリーダーに声を掛けられた。けど、当時のオレはあまり乗り気ではなく、入る気は毛頭もなかった。
そんな時、オレは姉ちゃんとユキ姉にRoseliaのライブに呼ばれ観に行くことになったのだが……そこでみたのはブランクがあったのにも関わらず、急成長を遂げた姉の姿と、仲間達と共に新たな道へと踏み出したユキ姉の姿だった。
「あのライブを見た時、いくら時間が開こうが、どれだけ遅かろうが前に進めるってことを教えてもらった。だから、今のオレがある」
人は変わっていける。いつ、どんなタイミングでも。そう示して貰えたから、やめようと思ってたあの日から今日まで、ずっと音楽を続けている。
「確かに失った時間は取り戻せないけど、これから先少しずつ取り戻していけば良いんじゃないかな。勿論、ユキ姉がそれでも構わないって言うならだけど」
「……そうね。そうかもしれないわね」
視線をこちらへと向けてきたユキ姉の表情は、明るいものへと戻っていた。うん、ユキ姉は笑ってる方が絵になるね。普段写真撮ると笑ってくれないけど。
「なら、これからもこうして一緒に出かけてくれるかしら?」
「前もって相談してくれればいつでも」
「フフッ……そう。じゃあ今度は、何処へ行くか考えておかないとね」
嬉しそうに、より一層頬を緩ませたユキ姉。それは彼女がRoseliaを結成してから、どのような道を歩み変化してきたかを告げているようであった。
「やっぱユキ姉変わったね……」
「そう? それを言うならリキヤも大分変わったと思うけれど?」
「オレに関しては……うちのリーダーとか、指南役があんな感じ……だからだと思う」
何考えているのかよくわからないけどオレ達を熱くする何かを持ったリーダーと、どことなくカリスマ性を持ったあの人の影響を受けたとしか思えないんだよな……。
「星乃君と洸夜の影響が大きい、と?」
「うん……そんな気がするってだけなんだけど」
「なるほど。確かに、私達Roseliaも洸夜の影響を強く受けた節があるから納得できるわ」
ええ……じゃあ姉ちゃんやユキ姉が変わったと思ったの洸夜さんの影響が強いってこと……? やっぱりあの人やべぇわ。今度1発殴っておこ。
「全く……あの人は。でも、演奏の腕も本物だからな」
「ええ。リサも彼に教わってブランクを埋めきったくらいだし」
「うん……いつの間にか、オレのこと追い抜いてたね」
「リキヤ……?」
ヤバい……忘れていた事を色々思い出したら、自分のこと惨めに思えてきた。姉ちゃんやユキ姉に追いつきたくて、ずっとずっとベースを弾き続けた。姉ちゃんがベースを触らなくなってからも、1人でずっと弾き続けた。なのに、ブランクのある姉ちゃんに抜かされて、ベースを弾く意義が見出せなくなって、やめようと思った。
「追いつきたくても、どんどん先に行っちゃって、すぐに手が届かなくなる。そんなことの繰り返しで……」
「——それでも、ここまで頑張ってきたのは紛れもなく貴方自身の力でしょ?」
ユキ姉の言葉に思わず伏せていた顔を上げた。同時にオレの瞳からは涙が溢れていた。アレ……なんでだろう?
「あ……え……おかしいな」
「リキヤ……」
制服の袖で涙を拭うが、溢れ出た
「——降りるわよ」
訳がわからないままユキ姉と共に降車する。まだ最寄りの停留場に着いてもいないのに。
「ユ、ユキ姉……?」
無言のままの彼女は、帰宅時間故か賑わいを見せる町屋駅前の人混みをオレの手を引きながら掻き分け進んでいく。
そうして暫く進むと、いつしか人気の無い路地に行き着いていた。そこで漸く、ユキ姉はオレの手を離しこちらを向く。
「落ち着いた、かしら?」
不安気な表情と共にこちらへと飛ばされたその一言で、先程まで自身が訳もわからず涙を流していたことを思い出し頬に触れる。すると、湿ってこそいるが、新たに涙は伝っていなかった。
「う、うん……とりあえず、落ち着いたかも」
「そう。なら良いのだけれど……どうして、急に泣き始めてしまったの?」
戸惑った様子で尋ねてくるユキ姉。普段のどんな時よりも、感情が表に出て来ているのを見るに凄く心配してくれたかが伝わってくる。
「なんだろう……ずっと自分だけでやってきてたから……誰かに褒めてもらえたのが嬉しかったのかもしれない」
自己満足で続けてきたことを、他者に認めてもらえた。それも、目標としてきた
「ごめんね、心配かけちゃって」
謝罪を述べたオレは、荷物を背負い直す。さて、いつまでも感傷に浸ってないで家に帰らなきゃ、だな。
そう思いユキ姉に背中を向けると、突如ユキ姉に左手を掴まれる。えーっと、湊さん……?
「なに……?」
「無理してるわね」
「それは——」
振り向きつつ彼女の問いに答えようと口を開いた瞬間、オレはユキ姉に抱き締められていた。
「ユキ……姉?」
「良いのよ、泣いたって。私は迷惑だなんて思わない」
そう言って彼女はオレの背中を優しく叩く。泣きじゃくる子供を、慰める様に優しく。
「昔から、貴方が頑張り屋な事は知ってる。それは私が保証する」
囁くような声で告げてくるユキ姉に、幼き日に見た彼女の姿が重なる。確か……そう、公園でいつもの様にユキ姉のお父さんに演奏を教わって……うまくできなくて泣いてた時に、慰めてくれた彼女の姿が。
「どうして……保証できるの?」
「貴方が毎晩、ベースを弾いていたことと言えば納得かしら?」
「なんで……それを……」
「ちゃんと聴こえてたわよ。私と、無論リサにも」
ユキ姉の言葉を聞いた途端、オレの中で堰き止めていた想いが再び嗚咽となって、自身の外側へと飛び出した。
「ああ……うぁぁ……」
路地の真ん中で年上の幼馴染に抱きしめられたオレは、涙が止まるまで彼女の腕の中で泣き続けた——
泣くだけ泣いて落ち着いたオレは、ユキ姉と共に徒歩で帰路に着いていた。
「その、今日はありがとう。色々と」
「構わないわ」
「うん……でもユキ姉、なんでオレが無理してるって思ったの?」
「伊達に貴方の幼馴染はやっていないつもりだけれども?」
視線のみをオレの方へと向け応答するユキ姉。アレ、でもそれって答えになってない様な……? まあいいか。
「でも、久々リキヤの泣く姿を見た気がするわ」
「あまり持ち返さないでよ……」
ユキ姉から視線を逸らしながら返答するオレ。結構ね、思い返すと恥ずかしいものなんですよ。だからオレとしては早いところ忘れるなり遠ざけるなりしたい訳よ。うん。
「それはごめんなさい。けれど、少し安心したわ」
「……なんで?」
「リキヤはリキヤだったということがわかったから」
その言葉と共にこちらへ笑みを向けてくるユキ姉。そんな彼女を見て、何故だかオレは照れ臭くなる。
「そいつはどうも……」
「フフッ……それじゃあ、私はこの辺で失礼するわ」
ユキ姉の言葉に伏せがちになっていた顔を上げると、いつの間にか自宅の前にたどり着いていた。
「あ、ユキ姉待って」
家に入ろうとする彼女を引き止めたオレは、手にしていたビニール袋から1本の缶飲料を取り出す。
「これ、今日のお礼とお詫び」
「ありがたく頂戴するわ」
謝意と共に受け取ったユキ姉は、缶飲料を回したりしながら眺めていた。あー、そういうことね。
「大丈夫、普段ユキ姉が飲んでる
「ちょっと、リキヤ!」
「じゃあ、またね!」
彼女を軽く揶揄ったオレは、そのまま自宅の中へと入った。あー、面白かった。
「ただいまー」
「おかえりー」
荷物を下ろしながら靴を脱いでると、奥から姉ちゃんが姿を表す。エプロン付けてるの見るに料理中だったかな?
「遅かったね?」
「ユキ姉と寄り道してた」
靴を脱ぎ終えオレが立ち上がると、姉ちゃんが何やら悪戯な笑顔でこちらを見据えていた。なんか怖いんだけど。
「どうかしたの?」
「いやー、何かいいことでもあったのかなと思って」
「なんで……?」
「嬉しそうな顔してるからさ」
ありゃ、オレの顔綻んでたのか。けどそれくらい今日のことが楽しかった、あるいは——嬉しかったんだろうな。
「うん。ちょっとね」
「えー、なになに? 教えてよー」
「教えなーい」
姉ちゃんを軽くあしらったオレは荷物を掴む。あ、そういえばこれ渡さないとじゃん。
「あ、そうそう。姉ちゃんにお土産」
「お土産?」
「はい、これ」
ビニール袋の中からオレが取り出したのは、半透明の容器に入った緑色の液体。それを姉ちゃんに見せた途端、目に見えて青ざめていった。
「え、えーっと……なにそれ?」
「グリーンスムージ。姉ちゃん、大好きだったよね?」
「アタシが嫌いなの知っててやってる?!」
あー、あー、何も聞こえなーい。あくまでも姉ちゃんへのお土産であって、今日のことに対する仕返しとかでは決してない。
「ほら、おかわりもたくさんあるから遠慮なく飲んで?」
袋の中から更に3つのグリーンスムージーを取り出し掲げると、より一層姉ちゃんの顔が青ざめわなわなと震え始める。
「リ、リキヤの鬼ぃ!!」
画してこの日は、姉ちゃんの泣き叫ぶ声で幕を下ろす事となった。その後、グリーンスムージーはオレが美味しく頂きました。……姉ちゃんがちょっとかわいそうに思えた結果、ていうのは内緒で。
余談だがこの翌日の朝、登校の際に鉢合わせたユキ姉に揶揄ったことを咎められるのだが、それはまた別のお話だ。
〜おまけ〜
登場人物紹介
『今井リキヤ』
リサの弟にしてこの作品の主人公(2回目)。姉に発言を漏らされ窮地に立たされた。ただその結果、幼馴染との関係をある程度まで修復できたので、姉に対して恨み言を述べていたが実は感謝してる。友希那に対してはギャップに苦悩させられている。
『湊友希那』
リキヤとリサの幼馴染。最近はリキヤとの間に溝を感じており、密かに淋しいと思っていたところ、リサの証言から詰問という名目で彼に接触する機会を得た。次回彼と過ごす時は、カフェ巡りでもしようかと画策中。
『今井リサ』
リキヤの姉(2回目)にして友希那の幼馴染。そして今回の元凶。Roseliaの練習の際にうっかり(ここ大事)、先日の会話を口にしてしまい友希那に洗いざらい話した。その時、友希那に本心を打ち明けられその後押しした張本人だったりする。立ち回りが姉というよりお母さ(((殴
閲覧ありがとうございました。それではまた次回の更新でお会いしましょう。
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